ただ彼を目で追うだけ 04


 次の日には日常が戻りつつあった。いつものように慌ただしい仕事と隊舎。しかし、私の心はそう簡単に戻ることはなかった。
 昨日のことで、力不足を痛感していた。大切な人を一人で十分に治療できない霊力であったことがショックだったからだ。

 あれ以上に致命傷を負っていた彼の治療を担当していたのが私だったら、という心配が加速し背筋が冷える。必要なものを取りに行こうと廊下へ出ようとすると、卯ノ花隊長に呼び止められた。
 
「話があります」
 
 私の仕事が一段落するのを待ち構えていたかのごとく話しかけられ、共に執務室へ行くことになった。
 既に書類整理をしていた勇音副隊長は隊長の雰囲気に察しがつき、席を外してくれた。何かしたの? というような心配そうな瞳でこちらを見ていた。思い当たる節は私にもない。
 ソファへ座るよう促され、お茶を出してくれる。私がやります、と言おうとすると座っていなさいと言われたので大人しく待つことにした。
 隊長は私の向かいに座った。

「さて。昨日さくじつ、無理をしていましたね」

 いつも通りの笑顔で昨日のことを聞かれる。いつも通りのはずの笑顔には少しだけぴりと痺れるほどの霊圧を感じた。隊長は怒ったら怖い、という勇音副隊長の言葉がよぎった。『昨日』とは私が昨日綾瀬川五席の治療を限界以上に行ったことだ。
 すみません、と私が謝ると、隊長が「謝るようなことではありませんよ」とやんわりとした口調でたしなめる。
 
「ただ、あんなに焦っていては治る傷も治りません。いつもの貴方ならばもっと冷静に判断できていたはずです。他の隊士も普段の貴方からは考えられないと心配していましたよ。
 ……やはり霊力の弱さをまだ心配しているのですか?」
「はい……」

 隊長がため息をついたと思えば、瞼が少しだけ開き鋭い瞳が私の瞳を捉えた。
「貴方自身の悩みですから、私がしつこく言うことではありません。原因は他にあるようですしね」
 
 『他にある』
 
 隊長にはお見通しのようだった。私が私的な感情で霊力を震わせていることを。彼を十分に助けられなったその霊力が私の元より持っていた悩みを加速させた。大切な人を救うことも今の私にはままならないのだろうか。
 卯ノ花隊長は再び瞼を閉じる。
 
「大切な方を救いたいという気持ちは結構ですが、あまり考えすぎないようにするのですよ」
「はい……。え、口に出していましたか⁉」
「いいえ。顔にそう書いてありますよ」

 驚いて自身の顔を触るとふふ、冗談です、と悪戯に笑われた。そんな隊長を見ているといつものような優しい表情になっているということが分かる。

「……でも。そのような暗い顔をしては、治療を受ける隊士たちも不安になってしまいます。貴方を慕っている隊士も気が気ではありません」

 隊長は何か含みを持った言い方をしていたが、踏み込んだ質問はしない。彼女のそういったところが私は心地よいと同時に尊敬できるのだろう。ありがとうございました、と伝えると隊長は先程とは打って変わって優しく微笑んでくれた。
 隊長のその言葉に、気を付けよう。誰にも悟られぬようにしようと誓った。
 
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