「醜い」なんて言わないで 07


 それは十一番隊舎に再び赴いた時だった。彼に好意を抱いてから既に五年が経とうとしていた。
 以前物資を届けたことから十一番隊に届け物があると私たちが頼まれるようになっていた。十一番隊は異質で隊長も副隊長も不在なことが多く、他の十一番隊隊士も大雑把であることから気楽に届けられるようになっていた。以前隊長や副隊長がいる際、挨拶しに隊首室へと行ったが、「勝手にやってくれ」と言われたことがあった。挨拶が面倒というわけではないが、仕事が山積みな私たちにとってはその言葉が助かっていた。

 今日はたまたま建物の入り口付近で斑目三席や綾瀬川五席と会ったらしい。少し遅れて戻ろうとした私はその現場に遅れて出くわす。
 
「斑目三席、綾瀬川五席。お疲れ様です」
「おう、いつもありがとよ」
「ご苦労様」

 ただ挨拶をしてすれ違っていただけのようで、私もそれに続いて「お疲れ様です」と伝えて彼らとすれ違う――はずだった。私とぱちりと目の合った綾瀬川五席は私を呼び止めた。
 
「君……」
「は、はい!」

 突然話しかけられたことで変に高い声を出してしまう。うまく呼吸ができているのか心配になる。
 私が治療したことを覚えているのか、それとも覚えていないのか。彼女たちが言っていたことは本当だったのか。激しく心臓が鼓動し始め、息を忘れているような気がした。
 私に一歩近づき、じっと私の顔を見つめる。それに気づいた友人たちは喜びの悲鳴を上げる寸前だ。
 
「醜いね?」
「え……?」
 
 予想もしなかった言葉に、あっけにとられる。
 彼のその言葉に怒ることもできなければ悲しむことさえできなかった。言われたのがあの綾瀬川第五席だ。美しいと日ごろから感じている彼に醜いという言葉をこうも面と向かって言われては何も言えない。彼に美醜を語られては何も言い返せないからだ。
 彼との身長差はさほどなく、顔がすぐ近くにあるがために彼の表情がよく読み取れた。艶のある黒髪に大きい瞳、極めつけは鮮やかな色彩の毛先。近くでまじまじと見る彼は、遠くで眺めていた時とは別格であった。しかし、表情が読み取れる、とはいってもわかるのは彼の見目麗しい容姿だけ。彼が何を考えているのかは私にはわからない。
 
 私の背後からは「失礼ではありませんか?」と怒る声。席官相手に無礼だが、そう言われても仕方ないほどの唐突な中傷に周りは騒然としていた。彼女たちが以前話していたような浮ついた考えとは全くもって違ったからだ。
 
 それでも彼の綺麗な顔から発せられるその言葉は、どこか強い説得力があるように思えた。私は「醜い」という言葉に傷つくことはなく、疑問の方が強かった。どうしてそのような言葉を突然言ったのか。
 彼は私の顔をずっと興味深そうに見つめていた。
 私たちの周りだけ気まずい沈黙がしばらく流れる。その沈黙を破ったのはやはり気まずそうにしていた斑目三席だった。
 
「おい、弓親! いきなり何てこと言うんだよ」
 
 未だに私の顔を見つめる彼の瞳から目が逸らせない。彼の綺麗な紫色の瞳に囚われるかのような感覚に陥った。ここまで近い綾瀬川五席に正常な判断が出せない。先ほど言われた中傷などどうってことはなかった。
 帰り際、「すまねえ」と斑目三席に謝罪されたが、その言葉には「いえ」としか返事ができなかった。
 
 彼らが去った後、「気にしなくてもいいからね」と友人は励ましてくれたが、不思議と私の心は痛んでいなかった。
 
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