Agapanthus

試着してみたら?



 彼と街を歩いていると、大きいショーケースに飾られた洋服が目に留まった。思わず足を止めて、釘付けになる。

「わぁ! この服めちゃくちゃ可愛い……ね?」

 私には珍しいタイプの服なので彼がどんな反応をするか様子を伺いながら聞いた。いつもみたいに「これはあんたには似合わないでしょ」と一蹴されると思っていた。が、なぜか彼がせっかくだから見てあげると言ってくれたので試着してみることになった。

「似合う?」
「……」
「どう?」
「……」

 私が試着した服を真剣な表情で見る彼は何も言わずに悩んでいた。こういうところを見るとモデルなんだなと改めて思わされる。
 それよりも私はどうなのかを早く聞きたいので彼の視界で精一杯アピールしてみる。

「ねえ、どう? どうなの?」
「ちょっとぉ! 真面目に考えてるんだからぁ! 動かないでよねぇ!」
「ふふ、ごめんごめん」

 そう言って首元に腕を回して抱きついた。ひっつかないでよねぇ! なんて言いながらも口角が上がっているのを知っていることを指摘したらまた怒られるだろうか。彼の考えている表情が素敵で、胸の奥はトクンと控えめに音が鳴っている。
 彼が真剣に私のコーディネートを考えてくれる時間が好きだ。というか、私のことに真剣になってくれる彼が好きだ。いつも嫌々私に付き合ってくれるが、誘わなかったら誘わなかったで拗ねる、そういう人だ。
 じっと彼の顔を見つめていると、「穴が空いたらどうするわけ?」と睨まれてしまう。

「ふふ、穴空くわけないよ」
「例え話でしょぉ。ほんっと可愛げがないよねぇ」

 とか言いながら見つめられていたのが気恥ずかしいのかその場を離れて他の洋服を持ってきた。

「これ、あまり似合ってなかった……?」

 不安そうに私がそう尋ねると眉間に皺を寄せていた。

「はぁ? 似合わないわけないでしょ。これもいいけど他の色もいいと思っただけ。ほら、早く着て」
「え、私こんなに買えないよ」
「何言ってるわけ? 俺が全部買ってあげるに決まってるでしよぉ〜」

 彼氏の顔を立てなよねぇと皮肉たっぷりに言っているのに、言っている内容は無茶苦茶だ。どれだけ私のことにが好きなんだこの人は。
 そう思っていると頬が緩んでしまい、へらりと笑っていた。

「ちょっと、変な顔しないでよねぇ! せっかく綺麗なんだからピシッとする!」
「はぁい」
「何その返事」
「はい!」

 やればできるじゃんと満足そうな顔をした彼は私の頭に右手をぽんと乗せていた。突然そんなことをされたのでどう返せばいいのかわからず固まっていると、彼も無意識だったのか少しだけ固まって目を見開いていた。耳まで真っ赤になっていて、そんな彼を見ると私の心は先ほどとは比べ物にならないくらい音を立てていた。

「い、泉……?」

 なかなか手を下ろさない彼に戸惑っていると、ばっと手を離して勢いよく目を逸らしていた。片手で口元を覆って「早く、着替えなよ……」と照れていた。
 彼の意外な表情に私の顔も熱くなる。私もなまじ冷静ではなかったがとりあえずわかった、と言いカーテンを閉めた。


 ハァという彼の憂いを帯びた溜息がカーテン越しに聞こえて、私の胸は弾けそうなほど鼓動が速くなっていた。

prev back next

top