「ジュンくんがこういう甘いラブソング歌うのって珍しいね」
テレビに映るのはコンサートで他のグループの楽曲を歌っている場面だった。いつもはグループのコンセプトでこういった甘い所謂王道ラブソングを歌うことがないため、魅入ってしまう。
「あぁ……! 何観てるんすか!」
キッチンから戻ってきた彼が慌ててテーブルにあるリモコンを取ろうとした。思わずその手を制止して、取られないようにリモコンを手にする。
「年末のコンサート録画したんだよ。今観てるから消しちゃだめ」
バツが悪そうな表情でテレビを観る彼が可愛くて少しだけ意地悪をしてみたくなる。こういう時の彼は嬉しさ半分、気恥ずかしさ半分といったところだろう。
「こんなに優しそうに歌うんだね、ジュンくんって」
顔を真っ赤にしながら片手で顔を隠す彼。大きな手だけど耳まで真っ赤で照れているのが丸わかりだ。
「ファンの子たちのこと思ってるとこんな感じの表情になるんだね……」
と、無意識に出た言葉。特に意味もなく思うがままに言ったが、少しの沈黙が流れてしまいハッと我に返る。嫉妬心なんて微塵もない。が、今のはそう捉えられてもおかしくない内容だ。
彼の立場をわかった上で彼と一緒にいるんだから、いつもは気をつけているのに。
不味かったかもしれないと黙り込む彼を上目に見ると、彼の顔は先ほどよりも真っ赤になっていて火照りそうなほどだ。
「えっ!」
予想外の反応に驚いた私は立ち上がってしまう。
「違うんすよ。これ、あんたのこと想いながら歌ってたので、あんまり見ないで欲しいです……」
声が小さくなっていくと同時に目を逸らす。彼から出た言葉を受けてもう一度画面を見ると、愛しいものを見つめる優しい瞳をしていて心臓がトクンっと高鳴る。
蕩けそうなほど優しい声で、表情で、手つきで。温かい瞳で、艶やかな唇で。紡がれるその愛の言葉が私に向けられたものだと知った途端、彼しか見えなくなってしまう。
他にも歌っている人はいるのに、いつも以上に彼のことを追ってしまう。ファンとして彼のステージを観るのではなく、あくまでも彼女として観てしまう。駄目だとわかっているのに、彼の衝撃的な発言で、頭は真っ白になる。
「あぁっ!」
ブツリと突然消されたテレビ。残念がる私に「そんなにいいっすかねぇ?」とそっぽを向いて言う。頑なに目を合わせない彼が可笑しくて、そして愛しい。
「ふふっ」
「何笑ってんすか。ちゃんとファンの子たちも大切に思って歌ってますよ。公私混同するのは良くないですし、あくまでこういう曲を歌うならどう表現しようっていうのであんたを思い浮かべていただけでーー」
彼の止まらない言葉は、照れが止まらない証拠だ。長々と話す彼の裾を引っ張って座るように促すと、咳払いを一つした。
「……まあ、あんたの前にいるオレは特別ってことですよ」
「うん」
真剣で真っ直ぐな瞳が私を射抜くと、キュッと胸を捕まれたかのように嬉しくなる。「わかってるよ」という返事を込めて手を重ねて近づくと、ちゅっと軽い音と共に彼の柔らかい唇が私のそれに触れた。
先程まで歌っていた画面の中の彼ではなくて、今目の前にいる彼の唇。アイドルの彼ではなくて彼氏の、一人の男の子である漣ジュンくんが私だけを想ってしてくれたのは優しくて温かいキスだった。