「まだ終わらないの?」
騒ぐ彼を無視することなんてできなくて空返事をする。彼はいつも私といるとずっとくっついていて、甘えたいのか横に座っている彼が私の肩にぐりぐりと頭を押し付けてくる。
「ごめんね。最近お仕事が溜まってるの」
「ふぅん。忙しいんだね?」
明らかにご機嫌斜めな声色で不満を吐き出す。それでも構って欲しいのか私の首にふうっと息を吹きかける。
「ちょ、日和くん。くすぐったいよ」
「きみが構ってくれないのが悪いね」
「もう〜」
嫌ではないことを知っているのか、楽しそうに甘える彼が可愛い。彼がどんな表情をしているのか気になって横を向くと柔らかい表情をしていた。
「日和くん甘えたさんだね?」
「きみにはうんと甘えたい。だめ?」
「ダメじゃないけど……」
甘い声で言われると何も言い返せなくなるが、彼のペースに巻き込まれてはいけない。集中しなくては。私の想いが伝わったのか、彼はしばらく黙って私の作業を見守っていた。
それでも飽きてしまったのか、私の気を引くように首元にちゅっとキスを何度も落とされる。が、慣れている私はそれでも作業を続ける。
「日和くん。こういうこと、他のひとにしちゃだめだよ〜」
「心外だね!」
まったくもう! と不機嫌な声が後ろから聞こえて楽しそうだなあと呑気なことを考える。するとその様子を見た彼が突然耳元で囁いた。
「……こんなこと、きみにしかしないからね」
先程とは異なる低い声が耳に入り、反射的に彼の顔を見ると悪戯な瞳を向けていた。
「やっとこっちを見たね?」
不意打ちをくらい、固まってしまう私を見た彼は口角をあげて笑っていた。
「……わざとでしょう」
「ふふん、ぼくを無視するなんて百年早いね!」
そっぽを向いて少し怒るような言葉を吐いてる一方でこれは彼がいじけてるだけだとすぐにわかる。「ごめんね」と謝ればすぐにぱぁっと花が咲くように明るい表情が浮かび上がった。
「うんうん。わかればいいね! じゃあまずは休憩しようね。特製の紅茶があるからそれを用意してね!
あ、キッシュはぼくのだけど仕方ないから少しだけ分けてあげるね! それから――」
立ち上がったと思えば彼は即刻キッチンへと向かっていた。休みなしに話す彼が可笑しくて、無意識にふふっと笑っていた。それに気づいたのか、そうではないのか、彼が突然振り返って何か思い出したような顔で「あぁ!」と声を出した。
「その前に……充電が必要だよね?」
「え?」
私の手を取って引き寄せたかと思えば彼の腕の中に収まった。強く抱きしめられているはずなのに苦しいどころかむしろ安心する。背中に回っている手が私を宥めるような動きをしていて、大切に扱われているような気持ちになる。
「……ありがとう」
目をつぶって彼の心臓の音だけが響く。それが心地よくて、緩んだ頬抑えられずに彼の胸元に顔を押し付ける。
「きみは甘えん坊さんだね?」
日和くんがねという言葉が出そうになるが、私も大概だと思う。誰しも好きな人の前では甘えたいものなのかもしれない。