15


一回目。
見知らぬ天井に蛍光灯。体が死ぬほど重たくて、ぼんやり麻痺がかった痺れがあった。視界は不明瞭で、上半身がぜんぶ痛い。ピンときて、何も考えずにそのまま目を閉じた。

二回目。
やっぱり見知らぬ天井に蛍光灯。体中のだるさと鈍痛が半々、というところ。痺れがない分、上半身──いや、肋骨のあたりに感じる異物感とその奥に感じる圧迫感が、よりはっきりしている。最悪なのはシーツの下、つまり俺の体中から伸びて機械と繋がっている複数のチューブ。
顔をしかめて目を閉じた。今このまま覚醒したら、厄介この上ない。

三回目と四回目。
もう目を開ける前にさっさと寝ることにした。無理矢理だから眠りは浅いし痛いしでダルかったけど、負ったダメージの重たさが手伝って、意識が落ちてしまえばけっこう長く眠り続けることができたような気がする。そんな感じで寝まくって、ようやく五回目。
そろそろと目を開けておや、と思った。天井が変わっている。目覚めたら知らない場所にいることって何回もあったけど、これは初めてだな。
瞬きする前に、鶴丸の顔が視界いっぱいに広がった。

「目が覚めたかい?」

返事をする前にベッドが音もなくリクライニングされていく。
おそるおそる呼吸した。記憶が曖昧だった時に感じた異物感は消えていて、圧迫感もはない。ほっとした。ただし深呼吸はやめといた方がいい気がビシバシする。めちゃくちゃ時間をかけて浅く呼吸すれば、まあ平気という具合。
口をもごもご動かしてみた。口の中はすっかり乾いていて、鉄錆味の名残がする。血で溺れてしまうかと思ったのが嘘みたいだ。
血まみれスプラッタだったはずの上半身はすっかり綺麗に整えられていた。知らない服を着ているし、知らないふかふかのベッドに寝かされている。そして傍には、なぜだか完全武装で困り眉をしている鶴丸。なんかはじめて見た時よりも武装レベル上がってない?
ゆっ…くりと瞬きした。無理矢理寝ていたのでさっぱり事態が把握できない。

「さあ、水だ。ゆっくり飲むといい」

鶴丸は俺を甲斐甲斐しくサポートした。水が飲みやすいように顔を少しだけ傾けてくれて、吸い飲みを近付けてくれる。顔見知りにこうもしっかり介助されると恥ずかしいもんだな。魔法使い人生が長すぎて知る由もなかった感情だ。
鶴丸は俺に時間をかけて水を飲ませると、手に取りやすい場所に机を動かして残りをそこに置いてくれた。真っ白い布でできている豪奢な衣装が当たって、輸液パックから垂れているコードがぷらぷら揺れている。なんか武装だけじゃなくて衣装も豪華になってない?気のせい?

「…ここどこ?」

俺はものすごく努力して浅く呼吸をしながら、ようやっと尋ねた。なんとなく察しはついてるけど、状況を正確に把握するって大事なことだよね。

「時の政府が運営している病院だ」

鶴丸は椅子に腰掛けながら言った。

「きみがここに担ぎ込まれて処置を受けてから四日経った。術後の経過は良好らしいぞ」
「だろーね…」

なぜ俺が無理矢理寝たかというと、起きていたってなんの得にもならないからだ。絶対痛すぎる。ほんとのところ言うと、動いた方が回復のためにはいい。でも嫌だ。痛いのなんて一分一秒でも我慢していたくない。

「安心してくれ。ずっと立ち会っていたから、医者連中がきみに余計な術式や追跡機器を埋め込んでいないことは確認している」
「ん…?うん」

どうしよう今絶対に鋭いツッコミをすべきだったのに、体調が万全じゃなさすぎてスルーしちゃったな。悔しい。

「他に訊きたいことはあるかい?」
「ああ…」

ゆっくり瞬きする。改めて鶴丸を見てみたけど、やっぱり気のせいじゃないな。

「なんか…お前、なんか、変わってない?」
「存り様が変質したのさ」

鶴丸は腰に下げていた刀をベッドの上に置くと、ちょっとだけ抜いてくれた。鶴丸のしんいきという場所で見た時とは違って、わずかな欠けも見受けられない。

「きみの魔力が審神者の霊力を上書きした。俺は審神者が召喚した刀剣に宿る付喪神の分霊ではなく、君と血の契約を交わした使い魔になった」
「血…」

ああ、ダンブルドアがどうのこうの言ってたやつね。鶴丸に血を吸わせたら俺の使い魔にできるとかどうとかっていう。
でも結局お前に血を吸わせてなくない?

「契機はあった。かの老獪が俺たちに提案する前に」
「…?」
「俺は、きみのことを一度斬っている」

鶴丸は、まるでそのことが耐え難い苦しみを与えるかのような顔をしていた。俺はというと、バカの顔をしたまま心当たりのない記憶の蓋をえっちらおっちら開けていく。斬られたっけ?そうだっけ。
鶴丸が苦笑する。黒いグローブから出た指先が、俺の胸の辺りから腹のあたりを軽くなぞった。一直線に。

「忘れてしまったのかい?さぞ痛かっただろうに」
「…あ」

マジで忘れてたので、やっぱりバカの声を上げてしまった。
そういやそうだった。怒涛のイベントが目白押しすぎてすっかり追いやられてた。あれもまたスプラッタ事件といえばスプラッタ事件。わりと最近の出来事なのに、ずいぶん昔のことのように思う。

「そういや、そうだったね」

脳みその回転が著しく鈍っているので、思考が理性を経由せずにそのまま出力されてしまう。されてしまった。普段の俺だったら今の迂闊な発言を、賢明な顔の下に押し込めておけるっていうのに。
気がついたら思いきり抱きしめられていた。

「えっ、うおい"っ…」

抱きしめられるのは構わないんだけど、それは俺が大怪我というデバフを背負っていない場合の話である。体の内側と外側から同時に激痛が走って、ツッコミが飛んでいった。俺が痛みで声を上げたことは当然伝わってしまって、鶴丸はさっき以上に苦しそうな顔をして俺をベッドに戻してしまう。

「鶴丸?」

俯いて、すっかり小さくなってしまった鶴丸に手を伸ばす。伸ばして初めて、両腕が包帯でぐるぐる巻きにされていることに気がついた。さっきの痛みの正体はこれか。ていうか、両腕の手首っておい。包帯の位置がセンシティブすぎる。

「どうしてそんなに適当なんだ」
「ん?」
「きみは、俺のせいで死んでいたかもしれないのに」

こちらに顔を見せないまま、鶴丸はぽつぽつと語り始めた。
俺を斬ったことと、審神者に再起不能一歩手前までボコられた(とてもまろやかな表現)(クソ腹立つので規制済)ことが、鶴丸の存り方を変容させるきっかけになったらしい。
あの夜。俺のことをズバーッとやっちまって刃に付着した血はちゃんと拭いてたんだけど、魔法使いを斬ったという事実は残る。その事実は、既にひび割れていた刃の中に時間をかけて染み込んだ。そして、顕現した審神者自らの手で破壊寸前、完膚なきまでに(マジでクソ)損なわれることで、ほとんど千切れかけていた主従関係の繋がりも断ち切れた。まっさらになった鶴丸は、本当だったらこの時点でいわゆる──刀剣破壊ってやつになってたんだろうけど。染み込んでいた俺の血がよすがになった。
破壊されてなかったことになるわけでも、本霊に還れるわけでもない。どっちつかず。だから起き上がりたいのに起き上がれない。そんな状態。そこに俺が鶴丸の腕を握りにかかったというわけだ。血まみれスプラッタの状態で。

「顕現し直して、最初に目の当たりしたのが死にかけのきみだった」

鶴丸はこっちを見ずに言った。声はやりきれなさに溢れていて、もしかして泣いちゃってるんじゃと勘繰るぐらい悲痛だった。汗が出る。

「きみは俺の腕の中で意識を失うし、俺の服も、血を吸ってどんどん重くなる。俺がきみの命を吸って顕現したのではないかと」
「ご…ごめん…」

身動きできない病床で、美人にクシャクシャの顔で縋られるとどうしたらいいか分からなくなる。新しい学びを受けて、俺は汗びっしょりになっていた。さすがに頭が起きる。
いやだって。
まるで俺が悪いみたいじゃん。いや俺が悪い。脳内で言い訳をした自分を振りかぶってビンタしておく。
心を傾けていた人間が、目が覚めたとたん血まみれで気絶して倒れているのを目の当たりにしたらどれだけ心を抉られるか、俺は知っていた。よみがえる鉄パイプ貫通事件。あれっそう思うと晴れて貫通仲間だね。字面が穴兄弟に似てるね。もう一度自分を脳内でビンタしておいた。セルフで錯乱の呪文をかけるんじゃない。
しどろもどろになったけど、ちゃんと謝罪の言葉は口にした。もしも自分が同じ立場だったら自分自身を呪っちまいそうになりそう。鶴丸が顕現コンマ秒でセルフ破壊しなくてよかった。

「マジごめん。あの時は必死で」
「………」
「だってそうだろ。あのまま連れて行かれて、スクラップにでもされたらマジ許せね、ぅえゲホッ」

勝手に咳が出た。肺がエグめに痛い。ちょっぴり涙が滲むのを感じた。
肺に穴があくと、流れ込んだ血を抜くためにドレーン──空気や血を抜くための管──を入れることになる。これは外科治療を学んで得た知識のひとつだ。どうやって入れるかって、肋骨あたりからブスッとやるわけだよね。つまりそこにも穴があくわけだよね。それがある間、ずっと激痛に苛まれることになるわけだ。俺が無理矢理寝まくった理由がここにある。
で、寝まくった結果。目論見通り、ドレーンは取りはらわれた後だった。それでも体の中に異物があったであろう名残は分かるし、塞がれた穴だってもちろん痛む。咳き込むとそこが引っ張られて、急に引き攣れる。
痰が絡んで咳がなかなか止まらない。三回、四回。咳き込むたびに、肺にビキッと痛みが走る。肋骨の間が痛む。肋骨を庇おうとする背中も痛む。それが嫌で呼吸を浅くしたいのに、ひゅうと鳴る喉が意思に反して息を吸い込む。悪循環。普通に無理ゲー。
鶴丸が真っ青になって背中を撫でてくれた。優しい。
悶絶しているうち、刀を槍のように投擲して一撃をキメてくれたイケメンの顔がよみがえる。
この一発で確実に仕留めてやるという気迫がエグかった。こっちは刀剣男士じゃないってのに、まさか反応できるわけもない。クィディッチの選手でもないんだから、あれについていける反射神経で盾の呪文なんか出せるわけないだろ。

「… ん?」
「ガホッ、ゲホッ」
「スクラップってどういうことだい?」
「、けふ?」









「アッハッハッハッ!」
「………」

涙混じりに爆笑しながら机の上をバンバン叩いているのはやっぱりイケメンだ。凛々しさよりも美しさの方が勝ってるタイプのイケメン。本当にいろんな刀剣がいるんだね。
引きつけを起こすんじゃないかと思うほど笑ってる刀剣男士の後ろに、ド・威圧感あふれる長身の男が控えている。両手を後ろで組み、自分よりも低い位置にある鶴丸の頭から片時も目を離さないでいた。こっちはちょっと威厳さえ感じるタイプのかっこよさだ。本当に以下略。
ちなみに鶴丸も鶴丸で完全武装のまま、眼光で殺さんばかりに睨みつけていた。いや怖。
キョロキョロしていたらもう一人の──いや、もう一振りの刀剣男士は、俺の目の前にいる男のあまりの爆笑っぷりに、ほんの僅かばかり圧を緩めた。

「…御前」
「あいやすまん。笑いすぎた」
「本当にな」

頬杖をつきながら態度悪く悪態ついてやりたかったけど、体調を考慮してリクライニングされたベッドに体を預けたままでいる。両手は拘束された状態にあるので、どっちみち頬杖はつけない。
ほんとは怪我の具合を考慮されて、なんの変哲もない、鉄製の手錠だったんだ。でもガチャンとされた瞬間鶴丸が一刀両断してしまった。俺には傷ひとつつけずに。どうやったの?マジで。
そこで、代わりに例の光るビームによる拘束でということに落ち着いた。あの時のような痛みは微塵もなく、ただ引っかかってる状態。文字通り、ポーズだけの拘束だ。
ところでこのビーム、刀剣男士には斬れないらしい。鶴丸はいい勝負だったけどね。惜しかった。俺が万全だったら斬れたらしい。それってどういうこと?聞き返さなかった俺、どうやら快方に向かいつつある。
それにしても。

「誰かツッコミしといてくれよ…」

恨み言を口にしてしまったけど、これはもちろん、目の前のイケメンにぶつけるつもりで口にしたわけじゃない。
破壊寸前までいっちゃってた──と思ってた──鶴丸が、スクラップよろしく処理されると思ってたこと。刀剣男士に人間と同じような人権がないと思っていたこと。ちょっと冷静に考えれば分かったことだ。すべてのモノに神様が宿ると信仰してきたこの国が、ひとの形をした神様に、当たり前の権利を与えていないわけがない。
クソ。ああ認めようじゃんか、俺がひとりで無様にタップダンスを踊っちまってたということをな!
チッと舌打ち。次の瞬間ゲホッと咳き込み。剣呑な雰囲気をたたえていた鶴丸がすぐに近くに寄ってきて、背中を擦ってくれた。くそっ、咳デバフ長いな。痛み止めが効いてるうちが好機。

「水を飲んでおくかい?」
「ン、だい、ゴホッ、だいじょぶ」

なんとか大丈夫を言いきって、改めて座り直す。
一文字則宗と名乗った刀剣男士は、俺と鶴丸のやり取りを穏やかな眼差しで見つめていて、俺の咳が落ち着くまで待ってくれていた。後ろに控えている刀剣男士──たしか日光一文字──は、特に無反応。だよね。これって一応、あの時の続きだもんね。

「すまんなあ。お前さんの嫌疑は晴れちゃいるんだが、規則でね」 
「別にいっすよ。そりゃそうでしょうし」

過去の思い出を振り返る。なんであれ、事件が起こった後に作る調書がいかに面倒な代物なのかを目の当たりにしてきたもんだ。俺が首を突っ込みまくった事件は多数あり、そのたびに呼び出されていろんな闇祓いがえっちらおっちら、調書だの報告書だのを作ってたからね。みんな大変そうだった。作らないという選択肢はないし、省略もできやしない。大変だね。他人事のように言っておく。だって他人事だもん。

「それで──結局のところ」

則宗さんは扇子でぽんぽんと肩を叩きながら言った。

「お前さんに過去や未来を改変する意思はなく、それを命じた組織もない」
「ないない。まったくない」
「時空を越えることができたのも鶴丸国永の縁を辿っただけで、お前さんにその力もないと」
「そりゃもちろん」

大きく頷いておく。

「さすがに無理。某猫型ロボットじゃあるまいし」
「うん、よかった。歴史保全条約に違反するところだったぞ」
「はい?」
「何者も故意または過失の重度を問わず、正史の流れを妨げ、改ざんする行為を行ってはならない」

バチン。則宗さんが音をたてて扇子を閉じた。ちょっとビビった。

「歴史修正主義者と戦う者であれば、いの一番に叩き込まれる原則さ」
「………」
「何者も、だ。それは審神者でも、刀剣男士でも、歴史保全条約が施行される前に生きる人類であっても同じこと」

ごくりと唾を飲み込む。今、故意または過失の重度を問わずって言ったよね。故意は分かる。過失ってなんだっけ。難しい言葉を使わないでほしい。
チキリ。
背後で危険な音がした。鶴丸が鯉口を切った音だ。なんで俺鯉口とか知ってんの?

「仮にも政府刀が、巻き込まれただけの被害者を脅迫するか」
「巻き込まれただけっていうのは違うだろう。彼は自らここへ来たと言うじゃないか」
「まあ、そうだね」
「きみ!」

鶴丸がピシャンと俺を叱った。ごめんて。余計なことを言うなってことだよね。

「鶴丸は巻き込みたくないってちゃんと言ってくれただろ。それを無視して未来へ来たのは俺だ。間違いなく俺の意思。そこは曲げない」
「…っ」
「やあ、仲良きことは美しきかな」

則宗さんはかんらかんらと笑った。このシリアスな空気ビシバシでてる状況で笑うの?すごいね。日光さんは無表情のままだしね。温度差がひどい。

「豪胆な奴だ」

則宗さんは目を細めた。眩しいものを見ている目つきだ。

「それとも蛮勇かな」
「あん?」
「決断が早いのは結構だが、目的を果たせた後のことも少しは考えておくべきだったんじゃあないのか?」
「…?というと」
「お前さんの生きていた世界に、二度と戻れないかもしれないんだぞ」
「………」

それいつか絶対言われると思った。則宗さんは扇子の隙間から目を細めてこちらを見つめているままだ。
なんとなく。なんとなくだけど、この人──いや刀──いやめんどいからもう人──には、下手な言い訳が通用しない気がする。のほほんとしている雰囲気を持つ奴こそ、怒らせてはいけない。これは俺の長年の人生のおける教訓のひとつ。
後先なーんにも考えてませんでしたって言ったところって、通りそうな気が微塵もしない。さっきの扇子バチンが怖すぎたせいだな。この刀ゲラかもしれねーなっていう判断がかき消えたからね。後ろでずっと喋らないまま不動の日光さんも怖いしね。

「(神様だもんなあ)」

付喪神。大切にされていたものに宿る神様。そう聞くだけで、誤魔化したりするのがバチ当たりな気がしちゃうんだよな。こんな感覚、イギリス人の身には起こりようもないのに。たぶん俺の出涸らしってまだ日本人が滲むんだと思う。だから躊躇っちゃうんだ。そうに違いない。
でも、俺の後ろにいる鶴丸だって神様だ。
則宗さんや日光さんにテキトーぶっこいちゃおうかなって思っても、鶴丸にそうしようとは思わない。同じ付喪神なのに、そうしようという気は微塵も起こらない。
その答えは、既に得ている。

「俺って誠実なんだってさ」
「うん?」
「全然そんなことないのにね。テキトーぶっこくし、場当たりだし、そうだな。蛮勇かも」

ほんとは蛮勇もちょっと違う。俺に向こうみずなまでの勇気はない。だって組分け帽子曰く、俺はあの深紅と黄金にふちどられた輝かしい騎士道に相応しくないのだ。道に迷った時、選択を迫られた時。正義感でもって行動したことは、ただの一度もない。きっとね。
それなのに。

「バカほど心が広くて優しい神様が、こんな俺を誠実だって言うもんだからさあ。真摯に応えてやりたいじゃん」
「お前さんの世界と引き換えにしても?」
「うわ言葉つよっ。嫌な言い方っ」

神様ってみんなこうなのかな。いや違う。鶴丸は俺にこんな言い方したことない。たぶん、則宗さんの意地が悪いんだ。

「なんにも捨てやしないよ。俺の生きてた世界もな。天秤になんざかけたりするもんかってんだ」
「傲慢な男め」
「知らなかった?人間って神様が思うよりずっと傲慢なんだぜ」

くらえ必殺後継者スマイル!
ニコーッとして、明るいブルーの瞳を見つめ返す。とても良く似ている色を相手に、何度もこうやってニコーッとしてきたからね。うんと年上のじじいと睨み合いするのは慣れている。

「俺は中でも極めつけさ。ないものねだりだって得意」
「ほう」
「そんでもって諦めも悪い」

だから仮にだ。仮にね。
もしもの話。万が一の話。

「鶴丸をあのバカに返すっつーんなら──あんたも後ろの奴も政府も、全員まとめてぶっ飛ばすからな」
「おお、怖い怖い」

ちっとも怖くなさそうな顔で則宗さんは笑った。口元を扇子で隠して雅さをかもす余裕まである。おい、マジだぞこっちは。

「なぜそこまで心を預ける」
「は?鶴丸のことが未来よりも大事だからだろ。言わせんなよ」

則宗さんは扇子で顔を隠していたので、俺は則宗さんが笑いを堪えていたのに気付かなかった。
ひらひらひら。
目を丸くした。白くて大きな花びらが、頭上からどんどん落ちてくる。腕にも肩にもかかるので、後ろを振り返った。
鶴丸が花びらまみれで立っている。
花びらは鶴丸の頭の上のあたりから現れては落ちていって、足元でちょっとした山になっていた。どう見てもたった今降り始めた量じゃない。いったい何なんだか聞きたいのに、鶴丸はというと着物についていたフードをギュッ…と目深に被っていて、皺くちゃになるほど裾を握りしめている。おかげでまったく顔が見えやしない。
いや、それはダメだろ。この花びら、お前が原因だって言ってるようなもんだぞ。

「ッブハハハハ」

則宗さんが扇子の向こうで吹き出した。唾飛んできた。汚い。

「御前」
「すまん坊主、だがこれは無理じゃないか!?ブハハハハハ」

一文字則宗、笑いがドツボにハマったようで完全に沈黙。しばらく元の雅さを取り戻しそうな気配はない。ちょっと引いた。さっきまでの神様然とした態度はどこに行ったんだ。この刀、やっぱりゲラなのでは。
相変わらずビーム手錠がついたままの両手で花びらを拾い上げる。強い香りだったけど、その正体を思い出せないまま首を傾げておいた。絶対どっかで見たような気がするんだよなあ。




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