【紫】帽子の判決、知性の勝利



*ハリー・ポッターパロ
「生ける屍の水薬」とは
強力な眠り薬。無色透明である。一年生の必修科目である魔法薬学の授業にて取り扱われるが、用量用法には注意が必要。

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 古き賢きレイブンクロー、機知の埃に塗れ羊皮紙とインクの香りが染み付いた知性の寮は、ホグワーツ城の西棟に位置している。計算され尽くした美しさを誇る目の回る様な螺旋階段を一段ずつ踏み締め上り詰めた先に、寮への入口が存在する。

 扉には鍵穴も取っ手も無く、幾年も寮生の知識を試してきたブロンズの鷲のノッカーが佇んでいた。難問の挑戦を受け取る合図として扉を軽く叩くと、詩を口遊むかの様な柔らかな声で知識を問われる。一年生の必修授業である呪文学、魔法薬学、闇の魔術に対する防衛術といった基礎的な学問から、マグル学や古代ルーン文字学といった専門的な物まで、幅広い知識が必要となる事が多い。

 日課である図書館での読書を終えたスマイルは寮へと足を運んだが、扉のすぐ横の壁に寄り掛かり、ぼんやりとランプの灯りを眺めている人物が目に留まった。真新しいローブは彼女には幾分か大きいらしく、片方の肩からずり落ちている。

「零魔お前、また中に入れてない訳?」
「ぁ、スマイル」

 「問題、わかんなくて」と自嘲の笑みを溢す零魔に溜息をついたスマイルが扉を叩くと、鷲の嘴から緩やかな歌声が流れる。零魔は不安げにスマイルの背中を見つめたが、彼の為に寮の扉が開かなかった事は一度も無い。

「不死鳥と炎はどちらが先か」
「円に始まりはない」

 一瞬の考える隙を見せる間も無く、スマイルは問題を解いてしまった。床に這い蹲る砂埃を払う様に扉は開き、零魔の手を引いて談話室へ足を踏み入れる。

 消灯時刻間際の為、談話室には暖炉の中で薪がぱちぱちと弾ける音だけが響いていた。柱の燭台で揺らめく蝋燭の灯りが朧げにロウェナ・レイブンクロー像を照らしている光景は、些か不気味な雰囲気を醸し出している。積読が育ちに育った本の木の間を通り抜け、スマイルは暖炉の前に零魔を座らせた。



「それで、何聞かれて答えられなかった?」
「えっと、『消失した物質はどこに行く』って」
「非存在に、つまり全てに」

 スマイルはあっけらかんと言い放った。
 トネリコの杖を振り零魔には聞き慣れない呪文を口早に唱えた彼の杖先から、ふんわりと芳しい香りの煙が広がる。零魔とスマイルの掌を撫でた煙は形を成し、キツめに淹れられリゼ・ティー入りのカップが現れる。わぁ、と感嘆を漏らした零魔を横目に、彼は紅茶を啜った。

「スマイルはすごいね、何でもできちゃう」

 ティーカップで揺れる水色に息を吹きかけた彼女は、折角冷ました紅茶を口に運ぶ途中で手を止めた。ぽたぽたと零れ落ちる夜露で濡れた頬を覆い隠す様にカップに口付けたが、漏れ出る嗚咽を飲み込む事は叶わなかった。

 どうして私をレイブンクローに組分けしたの。もしもグリフィンドールだったら、もしもハッフルパフだったら。

 こんな思いしなくて済んだかもしれないのに、と言い終わる前に息が切れる。えぐえぐと声を抑えて泣く彼女のローブの裾には、誰の物か判別の付かない複数の足跡が付着していた。

「あのね、ぁのね、最近ずっと、一日中頭がぼんやりするの。授業に身が入らなくてマダム・ポンフリーのところに行ったのに原因分かんなくて、甘えてるだけだって言われて、レイブンクロー生ならしっかりしなさいって。もうやだ、やめたい、先生にもパパとママにも呆れられて、スマイルにもいっつも迷惑かけて、ごめ、ごめんね」

「…俺は迷惑なんて思った事一回も無いけど。困ったら俺がどうにかしてやるし、俺は零魔を見捨てたりとかしないから」

 「だから俺の言うことだけ聞いとけばいいよ」とスマイルは付け足し、零魔の腫れぼったい瞼を手で覆った。日々のストレスが原因か、はたまた別の要因が存在するのか、息苦しそうな小さな寝息がスマイルの肩にかかる。

ホグワーツのいずれの寮も男女別部屋であるが、スマイルは夢路に着いた零魔を自身の部屋に運び入れた。百味ビーンズを茶請けに忍びの地図(なおレプリカである)を眺めていた相部屋のきりやんは、またかぁと寝台に体を放り出した。特に咎める様子は無いが、寮監に見付かりでもしたら彼諸共大目玉を喰らう羽目になる。

「スマイルさぁ、いつかバレても知らないからな」
「それは零魔を部屋に連れ込んでる事?それとも生ける屍の水薬を秘密裏に調合して使ってる事?」
「両方に決まってんだろ…誰だよスマイルをレイブンクローに入れた奴、組み分け間違ってるって」

 「このハットストールが」ときりやんは枕に埋めた顔を上げ、スマイルにじっとりとした怪訝な視線を送った。しかし直ぐに眼鏡を外し、「点数には気を付けろよ」とだけ残して眠る体制に入る。

 ハットストールとはホグワーツ魔法魔術学校において組分け儀式に五分以上の時間を要する生徒を指す。所謂組分け困難者であり、また発生率は五十年に一度と非常に稀な存在でもある。そんなスマイルを組分けする際に帽子が最後まで悩んだのは、レイブンクロー寮とスリザリン寮だった。

「組分けを間違えられたのは、どっちだろうな」








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