未定
白亜の城──白尾国に鎮座する城郭は御伽の国から飛び出てきたような壮麗さを持つ。しかし堅牢堅固の要塞、という形は隠す気もないようだ。嫌に整備された石造りの路を規律の取れた足取りで踏む。周りの人──彼女と同じく入隊希望の丁年達──は異質な雰囲気、もしくは明らかに浮いている彼女をジロジロと眺めている。そのような針のむしろをものともせず、涼しげな顔で目的地まで足を運んだ。
「あー、入隊者は……うん、これで全員か」
──瞬間、眩暈がする。ぐらり、とレイマの頭が鷲掴みにされ、揺さぶられる感覚。細く矮小な体躯は崩れを落ちるようにたたらを踏んだ。己にのみかかる重力が大きくなったような、有無を言わせぬ程の強制力。マジで吐きそう、と素の乱雑な口調でポツリと心中呟く。周りは気にしないのか、気にする余裕もないのか、どちらにしろ手を差し伸べてくれることはない。
────うなじの骨が、シンと軋む。意味のない子音と母音を組み合わせた言葉は、誰かに捥がれたように消えていく。手には刃渡り六センチほどの、ナイフというより刃そのものと言える得物。目前にはいっそ悪辣ささえ感じられる、狩人じみた鋭利な顔つきの青年。不吉すぎる漆黒の頭髪とキリッとした翡翠の双眸。それは、海の捕食者として名高いサメを何故か連想させる。
「……そろそろいい?」
「え、あ──うん」
意識が引き戻される。何がいいのか分からないが、取り立てて彼女の心を揺さぶるものでもない。ナイフを構え、相手を観察する。
──入隊者の力量把握のための試合か。
そう思うと、心が軽くなる。彼には悪いが、今の魔法使いはやや機嫌が悪い。主に内なる憎悪が止められない。
目にも止まらぬ速さで肉薄し、相手を殺す勢いで逡巡することなく刃を振りかざす。それは脊髄を、頸動脈を────或いは死をも貫く洗練された一撃だっただろう。
なれば。
「……ちっ。はずされた」
その一言は、もっと重いものであるべきだった。
「嘘だろアイツ! 幹部様より速く動いた⁉︎」
たん、と軽快に革靴が鳴る。何の気負いも衒いもなく、仮初めの戦場に降り立った。まるで軍師のような悠然とした佇まい。この場には似合わない静謐さは、いっそ怖いくらいだ。少女の水晶の瞳は滾っている。ナイフを逆手で持ち直し、猪突猛進が如く突っ込んでくる。