(293 / 293) ラビットガール (293)

その日の夜。
アスカとルフィとレイリーは象を晩御飯にし、食べ終え焚き火を囲んでいた。
冬も訪れるためアスカには何着か薄着ではない服を用意してもらっていたため、アスカは裸同然の服ではなく可愛らしいがちゃんとした服装に着替えた。
そう対して着ていないのにTシャツ系は久々に着る気がした。


「そういえばお姉様ってどうなったんだろう…」


ふとアスカはルフィの姉であるミコトの事を思い出し、無意識に口に出していた。
アスカの呟きを拾ったルフィはお腹一杯食べて満足顔を浮べていたがアスカの呟きにハッとさせ目線を落とし、アスカも口に出してしまいルフィ同様目線を落としてしまう。
焚き火の火を見つめる2人を見てレイリーも神妙な顔を浮かべ焚き火に新たな薪を投げ入れた。


「私もそれが気になりハンコックに聞いてみたんだ」

「姉ちゃんはどうなったかハンコックなんか言ってたか!?」

「お姉様、全然姿がなかったけど…助かったの!?」

「落ち着かんか!」

「「でも…!!」」


2人はレイリーの言葉を聞き、一斉に顔を挙げレイリーへ問い詰めるように声を上げた。
しかしレイリーも聖徳太子ではないため2人同時に喋られたら分からないと2人を落ち着かせようとする。
2人は落ち着きたくても落ち着けず、同時に口篭るも再度レイリーに『とにかく落ち着け!』という言葉に口を閉じ座りなおす。
そんな2人を見たレイリーは溜息をついた後、気を取り直したように2人の顔を交互に見る。


「ハンコックに聞いてみたんだが、ハンコックも分からないと言っていた。」

「え…」

「じゃあ!姉ちゃんが生きてんのか死んでんのか分かんねーってことか!?」

「ああ…」


七武海であるハンコックでもミコトの行方は知らなかった。
今の現状からして行方不明者も多数いるものの生死を確認できないほど海軍の中は混乱しているだろう。
その原因のひとつがルフィとアスカ達が行った仲間へのメッセージなのだが、再度マリンフォードへ向かい海軍に囲まれても姉の姿もなかった。
運良く赤犬達も留守だったため、姉も任務についていると思っていたが海兵達や海軍の雰囲気からして違うとレイリーはそう2人に告げる。


「もし黒蝶が生きて赤犬達同様海へ出ていたのなら誰かが黒蝶を呼べと叫ぶはずだ…しかしその場には赤犬や青雉、黄猿の名前が出ても黒蝶の名前は出てこなかった……黒蝶は海軍…いや、政府の言わば切り札だ…最後の砦でもある彼女の名を誰もが口にしないのは可笑しい。」

「そういえば…」

「じゃあ本当にお姉様は…」


死んでしまったのだろうか…、とアスカはその言葉を口に出来なかった。
口に出来るほどまだ傷は癒えておらず、そんな事実なんて嘘でも思いたくないし信じたくもない。
ルフィもそれは同じなのかアスカの言葉にグッと言葉を飲み込み何かに耐えるように眉を顰める。
しかしレイリーはアスカの言葉を耳に入れ首を振る。


「…憶測だが……彼女は助かっているだろう…」

「え…!?じゃあどこに…」

「………それは…分からないが…」

「なんだよ!!結局おっさんも分からないんじゃん!!」

「す、すまん…」


『期待させるなよなー!』と頬を膨らませるルフィにレイリーは苦笑いを浮かべて謝った。
そんなレイリーにアスカは意味ありげに見つめ、そっとレイリーから目線を外し焚き火へと移す。


(お姉様はきっとパパの所だ……パパがお姉様を助けてくれたんだ…)


焚き火の揺れる火を見つめながらアスカは心の中でそう呟く。
レイリーが続けようとした言葉をアスカは察し、口には出さず思う。
シャンクスがミコトを深く誰よりも愛しているのは成長し、そして父親と同じく心から愛する人が出来たアスカでも分かる。
そんなシャンクスがミコトを放って傍観するなどありえないことであり、昔から可愛がっていたルフィや娘であるアスカを助けずにいるのは考えられない。
アスカは父親と再会し、シャンクスが戦場にいたのを知っているからすぐにその答えに導かれた。
もし、この場にシャンクスとの再会を約束しているルフィが居なかったらレイリーもアスカも口に出していただろう。
シャンクスがあの場にいたと知ったら約束が破られたことになる。
それをレイリーもアスカも分かっているから口に出せなかった。



その夜、アスカ達は明日の修行に備え早めに就寝することにした。







「アスカ!アスカ!!」


夜、寒いからと渡されたレイリーの上着を着て寝ているアスカの耳にルフィの小さな声が届く。
流石にレイリーがいるため怒られたくないとルフィも思ったのか声は小さいが、それでもアスカを起こすには十分だった。


「ん…なに…?」

「ちょっとこい!」

「え…え?」


寝起きなため理解できていないアスカは自分の腕を引っ張る幼馴染に目を丸くさせる。


奇跡にも森の動物達と出会う事もなく、ルフィはアスカの腕を掴んだまま動物が寄り付かないと言う木の側へ向かう。


「こんな夜更けに何?探検なら駄目だからね。」

「違うって!!お前脱げよ!!」


ルフィの事だからレイリーの目を盗んで探検でも行こうとしていると思ったアスカは釘を打とうとするもルフィは思いっきり首を振る。
流石のルフィもこの森の危険度を理解しているようで、それには成長したなぁ、と感心していたアスカの耳に耳を疑うような言葉が入って来た。


「…………やだ…ルフィってばいつ欲情を弄ぶキャラになったの?」

「ちげーーって!!!ほら、黄猿の光線を腹に受けただろ!完治してるか見せろって!」

「おそっ…!今頃確認?っていうか足がなんともないならお腹もって考えない?」

「もしもって事があるじゃねえか!」

「もう、心配性だなぁ…ほら。」


数秒アスカは固まったが、ルフィの脱げという言葉に己の身体を抱きしめ軽く引く。
何か勘違いしているアスカにルフィはまた思いっきり首を振るが、ルフィはバラバラになる前に受けた黄猿の傷を見せろと言い出した。
数日前の傷を見せろというルフィにアスカはつい突っ込んでしまう。
相変わらずの心配性な幼馴染にアスカは苦笑いを浮かべ服を捲る。
しかし捲ったお腹には白い包帯が巻かれており、ルフィは焦った表情を浮かべ弾かれたように顔をアスカへと上げた。


「包帯をつけてるじゃねえか…!!」

「これは赤犬のマグマがかすっただけの火傷だって……黄猿の傷はインペルダウンでシュラハテンの中で治療してもう治ってるよ。」

「本当か!?」

「本当…それにこの火傷もあと少しすれば治るってローが言ってたし…」


『少しって言っても一ヶ月もかかるけどね。』、とアスカは心の中で付け足した。
言ってしまえばレイリーと共に一ヶ月は動くなと言われかねないからである。
レイリーには言ってあるがルフィがもし言い出したら便乗するに違いない。
それを知っているからアスカはルフィに言えなかった。
そんなアスカの心の呟きなど知らないルフィは安堵したように息を吐き出し、火傷には触れないように抱きしめた。
突然抱きついてくるルフィにアスカはキョトンとさせ、顔はずらせないため目だけでルフィを見つめる。


「ルフィ…?」

「よかった…本当によかった……アスカが酷い怪我だったらどうしようってずっと思ってた…」

「……馬鹿ね…酷い怪我はルフィの方じゃない…」

「それもそうだな!」


アスカの言葉にルフィは少し離れ、にししっ、と歯を見せる笑みをアスカに向ける。
ルフィのいつもの笑みに釣られたのかアスカも小さく笑った。
そんなアスカを見ていたルフィは笑みを消し、アスカを見つめる。


「…なあ」

「なに?」

「お前…泣いてないだろ」

「え…」


ルフィが笑みを消したことに首をかしげていたアスカだったが、ルフィの言葉に目を丸くさせ、目を丸くするアスカなどよそにルフィは続けた。


「お前、泣くの我慢してただろ?」

「……泣いたよ。」

「いいや!ぜってー泣いてない!!だってお前ずっと泣きそうな笑顔だったじゃねーか!!」

「…!」


アスカはルフィの言葉に更に目を丸くさせ驚いた表情を浮かべる。
元々アスカはあまり感情を出して笑う方ではないのだが、それでも幼馴染として長年一緒にいたルフィには分かっていたようだった。
アスカはルフィの言葉に驚いた表情さえ消し目を伏せて黙ったまま何も言わずゆっくりとルフィの肩へと顔を寄せる。


「………」

「アスカ…ごめんな…」

「………馬鹿…なに、謝ってるの…」

「お前が泣かねェから…泣かないのはおれのせいだから……ごめん…」

「…………」

「ごめん…おればっかり泣いて…周りに八つ当たりして暴れたりして……お前だって泣きたかったのに…おればっかり泣いて自分を責めて…お前を抱きしめる事だってできなかった…抱きしめて慰める事だってできなかった……だからごめん」

「…………」


ルフィの声は静まり返る森に響く。
ごめん、ごめん、と呟くルフィにアスカはルフィの背中に手を回しギュッと力を入れて抱きしめる。
抱き着いてきたアスカにルフィもそれに答えるように、しかし傷に触れないように力を加減しながらアスカの背中に手を回し抱きしめ返す。


「……謝罪がほしいわけじゃない…」

「うん…」

「約束してほしい…」

「うん…」

「ルフィ、だけは……ルフィだけは側にいて……離れないで…死なないで……死んで、私から離れないで…」

「うん、分かった。」

「――ッ違う!!」


暫く沈黙が続いていたが重い口をアスカが開く。
アスカは別に謝罪がほしかったわけではなかった。
ルフィが謝ることなんてないと思っていた。
謝るのは自分の方だと。
泣きもせず、ただローに甘えるしか逃げる方法がない、自分の方こそルフィやミコトやエースに謝らなきゃいけないと思っていた。
ルフィはアスカの言葉の一つ一つちゃんと耳に入れて理解し、頷く。
しかしアスカは頷いたルフィの返事にルフィの肩に埋めていた顔を弾かれたように上げ、ルフィを見つめる。
その瞳は濡れており、ルフィは涙で濡れている金色の瞳を見て息を呑んだ。


「違う!!口約束じゃないの!!私が約束してほしいのは口約束なんかじゃない!!だってエースもサボも置いていかないって…1人にしないって言ってたのに私を置いていったじゃない!!!言うだけの約束なんてもう沢山なの!!破られる約束なんてもう嫌なの…ッ!!!」

「アスカ…」


ポロポロとアスカの金の瞳から涙が溢れ出し、アスカの小麦色の頬を濡らしていく。
涙を止めようとし手の甲で目元を擦り、肩を揺らして泣くアスカにルフィはゆっくりと目を擦るアスカの手首を掴んで擦るのを止めさせ、再びアスカの身体を抱きしめる。
アスカは抵抗もなく力を抜きルフィの肩に顔を埋め涙でルフィの服を濡らしていく。
じわりと自分の服が濡れていくのを感じながらルフィは抱きしめる腕の力を強めた。


「口約束しかできねえよ…物を渡してそれでお前が安心するんなら町に行ったとき買うからさ……だから今は口約束だけで許してくれないか…?」

「……物なんて要らない…口約束も要らない……ただ…誓って……どこに離れ離れになったっていいの…私を…私とお姉様を残して死なないで…私達にはもうルフィしかいないの……お願い…誓って……」


ルフィは器用ではないと自分でも分かっている。
もし自分ではなく、エースやサボだったのなら泣いて不安がっているアスカを簡単に安心させれるんだろうな、とルフィは口約束しかできない自分に嫌気がさす。
しかし今はどちらもすでにおらず、頼る事もできない。
ルフィはローにも見せた事のないアスカの弱い部分を見つめながら震えるアスカの身体を更に抱きしめ、そして…



「ああ…誓う…アスカと姉ちゃんを置いて死んだりしねえよ…」



アスカにそう誓った。

自分の肩に顔を埋めるアスカが身体の力を抜いたのを感じた。


【完】

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