ドンキホーテファミリー。
その名は広い海で広まりつつあった。
幹部ともいえる者達はボスであるドフラミンゴと幼き頃から共にいる者達。
家族ともいえる者達である。
―――その日、ドフラミンゴは休眠を取っていた。
たまの休暇なのに外はシトシトと小雨が降っており、前日、ようやく大きな取引も無事に終え、日頃の忙しさを忘れるようにまどろんでいた。
「…ん?」
うつらうつらとしていると誰かの足音がドフラミンゴの耳に届いた。
その音は小さくて軽く、ドフラミンゴには愛らしい足音。
足音だけで誰かが分かりドフラミンゴは、フッ、と小さく笑みを浮かべ、そのまま起きるでもなく瞼を閉じ寝たふりをする。
すると足音は近くなり、ドフラミンゴがいる部屋の扉が開かれた。
「ドフィ!」
入ってきたのは小さな女の子だった。
女の子はドフラミンゴの名を呟きながら部屋に入り、部屋の主が背を向けて椅子に座っているのを見て駆け寄る。
だが、いつもなら振り返ったり反応を見せてくれるはずのドフラミンゴが何の反応もないことに不思議に思ったのか、女の子は首を傾げ不思議そうにしながらドフラミンゴを覗き込むように顔を見上げる。
「あれ、ドフィ寝てる…」
ドフラミンゴを見上げれば、目的の主は眠っているようで、女の子はキョトンとさせる。
『せっかくいい事を教えようと思ったのなー』と思いながら女の子は大柄であるドフラミンゴの体を『よいしょ』と膝の上まで上る。
膝の上へ座り、女の子はドフラミンゴを踏まないよう気を付けながら椅子に乗ってドフラミンゴの顔へ手を伸ばす。
「ドフィー、寝るときはサングラス取らなきゃダメってお兄ちゃんも言ってたよ」
寝ていると分かりつつもそう零しながら女の子はドフラミンゴの顔にあるサングラスを取ろうとした。
幼い身体では簡単には取れず、つま先で立って広い胸元に手を置いてギリギリまで手を伸ばしてやっとサングラスに触れれるほど差がある。
兄の教育からか、サングラスを外さず眠るドフラミンゴにサングラスを外してあげようと手を伸ばしやっとちょんとサングラスの縁に触れたと思った。
…が。
「フッフッフ!可愛い抱き枕だなァ、リサ?」
「わっ!ドフィ!!」
このまま頑張ればサングラスを取れる、と思った時…女の子の体をドフラミンゴの腕が包み込んだ。
抱きしめられたリサと呼ばれた女の子は驚いた声を零し目を丸くしてドフラミンゴを見上げる。
リサの驚く顔にドフラミンゴはくつくつと愉快そうに笑い、リサは笑われ、狸寝入りをされたことにカチンと来たのか子供特有のぷっくりとした頬を膨らませ、ムスっとした表情をドフラミンゴに向ける。
むすっと拗ねた表情を浮かべるリサにドフラミンゴはサングラスの奥で目を細めた。
「ドフィひどいっ!寝たふりしてたなんて!」
「フッフッフッフ!そう拗ねてくれるなよ、リサ」
「リサ、拗ねてないもん!」
「拗ねてるだろ。可愛い頬を更に可愛くしやがって。」
「ひゃーっ!ひゃなひへーっ!」
「おーおー、よく伸びるほっぺだなァ」
「どふぃー!!」
リサは寝たふりをしていたドフラミンゴに拗ねていたが、それを指摘されれば子供らしく拗ねているのに拗ねていないと断言する。
プイッとそっぽを向くリサにドフラミンゴの笑みを深まり、リサの頬を摘まんで伸ばす。
子供の肌は柔らかく、いつまでも触っていたいと思うほどだった。
しかしいつまでも触っていたいと思っていても本当にいつまでも触っていると本格的にこの目の前にいる愛らしい女の子が拗ねて口も利いてくれなくなるので、そろそろこの辺でやめておく。
お詫びも兼ね伸びた頬を優しく撫でてやる。
むすっと頬を膨らませ恨めしそうに見つめていたリサもドフラミンゴの優しい手に次第に目を瞑り受け入れ、機嫌を直していく。
目を細め自分の手を受け入れるリサにドフラミンゴは笑みを深めそっとリサの背中に手を回し、もう片方の手を頭へと伸ばす。
優しく頭を撫でながら抱きしめるように己の体へ引き寄せるとリサは抵抗なく頭をドフラミンゴの胸元へ預ける。
身体の力が抜かれたのを感じながらドフラミンゴはリサの頭を撫でながらゆっくりと目を瞑りまた眠りにつこうとした。
だが…
「あっ!!こんなことしてる場合じゃなかった…!!」
ドフラミンゴの温もりと優しい手にリサもウトウトと瞼を重く閉じようとしていた。
だがどうして自分がここに来たのかを思い出し、リサは眠気が一気に飛び、ハッと我に返りガバリとドフラミンゴの胸から起き上がる。
リサの言葉に眠りにつこうとしていたドフラミンゴは閉じていた瞳を開け、リサを見下ろす。
「どうした」
「あのね!ドフィに見せたいものがあったの!」
『ドフィドフィ!起きて!』とサングラスでは起きているのか寝ているのか分からないドフラミンゴを起こすよう胸元をペチペチと叩くリサにドフラミゴは不思議そうにリサを見る。
リサがここに来たのは、どうやらドフラミンゴに何かを見せたかったからようでリサはドフラミンゴの膝の上から飛び降りドフラミンゴの大きな手を取ってどこかへ連れて行こうと引っ張る。
リサに引っ張られドフラミンゴは椅子にくっついていた体を起こし、リサに引っ張られるままについていく。
連れていかれた場所は外だった。
雨だと思っていた空は既に止み、雨が降り空気中の汚れが落ちたのか、いつもの特有の匂いは感じなかった。
「お兄ちゃん!ドフィ連れてきたよ!」
「おかえり、リサ。――そしてさようなら、ドフラミンゴ」
走るリサのために能力で目の前の扉を開けてやれば、ドフラミンゴの視界に真っ先に映ったのはある一人の男だった。
手すりに手を置いて空を見上げていた男はリサの声にリサが戻ってきたことを知り後ろを振り返りリサに外見の優男に似合った優しい笑みを向けた。
…が、リサが手を引っ張っているドフラミンゴを見て笑みをそのままに回れ右をしろと言わんばかりに見送りの言葉をかけた。
ドフラミンゴは視界にこの男が映ったのも気に入らないというのに、野良猫や野良犬を追い払うように、しっしっ、と手を払う男を見て青筋を浮かばせる。
きっと今の己の顔は鬼の様だろうな、と思いながらも気に入らないものは仕方ないと隠すこともしないし、何よりも相手も鬼の形相を見ても引かないのも知っているため遠慮なんて最初からしても仕方のないことだとドフラミンゴは分かっていた。
ドフラミンゴが男を視界に収めた瞬間周りの空気も重くなったのだが、男は気づきながらも気にもしておらず、リサは気づいてもいない。
リサはドフラミンゴの手を引きながら男の元へとかけより、大人と子供では足の歩幅が違うためドフラミンゴは歩いてリサが男の方へ向かったために嫌々気に入らない男の元へと歩み寄る。
「お兄ちゃん!まだある?」
「あー…残念…もう消えてしまったよ」
「えーっ!」
「あとちょっと早かったら見せれたかもね」
リサは男の元へ駆けつけ、男もしゃがみ込んでリサを待っててやる。
そして未だ繋がっているリサとドフラミンゴの手を手刀で切り離しリサを奪う。
勿論男はリサの手ではなく、憎きドフラミンゴの手に手刀を入れて切り離した。
男によって愛おしいリサと切り離されたドフラミンゴはまた青筋を立てるが、ここにはリサがいるため言い争うことを避け口を堅く閉じることで不満を封じるが、残念がるリサを宥めながら男はドフラミンゴへ目を向け『ドフラミンゴざまァ!』と指さして人を小馬鹿にした笑顔をドフラミンゴに向けた。
流石にリサの手前我慢したドフラミンゴだったが、指さしてきた男の嘲笑いにイラッとしたのか無言なのは無言なのだが、ガシッと男の両頬を遠慮なく片手で掴む。
優男が不細工になったが、ドフラミンゴとしては先ほどの男の言葉を借りるなら『ざまァ!』だろう。
『ふぁなふぃふぇくれにゃいかにゃ?』と人語ではない言葉を発していたが、ドフラミンゴはそれを無視し無言のままリサほど柔らかくはない男の頬を掴んでいる手に少しずつ力を加える。
それでも男も男で意地なのか決して痛いとも言わず、痛そうにもしない。
男もドフラミンゴもその空気は重く、決して先ほどリサにしたようなほんわかとした空気には成りきれていなかった。
リサは男とドフラミンゴの不仲は一応知ってはいるため、怖がることも困惑もないが、不仲をどうにかしようという気持ちは最初こそあったが、男とドフラミンゴの仲があまりにも不仲なためリサは、というよりはリサも含めたドンキホーテファミリーは諦めている。
そのため無言・無表情で男の頬を掴むドフラミンゴと捕まれている男のシュールな場面をよそにリサはむすっとした表情を浮かべドフラミンゴを睨む。
「もー!ドフィのせいだっ!」
「なんでおれのせいなんだ?っていうかおれに何を見せたかったんだ、お前ら」
「だって!ドフィがリサをぎゅーって放してくれなかったから虹が見れなかったの!」
「虹?」
「そうだよ!リサね、お兄ちゃんと虹を発見したの!んで、ドフィにも見せたいなって思ってドフィのところに行ったの!なのにドフィ寝たふりしてリサを騙したのっ!だからドフィ、虹見れなかったんだよ!」
「そうか、そうか…そりゃァ悪い事しちまったなァ」
なぜ、自分のせいになるのかドフラミンゴは怪訝とさせたが、どうやらリサが怒っているのは虹を見せたくてドフラミンゴのところへと言ったのにドフラミンゴがリサを寝かせつけようとした事によって虹が消えてしまった事にたいしてらしい。
ドフラミンゴはリサの言葉にふと空を見上げた。
ゴミ処理場であるここの地面は汚らしい。
慣れれば何ともないが、空気も汚い。
だが、見上げた空はその汚らしさなど微塵も感じないほど綺麗だった。
わざわざ虹を見せに来てくれた事にドフラミンゴは更にリサが愛おし思う。
雨が降り澄んだ空を見上た後男の顔から手を放し、男の腕の中からむすっと愛らしく睨むリサを奪い返し、ぷっくりと膨らんでいるリサの頬をツンツンと軽く突っついた後男にしていた時よりも優しく両頬の膨らみを手で潰す。
するとリサの小さな口から空気が抜け、相変わらずいつ触っても柔らかいリサの頬をドフラミンゴは堪能していた。
むにむにと潰した手でそのまま頬の柔らかさを堪能し、彼なりにリサとスキンシップしていると前方から肩に手が置かれ、リサを挟んだ向かいに立ってドフラミンゴの肩に手を置く人物を見る。
その人物はさきほどからドフラミンゴの意識の中で消え去っていた男だった。
リサに兄と呼ばれた男はにっこりと誰もが好印象に見える笑みを張り付けながらズゴゴ、と黒い何かを吐き出していた。
「ドフラミンゴ、君に質問があるんだ」
「…なんだ」
「さっき、リサが言っていた"リサをぎゅーって放してくれなかった"って…どういう事か説明してくれないかい?――ああ、いや、いいんだ…別に弁解しなくてもいい…君は子供好きだかね…特にリサなんて一時も放さずって感じだしね…だけど気にしないでいいよ?リサ、可愛いからね…可愛いから仕方ないんだろうけどね…そうだね、気にしなくていいって言ったけど…うん、やっぱ駄目だね…君、犯罪者なのに更に犯罪を重ねる気かい?」
「…突っ込みどころが山ほどあるんだが……何が言いたいんだ、お前…」
「ニンフォフィリアは犯罪だよ!ドフラミンゴ!!」
「誰が幼児性愛者だ!切り刻むぞ!ヤブ医者!!」
男の突っ込みどころ満載な言葉にドフラミンゴは次々に青筋を浮かべる。
もうキレる寸前の彼に男は止めをさし、我慢できなかったドフラミンゴは突っ込んだ。
もしも相手がこの男でなければ手刀でリサと繋がっている手を切り離したところで死んでいただろう。
ドフラミンゴは悪名で名高く、使えない者は子供であろうと切り捨てる。
だが、男はドフラミンゴが自分を決して殺すことはないのを知っていた。
だからこそ、ドフラミンゴに対し挑発的な事も平然と言えるのだろう。
…まあ、この男の性格というのもあるのだが。
リサは相変わらずの仲の二人に挟まれ、呆れたようにため息をついた。
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