北の海…ノースブルーにある数多くの国や島の一つに、ある国があった。
その国の港町、スパイダーマイルズのゴミ処理場。
そこを根城にしている海賊団がいた。
「ねえドフィ」
「なんだ?」
「あの子は誰?」
その海賊団とは、ドフミラミンゴを船長に名を挙げているドンキホーテファミリーである。
その一人であるリサは分厚い本を抱えながらドフラミンゴの隣でゴミだらけの下を見下ろしていた。
リサの目線の先には、ドンキホーテファミリーの幹部であるディアマンテとトレーボルがおり、その傍にはリサより年上だが子供のベビー5とバッファローが座っいる。
ドフラミンゴがじっと下にいるディアマンテ達の様子を見ていたからリサも気になって隣で様子を見ていると、遠目だがベビー5とバッファローと自分と同じ子供の男の子がいる事が分かった。
何をしているのだろうと見てみればその男の子はディアマンテを相手に剣を振り回しており、しかし子供と幹部達では経験値の差や大人と子供の差から遊ばれているようにしか見えない。
その証拠に先ほどからディアマンテは一歩も動いていないし、剣を振るう姿も余裕綽綽である。
リサは見たことのない男の子に隣にいるドフラミンゴに聞く。
ドフラミンゴはリサの問いに手を伸ばしてリサを抱き上げ手すりの上に乗って観覧していた己の膝の上に乗せる。
「あいつは今朝ファミリーに入れてくれと言って来たガキだ。」
「へー…入れるの?」
「さァなァ…ファミリーに入れるかはあのガキ次第だな…」
そう言いながら決着がついたのを見て、ドフラミンゴはリサを抱き上げたまま部屋へと戻ろうとする。
リサはドフラミンゴの肩越しに男の子を見つめていた。
ドフラミンゴはリサの手にある本に気付き、見慣れたその本に苦笑いを浮かべる。
「なんだ、またそれ読んでたのか?」
「うん!リサね、この本大好きなの!」
リサが持っていた本…北の海では有名な『うそつきノーランド』だった。
ドフラミンゴもその本をリサに何度も何度も読まされ、それは暗記できるくらい読まされていた。
いつも落ち着いているリサが大はしゃぎするほどリサはその本が抱き好きなのだ。
リサは自慢するようにどこが面白いのかドフラミンゴに教える。
「この本に出てくる嘘つきのねモンブラン・ノーランドっていう人の絵が可愛くって大好きなの!」
「絵って…内容じゃないのか」
リサにこの絵本を読ませるのはドフラミンゴと、リサの兄の役目である。
別に決められてはいないが、リサはドフラミンゴのお気に入りとして通っているためどうしてもそうなってしまうのだろう。
内容よりも絵が好きだというリサは子供らしいと言えば子供らしいが、つい突っ込んでしまい、リサはコテンと小首を傾げながら頷いた。
「中身も好きだよ?王様達がね、ノーランドの話を聞いて海に出て怪獣と戦うとこが好き!!あのね、王様達はね、最初は2000人も船でたの!それでね!海にはね!怪獣がいっぱいいてね!島についたのはその半分の1000人しか生きてないの!!」
「ほう…で、島にはついたのか?」
ドフラミンゴからしたらリサを通して飽きるほど…いや、飽きたほど見た内容で、リサでなかったら無視か苛立ちに任せて手を出していただろう。
しかし今ドフラミンゴに自慢げに話しているのは目に入れても痛くないリサで、ドフラミンゴは聞き飽きたと思いながらも興味深そうにその本がどれだけ好きなのか聞いてやる。
島についたか、そしてその島に何があったのか…ドフラミンゴは知っている。
だがそれを言えばリサが悲しむからとドフラミンゴは答えが分かっている質問をした。
「うんっ!でもね、島についたけど黄金なんて一個もなかったんだって…」
「じゃあノーランドは嘘をついてたんだな」
「そうみたいだね…でもね、リサは違うと思うんだ」
「違う…?何が違うんだ?島に行っても黄金が一つもなかったんだろ?」
「そうだよ!でもね、リサね、ノーランドを信じてるの!だって、黄金がないってわかってるのに王様達を連れていくわけないでしょ?だから、リサは黄金はあるって思ってるの!!」
「そうか〜そうだな〜」
ドフラミンゴはリサの言葉を子供の空想だと思った。
子供の頭は柔軟だし、リサ限定でも子供の考える大人の想像を超える思考が可愛くて仕方なかった。
適当に返しながらもドフラミンゴは愛おしいリサのためにまた、手の中にある本を読むため、部屋の中へと消えた。
リサはすでに本の事で頭がいっぱいで、男の子の事なんてすっかり忘れていた。
ローは今日も幹部達との戦いで傷ついた体に簡単な治療をしていた。
まだファミリーではないローにディアマンテもトレーボルもベビー5達も包帯や消毒液を与えるわけもなく…ローは不衛生だがその辺の布きれを包帯代わりにしていた。
そのせいか体の傷も治りが遅い。
まだ感染や傷の悪化などは見受けられないが、それも時間の問題だろう事は医師の家庭で生まれ育ってきた彼には分かっていた。
だが、このままにしておくことも出来ないのも彼は知っている。
「お兄ちゃん、怪我してるの?」
「…!」
簡単な治療をしていると、声が降ってきた。
ハッと顔を上げれば目の前には自分より下くらいの女の子が白いウサギを1羽引き連れてこちらをキョトンとした顔で見ており、ローは気配もなにも感じなかったことに自分の失態を呪った。
「なんだお前…何の用だ」
女の子は見たことのない顔だった。
ここは決して一般人が入り込める場所ではない。
ここ、ゴミ処理場にはドンキホーテファミリーが根城としており、例え誰もいなくても後の報復を恐れドンキホーテファミリーの縄張りに好きに寄り付こうとする者は、ローのようにファミリーに入れてほしい物好きか、己の力を過信した馬鹿だけである。
ローは見知らぬ女の子を怪訝とさせ、話しかけてきた事に鬱陶しく思いキッと睨んで追い返そうとした。
ローはベビー5のように泣き出すだろうと思っていたのだが、しかし女の子は意外にも子供とも思えない睨みを利かせるローを見ても平然としていた。
女の子はローの睨みに怯えずケロッとした表情で首を振る。
「別に用はないよ?リサね、お兄ちゃんの前を通ろうとしただけなの!ね、それよりお兄ちゃん怪我してるんだよね?」
「…だったらなんだ…あっちいけよ」
「おにーちゃーん!怪我した男の子いたよー!」
「聞けよ!人の話しを!」
女の子はただローの前に通り、ローに気づいただけだと言う。
だったら自分など声をかけず放っておいてほしいと思うのはローだけではないだろう。
今のローは慣れ合いは必要としていない。
今ローに必要なのは慣れ合いではなく"力"なのだから。
しかし目の前の女の子はベビー5と違い凄んでも泣いたり怯むどころか堂々と見下ろしていた。
凄んでるけど何?と言わんばかりの女の子にローは若干戸惑う。
だが女の子はローの戸惑いなど気にも留めず後ろを振り返り誰かに声をかけ、そんな女の子にローが叫ぶように突っ込んだ。
「それは大変だ!」
女の子の呼びかけに応じたのは一人の男だった。
どう見ても優男でどう見ても海賊には見えない。
だがここにいるという事はこの男もドフラミンゴの部下なのだろう。
ローは怪訝とした顔を隠さずこちらに駆け寄ってくる男を見つめてた。
男は心配そうにローを見つめ、ローの前まで駆け寄ると素早くしゃがみ持っていたカバンを開く。
「こんなに沢山怪我をつくって…可哀想に…どうしてこんな怪我を?君、親はどうしたんだ?もしかして逸れてしまったのかい?――っ!も、もしかしてドフラミンゴに誘拐されたのかい!?ぼく達みたいに『来い』とか言われたの!?君はまだ子供だから抗う事もできずなすがままだったんだね!?大丈夫!ぼくもさ!ああ!でもこんなところドフラミンゴに見つかったら大変だ!さ!まずはこっちに!!今日はドフラミンゴが帰ってくるらしいから見つかる前に隠れよう!怪我の治療はそこでしよう!!どこに隠れればいいか分からないけど!!」
「ちげェよヤブ医者」
「――イタッ!」
ほぼ全身怪我を負っているローを見て男は驚いた表情を浮かべた。
そしてローが口を挟む暇なく喋りだし、そしてそして何故かよくわからない話を作り出した。
ローがここ来たのは自分からだし、ドフラミンゴに見つかっても大変なことどころか自分を無視して通り過ぎるだけである。
それを訂正しようにもマシンガントークのように喋っているためまだ子供で初対面のローには遮る術はない。
頼みの女の子は慣れている様に耳に指を突っ込んで聞いていなかった。
呼んだ本人が話を聞いていない事にローは男の事も含めイラッと来た。
いい加減叫んで止めようかと思ったその時、第三者によって男の口は止まった。
その人物とは――…
「痛いじゃないか!ドフラミンゴ!!」
ドンキホーテファミリーのトップ、ドフラミンゴだった。
帰ってきていたらしいドフラミンゴは言いたい事だけを言う男の背に歩み寄り、その背を蹴ったのだ。
ローはドフラミンゴの突然の登場に顔には出さないが驚き、女の子は『あ、ドフィだ』とドフラミンゴを指差し、そんなリサにドフラミンゴは女の子の頭を撫でてやる。
ドフラミンゴは蹴られムッとさせる男を鼻で笑った。
「お前一体なにを聞いてたんだ?この間来たつったろ…このガキはその時のガキだ」
「え……ああ、なるほど…」
男を見下ろすドフラミンゴは一般の人間なら怖がるだろう。
どうしてかドフラミンゴはこの男への対応はあまり良くはないように見える。
男は女の子を迎えに来た時についでにローの事を聞いたらしく、しかし男もドフラミンゴの事をよく思っていないせいか耳から耳へと通り過ぎたのか、言われて今気づいた。
男に見られ、ローは気まずげに『な、なんだよ…』と強気に出るが、ドフラミンゴを筆頭に強面を相手にしている男には子供の強気な態度には可愛いとしか映っておらず怯えるどころか目を細め微笑んだ。
「ドフラミンゴ、この子を治療するけどいいだろう?」
「あ?んなガキ放っておけ。野垂れ人だらそれまでのガキだ。」
「僕達と出会わなかったらあの時死んでいた君がそれを言うのかい?」
「リサに出会ったおれは死ななかった…それがおれの定めだった――おれとこいつを一緒にするな」
「そんなこと言って…どうせ君照れてるんだろう?」
「はあ!?」
「きみは子供も大人も関係なく受け入れている懐の大きなところがある。だからこの子も病気で死んでいこうとも受け入れたんじゃないか?だって、きみ子供好きだもんね」
「…なんでそんな話になった…いつおれが子供好きっつった」
「だってきみ、リサを気に入ってるじゃないか。」
「リサだけだ」
「えっ…きみって……ろ、ろり…」
「もう一度蹴り飛ばすぞ」
「ははは、ごめんよ。半分以下は冗談なんだ」
「半分以上は本気ってことか?――よし、お前ここで殺す。今殺す。すぐさま殺す。」
ドフラミンゴは男とのテンポのいい会話に苛立ちを表す。
それは声にも言葉にも出ており、ローは自分も巻き込まれそうでいい迷惑だと思っていた。
だが、男は足を上げて蹴りつけようとするドフラミンゴの攻撃を交わし、ローを抱き上げ軽やかに走って建物の中へと向かう。
「リサ〜!ドフラミンゴの機嫌を直しておいておくれよ〜!」
「……………」
ローを抱きしめたまま立ち上がり走っているため男はローをギュッと強く抱きしめた。
久方ぶりに抱きしめられたローは動揺し体を硬直させ抵抗なくされるままだった。
男は女の子に無理難題を出し、女の子は呆れたように半目で男の背を見送る。
「リサ…あいつに言っておけ…お前が誘拐犯じゃねェかってな」
「えー…自分で言ってよ、ドフィ」
「あいつがお前以外の言葉を聞き入れると思うか?」
「お兄ちゃん、リサの言う事も聞く耳持ってないよ」
「だがおれよりは聞き入れてるだろ」
「………」
ドフラミンゴの機嫌を直しておけ、と言われた女の子はまだ幼いのに重たいため息をつく。
そんな女の子の小さな体を抱き上げたドフラミンゴもまた男同様女の子に無理難題を押し付けた。
両者はお互いに気が合わないと思っているようだが、女の子は『ドフィとお兄ちゃんほど似た者同士を見た事がないや』と心の中で思っていた。
「じゃ、さっそくおれの機嫌を直してくれるよなァ?リサ?」
「……ドフィ、性格悪い…」
男に言われて機嫌を直すのは癪に障るが、あちらからリサを差し出してきたのだからそれに乗らない道理はない。
ドフラミンゴはニヤリと笑い、女の子はそんなドフラミンゴに半目を見せる。
だが女の子はドフラミンゴは機嫌が直るまでがしつこいと知っているため渋々女の子はドフラミンゴの頬に口づけを送る。
「お帰りなさい、ドフィ」
そう言いながら、ちゅ、と愛らしい少女の小さく薄い唇が頬に当たりドフラミンゴは笑みを零し――…
「ああ…ただいまおれの可愛いリサ」
女の子をぎゅっと抱きしめ、己も女の子の頬にキスを送り返した。
女の子はドフラミンゴから何度も送られる口づけがくすぐったくてクスクスと笑みを零し、そんな女の子をドフラミンゴは愛おしげに見つめていた。
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