(20 / 20) 過去 (20)

リサは部屋でずっと兄の帰りを待っていた。
何故兄が部屋から出るなと言ったのかは分からないが、これまでに兄の言ったことに間違った事はなかったことからリサは健気に兄の帰りをウサギのジェニファーやメアリーと共に待っていた。
しかい待てども待てども、兄の姿はなく、リサは窓から外を何度も見ては席に戻り心細い気持ちを和らげるためにジェニファーやメアリーに触れるのを繰り返す。


「なんかお外が騒がしいね…」


それを何度も繰り返していると外が騒がしいのに気付いた。
窓に近づき外を見ようと椅子から降りたその時、扉が乱暴に開かれた。
兄かと思い扉へ振り返れば、兄ではなく…ドフラミンゴの姿がリサの目に映る。


「リサ!おつるが来やがった!!逃げるぞ!!」

「でもお兄ちゃん…」

「いないのか!?こんな時にあのヤブ医者め…!―――まあ、いい…ディアマンテを迎えに行かせるからおれ達は先に船にいくぞ!」

「う、うん!」


ドフラミンゴが兄とリサの部屋に来ることは別段おかしい事ではない。
よくリサ目的に来るのだから来ても何の疑問もなかった。
だが、どこか焦りを見せているドフラミンゴにリサも釣られたのか落ち着かない様子を見せる。
どうやら海軍本部が来たらしく、ドフラミンゴは二人を呼びに来たらしい。
リサしかいない部屋に舌打ちをついたが、時間がないとリサを抱き上げ部屋を出る。
リサは兄との約束を破ってしまうが、海兵の襲撃のため仕方ないと思うしかない。
ドフラミンゴのディアマンテに迎えに行かせるという言葉を聞きリサは安心したのか体をドフラミンゴに任せ、ドンキホーテファミリーの海賊船へと向かった。







船に向かえば急遽な出航に慌ただしかった。
早足に船に乗れば丁度ドフラミンゴの弟であるコラソンがこちらへ向かってきているのが見え、ドフラミンゴはリサを抱き上げながら声を張り上げた。


「コラソン!帰ったか…!船を出すぞ!!また本部の『おつる』だ!!海軍に嗅ぎつけられた!!」

「…!!」


ドフラミンゴに声を掛けられコラソンは一瞬びくりと肩を揺らした。
しかし兄の口ぶりからして先に戻っているはずのローが何も言っていないと分かると怪訝としながらもほっと安堵をつき、船へと続く足場にいるローから以前コラソンを刺したことを兄に黙っていてくれた事への借りを貸したと言われコラソンは目を見張ったものの一度は船へと戻る。
だが、船へと上がると兄と兄に抱かれているリサが見え、コラソンはエイルマーの姿がないことに嫌な予感がよぎる。


(…エイルマーの姿がない……まさか…ッ!?)

「ドフィ!!」

「―――!」


ドクリと鼓動を打つ音が大きく聞こえる。
友の姿を探しに船の上から港へ目を配らせるが友人らしい姿はなく、コラソンは先ほど別れたばかりの友の背をどうしてか…今、思い出す。
すると今までいなかったらしいディアマンテが慌てた様子で船へ走り、ドフラミンゴとリサの元へ駆け寄った。


「ドフィ!!エイルマーが海兵にやられた…!!」

「…ッ!?」


何気なくディアマンテを目で追うとコラソンはディアマンテの言葉にこれでもかと目を丸くし驚愕した。
凪を使っていなくても言葉を失うほどの衝撃を受けたコラソンはその場に立ち尽くし、周りにいた幹部達も騒めく。
ディアマンテはサングラスの奥で目を丸くして絶句しているドフラミンゴと、兄が海兵に殺されたことへのショックに固まるリサの前に膝をつき頭を深く下げた。


「すまない…!!リサ!ドフィ!!おれがもっと早くあいつを見つけていれば海兵なんかに殺させはしなかったのに…!!」

「いや……お前に罪はない……あいつは非戦闘員でもおれ達のファミリーだった…いついかなる時でも命を散らす覚悟はできていたはずだ…そう自分を責めるな……とにかく今はおつるから逃げることを考えよう」


頭を深々と下げ謝るディアマンテにドフラミンゴは一瞬間を置き首を振った。
ドフラミンゴは肩を落とすディアマンテの肩に手を置き慰める。
リサはショックが大きすぎたのか泣くことも叫ぶこともなく大人しくフラミンゴの腕に抱かれているだけだった。
そんなリサをドフラミンゴは心配そうに見つめ、ディアマンテは立ち上がりドフラミンゴの腕の中にいるリサに歩みより必死に謝っていた。
それでもやはりリサは俯き言葉を発しない。


(や、られた…!?エイルマーが!?)


コラソンもリサと同じく衝撃を受けていた。
そしてエイルマーに勉強を教えてもっていたローも。
エイルマーの死にローとリサ以外の子供達は泣いてしまい、大人達に慰められていた。
その子供達の泣き声を聞きながら唖然としていたコラソンだったが、ドフラミンゴ達を見ていた彼は目を丸くする。


(!―――、ッ!ディアマンテ!!ドフラミンゴ…!!)


コラソンの目線の先には…―――薄らと笑みを浮かべる2人が映っていた。
それを見てコラソンは全て分かった。
エイルマーは海兵に殺されたのではなく…ドフラミンゴとディアマンテによって殺されたのだと。
ドフラミンゴが直接手を下していないにしても、リサに対してドフラミンゴが幹部達の勝手を許すはずもない。
ディアマンテも内心エイルマーをよく思っていなかったのも知っている。
コラソンはこの混乱に乗じて友人を殺した2人を音に出ない声で2人の名前を叫んだ。


(やばい…!やばい!!このままじゃリサが…!!)


エイルマーを殺した、という事はもうドフラミンゴからリサを引き離す機会が減ったという事だろう。
エイルマーがいたときはエイルマーかドフラミンゴのどちらかと一緒にいたため、ドフラミンゴの隙はあった。
だが、エイルマーが死んだ今、ドフラミンゴは決してリサを手放さない。
きっと自分の傍から放さないだろう。
傷心している今だってリサを部屋へ行かせず腕に閉じ込めているのだ。
コラソンは苦渋の選択を迫られ、そして―――…


「コラソンとローはどこだ!?」

「一度乗ったのは確認したがいない!!荷物を持って出てった様だ!!」


リサを捨て、ローを連れて船を降ろした。
それはコラソンにとって苦痛であり心を苦しくする選択だった。
ドフラミンゴの元へリサを置いて行ったのは、兄が絶対にリサを傷つけないと知っているからだろう。
いずれにしろ、コラソンは友の大切な宝物をそのままドフラミンゴに預けるつもりはなく、いつかは迎えに行くつもりではいた。
コラソンが居なくなりピンクが持ってきた置手紙に『ローのビョーキをなおいてくる』という文字を見てドフラミンゴは額に青筋を立てた。
コラソンとローがいない穴を塞ぐため、ドフラミンゴは仕方なくリサを戦いに巻き込まれないよう自分の部屋へと向かった。


「リサ、少しの間一人にさせるが…」


兄を失い心の傷が深いリサを置いていくのは少々心苦しいが、今はまず海軍から逃げることを優先しなくてはならない。
兄を失ったばかりのリサは抜け殻のように遠くを見つめており、自分を見ることはなかった。
そんなリサを見てドフラミンゴは心苦しいのと同時に晴れ晴れとした気持だった。
エイルマーを殺すよう命じたのは誰でもない、ドフラミンゴ本人。
ディアマンテはその命令に従ったにすぎず、ドフラミンゴはエイルマーが逃げ出す前提で今まで接してきた。
だからエイルマーの僅かな変化にも気づき、こうして先回りして動くことが出来た。
その結果、大切なリサが傷つくと知っていても、ドフラミンゴはどうしてもエイルマーが邪魔で仕方なかったのだ。
自分の問いに頷くこともなくベットに寝かされても動かないリサにドフラミンゴは一人にさせる不安からか、"影騎糸(ブラックナイト)"を傍に置き、俯きに体制を変えたリサの頭を撫でた後外へと出た。


「糸ドフィ」

『なんだ?』

「…マリー、とって」


本体の方のドフラミンゴの足音が消えてしばらくして爆発音や争う音が大きくなった。
リサは以前ならドフラミンゴがいないため少し心細く思っていたが、今は兄を失ったショックからそれすら感じなくなった。
ドフラミンゴが置いて行ってくれた"影騎糸"をリサだけが呼んでいる名で呼べば傍にいてくれていた"影騎糸"は優しい声で返事をしてくれた。
先ほど本物のドフラミンゴがしたように優しく撫でながら返事をした"影騎糸"はリサのお願いに一度リサから離れ、リサ用として置いてある白い抱き枕のウサギのヌイグルミ(マリー)を取り、リサの元へ持っていく。
『リサ』、と"影騎糸"に呼ばれリサはうつ伏せで枕で隠していた顔を上げ、マリーを受け取るため起き上がったのだが……


「…ジェニファー?」


カタリと物音がし、リサも"影騎糸"もその音の方へ目をやる。
音は扉の前からし、そこへ目をやればドフラミンゴが抱き上げて連れてこられてから見ていなかった普通サイズのウサギ、ジェニファーがちょこんと居た。
ジェニファーは普通のサイズで見た目はどこにでもいるウサギなのだが、ジェニファーは兄であるエイルマーの能力で生み出されたウサギである。
リサはドンキホーテファミリーに入ってから悪魔の実の事は大体聞いており、能力者が生きている限り、同じ能力の悪魔の実は生まれないのも知っていた。
そして、発動していた能力が能力者の死と同時に消えることも。
と、いうことは…リサはちょこんと座っているジェニファーに目を丸くし、ジェニファーを凝視し絶句していた。


「なんで…ジェニファーが……も、もしかしてお兄ちゃん生きてるの!?ねえ!糸ドフィ!!船を戻してよ!!」

『…………』


絶句していたのは、リサだけではない。
"影騎糸"もまたジェニファーを見て言葉を失っていた。
リサはジェニファーの姿に兄が生きていると思い"影騎糸"に縋り付くように船を戻すようお願いする。
だが、"影騎糸"はジェニファーを睨むように見つめるだけえリサには答えず、リサはしびれを切らしたのか糸ではない本体のドフラミンゴに言おうとベットから降りようとした。
しかしそれを"影騎糸"が止める。


『待て!リサ!!外には出るな!!』

「でも糸ドフィ!!お兄ちゃんが…!!ジェニファーがいるって事はお兄ちゃんは生きてるってことでしょ!?戻らなきゃ!!お兄ちゃんが海兵に捕まっちゃう!!」

『駄目だ!外は危険だ!!とにかくお前は出るな!おれが知らせてくるからそこで大人しく待っていろ!いいな!?』

「でも…!」

『リサ…お前がもし怪我でもしたらおれは悲しい…おれを少しでも想ってくれているのなら、ここで待っていてくれ…』

「………」


外はまだ戦闘が続いており、以前ならエイルマーがいたため安全とは言い切れないがそれなりに安全だったし、エイルマーがいたから外に出ることはなかった。
だが、今はエイルマーがいない。
別にエイルマーを殺したことを後悔などしていないが、今、ここで出られればきっと非戦闘員のリサは恰好の的となり傷を負い、最悪死ぬ。
そうなればエイルマーを殺してまで手に入れた意味がなくなっていまう。
もう、ドフラミンゴは妹を失うのはこりごりだった。
"影騎糸"が行ってくれるなら、とリサは渋々頷き、頷いたのを見て"影騎糸"は安堵した表情のままリサへ背を向ける。
だが、リサに背を向けた瞬間、"影騎糸"の顔は鋭くなり、敵を見るかのような目で無害なウサギを見下ろした。
ひとまずすることと言えば、この正体不明のウサギをリサの前から引き離す事。
エイルマーは確実に死んだのだ。
ディアマンテを信頼しているし、何より非戦闘員のほぼ一般人の戦闘に向かない能力者であるエイルマーがディアマンテに敵うはずがないのだ。
ウサギの耳を掴み外へ放り出そうと"影騎糸"はウサギへ手を伸ばす。
しかしその瞬間、ウサギは"影騎糸"の隠しきれていない殺気に気づいたのか…ぴょんと"影騎糸"の伸ばされた手を交わし、そのまま"影騎糸"の肩をジャンプ台にしウサギはリサへ向かって飛び上がる。


『!―――しま…ッ!!』


リサはウサギの行動に目を丸くしウサギを見上げ、"影騎糸"は予想外の行動にハッとさせ慌てて背を向けるウサギへと振り返り手を伸ばしリサへ向かうのを止めようとした。
しかし"影騎糸"よりもウサギの方が早かったのか、ウサギは口を…それも元の大きさとは比較にならないほどの大きな口をパカリと大きく開け……―――リサを呑み込んだ。


『リサ!!!』


"影騎糸"の…ドフラミンゴの伸ばされた手は届かず空を切った。
リサを大きな口で食べたウサギはそのまま文字通り姿を消し、その場にはドフラミンゴしかいない。


「エイルマァァァァァ!!!」


その場にドフラミンゴの声だけが響く。



****************



カサリと草むらから姿を現したウサギはポロリと口から一人の女の子を吐き出す。

女の子は気を失い、ウサギは鼻をヒクヒクとさせながら心配そうに女の子を見つめていた。

しかし、今は亡き主からの契約は既に切れかかり、意志は少しずつ薄れていく。

完全に薄れ、ウサギはこれから野生のウサギと戻るだろう。

ウサギの意志が消え、草むらへと姿を消した時―――女の子は目を覚ます。


ウサギが吐き出した女の子の名はアスカ――――のちに未来の海賊王となるであろう麦わらの一味となる少女である。

【完】

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