(19 / 20) 過去 (19)

エイルマーがリサの元へと向かう途中、ある人物に偶然に出会う。


「エイルマー!!ここにいたのか!」

「ディアマンテ!?」


ある人物とは、ドンキホーテファミリーの幹部・ディアマンテだった。
街から離れれば人影はひとつもなく、エイルマーは焦りから走っていた。
逃げると決めるといつバレるんじゃないかと不安に駆られるのだ。
早くリサの元へ向かい、リサを連れてこの国から出ていかなければ、とエイルマーは焦っていた。
そんなエイルマーの前に幹部であるディアマンテが現れ、エイルマーは驚きと共に緊張が高まった。
そんなエイルマーをよそにディアマンテはエイルマーの姿にほっと安堵した表情を浮かべ、エイルマーの元へ駆け寄る。


「よかった!!探したんだぞ!エイルマー!!」

「な、何かあったのかい?」

「ああ、本部のおつるがまた来た!!早く船へ戻れ!!あと乗っていないのはお前達とコラソンとローだけだ!!」


どうやら海軍本部のおつるに嗅ぎつけられ襲撃を食らっているらしく、ディアマンテは中々帰ってこないコラソンとエイルマーを探しに来たらしい。
コラソンとはすれ違いらしく、エイルマーは逃亡がバレていないことにほっと安堵しながらディアマンテに頷きながら彼の横を通り背を向けた。


「わ…分かった!!ぼくもリサを連れて―――」


ディアマンテに背を向け、リサを連れてこようとした。
勿論それは嘘である。
船にはいかず、船とは正反対の方向へと向かい逃げ出そうとした。
だが、表情に焦りや不安を出さないよう必死に隠しながらディアマンテから離れようとした時―――エイルマーの体に痛みが生まれた。


「な、…ん……」


何故か、エイルマーの耳に、ブツリ、と皮膚が切れる音が聞こえ、エイルマーは体の感覚に違和感を覚える。
その違和感を確かめるように下へと視線を落とすと……剣が腹部を貫いているのが見えた。
血がジワリと広がりエイルマーの服を汚し、腹部に剣が刺さっているのを視覚で確認した瞬間にエイルマーの脳は痛みのセンサーを放った。


「ぁ、ぐ…ッ!」


どうして刺されているのか、エイルマー本人は理解できずにいた。
腹部を刺しているその剣には見覚えがある。
それは後にいるであろうディアマンテがよく使っていた剣だった。
鈍い痛みが現状を理解した瞬間に鋭い激痛と代わり、剣が抜かれエイルマーは痛みに声を零す。
剣が抜かれた拍子に痛みで力が出ないエイルマーは立っていられず座り込んでしまう。
そんなエイルマーにディアマンテは近づきエイルマーの髪を掴んで力なく俯いていた顔を無理矢理上げさせた。
見下ろしたディアマンテの目に、苦痛で歪むエイルマーの顔が映り、ディアマンテはニタリと笑う。


「痛むか?まあ、痛むだろうなァ…お前は非戦闘員だし、何よりお前の能力は戦闘には向かず間接的な戦い方だった…だから刃物に体を傷つけられ、尚且つ貫かれる痛いを今まで感じたことがなかっただろう?」

「な、ん…で…」


エイルマーの戦い方は全てウサギがしていた。
あの長身のウサギは意外と力が強く、エイルマー自身長身のウサギになれるのだが、戦闘員ではなく船医であるエイルマーが自身で戦う機会などめったになかった。
だからこれほどの痛みを感じたことなどなかった。
そのため痛みはディアマンテ達のような戦闘員より強く、その痛みで歪むその顔はディアマンテからしたら愉快そのものだった。
内臓を傷つけられたのか、血を吐き口端から零しながらのエイルマーの問いにディアマンテは大きな声で笑い、誰もいないその場に響いた。


「何故!!何故と来たか…!!!―――ドフィがお前の動向に気づかないわけがないだろうが!!お前の裏切りなんてとっくにお見通しなんだよ!!」

「…ッ!!」


大笑いをしていたディアマンテだったが、笑い声を怒りの声へと変え、苛立った口調で荒々しく叫んだ。
その言葉にエイルマーは目を丸くしたが、ドフラミンゴが全て気づいていたという事を知らずにいた事に悔しげに顔をしかめる。
顔をしかめるエイルマーにディアマンテは激しい剣幕を見せていたが、エイルマーの悔しがる顔を見て機嫌を直したのかニヤリとした笑みへと戻し、エイルマーの髪を掴む力を強め、更に引き寄せた。
動く度に腹の傷への痛みが大きく響き、悔しさと激痛にエイルマーの顔は更に歪まった。


「お前をドフィが信用していると思っていたか?…ああ、確かにお前とドフィは仲が悪かったさ…それでもドフィはお前の横暴な態度を許し、口の悪さも目を瞑っていた……だが、それはお前を信用していたわけでも、お前を認めたわけでも、そして、リサの兄だからでもない……全てはお前を油断させ殺すために今までのお前の無礼を許していただけだ…!!そう!すべてお前からリサを奪い返すためなんだよ!!エイルマー!!」

「ぐ…ゥ、ッ!」


エイルマーもドフラミンゴを信じていない。
それはドフラミンゴも同じだった。
ただ、エイルマーは油断をしてしまっていたのだろう。
ドフラミンゴとのやり取りが慣れてしまい、今までドフラミンゴからの無理難題もなく彼としては平和だったから、ドフラミンゴへの警戒が薄れていったのだろう。
だからドフラミンゴがエイルマーの計画に気づいていたことに気づきもしなかった。
後悔してもすでに遅く、エイルマーはいくら一般人で人がいいと言われていたとしても平和ボケしていた自分の情けなさに泣きそうになった。
ディアマンテは握っていたエイルマーの髪を勢いよく後ろへと引っ張り、エイルマーの体を地面へと投げ飛ばす。
固い地面に投げ飛ばされ腹の痛みが強まり、その痛みからエイルマーは体に力も入れることが出来ず弱弱しく地面に倒れてしまう。
そんなエイルマーを見下しながらディアマンテはひらひらとしていた剣を"ヒラヒラの実"の能力で強度を戻した。
投げ飛ばされた衝撃でまた血を吐いたエイルマーは出血が止まらない傷口を押さえ咳き込みながらディアマンテを睨む。


「リサの兄はぼくだ…ッ!!ドフラミンゴじゃないッ!!!」

「リサを連れて逃げる事も出来ず地を這っているお前にリサの兄である資格はねェんだよ!!リサの兄はドフィこそふさわしい!!」

「リサの…!リサの兄でいることに資格なんて必要あるものかッ!!!―――リサの兄はただ一人!!ぼくだ!!!」


幹部達はドフラミンゴからリサがドフラミンゴとコラソンの妹、アレシアに瓜二つなのだという事を聞かされ知っていた。
幼いころからドフラミンゴを王として崇めていた彼らにとって、リサもまたドフラミンゴの妹として接してきた。
接していくうちに本当にドフラミンゴの妹のように見えてきた彼らにとって、リサは可愛くて仕方ない存在であり、ドフラミンゴ以上にエイルマーの存在は疎ましくて仕方なかった。
しかしいくらドフラミンゴに殺そうかと提案しても首を縦には振らず、イライラが積もるばかり…
ディアマンテは今こうして血を吐き地べたに這えずり睨むエイルマーの姿は滑稽でならなかったのだろう。
負け犬の遠吠えのようなエイルマーの言葉にディアマンテは大笑いをしていた笑みを嘲笑へと変え、ゆっくりと半月を描くように剣を構え…


「―――いや、リサの兄はドフィだ。」


ディアマンテは剣を振り下ろした。

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