(32 / 32) ストロングワールド (32)

あの後、ルフィ達は何故かあっさりと自分達に砲弾ひとつ飛ばせず撤退していった海軍達から逃げ果せることに成功し、いつものまったりとした時間の流れる海を進んでいた。
空は快晴、波風ともに穏やか。
とてもいい船旅日和だった。






「ま、なんにしてもよかった!思ったより早く回復できて!」


そんな快晴の空の下を進むサニー号の女部屋にチョッパーの嬉しそうな、安堵のような声が響く。


「あっ!でもまだ無理しない方がいいぞ?」

「大丈夫!少し外の空気も吸いたいし。」

「そっか?じゃあ行こう!!みんなも喜ぶよっ!」


女部屋にはナミがベットで横になっていたが、体を起こしチョッパーに止められた。
モニカに扮したミコトのお陰で体から毒がなくなり回復が思ったよりも早かったナミは嬉しくも心配してくれるチョッパーに大丈夫だと笑みを浮かべる。
ナミのその言葉を信じ、チョッパーは嬉しそうに笑みを深めナミを先導するかのように部屋から出て行く。


「みんな!!ナミが起きたぞ!!」


女部屋から出てチョッパーは甲板に集まってそれぞれ好きに過ごしている仲間にナミが起きた事を知らせる。
甲板にはサンジとロビンが何かゲームをして遊んでおり、ウソップはフランキーに手伝ってもらいながらも新開発の武器を作り、フランキーはキャノンも撃てるバナナ帽子のメンテナンスしながらウソップの手伝いをし、ゾロは手すりに持たれ目を瞑り、そんな彼らにブルックは芝生に座りながら穏やかなバイオリンの音を奏でる。
ルフィは背中を向けながら手すりに座り釣りをしており、その隣には芝生で足を投げ出し下僕ウサギを愛でているアスカがいた。


「なにッ!?ナーミすわぁ〜ん!!!」

「おう!もういいのか?」

「ええ、すっかり!」


チョッパーの言葉にいち早く反応したのはサンジだった。
サンジはぐったりとしていたナミが歩き、そしてフランキーの問いに花が咲き乱れるような可愛らしい笑み(サンジ視点)を浮かべて答えるナミに嬉しさのあまり身体を回転させる速さもいつもより早かった。


「本当によかった………元気になったところで…すみません、ナミさん…パン…」

「やめろーー!!」


ナミの元気な姿にブルックも立ち上がりお馴染みのセリフをナミに投げかけようとしたのだが、それを察したサンジが寸前で蹴り倒し阻止する。
楽しげな声で笑うブルックと必死なサンジのやりとりにナミも笑みを零した。
そんなナミにルフィは横目で睨み、釣竿を固定して手すりから降りてナミに大股で近づいていく。
手すりから降りてナミに近づくルフィの背をアスカは見上げたまま見送り、ルフィの表情に不思議そうに首を傾げる。


「おい!ナミ!!お前これどういうこった!!!」


ルフィに声をかけられナミは振り返る。
振り返ればルフィが自分に大股で近づいており、その表情は怒っているようにも見える…というか完全に怒っていた。
怒る事はあっても仲間には本気で怒ることはあまりないルフィのその表情にナミは首をかしげたのだが、ルフィの手に持つある物を見て目を丸くさせ慌てたように階段から降りる。


「あ…っ!ちょっと!それ…!!」

「おれがシキに敵わねェとか!みんなが死ぬとか!!くだらねェ言葉残しやがって!!そりゃァあん時は地面に飲みこまれちまったけどよォ!!ありゃァ腹も減ってたし!!」

「だから私もそう思って…」

「呆れたぞ!おれは!!この長い付き合いでそんなに信用がねェとは思わなかった!!ガッカリだ!!」


ルフィの手に持っているモノ、それはトーンダイヤルだった。
ナミはルフィの手に持っているシキのトーンダイヤルを取り返そうとルフィに駆け寄り手を伸ばすがルフィの方が背が高いためつま先で立ったり飛び跳ねてもトーンダイヤルを取り返すことは出来なかった。
グチグチ文句を垂れるルフィにナミも溜息交じりで弁解しようとしたのだが…次の自分の言葉を遮ったルフィの言葉に皆唖然とする。


「ルフィ…お前…何言ってんだ…?」

「何ってなんだよ。」


ルフィの言葉に一瞬だが周りは沈黙に包まれる。
静まり返った空気など気付いていないのか、ルフィはナミを睨んでおり、ルフィの言葉に後ろにいたアスカも呆気にとられ幼馴染の背中を凝視していた。
沈黙を破ったのはウソップだった。
しかしウソップの問いも分からないルフィは険しい表情をそのままにウソップに問いを返す。


「ルフィ…あんた…」

「…まさか…聞いてなかったのか?」

「ナミはああ言うしかない状況だったんでしょ?」

「おれもそう思ってたぞ?最後の"アレ"聞いたら…」

「最後の"アレ"ってなんだよ。」

「ったく、どうしようもねェなァ……もっともおれには全てが愛のメッセージに聞こえたが。」

「ヨホホホホ」

「むしろ一番鈍いあんたに向けて言ったようなものなのに…」

「もう一度聞きゃァいいだろ。」

「!…ちょっと!!」

「あ、そっか。」

「ちょっ!!待って!!止めて!!」


ウソップに続きアスカが唖然としたまま呟き、アスカの続きをゾロが呟く。
ロビンがナミをフォローし、そのフォローにチョッパーが頷く。
最後のアレという言葉が分からないルフィにサンジが呆れたように呟きながらナミの言葉全てが自分への愛のメッセージだと断言し、そんなサンジにブルックが小さく可笑しそうに笑う。
皆の反応に更に怪訝そうにするルフィに呆れ返ったフランキーがナミにとって余計な一言をルフィに投げかけた。
そのお陰でルフィは手に持っていたトーンダイヤルのスイッチを押し、ナミは自分の声に慌ててルフィを止めにかかる。
しかし身体能力、反射神経ともに負けているナミは取りたくてもルフィからトーンダイヤルを奪い返せず、ルフィとナミの言い合いとじゃれ合いは続く。


「もういいでしょ!?恥ずかしいじゃない!!」

「静かにしろよ!」

「もう終わったことだから捨ててよ!!!」

「あーーっ!!」


じゃれ合いの末にナミがルフィの隙からトーンダイヤルを奪い返し、そのまま手すりに駆け寄り捨てようと振りかぶる。
それを見たウソップはハッとさせ慌ててナミの手からトーンダイヤルを奪った。
手が軽くなったのを感じたナミはトーンダイヤルを握っていた手に目を落とすと、そこにはトーンダイヤルがない事に気付き、取ったウソップを振り返る。


「おいおい!捨てるなよ!!貴重なダイアル!また使うんだから…ってあー!」

「あ!!ルフィーー!!」


空島はもう行けないという訳ではないが、行くにしても色々と行き方が難しい。
それにもしまた行くのならこの海を一周してからもう一度行きたい。
空島の物は青海と言われるこの地上では入手し辛い。
あったとしても珍しさから高価な物になっているのだ。
そんな空島の物であるトーンダイヤルがタダで入手できるのだからウソップは必死だった。
しかし内容を聞かれたくないナミも必死で、内容を聞きたいルフィも必死だった。
それからウソップも含めた3人のじゃれ合いが続く。
今、トーンダイヤルを持っているのはルフィだった。
ルフィはトーンダイヤルを耳に当てながらスイッチをカチッと押す。
するとナミの声が耳に届く。



私はシキの一味で航海士をすることにしました……

シキは…例えルフィ達が逆らっても絶対に敵わない伝説の海賊…

みんなが私を追ってきてくれても命を落とす結果となる――…




取り合いをしている間でもナミの伝言はルフィの耳に届いていた。
しかしルフィは2人の声と手が邪魔して集中できず、ナミは必死に手を伸ばし取り返そうとし、ウソップはナミに渡れば捨てられると必死になる。
ギャアギャア、と騒がしくなった船にそれぞれ反応は違えどゾロ達は止める事なく楽しげに3人のじゃれ合いを見つめていた。


「アスカ!!助けて!!ルフィを何とかして!!」

「アスカ!!助けてくれ!!ルフィとナミを何とかしてくれ〜!!」

「アスカ!!お前見てないで助けろよ!!ナミとウソップを何とかしろ!!」


そんな3人をアスカも我関せずと言わんばかりにロビン達同様見世物のように楽しんでいた。
だがそんなアスカに3人はじゃれ合うのを止めず3人が3人必死の様子で手すりを背もたれに座って見ていたアスカに助けを求めた。
言葉は違えど内容は同じで、助けを同時に3人から求められたアスカは鬱陶しそうに自分を見る3人を見つめる。


「……なんで私なの…」

「「「((お前))(アスカ)がこの船で一番強い((だろ))(から)!!!」」」

「……………」


同時に重なった3人の理由にアスカはもう呆れたように溜息しかでなかった。


「しょうがない…」


ジッと見つめつつも手を休まない3人に負け、アスカは重い腰を上げる。
そんなアスカに3人が3人共自分を助けてくれると思ったのか同時に晴れ晴れとした嬉しそうな笑みを浮かべた。
アスカはルフィからトーンダイヤルを奪い取り、ルフィの手から奪い取ったのを見てナミとウソップが笑みを浮かべ、取られたルフィは不満そうにする。
しかし…



「『私は誰よりもお姉様が一番好きだーーーっ!!!』」

「「「え?………ええええええええ!!?」」」



カチッとスイッチを押したアスカはルフィにナミの伝言を聞かせるのではなく、ナミからトーンダイヤルを守るのではなく、奪ったトーンダイヤルを海に捨てるのではなく…別の言葉を入れてナミの伝言の上から上書きしたのだ。
アスカはルフィからトーンダイヤルを奪いナミかウソップの味方をするのだと思っていたため、アスカの行動にはナミもウソップもルフィも驚きの声をあげる。
しかしアスカの行動に傍観を決め込んでいたゾロ達からは笑いが起こった。


晴天の下、サニー号からは笑い声と、ルフィの怒った声が響き渡る。



これだけ言っておきます…


…―――必ず、助けに来て。

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