(31 / 32) ストロングワールド (31)

≪何だって?ミコトちゃん…≫



部屋に通されたミコトは電伝虫を借りて本部へ報告していた。
センゴクが出ると思ったミコトだったが、出たのは同僚で小さい頃可愛がってくれた青雉だった。
青雉から聞けばセンゴクは後始末で忙しいため、代わりに青雉が出たという。
ミコトの報告に青雉は耳を疑い、もう一度ミコトに問う。


「ですから、シキを倒したのはわたくしではなくルー君達です。」

≪…………≫


もう一度問われ、ミコトは嫌な声色ひとつせず答える。
耳を疑っても間違いのないその言葉に青雉は黙り込んだ。
ミコトは電伝虫の奥にいるクザンが困ったように頭を掻いているが見え、くすりと小さく笑みを零す。


≪あー……まあ、なんだ……おれらは何もしてないんだな…≫

「まあ、クザンさんったら…わたくしがいたしました事をお忘れに?」

≪って言ったってあれだろ?ミコトちゃんはシキを倒してないんだろ?≫


青雉の言葉にミコトは『ええ』と戸惑いも申し訳もなく頷く。
はっきりと頷いたミコトに青雉は自分の目の前の電伝虫の奥で綺麗に微笑み罪悪感も落ち込みも見せないであろうミコトが見えてしまう。
と、いうか容易に想像が出来てしまうのだ。

ミコトは海軍本部が襲われたその後すぐに変化に長けている『如意羽衣にょいはごろも』を使い、本来の姿から別人に成りすましシキに近づいた。
部下達に有能な科学者がいると噂をさせて。
その際某下僕から資料を何枚か拝借したのだが、島が倒壊しその資料もろとも海へと消えてしまったのだが…ミコトは某下僕の価値のある資料を紛失したことを反省や焦りなど見せず、逆にお土産を持ってきたのだからいいだろう、と軽く受け止めていた。
某下僕がそれを知れば悲鳴を上げるだろうが、何よりミコトに強く出れないため涙を呑む事になるのは確実である。
むしろミコトの性格をある意味誰よりも熟知している某下僕はこの事を予想しコピーを渡しているのだろう。
そしてその噂に見事食いついたシキはミコトの元へとやって来てミコトの計画通りミコトが扮したモニカを甚く気に入り常に側にいさせた。
今回、ミコトは誰もが魅了されるという傾世元禳は使っていない。
シキがどれほど強いのかも分からないため下手に使うと匂いや周りの様子で勘繰られ最悪正体がバレてしまう。
シキを倒すだけならば何も正体を隠し懐に忍び寄る面倒な真似はまずミコトは選ばない。
すぐにシキを捕らえようとしなかった理由があった。


「あの状況でしたらシキを倒すのはルー君に任せた方が上手くいくんですもの…それにルー君が一生懸命なのにわたくしが邪魔してしまっては可哀想でしょう?もし邪魔してルー君に嫌われたどう責任取ってくれるんですの?そもそも…」

≪いやァ…うん…ごめん、この辺でやめてくんない?おれもうお腹一杯…≫

「まあ、根性なしですのねェ…クザンさんは………まァ、どの道どこの誰がシキを倒しても結局はわたくしやクザンさんが倒した事になって手柄は海軍のモノではありませんか。それならばベガパンクの頼みに集中した方がよろしくなくて?」

≪反論…したいが……合ってるから何も言えねェわ。≫


ミコトは青雉の言葉に『でしょう?』と笑みを深めた。
ミコトの任務は2つあった。
まずはシキの計画を破り捕まえること。
これはミコトが行動を起こす直前にルフィ達が乱入したため、ミコトは実行すらできなかった。
そして、シキをすぐに捕らえなかった訳のもう1つの任務とは…


≪で?ベガパンクの依頼の方は達成できたの?≫


青雉の問いにミコトはカサリと音をさせながら2枚の袋と数本の小瓶と大きな瓶と何十枚も重ねられている紙を取り出し机に置いた。


「勿論です…ベガパンクが懇願したんですもの……下僕の願いを無碍には出来ませんでしょう?」

≪懇願って…いや、なんでもない…≫


世界最大の頭脳を持つ男と呼ばれる男をミコトは何の戸惑いもなく楽しげな声で下僕と評す。
その声は愛らしく、聞いている男は例え顔を見ずともミコトの虜になるほどだった。
クザンは幼い頃から知っているため虜にはならないが、どんな無理何題な事や、どんな非道なことでもその声で甘えられれば即効頷くだろう。
ミコトは青雉の呆れたような複雑なような呟きなど聞かなかったことにながら机に置いてある小さな袋に手を伸ばす。


「ダフトグリーンの毒…そして、ダフトグリーンの毒を吸い続けて起こると言う病から取った液体…」


小さな袋にはダフトグリーンの毒性の粉が袋の半分まで入れられている。
毒を持っているため何枚にも重ねて入れられており、ミコトはその袋を机に置き次の袋に手を伸ばす。
それはモニカだったときにナミから採取した手袋に染み込ませた毒だった。
毒の粉が入っている袋より倍以上の大きさだが、これも毒性があるため厳重に保管されていた。


「次にIQと呼ばれている花、そしてその花から採取したダフトグリーンの毒を中和する薬……そしてメルヴィユに関する全ての資料…」

≪あれ、あの島にいる動物達を強くさせた薬はないの?ベガパンクはそれが一番欲しがってたって聞いたけど…≫


大きめの瓶にはIQの花が1本入っており、IQが入っている瓶は何本も机の上に置かれていた。
小瓶にはインディゴが毒を中和するための薬があり、これは1本しかない。
インディゴが常に持ち歩き盗む隙がなかったのだ。
チョッパーと探している時に見つけ、ギリギリにして回収できたものである。
そして、インディゴ達が行っていた実験や調査に関する資料。
これもインディゴの隙がなく大変だったとミコトは内心愚痴る。
これだけでも褒められるモノだが、肝心なモノがなかった。
それがメルヴィユの動物達を凶暴、進化させたSIQという薬。

ベガパンクは今回ミコトがメルヴィユへ向かうと聞き、普段自分からミコトに会いに来ることはない彼にしては珍しくミコトに会いに来た。
そして、ベガパンクは弱みを更に握られると承知しながらもミコトにメルヴィユにある植物のIQやダフトグリーンに関する資料等を頼む。
ダフトグリーンがあるのは何もメルヴィユだけではない。
毒性がないが似た木はあの女帝の住む森にもあるという。
他にもまだ発見されていないだけでダフトグリーンの系統の木は多々あるだろう。
その研究もしたいとベガパンクはミコトに頼み来たのだ。
だからモニカだったミコトはインディゴとゾロとの戦いの間に、他の資料よりも手に要られなかった貴重な資料を持ち帰り、自分には渡されなかったダフトグリーンからの毒を中和する薬を手にとったのだ。
世界一の頭脳を持つ彼を下僕と愛のある名で呼ぶミコトは快く彼の願いを受け入れた。
そう…快く。
側にいた海兵達からは『ありゃァ…一種の拷問だな…』『ああ…羞恥以外何モノにもねェ…』『っていうか…Dr.ベガパンク羨ましすぎる』『『ああ、羨ましい…』』と語っていた事などミコトは知らない。
そんなベガパンクはどの薬よりも資料よりも動物達を最強にさせる薬を一番に欲していた。
それを聞いていた青雉はその薬の名前がない事に首を傾げる。
しかし…


「あのような下衆なモノ…この世に無いほうがよろしいかと思ってあの子達が全て廃棄するのを止めませんでしたわ」


いつもの愛らしい声とは真逆のドスの聞いた低い声で『何か文句がおありで?』と言われ、青雉は電伝虫の奥で冷や汗をかきまくっていた。
そんな青雉は『あ、いや…あ、ありません…すみません…』と言うしかなかったという。
何故か謝った青雉にミコトは『まあ、いいですわ』と低い声から上機嫌な声に変え、上機嫌なミコトに青雉は『ん〜?』と首を傾げる。


≪な〜んか…上機嫌だねェ…≫

「そうでしょうか?」

≪うん、上機嫌だよ。なに?何かいい事でもあったわけ?≫


上機嫌と言ってもそう普段とは変らない声色だが、長く深い関わりを持つ青雉だからこそ聞き分けることが出来た。
青雉の問いにミコトは『ふふっ』と上機嫌に笑った後グッと拳を握る。


「ルー君がね、モニカだったわたくしを助けてくださったのです!敵のわたくしを!!」

≪あー……そっかァ…≫

「それに!ルー君とアスカのお仲間達ってば船長のルー君を信じているんですのよ!!流石ルー君が見つけたお仲間達ですわ!!船長が強敵を目の前に戦っているのを見ていれば誰もが心配してハラハラさせるというのに!!」

≪へェ〜…≫


『そんないい仲間に出会えたルー君とアスカにお姉ちゃん鼻が高いわ!!』と上機嫌なミコトにただ何気なく疑問を投げかけただけの青雉だったが、ミコトの上機嫌の内容にウンザリとした表情を浮べた。
むしろ『ルー君』と『アスカ』という名前を聞いた途端にどっと疲れが襲ってきたような気がしたのだ。
熱弁を振るうミコトに青雉は止めることすら無駄だと長い付き合いで知っているため、そして下手に止めたり言葉を掛けると面倒になることを知っているため…青雉は適当に頷きながらミコトの言葉を聞いてやる。
あらかた語りミコトは熱が醒めてきたのか息をつきソファにもたれ小さく笑みを零した。


「それに、わたくしの正体を"あの子"が気付いていましたの」

≪あの子って……どの子?≫


あの子と言われてもどの子か分からない青雉は首を傾げる。
そんな青雉にミコトは『まあ、クザンさんったら…分からないの?』と特別機嫌を損ねたわけでもなく声を弾ませながらそう咎めた。
軽い咎めだったため、青雉も特別気にもせず『わかんないな〜』と答えた。
青雉の頭上にはミコトが上機嫌になる要素を持つルフィとアスカが浮かんだが、どちらがミコトを上機嫌にさせているのか分からず首をかしげてしまう。
とりあえず有力なのは弟の方であろう。


「アスカが、モニカに扮していたわたくしを見破ったのです」

≪へェ…あのウサギちゃんがねェ…………え?それホント!?ミコトちゃんの変装に気付いてたの!?ええ!?≫


アスカと言われ青雉はルフィを消す。
最初は何でもないように捉えていた青雉だったが言葉の意味を完全に理解した瞬間驚愕の声を上げた。
その声は本当に大きく、ミコトが眉間にシワを寄せ耳の穴に指を突っ込むほどである。


≪あの冷酷ウサギがミコトちゃんの正体を気付いてたの!?ええ!?なにそれ!!凄いじゃない!!ウサギちゃんって実はかなりの実力者なわけ!?おれでも見分けられないっつーのに…≫


青雉の驚きはミコトの正体を見分けた事もあるが、何よりまさにウサギのように愛らしいアスカがミコトの正体を見破るなど高度なことが出来るのか、という驚きの方が大きかった。
青雉は一度ロングリングロングランドでアスカと会っている。
余りの可愛さについナンパしてミコトに本気で怒られたのはいい思い出だ。
あの可愛さに誰もが油断してあの凶暴さにやられてしまうんだな…だから冷酷なんてついてんだな…と笑顔のまま怒るミコトの前で正座し説教じみた事を言われながら青雉はそう思ったのも、いい思い出だ。
昔の事を思い出し少し涙もとい心の汗がちょちょぎれた青雉など知らずミコトは電伝虫に微笑を深め、ミコトの笑みを見た電伝虫はポッと頬を染めた。
そんな電伝虫に目を細めながらミコトは指に受話器の線を絡ませ遊ぶ。


「匂いです」

≪は?匂い?≫


電伝虫の線で遊びながらミコトは『はい』と頷き足を組み直す。


「モニカだったわたくしから甘い匂いがしたとルー君のお仲間その5から言われましたの…アスカも動物系の能力者ですから多分すれ違った時に嗅いで気付いたのかもしれません…」

≪匂い、ねェ…ミコトちゃんにしては珍しい失態だな……匂いは消さなかったのか?≫

「いいえ、消しました……しかし人間より動物は嗅覚が優れていたため消しきれなかった匂いを感知したのでしょう……まさかルー君達が来るとは思ってもみませんでしたので気を抜いていた事ではわたくしの失態ですわね…」

≪まー…ミコトちゃんの匂いはいい匂いだから一度嗅いだら忘れられないだろうしねェ……でもシキの仲間にゴリラがいたんだろ?大丈夫だった?襲われなかった?ちゃんと急所は蹴った?≫

「ふふっ…まあ、クザンさんったら」


匂いという説明に青雉が首を傾げる気配を感じたミコトはその説明をする。
ルー君のお仲間その5ことチョッパーの『甘い匂いがする』という言葉からミコトも憶測だが隠しきれなかった匂いがしていたのだと青雉に説明し、青雉はそれでも匂いだけで見破るアスカに心の中で尊敬の念を送る。
とりあえずアスカの凄さを実感した青雉は動物が隠し切れない匂いを感じたと聞き、ミコトから送られた情報の中にいた赤ゴリラのスカーレットを思い出し心配する。
心配しすぎて既に青雉の脳内ではひ弱なミコトがゴリラに襲われる場面が浮かんでいた。
そんな青雉の過保護さにミコトはつい笑みを零しコロコロと鈴を転がすような声で笑う。

暫くミコトのいる部屋からは楽しげな声が零れて聞こえた。

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