(274 / 274) ラビットガール2 (274)

社交の広場。
国王達は会議のため姿はなく、その場には王子や王女などの姿だけがあった。
初めて地上で友達を作ることができたしらほしは、ビビとレベッカやルフィと関りのある人たちと楽しくお喋りをしていた。


「まあ!ルフィ様はそんな幼い頃から沢山お食べになられたのですね!」


しらほしやビビ達はルフィの姉であるミコトから自分達が知らない小さい頃のルフィの話を聞き楽しそうにしていた。
しらほしの言葉に、ミコトは『ええ』と頷く。
ミコトは王であるネプチューンの護衛に付く予定だったのだが、チャルロスがしらほしを狙っていたのもありアルダにネプチューン王の護衛につかせて代わりにしらほしの護衛をミコトがすることにした。
杞憂ですめばそれでよし。
備えあれば憂いなし。
もしもネプチューンに何かあれば連絡するよう言ってあるので、問題はないだろう。
ミコトとしてはできれば王子と共に部屋にいてほしいが、せっかく勇気を出して地上へと昇ってきてくれた彼らをギチギチに縛り付けたくはなかった。
それに友人が出来たのだからこちらの都合で押さえつけることはしたくなかった。


「まさかこんな愛らしい方がルフィの傘下になってくださっているとは思いませんでしたわ…あの子も今や大海賊の仲間入りかしら」

「それは戦士として褒め言葉ではないれす!」

「まあ…ごめんなさい…悪気はありませんの」

「ならいいれすよ!」

(チョロイ…)


レベッカがミコトと親しそうにしているのを見て、小人族のレオ達は警戒を解いたのかミコトの前に現れた。
恐らく、そこにはミコトがルフィの姉という部分もあったのだろう。
ミコトは小人族がいるというのはドフラミンゴから聞いていたため知っていたが、実際見るのは初めてだったため驚いた。
小人族という名前の通り小さな身体につい愛らしいと素直に感想を入ったらやはり戦士のプライドは小さい体でもあるのか怒られてしまった。
謝れば許してくれるチョロさにミコトは心の中で『可愛い』とニコニコ笑う。


「八宝水軍も傘下にいるなんて…流石わたくしの弟だわ」


ルフィの傘下を教えてもらったミコトはまず笑った。
驚きもあるが、それよりも弟の傍若無人が目に目るようで笑ってしまった。
ドレスローザ編の原作は読むことが叶わなかったが、レオやサイ達の話をミコトは楽しそうに聞いていた。
レベッカ達は大将としてのミコトしか知らないが、弟の活躍を聞くその顔は家族の活躍を喜ぶ姉の顔であった。
そんなミコトを見て、レベッカは海賊と海軍という家族が敵対していることに心配していたがその心配も杞憂に終わったことに安堵した。
その時、騒動は再び起こる。


「いたえー!お父上様いたえ!!」


聞き慣れたくもない声が社交の広場に再び届いた。
一同がその声に振り返ると、そこには怪我の治療を終えたチャルロスがいた。
その傍には父親であろうロズワードがいた。
そして…


「無敵奴隷くま!!その魚を連れてくるんだえ!!」


奴隷落ちした元七武海、バーソロミュー・くまの姿があった。
ミコトは懲りないチャルロスに呆れながら振り返り、奴隷となったくまを見る。


「あれだけ忠告をしたというのに…怒りを通り越して尊敬してしまいますわ」


チャルロスやロズワードの天竜人の姿に、しらほしが怖がり後ずさり、その周囲にはビビやサイ達が守る様に囲む。
ミコトはチャルロスを軽蔑した視線を向けるが、全ての意識をくまへと向ける。
くまが奴隷に落とされ、意識を全て失くし生きる屍となったことは知っている。
父の娘である自分の声も、きっと同志である父の声も届かないという事も知っている。
だが、奴隷落ちされたとしても彼の実力も落ちたとは思っていない。
ミコトはしらほし達の前にオードリー達で守らせ、チャルロスとロズワードの前を塞ぐように立つ。
父が無敵奴隷のレンタル期間が回ってきて強気になっているのだろう。
ミコトに前を立ち塞がれても退く気は全く見られない。


「黒蝶!そこをどくえ!!」


ミコトはその手に鞭を持つ。
腰に手をやり見下すように見るその姿は、決して天竜人にすべき態度ではない。
その態度もチャルロスやその父ロズワードがミコトを嫌う点の一つだ。


「あら、巣へ帰られたかと思ったのだけれど…無敵奴隷を手にして気が大きくなってしまったのね」


嘲笑いながらの言葉。
その言葉は明らかに馬鹿にしており、それは天竜人である2人にも通じた。
怒りの表情を浮かべる2人と比べて、ミコトの顔には薄ら笑みを浮かべているだけだった。


「黒蝶!貴様聞いておればいい気になりおって…!!五老星から権限を渡されたからと調子に乗るな!!」

「乗る調子もございませんが…苦情は五老星へとお願いいたします…わたくしはあなた方への権限を欲したことはありませんもの」

「貴様…!」


ミコトを毛嫌いしているのは、何もロズワード達だけではない。
他の天竜人達も影でミコトの悪口やら罵倒やらでよく盛り上がっている。
ミコトも予想済みだが、天竜人に何を言われてもどこも痛くないので無視している。


「お帰りを…それとも、権限を使われたいのかしら」


権限に逆らう、ということは五老星に逆らうと言ってもいい。
だからこそミコトはその権限を簡単に使う。
祖父にも言ったが、気に入らないからと使わず埃をかぶるなら、気に入らないからこそすり減るほど利用した方が得だ。
見下すことも馬鹿にされることも慣れていない天竜人に、ミコトの態度は効いた。
体を震わせ顔を真っ赤にさせるほど怒りを込み上げるロズワードはくまに命令をした。


「この女を殺せ!!」


その命令に周りにいた王族達はワッと騒ぎ皆逃げるようにミコト達から離れる。
元七武海、対、海軍大将。
想像するのは、あの2年前の白ひげ海賊団と海軍の戦いだろう。
顔を青ざめる王族など見向きもせずミコトは命令に従い自分の前に現れたくまを見上げる。


「まあ、眩しい」


口を開けビームを放とうとするくまをミコトは冷静に見つめる。
しらほし達への配慮は勿論だが、彼女達には信頼している部下を付けているため、むしろ、後で煩そうな周りにいる王族達を守ることが必要だろう。


「過度な光は毒ですの…やめていただけません?」


そう言ってミコトは指をクイッと上へ動かす。
すると芝生が早送りのように伸び、くまの身体に絡まる。
すでに機械となったくまがそれで動きが停まるわけもなく、命令通りミコトに向けてビームを放とうとした。
注がれる光に眩しそうに目を細め伸びた芝で顔を無理矢理に天へと上げさせビームを天へと放つ。
顔を上へと上げさせられながらもくまは両手でビームを放とうと手をミコトに向ける。
心のない機会に諦めという感情すら失っている。
ミコトは素早くくまの身体を凍らせ動きを止める。
とはいえ、凍らせたからと言って動きを完全に止めることができるなど思っていない。
相手は元とはいえ七武海。
そして、父と同じ革命家。
ミコトはゆっくりと宙に浮かぶ。


「哀れな方…わたくしが全て終わらせてさしあげましょう」


サイボーグになったことではない。
この現状…天竜人の奴隷となり見るも無残な姿になったことへの同情だ。
『同じ人間』としてミコトの目には彼が哀れに見えた。
やはり、くまを完全に封じることは不可能だったらしく、パキパキと少しずつ氷が砕け始めていた。
ミコトはそれを上から見下ろしながら周囲の水分を集め、刃へと変える。


「安らかにお眠りなさい」


勝手だとは分かっている。
独り善がりだとも。
だが、見ていられなかった。
父の友人を、天竜人の手に置いておくことが父の娘として許せなかった。
だから、救いたい。


(大丈夫、殺しはしない)


一見、ミコトはくまを殺そうとする人間に見えるだろう。
実際、この攻撃を当てれば普通の人間は最悪死ぬ。
だが、ミコトにはそう見せる事はできる。
水の刃を放とうとしたその時――


「ダメよくまちゃーーん!!」


地面から巨人族が現れた。
巨人族は泣きながらミコトを攻撃しようとしたくまを後ろから抱きしめ、彼を止める。
ミコトはその顔に見覚えがあった。


「モーリー」


革命軍のトップに父がいるから彼らを知っているわけではなく、顔を知られている革命軍は海軍も把握している。
それに、父との交流があるとしてもミコトは父に革命軍のメンバーを紹介してくれと言ったことはない。
西軍の軍隊長であるモーリーはオシオシの実の能力者であり、その能力で地下に空間を作ることも可能。
ルフィとアスカがインペルダウンに侵入した際にイワンコフと会ったあの空間もこの男が作ったものだ。


「もういいのよこれ以上!誰の命令も聞かなくて!帰りましょう!あたし達と一緒に!!」


モーリーの叫びとも思える言葉をミコトは聞きながら能力を解除しゆっくりと降りていく。
すると頭上に一羽のカラスが飛んできた。


≪モーリー!サボから鍵は受け取った!!≫

「OK!下へ!」


そのカラスは人語を話しはじめた。
それに驚く周囲ではあるが、ミコトやその部下達は何らかの能力だろうと冷静に彼らを見る。
チラリとモーリーとミコトの目が合う。
くまを助け出そうとし、それを成した。
だが、目の前には海軍大将がいる。
例え自分達のトップの娘とはいえ、海兵は海兵。
素直に見逃してくれるわけがないと思って警戒しているのだろう。
だが、予想外にもミコトからのアクションはなかった。


「待て!!」


2人と一羽を見送るように何もせずにいるミコトを訝しながらも、動かないのならと能力で潜っていく。
それを見てヘレン達が慌てたが、それをミコトが止められる。
ぎょっとさせミコトを見ると、ミコトはモーリー達をただ見つめるだけだった。


「放っておきなさい」

「しかし…!」

「わたくし達の任務はリュウグウ王国の王族の方々をお守りすることです…革命軍との戦闘は含まれておりません…それに王族のいるこの場で戦闘は極力避けたいわ」


ミコトがここにいるのはリュウグウ王国の王族の護衛だ。
革命軍は敵ではあるものの、彼らと戦えという命令は含まれていない。
これはただの屁理屈ではあるが、革命軍と王族…どちらを取るべきかなど考えるまでもないだろう。
それに、この場にはしらほし達だけではなく、他国の王族もいる。
下手に暴れて王族達に怪我を負わせるよりは見逃した方がいいと判断した。
ミコトの判断が何にせよ従うしかないヘレン達は素直に引き下がってくれた。


(今、サボの名前が聞こえたわね…彼らはバーソロミュー・くまの救出のために来た?それだけでも彼らがこんな場所に忍び込む理由にはなるけれど…今?大将が配置されCP0も駆り出され警戒が高まっている今日、することかしら…)


父と連絡を取り合っているとはいえ、娘であっても相手は海兵。
それも大将であり、海軍で最も天竜人に近い立ち位置にいる存在。
娘を信用していないわけではないが、革命軍の動きを娘に話す理由もない。


(まあ、命令もありませんしここで深入りすべきことではないでしょう…バーソロミュー・くまも助けられたことですし…)


モーリー達が地面に消えても波打ったまま地面は固まってしまった。
それを同じ能力で平らに戻すと、天竜人に名を呼ばれる。
そちらに視線だけをやれば、チャルロスがドスドスと足音を立てて歩み寄ってきているのが見えた。


「黒蝶!!!わちしの無敵奴隷を奪われたのはお前の責任だえ!!!責任を取って死ぬえ!!!!」


その顔は真っ赤に染まっており、明らかに怒りをあらわにしており、その手には銃が握られていた。
撃つ気らしいチャルロスに、ミコトは思わずクスリと笑ってしまう。


「何を笑っているえ!!!」

「ふふ…いえ…そんなオモチャでわたくしを殺せると思っていることが可笑しくて…」

「オモチャじゃないえ!!!本物の銃だえ!!」

「知っています…撃ちたいのであればどうぞお好きに」


ミコトは傾世元禳(けいせいげんじょう)で常にバリアのような膜が張られ身を守られている。
白ひげレベルの実力者でなければ破れないその膜が、たかが天竜人の持つ銃弾で破れるはずもない。
とはいえ、弾かれた銃弾が誰かに当たる可能性もあるため、能力を使って止める必要はあるだろう。
薄く笑いながら挑発すると、簡単に乗ってくれる単細胞にミコトは更に笑いが止まらない。
しかし―――


「『八衝拳』奥義"錐龍錐釘"!!」

「"トンタッタコンバットしっぽハンマー"!!」


チャルロスがミコトに向けて発砲するよりも前に、ミコトの後ろから飛び上がり叩き込まれるその攻撃に沈んだ。
文字通り地面に沈むように叩きつけられたチャルロスは流石に意識を失い気を失い、息子の姿に父親であるロズワードが駆け寄る。
息子の名を呼ぶ父親の声を聞きながら、ミコトは『まあ』と驚きもなくそう声を零し…自分達の間に入った八宝水軍サイとトンタッタ族レオを見る。


「ありがとうございます、助けられましたわ」


お礼を言うミコトに、レオは素直に答えたが、サイは『フン』と鼻を鳴らす。
助けなくてもミコトなら無傷でいると知っているからだ。
だから、サイとしてはミコトを助けたつもりはない。


「いい加減おれもこいつにゃ辟易してたところだったからな…てめェを助けたわけじゃねェよ」


サイの言葉に『そうですか』とミコトは短く返す。
チラリとチャルロスを見るがミコトはすぐに興味を失くすようにミョスガルドへ振り向く。


「ミョスガルド聖…本当によろしかったのですか」

「構わん!!責任は全て私が取ると彼らに言ってある!」

「天竜人が天竜人に危害を加えると…神の騎士団が動きますわよ」

「フン…恩人を見捨てるより死んだ方がマシだ!このままではオトヒメ王妃に顔向けできんからな…」

「わたくしの指示だという事にすれば…」

「やめろ黒蝶!天竜人の問題にお前まで巻き込む気はない!」

「…………」


ミョスガルドはすでに腹を決めたらしい。
覚悟を決めた人間にミコトはこれ以上何も言えず、軽く頭を下げるしかできなかった。

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