(273 / 274) ラビットガール2 (273)

社交の広場は天竜人の登場で騒然としていたが、ミョスガルドのおかげでその場は収まった。
天竜人の乱入のせいか、社交の広場には随分と人が減り、あれほど賑わっていた広場は閑散としていた。


「お怪我がなく安心いたしました…姫様、わたくし達がついていながら怖い思いをさせてしまい申し訳ございません」

「ル、ルフィのお姉様!頭を上げてください!こ、怖かったですけれど…アルダ様やオードリー様がお守りくださったので大丈夫です!」


ミコト達の最優先はリュウグウ王国の王族であって、他の王族ではない。
他の王族の対応をしていたミコトはしらほしに頭を下げる。
頭を下げるミコトとその部下達にしらほしは慌てて頭を上げるよう言い、やっとミコト達は頭を上げた。
しらほしに怪我がないことが幸いであるが、ミコトは『しかし』とビビとレベッカを見る。


「ビビ王女もレベッカ殿も…ご友人をお助けしたいというお気持ちは分かりますがご自分のお立場をお考えください」

「ご、ごめんなさい…でも…しらほしを奴隷にしようとしてるのを見ていても立ってもいられなくて…」


ビビとレベッカはアスカに注意されて素直に謝る。
友人を見捨てず庇う姿も、こうして反論したいはずなのに素直に謝るその姿に好印象を持つ。
友人を庇いたい気持ちはミコトにも分かるが、相手が相手だ。


「行動に移せる方は少ないでしょう…貴女方のご行動はとても素晴らしいです…ですが…相手が相手ですので一言言わざるを得ません…あの馬鹿(チャルロス)を見てお分かりいただけたかと思いますが、まず、天竜人に常識は通じません…アレ(チャルロス)は天竜人の中でも非常識の中に入りますが、アレこそ天竜人だと思ってくださって構いません…わたくしがあれほど強気でいられたのはわたくしが海軍大将だからではなく、五老星から天竜人への裁量権を頂いているから姫様方を庇う事ができたのです…本来なら大将といえど…それこそ元帥やその上の総帥でも天竜人から庇うことはできないのです」


ミコトの言葉に、ビビとレベッカは改めて天竜人という存在が常識範囲外の存在だと知る。
それと同時に、ミコトの苦言は、2人の護衛達の苦言でもあり、二国の護衛や臣下達はウンウンと頷いていた。
ミコトは知らないが、チャルロスがアスカの『元飼い主』だと知ったら、穏便に追い出そうとはせず即実力行使しただろう。


「ミコトさん…1つ聞いてもいいかしら?」


あまり言ってしまうのは可哀想かと思い(相手は王族と侍女)、この辺でやめる。
だが、2人の関係者はむしろもっと言ってやってくださいと思っただろう。
天竜人に目をつけられかけたと思うと、ぞっとするだけではすまない。
ミコトのお説教も終わりとなり、ビビは恐る恐る手を挙げてミコトに質問しても良いのかと聞いた。
特別怒っていないミコトはビビの質問に『ええ、どうぞ』と頷いた。


「その…天竜人の裁量権を五老星から頂いたと言いましたよね」

「はい」

「なぜ…五老星はミコトさんにそんな権限を与えたのですか?」


裁量の権限の言葉を聞いて、ミコトはビビが何を聞きたいのか察した。
察した通り、なぜ五老星がミコトにそんな権限を与えたのかを聞かれ、ミコトは一瞬口を噤む。


「ご機嫌伺いのつもりなのでしょう…わたくしはルフィ達の姉ですから…これでも大将として重宝されているのですよ」


それを言えば周りが突っかかりにくくなるのを知って答えた。
だが、その答えは真実ではなくビビが更に踏み入ることができないようなものを選んだ。
ただ、重宝されているのもご機嫌伺いなのも間違いない。
それが、フレイルだから、という所を、ルフィの姉だから、に変えただけ。
ルフィ達弟を想い離れるよりは、権限を与え自由にさせた方が五老星達に利があると思わせた方が無駄な好奇心をくすぐるよりはいいと判断したし、ちょうどいい言い訳にもなる。
ルフィを知り、2年前に亡くなったエースと関わりのあるビビは更にその解答は効いたらしく、素直に引き下がってくれた。


「では、姫様…わたくしはネプチューン王の下へまいりますので何かございましたらお呼びください」


流石にあれだけ痛い目に遭えばチャルロスも引き下がるか、戻って来るにも時間を有するだろう。
そう判断し、護衛の最優先である国王の下へと向かおうとしらほしに一言を告げる。
離れたとしても先ほどよりも距離は遠くないため、再び天竜人が来たとしても先ほどより早い対応ができるだろうと判断し、しらほしが頷いたのでミコトはネプチューン達の下へ向かおうとした。
しらほしにはアルダが護衛として傍にいるため、オードリーがミコトに続こうとしたがそれをミコトが止めた。


「オードリー、貴女は姫様の護衛をなさい」

「え…しかし…」

「久々の家族との再会です…天竜人もそう何度も来ることはないでしょう…少しなら構わないわ」


ミコトの言葉にオードリーだけではなく、オードリーの家族であるDr.くれはも目を瞬かせミコトを見た。
一応もしもの時に備えアルダを置き、ミコトはオードリーとDr.くれはの似ている呆気顔にクスリと笑みを浮かべ、ネプチューン王の下へと姿を消した。


「では…許可が出たところで…オードリー、お前あたしに何か言う事があるんじゃないかい?」


呆気にとられ上司を見送っていると、オードリーの肩に誰かの手が置かれた。
その誰かなど見なくても分かる。
オードリーの耳に『ヒヒ』と魔女の様な笑い声はオードリーの知る中で1人しか知らない。
『ん?』と返事を待つその人に、オードリーは顔を引きつらせながらゆっくりと降り返る。


「……………ご無沙汰しております…おばあ様…」


振り返ると、祖国にいるはずのDr.くれはがいた。
いや、今気づいたわけではないが、こちらもあちらも仕事なためお互い接触することはなかった。
Dr.くれははオードリーの曾祖母よりも前の祖母だ。
Dr.くれはからどこに当たる血筋なのかは教えて貰っていないので呼びやすく『おばあ様』と呼んでいる。
その祖母から医師の技を叩き込まれ、見て盗んだ。
海兵になるのを猛反対され喧嘩の勢いで家出をして国を飛び出し海兵になったので、オードリーは家を出た以来祖母に会っていない。
そのため、オードリーはちょっぴり祖母と会うのが気まずかった。
因みに、チョッパーが祖母の弟子であるのはミコトから聞いて知っているが、特に弟弟子に興味を持っていない。
Dr.くれはは孫娘の回答に満足するものではなかったのか、鼻を摘ままれた。


「あたしに、何か、言う事は、ないのかい?」

「にゃ、にゃいでふぅ〜!」


首を振る孫娘に、Dr.くれはは『フン』と鼻を鳴らし乱暴に孫娘の鼻を放した。
腰に手を当て不満そうな表情で鼻を抑える孫娘を睨むように見つめる。


「なんだい、軍に入ったと聞いたから多少の礼儀くらいは叩き込まれていると思ったが…相変わらずの洟垂れじゃないか」

「家出したこともぉ、海軍に入ったこともぉ、後悔していないし謝る気はありません!おばあ様こそなんでこんなところにいるんですぅ?」

「フン!あたしは王の船医として来てるんだよ…あたしの言う事も聞かずに家出した家出娘にとやかく言われる筋合いはないさね!」

「まあ〜!おばあ様を医師として雇うだなんてぇ、今の国王様はとぉ〜っても寛容なお方なのですねぇ〜!」

「お前みたいな殻付きヒヨコを雇うなんて海軍も甘っちょろくなっちまったもんだよ」


ああいえば、こういう。
まさにその光景が目の前で広がり、ビビ達は困惑したり苦笑いを浮かべたりと様々だった。


「全く…生意気なのはいくつになっても変わらないねェ…お前にチョッパーの削った蹄を煎じて飲ませてやりたいよ」

「あらぁ!それはざぁんねんだわぁ!あたし達は敵同士ですものぉ!無理ですわぁ!」


オホホホ、と笑う孫娘に、Dr.くれはもヒヒヒと笑う。
笑っているがお互い火花が飛んでいるのが周囲には見えた。

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