「ええい!放せ!!!」
マユリの怒鳴り声は受け入れられることなく部下達に囲まれ止められてしまっていた。
部下も部下で同僚や現世にいる卯ノ花達を見殺しには出来ないと必死になっている。
「すぐに放さないと実験台として恐怖の限りを味合わせるヨ!!!」
その言葉が聞いたのか、マユリが渾身の力を込めたのか…どちらかは分からないが力押しはマユリの方に勝敗が上がり、マユリは部下が止めるのを聞き入れず嬉しそうにスイッチを押した。
だが、そのスイッチはドクロではなく可愛らしいウサギの玩具だった。
変な音がする玩具のスイッチにマユリはその玩具を叩き落し土下座する部下に怒鳴り散らす。
「馬鹿にしてるのかネ…ッ!!今すぐ本物の起動スイッチを持ってくるんだ!!!」
「「「今暫く!今暫くですからああああ!!!!」」」
「うっわあ〜〜!十二番隊の人達超可哀想お〜〜!」
「!」
土下座し涙を流し……部下はもう出るものもなくただ地面に額をつけるだけしか出来なかった。
そんな部下達に苛立っているとマユリの耳にもう生きている内に絶対一度も聞きたくない耳障りな声が届く。
そちらへ目をやると上半身裸の変質者…ではなく元上司の浦原喜助がいた。
ふざけてるとしか言いようがない現世の女子高校生の口調で喋る喜助を目に映したその直後マユリの片眉が上がり一瞬にして表情を失くす。
「前の隊長の方が絶対優しかったしぃ〜!仕事も速かったしぃ〜!何よりかっこよくて超イケメンだっふぶお!!!」
調子に乗る喜助だったが突然顔面を殴られ吹き飛んだ。
「マ、マユリさ…!なにすふぐ…!!」
「…………」
喜助を殴り飛ばしたのはマユリだった。
マユリは無言・無表情のままツカツカと鼻血を出し痛がる喜助に早足で歩み寄り起き上がろうとした喜助の顔面を思いっきり踏み潰した。
「ちょッ!いたッ!痛い!!痛いです!!マユリさん!痛い!!アタシすっごく繊細なんでもっと優しく扱ってくださいっす!!!」
「…………」
「無言の暴力っすか!?無視はやめてくださいって前にも言いましたよね!?アタシ覚えてるんですよ!?まだ痴呆症になってなんかいないんすよ!!!まだまだピチピチのピー歳っす!!!」
「…………」
痛い痛い、と叫ぶ喜助に一方的に無言で蹴りつけるマユリ。
十二番隊の皆様は言葉がかけれなかった。
100年前の隊長だというのは新人や100年前の事件以降に新人として入って来た隊員以外は知っている。
だから古株の隊員達は無言で前隊長を蹴り殺そうとする現隊長を止めなかった。
『いいんですか?止めなくて…』と先輩に聞きそこで始めてあのふざけた男が前隊長だと新人はしることになるだろう。
「さっさと起動のスイッチを渡し給え!!!お前だろう!?スイッチを奪っていったのは!!!」
「だ、駄目っすよ!!マユリさんに渡しちゃったらすぐスイッチ押しちゃうじゃないですか!!」
「当たり前だヨ!!私は待つのが嫌いなんだ!!!早く渡せ!!でないとお前の○玉踏み潰すヨ!!!!」
「ギャーーーー!!!駄目ーー!!それもっと駄目ーーーー!!!ごめんなさい!それだけは勘弁してください!!」
「だったらすぐ渡せ!今すぐ渡せ!!さあ!!早く!!」
「金○を潰されるのは勘弁っすけど真由美サンが現世にいるんで渡せません!!」
「なに…?」
○玉の危機に喜助は絶叫するが人どころか大事な娘がいるのに渡せないと何処に隠しているのか分からないがスイッチを守る喜助にマユリは腹を蹴るのをやめた。
だが喜助の腹を踏み起き上がれないようにしているので状況は変わっていなかった。
「真由美は…無事なのかネ……」
「無事です」
「…………」
喜助の言葉にマユリは安堵の息をつく。
それに喜助はマユリが相変わらず真由美を大事にしてくれていると嬉しくて微笑む。
「―――で、その腹の血はなんだネ?お前の血ではないんだろ?」
「へ?そ、それは…」
「誰の、血、なんだネ?」
「ぐふッ!」
踏んでいる足の下には喜助ではないであろう血があると気付いていたマユリは分かっているが喜助から聞きそうとしていた。
喜助は一気に顔を青ざめ目を逸らすが、そんな事をさせないぜ!とマユリは踏んでいた足に力を入れ、喜助はその苦しさから地面をバンバンと叩き『は、話します!!話しますから力を抜いてください…!』と白状する。
全く持ってこの男に辛抱というものはないのだろうか…
「真由美サンのっす…」
「…………」
「真由美サンは腹を何本もの刀で串刺しにされ左腕、右足を切断されました」
喜助の言葉にマユリの後ろにいた十二番隊の隊員達はざわめきだす。
だがマユリだけは無表情で喜助を見下ろしているだけだった。
少し金色の瞳を揺らいでいるマユリの瞳を見つめて喜助は続け、ふとマユリに笑みを向けた。
「でも、安心してください…井上サンの能力で中も外も腕も足も元通りっすから…」
喜助の言葉にざわめいでいた隊員達は全員安堵の息をつき嬉しそうに笑う。
その姿を見て娘は隊員にも愛されているのだな、と喜助は嬉しそうに笑った。
するとマユリの足がどかされ喜助は不思議そうに上半身を起こしながら背を向けるマユリを見つめる。
「スイッチを渡し給え」
「だから…」
「真由美がいるのに私がスイッチを押すとでも思っているのか?そんな馬鹿なことしないヨ。ついでだからその他の薄鈍どもも待っててやる…だから早くスイッチを渡し給え」
「マユリさん…」
背を向けるマユリはきっと照れているのだろう…喜助は経験からしてそう思った。
マユリの言った事は本当だと分かった喜助はスイッチを預けていた隊員にマユリにスイッチを渡すよう言い、その隊員は恐る恐るマユリにスイッチを渡す。
「それで…お前はどうするんだネ?」
「え?」
部下からスイッチを渡されたマユリは背を向けたまま喜助に声をかける。
その言葉に喜助は首をかしげ、その喜助の反応にマユリは苛立った声をあげる。
「尸魂界に戻るのか現世に戻るのかと聞いているんだヨ!」
「あ、ああ…それっすか……四十六室から濡れ衣だったのと藍染を封印し捕まえた功績に無罪と言い渡され追放も解除されたっす。」
「で?」
「それで、町で駄菓子屋でも開こうかなあって思いまして」
「そうか…だったら一生町で暮らし私と真由美の前から姿を現すのはやめ給えよ。」
「えええ!!?何でっすか!?真由美サンは私の娘で浦原家に戻りますから毎日会いますうー!残念でしたあー!」
「キモ…」
「い、今キモって言いました!?キモイって…!!」
「キッモ…」
「キッツ…!グレードアップしてる!すごくキツイ…!!ああ!早く真由美サンアタシのもとに帰ってこないかなあ!真由美サンに癒されたい!!」
「馬鹿かネ、真由美は私の元に帰ってくるんだヨ」
「違いますうー!アタシの元ですうー!」
「私だヨ!」
「アタシですうー!!」
「私だって言ったら私だヨ!!!その節穴の目をくり抜いてゴ○ブリを詰め込んでやろうか…!!」
「んな…!?せ、精神攻撃っすか!?成長したっすね!マユリさん…!!お父さん嬉しいッス!!」
「なんで貴様のような屑を親に持たねばならないんだヨ!!!」
マユリの暴言に喜助は何故か泣いて喜び、百年前はなかった成長に父親のように喜んだ。
そんな喜助にマユリは本気で気持ち悪がり数歩離れる。
その後真由美がマユリと父親の元に帰り、隊員達に2人を止めてくださいと縋りつかれ泣かれるのはあと数十分後のことだった。
そして、真由美はその後白哉の抱擁を数時間受けることとなる。
****************
喜助は数百年越しの自宅を見上げ胸が熱くなった。
百年前経っても変わらない家、雰囲気、空気…それを守ってきたのは誰でもない小さい体を持つ真由美だ。
「真由美サン…苦労をかけたっすね…本当に何度謝ったらいいのか…」
「そんな……私はお父様がお戻りになられるまで、と無我夢中でしたから…だから…褒めてやるのはトキ達にお願いします…トキ達が居なかったら私はここには居なかった…浦原家は貴族達に乗っ取られたんですから…」
喜助の言葉に真由美は慌てて首を振った。
首を振り使用人たちを褒めてほしいと謙虚な娘に喜助は目を細め愛しげに見つめる。
しかし娘に苦労をかけ家を守ってくれたのは変わりなく喜助は謝罪と感謝の言葉を娘に送り繋いでいた手を強く握った。
そんな父親に真由美は何も言えず小さく照れくさく笑うだけだった。
家に入れば真由美の声にずっと行方不明だと聞かされていたトキ達が慌しく玄関に我先にと駆け寄ってきた。
その姿に真由美は『なんだか私が来た時みたい』と思い出し笑ってしまう。
しかしそんな小さな主に気付かずトキ達は真由美の無事に安堵の息をつき笑みを浮かべていたが隣で真由美と手を繋いでいた百年前に追放されたはずの喜助を見て全員が唖然とし言葉を失った。
そんな使用人達に2人は顔を見合い、笑い出す。
2人の笑い声に我に返った使用人達は真由美と喜助の無事を涙を流しながら喜んだ。
「よくご無事で…!!旦那様!真由美様!!本当によかった…!!さあ!おあがりください!!今お風呂とお食事をご用意させます!!どうぞ!!」
「みんなには苦労をかけたっすね…すみません…そしてありがとう…」
「そんな…そんな!!いいんです!!旦那様と真由美様がこうして戻ってきてくださっただけで私達はいいんです!!ですから頭を上げてください!!私達にそのようなこと必要ありません!!」
「でも…」
「私達は旦那様と真由美様に仕える事が生き甲斐なんです!さあ!ここではお体が冷えてしまいます!今暖かいお飲み物でもお持ちいたしますのでどうぞご自室で寛ぎくださいませ!!」
トキの言葉は皆の言葉だった。
皆トキと同じ事を思っているのかトキの言葉に頷き涙で濡れた瞳で2人を見上げる。
喜助は皆の言葉に泣きそうに笑う。
ささ、と先導するトキに続こうとした喜助だったが真由美が止め、真由美は喜助より先に玄関へと上がり父の目の前に立つ。
そんな娘の行動に首をかしげている喜助に真由美は満面の笑みを喜助に送った。
「おかえりなさい!お父様!!」
娘のその言葉に喜助は我慢していた涙が溢れその場で娘を抱きしめ涙を流す。
自分を抱きしめて涙する父親に真由美は笑みを深め父の大きな背中へと手を回した。
「ただいま、真由美」
【完】
→あとがき。
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