(156 / 158) 浦原娘主 (156)

「補修作業完了!点検!!」


青々と広がっている大空に図太い声が響く。


「1097番!異常ありません!」

「1098、1099、1100番!異常ありません!」

「転界範囲円、現世人員全名保護完了しました!」


本物の空座町の確認を終えた隊員達は一人一人異常はないと報告する。
その報告に1人の隊員が後ろへ振り返り、後ろにいた人物はスッとある物を取り出す。


「フン、転界結柱起動するヨ!!」

「えええ!?」


その人物は十二番隊隊長であり開発局の局長でもある涅マユリだった。
マユリは真由美を黙って見送った事もあり不機嫌そうに声を荒げて転界結柱を起動させようとした。
だが、それに慌てて隊員たちが止めにはいり失敗に終わってしまう。


「お、お待ち下さい隊長!まだ街中に隊員がおります!!穿界門無しでの現世転移は危険です!!」

「……仕方無い…余裕を持って10数えてやるヨ………全く、自分の甘さに反吐が出るヨ」

「い、急げーーー!死ぬぞーーーー!!」


はあ、と溜息をつき更に不機嫌そうに呟き数え出すマユリに隊員は慌てて中にいる同僚に呼びかけた。
その仲間の声にマユリが本気で隊員が居ようが居まいがスイッチを押す人だと分かっているため死に物狂いで空座町から出てくる。
7秒に差し掛かった時に空座町に背後を向けたマユリの後ろから危険だと訴える部下にマユリは更に苛立った声と睨みをきかせながらあと3秒数える。


「2、1…」

「「「お止めくださいーーー!!!」」」


10秒数え終えたマユリは鬱憤を晴らす為スイッチを押そうとしたが、その場に居た全員に腕を取られ止められてしまう。


「な、なにをする!お前達!!」

「「「隊長!!しばしのご辛抱を!!」」」

「そんなところにいる薄鈍のことなんか知るか!!さっさと起動するヨ!!!」

「「「隊長〜〜〜〜〜〜ッ!!!」」」


青々とした大空に、今度は図太い泣き声が響き渡った。


****************


所変わって現世にあるレプリカの空座町。
そこには四番隊隊長の卯ノ花と仮面の軍勢と呼ばれる平子達がいた。
平子達は藍染との戦いに大怪我を負い卯ノ花の治療を受けていた。


「卯ノ花隊長!」


誰も喋ることなく静まり返ったその場に少女の高い声が響く。
その声に卯ノ花が振り返ると虚圏で別れた真由美が駆け寄ってきていた。


「浦原副隊長…」

「浦原?」


卯ノ花は姫桜を腰に差して走ってくる真由美を見て安堵したように笑みを浮かべ、卯ノ花の呼んだ浦原という名前に平子が反応する。
平子が声のした方へ目をやると白い服をボロッボロにして走ってきていた少女の姿があった。
真由美は織姫の力のお陰で腕と足は完全に再生しお腹の傷も塞がれた。
元気な姿で手を振って現れた少女に平子は怪しいと目を細める。


「卯ノ花隊長、後は私が…」

「そうですね…それが1番いいかもしれません…」

「ちょい待ちや!こいつ誰なん?なんで破面の服着てんねん。」


真由美の言葉に頷き治療を止め立ち上がった卯ノ花に平子が真由美を睨みつけながら親指で指差して聞く。
破面ではないにしろ攫われたのは織姫だけだと思っていた平子が警戒するのは無理もないだろう。
そんな警戒心むき出しにする平子に卯ノ花は咎めることなく優しく微笑んだ。


「この者は十二番隊副隊長及び開発局副局長の浦原真由美…浦原喜助の娘です」

「喜助の娘ええええ!?」

「うぇ!?は、はい!浦原喜助の娘の真由美です!」


浦原の娘と聞き平子は声をあげた。
声を上げる平子に真由美はビクリと肩を揺らし何か悪いことでもしたのだろうかとオドオドしてしまう。
そんな真由美に平子はジロジロと頭の天辺から足の先まで見る。


「喜助の娘なんて聞いたことないで?ホンマに娘なんか?」

「しつれーな!ちゃんとした娘ですよ!!」

「ホンマかあ?喜助と全然似てないやん。」

「あまり失礼な事言うと実験台にしますよ!?」

「ほら、そういうところが似てないねん…実はマユリの娘ちゃうん?」


疑って見る平子に真由美はプンプンと怒っていた。
平子が疑っているところが違っているのに気付かずプンプン怒っていた。
卯ノ花もリサ達も真由美で遊んでいると知っているので止める事はなかったが、2人の言い合いは意外な人物で止まった。


「真由美…」

「!、ひよ里…!!」

「ひよ里様!」


平子と真由美の言い合いを止めたのはひよ里だった。
ひよ里は真由美の声に深い意識の奥から戻ってきたのか痛みで顔を歪め枯れた小さい声で真由美の名前を呟く。
真由美はひよ里に名前を呼ばれ平子に構ってられないとひよ里の側に駆け寄った。
ひよ里は自分を覗き込む真由美の姿に弱弱しい笑みを浮かべる。


「真由美…大きゅう、なったんやな……あの頃と全然違うやん…」

「ひよ里様も…変わられましたね…とてもお綺麗になられました…」

「アホ…お世辞言ったって…なんも…出てこんで…?」

「お世辞じゃないです…お世辞じゃ…」


はは、と笑うひよ里に真由美は涙を溜める。
今にも涙が溢れそうな真由美にひよ里は笑みを深めて手を真由美へ伸ばす。
真由美は震えて力がない伸ばされた手をギュッと痛くない程度に力を入れて掴んだ。


「…心配、しとったんやで?」

「ひよ里様…」

「心配して…時々喜助のやつに…八つ当たり、してたけど……ごめんなあ…お前の父ちゃん、なのになあ…」


弱弱しく笑い小さい声で謝るひよ里に真由美は首を振る。
首を振ったことで溜まっていた涙が飛んでいった。


「いいんです!いいんです!!お父様のことなんて気にしないでください!!どうせお父様はマユリさんに扱かれて図太い神経なんですから!!」


慕っているはずの喜助の事を結構酷く言っている真由美に平子はつい『おいおい…』と小さくツッコんでしまう。
そんな真由美にひよ里は笑い声を苦しげだがあげる。


「はは…真由美も、大分…垢抜けた、んやな……安心したわ…」

「ひよ里様……」

「真由美…お願いがあんねん…」

「なんでしょう…」

「うちを…治してほしいんや……真由美がどれだけ強ぉなったか…体で…感じたいんや…」


ひよ里の願いに真由美は目を丸くする。
短い間だったが覚えてくれた事もだが、これほど気に掛けてくれた事に真由美は嬉しくて何度も頷いた。
そしてひよ里の手を放し姫桜の柄に手をかける。


「≪咲き乱れろ…姫桜…≫」


姫桜を始解したその瞬間甘い香りが辺りを包み込んだ。
真由美はひよ里を跨り姫桜を向けてひよ里の胸に姫桜を突き立てた。


「"森羅万象・二章"」


治療だと分かっているから平子達は止めずにいたが仲間の胸に刃が刺さる姿はどうもいい気分ではない。
だがひよ里の胸に刃が刺さった瞬間ひよ里は半透明のドームのようなものに包まれ、その暖かさにひよ里は瞳を閉じ再び眠りに着いた。
ひよ里サイズにぴったりなドームが現れ真由美はひよ里の上から退く。


「これは?」

「私の斬魄刀である姫桜の技です」

「姫桜!?あの姫桜か!?」


姫桜と聞き、平子達は驚きが隠せず真由美に振り返る。
真由美は『はい』と頷く。


「あの姫桜を……ではこれは…」

「はい、これは治療です。本当は全員を治癒できる技もあるんですがそれではひよ里様の怪我の大きさに間に合わないので……」


申し訳なさそうにする真由美に平子は頬をかく。


「姫桜を持ってんなら戦闘に加わってほしかったわ…もしかしたら藍染を殺せただろうに…」


責めているわけではないが、伝説の強さを持つ斬魄刀の持ち主につい頼ってしまう。
自分達をこんなにした藍染を倒してくれるのではないか、と…
その言葉を聞き真由美は苦笑いを浮かべる。


「ごめんなさい…私も井上様のように捕まっていたので…」


申し訳なさそうに笑う真由美にみんな納得した。
姫椿ほどではないが姫桜も厄介な物であるというのは死神なら誰でも知っていることである。
しかし平子達はその姫椿も持っているとは思っていないだろう。



「みなさまーーー!!!」



そんな平子達の元に一番隊副隊長の雀部が慌てた様子で駆け寄ってきた。


「は、早く逃げてください!!」

「雀部様、どうかなさいました?」

「涅隊長が今にも転界結柱を起動させようとしてます!!ここは危険です!!」

「ああ、大丈夫ですよ、それは」

「は?」


マユリが痺れを切らしていると報告が入り急いで現世へと向かった雀部が伝えに来たが、その苦労は真由美によって泡となってしまった。
真由美の言葉に全員(卯ノ花以外)が『は?』と真由美を振り返る。


「お父様が止めてくれてますから」


真由美はすごく…ものすっごくいい笑顔で答えてくれた。

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