※設定は前回と同じです。
※引き続き平和的解決した原作後の話。
※今回は息子も長女もめっちゃ喋ります。
※白石が不憫。
※相変わらず鯉登の気配皆無。
※息子さんの名前が出ています。
※なので本編を見た後に読まれることをお勧めします。
※娘が出てきますが、本編には無関係です。
雪乃と結ばれて早10年。
そろそろ記念日かと頭の端でそう思いながら息子と狩りに出ていた尾形は、隣で歩く息子に声を掛ける。
「なあ、10年目の記念日、何がいい」
「アチャ…また獲物を贈る気なの…?」
「この辺のって言ったらそれしかないだろ…久々にクジラも食べたいが数日も雪乃を置いて家を留守にはしたくない…かと言ってお前に獲らせるのもおかしな話しだしな」
「いやだからなんで獲物にするのって言ってるんだけど…たまには髪飾りとか着物にしなよ…」
「あいつは物より食べる方が喜ぶ」
「…………」
ジト目で見る息子にそう返せば息子からは溜息が送られた。
確かに母は着物などの物を贈った笑顔と、食べ物を送られた時の笑顔を比べると、食べ物の方がいい笑顔を見せてくれる。
見た目は美女なのに勿体ないなぁ、とか、よくアチャを捕まえる事が出来たなぁ、とか思っていると隣の父から『しかし』と呟かれ、意識をそちらに戻す。
父を見上げれば父は毎日整えている髭と母との思い出が深いモノだと息子と娘達に自慢していた手術痕をなぞりながらポツリと呟く。
「子供を仕込んだ時期を間違えたかもしれんな…あと少し遅く仕込んでおけば双子を10年目記念にできたかもしれん」
「…僕が言うのもなんだけどさ…アチャはさ…もうちょっとデリカシーっていうものを持とうよ…息子の前で言う言葉じゃないよそれ…」
「隠していても仕方ないだろう?それにお前だから言うんだ」
「…………」
駄目だこのアチャ…早く何とかしないと…、と静秋は心の底から思った。
まだ11歳の息子を目の前に仕込むやら子供を10年目の記念日やらと述べる父親に呆れを通り越して尊敬しそうである。
とは言え、父も父でちゃんと人は見ているらしい。
確かに母に似ている妹達を父は溺愛しているため、こんな事言えないだろう。
だからって息子に言う言葉でもない。
「まあ、それは来年の11年記念日にでも取っておくか…」
そう呟かれ静秋はギョッとさせ父を見上げた。
「まだ作るの!?」
「何を言うんだ…アシリパのフチなんて少なくとも21人は兄弟いるんだぞ…負けてられないだろ」
「勝つ負けるの問題じゃないよ!いい加減
母さんを解放してあげなよ!!」
10年目で5人の子供を作っているとはいえ、最近の母は毎年一人は産んでいると言ってもいい。
5人も産んだためか出産に対して危機感はなく年々出産間近なのに活発に動き回って子供としても困る。
双子は難産だったらしく、『今度ばっかりは死ぬかと思った』と笑う母に静秋は顔を引きつらせた。
そんな母に父が『勝手に俺を置いて逝くな、殺すぞ』と言うのも静秋は頭を抱えた。
「なんだ、不満か?お前も
妹弟が多い方がいいだろ?俺達が新婚を味わいたいと言って長い間妹弟もなく1人だったからな…」
「えええ…もしかしてハポにポコポコ子供産ませてるの僕のせいなの…?」
「まあ、少なくともあいつはそう思ってるな…でなきゃあいつが黙って5人も子供作らせるかよ」
「………少なくなくてもアチャはそう思ってないんだ…」
「正直俺はあいつが妊娠して腹から俺との子供が生まれるとあいつは俺の物だと思えて優越感を感じている」
「正直すぎるよアチャ…」
息子に言う言葉じゃないよ…と静秋は二度目だが、心底思う。
リアルに頭を抱える息子の頭を尾形は手を置き不器用に撫でまわす。
「お前は知らんだろうがハポは結婚する前までモテてたんだぞ」
「そうなんだ」
「あいつの恋人から奪うのがどれだけ苦労したか…あの時の俺でよく雪乃を捕まえられたなって今でも信じられん」
「え、ちょ…え?待って??ちょっと待って??アチャ、もしかして奪略したの??恋人いたのにハポを寝取ったの???」
「まあそう言えるな…出会った時からすでに恋人とは(一方的に)破局してたけどな」
「ええ…僕奪略愛の末に出来た子供なの……なんかショックなんだけど…」
「いや、お前はただあいつを手に入れるために仕込んだ子供だ」
「ねえ、ちょっと…ねえ、アチャ…もうちょっと隠そう??もうちょっと優しくオブラートに包んで隠そう???」
「隠しても仕方ないだろ」
「いやそれは隠す事だよ!むしろ息子に知られないように必死になるところだよ!!」
「今は愛してるし、それでいいじゃないか」
「終わり良ければすべて良しなんて言葉現実には通用しないからね!!?」
『もう信じらんない!!なんなのこのアチャ!!』とプンプン怒る息子に尾形は肩をすくめた。
前を歩く息子の背中を見つめながら尾形はコタンへと帰る。
しかし、尾形も静秋もまだ知らない。
コタンに帰れば地獄が待っていることを…
街で獲物を換金し、まだプリプリ怒っている息子を不器用に宥めながら尾形は静秋と共にコタンに帰ってきた。
コタンに帰り尾形達は自分達のチセに戻ろうとしていた。
「待てシライシィィィ!!!」
「ひい!!勘弁してよ!アシリパちゃん!!誤解だってば!!」
しかしチセから白石が出てきた。
どうやら遊びに来たらしいが、白石は慌てて逃げるように尾形のチセから出てきたかと思えば、その後を追うようにアシリパも出てきた。
その手には毒矢が握られており、ギリギリと音をさせて逃げる白石の背中を狙っている。
「ア、アシリパさん!ダメだって!白石死んじゃうってばっ!」
アシリパの後に雪乃も現れ、弓を構えるアシリパと白石の間に入って必死に止めていた。
そんな雪乃にアシリパはギロリと白石を睨みながら声を上げる。
「雪乃は黙っていろ!!この馬鹿は私が息の根を止める!!!」
「だから!!話聞いて!!誤解だっていってるじゃん!!」
「誤解だと!?アベナンカを穢しておいて言うに事欠いて誤解だと…!?それでも男かシライシ!!!」
尾形はアシリパ達の様子を静観していた。
隣にいた静秋がチラチラと父を見てどうするべきか考えていた。
しかし尾形は動く気はなかった。
アシリパが雪乃に危害を加えるわけがないと分かっているし、白石はどうでもいい。
しかしアシリパの口から『アベナンカ』と娘の名が出たのなら話は別だ。
それも穢しておいて、という聞き捨てならない言葉が出たのなら余計に。
「おい、なんの騒ぎだ」
愛娘の一人、長女の名が出てやっと動いた父に静秋は溜息をつく。
良くも悪くも…自分の父親は素直だ。
しかし静秋も白石を良い叔父のように懐いているため安堵はしたのだが…それも長くはもたなかった。
尾形の姿に声をかけてやっと気づいたらしい白石は『げッ!』と顔を青ざめ、雪乃も『なんでこんな時に限って帰ってくるの早いの』とデカデカと顔に書かれており、アシリパはムッとさせたまま尾形を見た。
「尾形!!良いところに来た!!お前も加勢しろ!!」
「百之助!何でもないからチセに戻ってて!!」
「尾形ちゃん!違うから!!誤解だから!!」
三者三様。
言葉で表せばこうだろうか。
三人共言っていることは別で、静秋は怪訝と母たちを見る。
尾形も息子と同じ顔をしており、首を傾げる。
「一体なんなんだ…白石、お前俺の娘に何をした」
「ひえぇ…バッチリ聞いてた…!」
愛娘の名前をバッチリ聞いており、娘が関わっていると知って間に入り込む尾形に白石は顔を引きつらせる。
「こいつアベナンカを誑かしたんだ!!!」
きゃああ!、と白石から絹が裂けるような悲鳴が上がった。
雪乃もアシリパの言葉に顔を手で覆い溜息を吐き、誤解を解こうとしたその時―――ガチャリと金属音が雪乃の耳に届き顔を上げる。
そこには白石に向けて銃を向ける夫の姿があった。
「お、おが…っ尾形ちゃん!!だ、だから誤解だってば!!!」
「それが最後の言葉でいいんだな?」
「ばっ…良くない!!良くないから!!落ち着こう!!二人ともちょっと落ち着こう!!??ね!!!」
アシリパと尾形に挟まれ逃げ場を失った白石は全力で二人を落ち着かせようとするが全く効果はない。
白石の顔は青いどころか真っ白となり、冷や汗どころではなく尋常な汗をかいている白石を尾形は鼻で笑う。
「ハッ!残念ながら俺は落ち着いているさ…お前と俺の仲だ…お前の望むタイミングで殺してやるよ」
「望んでない!!望んでない!!!全然死ぬの望んでないから!!!んもおお!!親馬鹿もいい加減にしてええ!!!???」
「甘いぞ尾形!!白石の望むタイミングなどで殺してやるなど!今撃て!即撃て!!早く撃て!!!」
「アシリパちゃあああん!!!ちょっとシーーッ!!お口にチャックウウ!!!誤解だからその溢れ出る殺意消してくれないかな!!??」
白石は必死だった。
前にはアシリパ。
後ろには尾形。
両者は雪乃とその子供たちの事になると容赦というものを知らない。
アシリパはまだいいだろう。
アシリパの前に出ている雪乃が庇ってくれているので、アシリパは弓を下げてくれた。
だが後ろにいる尾形はそうはいかない。
目が狩人の目ではなく…殺し屋の目をしている。
確実に心臓、または額を撃ち抜く気満々である。
いつものおふざけさえ許さない尾形に携帯のバイブのように震える白石に女神が降りてきた。
「もう!!待って二人とも!!ちょっと落ち着いて話を聞いて!!」
その女神とは、雪乃であった。
このままでは本当に白石が二人に殺されると思ったのか声を上げた。
白石とほぼ同じセリフなのだが…
「……チッ」
「………………」
相手が雪乃となると話は別らしい。
騒がしかった辺りも二人が口を閉ざしたことで静まり返った。
周りには騒動を傍観するやじうm…ではなく、コタンのアイヌ達がいた。
「と、とりあえず…チセに戻りましょう…ここじゃ目立ちすぎるから…」
このアイヌの村は平和が続いている。
元とは言え不死身と名高い雪乃や、狙撃者の腕は一流な尾形、アイヌの知識が豊富で女でありながらも猟の腕は一流なアシリパがいる村を襲うとする山賊もいないのだろう。
返り討ちにされボコボコにされるのが落ちである。
だがそんな平和なコタンだが、やはり刺激が足りないのかこの騒動をアイヌ達は目を輝かせて見ていた。
お家の恥ずかしいところを見られると雪乃はチセに帰ろうと提案する。
だが、
「駄目だ…今ここで全て吐け」
構えたままだった銃をそのままに尾形は雪乃の提案を蹴った。
これがアシリパなら雪乃の言う事も聞いてくれただろう。
しかし尾形は雪乃に甘い人間ではあるが、愛娘を誑かされたと聞き納得できるわけがなく聞く耳持たなかった。
静秋はそっと父から離れ自分の家であるチセに向かう。
チラリと白石を見たが、母がいるのならよほどのことはされないだろうと、白石は母に任せた。
「アベナンカ」
チセに入れば散らかっている物を片づけている妹達がいた。
恐らくアシリパと白石の攻防戦の結果なのだろう。
三女と四女はまだ赤ん坊なため眠っており(あの騒動で寝れる図太さは母にそっくりだなと静秋は思う)、部屋を片付けているのは次女とこの騒動の張本人である長女のアベナンカだった。
アベナンカとは、火の神様に由来した名前である。
名付け親はアシリパであり、和名は静子だ。
「なに、
お兄ちゃん」
兄に呼ばれ、手招きされた片づけていたアベナンカは兄に歩み寄る。
静秋はその場で座り、前を指さしてアベナンカを座らせる。
兄に座れと指示されたアベナンカは素直にそれに従い、兄と向かい合うように座り、次女は片づけを続けた。
「あの騒動、お前だろ?どうしたら白石ニシパがお前を誑かしたことになってるんだ?」
「私が『白石ニシパのお嫁さんになる』って言ったらアシリパ
お姉ちゃんが怒っちゃったの」
『なんで怒ったんだろうね?』、と片づけをしている次女に語り掛ける長女に静秋は頭を抱えた。
次女はコテンと小首をかしげる姉に苦笑いを浮かべただけだった。
アベナンカは天然だった。
長男と次女がしっかりしている分、間に挟まっている長女がぽやぽや天然系になってしまった。
いや、姉が天然系だから次女はしっかり者になってしまったのかもしれない。
その天然さに父が『一番あいつ(母)に似てるのはアベナンカだな』と言っていたが、静秋は異論を唱えられなかった。
アベナンカほどではないが、母も母で天然なところがあるのだ。
「…どうして白石ニシパのお嫁さんになりたいって思ったんだ?」
次女曰く突然だったらしい。
突然思い出したように『白石ニシパのお嫁さんになりたいな』と呟き、そして戦争が起きた。
姉の代わりに兄に報告しながらも手を休まないしっかり者の次女の話を聞きながら静秋はアベナンカに問う。
アベナンカも白石には懐いていた。
白石はぐうたらだし、無職だし、犯罪者だし、どうしようもない男だし、頼りにならない大人ではあるが、それでも静秋も妹たちも白石の事は好きだ。
しかし自分が知っている限り、アベナンカが白石に恋をしている様子はなかった。
そもそもそんな素振りをしていたら親馬鹿な父が気づかないはずがない。
確かにアベナンカは天然でポヤポヤ系ではあるが、馬鹿ではない。
ちゃんと考えているし、頭だって良い。
天然ではあるがちゃんと芯がしっかりしているから自分の考えを持っている。
天然故に静秋も両親も思考が読めない事を時々言うのが玉に瑕だが。
「だって私女の仕事するよりユポみたいに狩りの方が楽しいもの」
にこっと笑いながら告げる妹の言葉に静秋はあんぐりと口を開けて呆けた。
次女も片づけている手を止め兄へ顔を向け、静秋も次女に顔を向け、二人はお互いの顔を見合う。
そして、両者頭を抱えた。
そうなのだ。
アベナンカはぽやぽや系天然娘で見た目は母に似て愛らしくお姫様のような美少女なのだが…中身は見事アシリパ色に染められていた。
静秋は父の特徴全てを鏡に映したようにそっくりなのだが、アベナンカは母にそっくり…そう、銃が下手なのだ。
狩りに出れるようになったらアシリパに引っ張り回されたのもあり、アベナンカは大人しそうな見た目に反してやんちゃだ。
この年でコタンにいる父を除き兄を含んだ男達顔負けの猟の腕前を持っている。
そのためアシリパ同様、女の仕事は苦手だった。
だから女の仕事をしなくてもいいように白石に嫁に行き…いや、白石を嫁に貰い男の仕事をしたがっているのだろう。
「…ということは…あれだ……白石ニシパが好きだからお嫁さんになりたいわけじゃないんだな?」
「白石ニシパの事は好きだよ?」
「いやでもそれ……いや…うん…なんでもない…」
白石は働く男というより、どちらかと言えばヒモが性に合っているだろう。
子供の静秋もそう思うほど普段の白石はだらけていた。
「……アチャとサポに説明してくるから二人は片づけをしておいて…」
はあ、と溜息を吐きながら立ち上がり、妹たちに指示を出す。
この騒動の主犯であるアベナンカに説明させたいところだが、燃えている焚火に油をぶち込むほど静秋は狂人ではない。
静秋はチセを出る。
まだ言い争っている大人たちを見て、もう一度…いや、今度は深い深い溜息をついた。
/ あとがき /
尾形ファミリーの第二弾です。
今度は静秋くんめっちゃ喋ってます。
一応あれでも尾形は息子を愛しています。
ちょっと静秋君の人生スタートが酷かったですが、今は両親共に愛されています。
長女のアベナンカちゃんは天然少女です。
父似の兄除く四姉妹の中で一番母に容姿が似ており、中身は天然にガン振りですが似てます。
それに加えてアシリパ要素もあり、ある意味父似の静秋以上のサラブレッドです。
母に似て銃はダメですが、弓の腕はピカイチです。
銃と弓では違いますが、純粋な狙撃の腕前は兄を凌ぎます。
それでも父には敵わないので、父を尊敬しています。
母に一番容姿が似ているのでアイヌの村でもモテモテで和人の街に行ってもモテます。
しかし、未だに長女の心を鷲掴みする人は現れません。
とはいえまだ10歳にもなっていないのでまだ愛だの恋だのは早いですが。
本人も恋をするよりアシリパや父と一緒に狩りに行った方が好きなので、コイバナとか興味ありません。
当分はパパも安心ですね。(笑)
白石の嫁になりたいと言ったのも、異性として白石に恋をしているのではなく、ダメ人間の白石なら男の仕事をしていても文句は言われないかな?という理由です。
お母さんと同じ思考ですね…
次女はしっかり者以外にまだ詳しく設定してませんが、力は母似にしようかなと思ってます。
母と姉が天然なので自然としっかり者になってしまいました。
一応不憫系になる予定です。
三女四女はまだ赤ん坊なので未定です。
でもあの騒動の中熟睡できてるのできっと尾形一家の女達は母似なのでしょう。
母一筋の父に母に似た妹たち…頑張れ、静秋君!
では、ここまで見ていただきありがとうございます。
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