(184 / 274) 原作沿い (184)

チチチと小鳥の可愛い声に水城の意識は浮上し目覚める。
ゆっくりと瞼を開ければ薄暗かった。
窓がないから何時頃かは分からないが、外から微かに鳥の声が聞こえるので夜は明けたのだろう。


(音之進…まだ寝てる…)


顔を上げれば、鯉登の整った顔が視界に映る。
目を瞑り寝息を立てる鯉登の頬にそっと触れる。
寝入っているのかピクリともしない鯉登に水城はそっとしておいてあげようと触れていた手を引っ込めた。
水城と鯉登は向き合うように眠っており、鯉登の腕にいたおかげで朝方でも寒くはなかった。


(あのまま寝ちゃったんだっけ…)


あの後着崩れした服を直して2人は抱きしめ合ったりと暫く甘い空気になっていた。
いつの間にか寝てしまったようで、夢を見ないほど寝入りが深かったらしい。
鯉登と近いせいか、彼の匂いがして水城は思わずにやけてしまう。


(あー、ダメだ…ニヤニヤしちゃう…これから鶴見中尉と会うって言うのに…しゃんとしないと…)


むにむにとにやけてしまう頬を揉む。
まだ先の話ではあるが、アシリパ奪還したのだから当然協力者である鶴見とアシリパを会わすことになる。
はっきり言って、鶴見に対して信用はない。
だが、そんな相手でも…いや、そんな相手だからこそ協力させておいて『はいさようなら』は許されない。
勢力実力全てあちらの方が上なのだ。
不死身ともてはやされていても1人で第七師団を相手に出来ると思うほど自惚れてはいない。


(これから、か…これから先、どうなるんだろう…)


先の事は不安だらけだ。
アシリパにとって、静秋にとって、どんな選択をすれば二人が幸せになれるのか。
先が分からない不安に押し潰されそうだ。
二度寝をしようと思っても眠れず、仕方なく体を起こす。
まだアシリパや月島達は眠っており、トラフ内は静かだった。
衣擦れの音がやけに大きく聞こえるほど静かで、水城はそんな中、みんなが寝ている傍で鯉登と行為をしたのかと今更ながらに羞恥で顔が真っ赤に染まった。


(ああ〜〜〜!!やっちゃった!!んも〜〜!!なんで断り切れないかなぁ!!いくらなんでもチョロすぎでしょ!!私!!)


思わず頭を抱えてしまうほど水城は恥ずかしくなっていた。
いくら想い合っている仲とは言え、人が傍にいるのに行為をするのを許してしまった。
鯉登との行為を許した時点で水城も共犯だ。
水城は、はあ、と溜息を吐いた後、『顔洗ってこよ…』と立とうとした。
しかし、


「っ…!」


ぬるっとした物が股から出る感触に慌てて座り直す。
膝を立てて座る水城は顔を真っ赤にさせ、視線を下へと向ける。
下に向けてもちゃんと鯉登が服も直してくれたのでニヴフ族の衣装しか見えないのだが…水城はそのぬるっとした物が何か忘れていなかった。


(ああああ…そうだった…中に出したんだっけ…)


あの後、あれから3回ほどした。
いや、”3回で止めてもらった”と言うべきだろうか。
いつ気づかれるか分からない背徳感からか、それとも元々鯉登が絶倫なのか…鯉登のソレは萎える事を知らず、水城が根を上げたのだ。
水城も本当なら付き合ってあげれるほどの体力があったが、流石に寝室でもなければ二人きりでもない状況で鯉登の性欲に付き合えるほど面の皮は厚くはない。


(意識したら余計に感じちゃう…うぅ…本当、私チョロすぎ…)


普通の女性なら嫌だと断れるのだろうが、水城がチョロイの他にもどうしても鯉登を置いて行った罪悪感から強く出れなかった。
その間も、とろっとしたものが股の間から出てゾクゾクさせた。


(赤ちゃん、出来ちゃったかな……アシリパさんに迷惑をかけるのはやだなぁ…………でも…そっか…もし妊娠したらこの子は静秋の妹か弟になるんだよね…)


膝に顔を埋めお腹を擦る。
妊娠したかなど今分かるわけではないが、5回も中に出されたため、可能性は低くはない。
ただ吉平の時も尾形の時も、妊娠するのに時間がかかったため、これで妊娠するとも言えないだろう。
ただ、妊娠した場合、結婚前に妊娠してしまったことへの焦りよりも、アシリパに迷惑をかけてしまうかもしれない焦りの方が強い。
そして息子の妹、又は弟が生まれるかもしれないという喜びもあった。


(出さなきゃいけないのに…なんだか勿体ない気がする…)


アシリパに対して責任があるのと同時に、愛した男の子を孕みたいという女の欲が生まれた。
子供を産めばきっと息子も鯉登も喜ぶだろう。
そう思った。
それと同時に母の顔が浮かんだ。


(お母様も…きっと喜ぶわ……あの人は音之進との子供を楽しみにしていたんだし…)


母の顏を思い出し胸が締め付けられる。
母である静子は鯉登の恋を応援した時から雪乃と鯉登との間の子供を楽しみにしていた。
まだ当時は10歳にもなっていない子供だったが、母は孫を楽しみにしていた。
その楽しそうに笑う母はもう見れないと思うと気持ちが落ち込んでしまう。


「雪乃…?」


はあ、と溜息を吐きかけた時、鯉登が起きたのか名前を呼ばれ現実に戻る。
振り向けば起きたばかりなのか気だるそうに見つめてくる鯉登の色香をダイレクトに受けた水城は内心『ン゙ッ』となったが何とか耐えた。


「ごめんね…起こしちゃった?」

「いや…自然と目が覚めたから心配するな」


え、優しい…好き…、ともはや語彙力すらなくなるほど鯉登にメロメロな水城は『そっか』と笑った。
笑う水城に笑い返しながら鯉登も体を起こし、水城の肩に顎を乗せるように寄り添い、腹部に触れている水城の手の上から己の手を重ねて触れる。


「宿っていればいいな…」


早朝で静まり返り、みんな寝ているとはいえいつ起きるか分からないためか、小声で囁く。
しかし水城はあえてその囁きに答えなかった。
本心は宿ってくれと願うが、その本心を今の立場が邪魔をして言わせてくれない。
せめて鯉登に寄り添う事が精いっぱいの返事だった。


「後で布を渡す…その布を詰めて蓋をしておけ」


返事のない水城を気にしていない様子だったが、続けられた言葉に水城は固まった。
鯉登を見れば彼は冗談を言っているようには見えず、固まる水城の手の上から腹部を撫でる手はとても優しくてそれが逆に怖くなってしまう。
ここで水城は鯉登が本気で自分を妊娠させる気だと気づいた。


「音之進…あの…」

「本当は紙の方がいいんだろうが…紙だとお前が痛がるといけないからな……」


布だと染み込んで落ちてしまうかもしれないが、紙は水城が痛がると思いやめた。
和紙などの良質な紙だと柔らかいので痛がることはないだろうが、ここでそんな紙用意できるはずもない。
そう告げる鯉登に水城は慌てて止めた。


「待って…私、出すから…中に入れたままなんていやよ…」


中に出させておいて妊娠を嫌がるのは勝手だが、水城は妊娠に反対ではないが今のタイミングではないと思っている。
全てが解決して結婚した後に授かりたいと思っていた。
それは勿論鯉登もそうなのだと思っていたのだが、鯉登の言葉に水城は冷や汗を流し、からかっている様子のない鯉登に手を伸ばした。


「…だめか?」


伸ばされた手を取り、鯉登はコテンと小首を傾げ眉を下げて水城を見る。
当然『駄目!』だ。
恋仲で将来結婚するといってもまだまだ二人の間には色々済まさなければならない物事が多すぎて、今妊娠などする余裕はない。
なのだが…


「…だ、めじゃ…ない、です…」


水城には鯉登の頭にショボーンと垂れさがる犬耳が見えた気がし、固くあろうと思う意思が粉々に砕け散っていく。
…が、水城の意思など固くもない事に本人は気づいていない。

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