(214 / 274) 原作沿い (214)

翌日。
水城は予想通り生まれたての小鹿となっていた。
昨日、行為は手加減して夜だけにすると水城と約束し(でもするんかいと思ったのは秘密である)、その約束通り水城を離さなかったのが嘘のように鯉登は大人しかった。


「お茶、淹れたぞ」

「ありがとう」


腰に力が入らないので身の回りは全て鯉登にしてもらっていた。
流石にトイレまで付いてこられるのは恥ずかしいので、トイレは途中まで運んでもらうことになっている。
水城の世話をするのも独占しているということで率先して鯉登は水城の身の回りの世話をしていた。
お茶を淹れて水城に差し出すと、水城は『美味しい』と言って褒めてくれる。
お茶なんて使用人に淹れてもらう事は当たり前、人に何かをするのは経験が浅い自分の淹れたお茶はきっと美味しくもないのに水城は美味しいと言ってくれた。
それが嬉しくてつい顔が緩んでしまう。
『健全もいいものだな』と、行為せず水城と二人きりでほのぼのイチャイチャと過ごすのもいい、と思っていると遠くからトトトと軽い足音が聞こえた。
その音は水城も聞こえており、『なんだろう?』と首を傾げ、お茶を飲もうとしていたが音の方へと視線をやる。
対して鯉登は、音の主をすぐに察したのか機嫌のいい顔が一瞬にして不機嫌に変わる。


「水城ッ!!」


バン、と乱暴に襖を開けてあらわれたのはアシリパだった。
アシリパの姿に水城は目を丸くし、そんな水城をよそにアシリパは水城の元へと駆け寄った。


「水城!無事か!?怪我はないか!?」

「えっ…な、なに?アシリパさんどうしたの?なんでそんな慌てて…」

「どうしたもこうしたもない!!約束ではすぐに帰ってくるはずだっただろう!!なのに鯉登ニシパがこの豊原にいる間はこっちに泊まると言い出して…私は気が気ではなかったぞ!?大丈夫か??鯉登ニシパから酷い事されてないか!?」


走って駆けつけてくれたようで、座っている水城の体を見て怪我がないかをチェックしていた。
そんなアシリパに当然、異を唱えたのは鯉登である。


「おい貴様!!私が雪乃を傷つけると思っているのか!?不愉快だ!訂正しろ!!」

「思っていない!!しかし鯉登ニシパは短気だからな…すぐにカッとなるから心配だったんだ!!」

「誰が短気だ!!」

「すぐ浮気かと騒ぐ奴が短気でなければ何を短気だというんだ!!」


鯉登は自分が短気ではある事に自覚があるのか、言い返せず『うぐっ』と言葉を詰まらせた。
そんな鯉登にアシリパは『フンッ』とドヤ顔していた。


「…ねえ、どういう事?」


ドヤ顔のアシリパを見て『ドヤ顔のアシリパさん可愛い』と思いながら、遅れてやってきた白石に聞く。
白石は勝手に適当な場所に座り、勝手に鯉登が淹れた急須でお茶を淹れて勝手に飲んでいた。
水城の問いにニヤニヤ顔をしながら説明してやる。


「アシリパちゃん、嫉妬してんだよ」

「嫉妬ぉ??誰に??」

「そりゃ鯉登ちゃんに決まってるじゃん??杉元を取られたようで面白くないんじゃないの?」


鯉登と水城が離れに籠っている間、落ち着かなかったらしい。
特攻しないよう月島と白石と谷垣が見張っていたが、流石に空気を察していたのか月島達が恐れた『夫婦の営みを子供が目撃してトラウマ化』とならずに済んだのはいい事だが、代わりに普段の大人顔負けの落ち着きの良さが皆無となったのだ。
どうやらアシリパは無意識だが水城と親しい相手に嫉妬してしまうようで、尾形の時も無意識に嫉妬していたのを白石は何となく気づいていた。
しかし、水城が首を傾げたのを見て、『あっ…これ天然記念物パターンや』と白石は思った。
だが水城はアシリパに嫉妬されたと分かったのか、嬉しくてニヤつく顔を隠すように両頬を手で隠すように覆う。


「水城!!今日は私と出掛けよう!!この街にはまだ色々と見て回りたいし街の外にも興味がある!」


いつものじゃれ合い(と言う名の喧嘩)も終わったのか、気づけば鯉登は部屋を出て姿はなく、アシリパが水城に振り返り出かけようと声をかける。
その誘いに水城は困ったように眉を下げ笑った。


「あー…ごめんね、アシリパさん…今日はちょっと無理かな…」

「やはり体調が悪いのか?」


鯉登に酷い事をされた、という前提で心配するアシリパに水城は仲の悪さに苦笑いを浮かべる。


「体調は悪くはないんだけどね…ちょっと……その………こ、こけて…足腰立たなくなってるっていうか…小鹿っていうか……」

「こけたのか…大丈夫なのか??怪我はないか??」

「う、うん…」


流石に『エッチしすぎて足腰立たなくなりました』とはアシリパに言えず、水城は言いにくそうにポショポショと小声で呟く。
その呟きにアシリパは心配そうに水城を見るが、純粋で疑いもないアシリパの目に水城は直視できずそっと目を逸らす。
しかしその逸らした先にはニヤニヤ顔を更にニヤニヤとさせた白石が見えた。
その目は『お盛んだねぇ〜』と言っていたので、とりあえず机の下から蹴っておく。
『いったぁ〜〜っ!!』と足を押さえて転がる白石をアシリパが『何をやってるんだ?』と首を傾げていた。
白石の奇行に『全く白石はしょうがない奴だなぁ』とアシリパは笑い、水城は話が逸れた事に安堵する。


「今日は無理だけど…明日なら大丈夫だよ」

「明日?体は大丈夫なのか?」

「大丈夫!なんていったって私は不死身の杉元だからね!」


体調を気遣ってくれるアシリパに、水城はグッと拳を握って笑って見せる。
それにとりあえずは安堵したのか、『そうか』と笑った。
そうこうしていると鯉登が戻ってきた。
その手には二人分のコップとお茶菓子があった。
どうやら二人の為に持ってきたらしいのだが、自分のコップはすでに白石に飲まれていた。
丁度飲もうと思って口をつけていなかったので何も言わなかったが、仕方ないので持ってきたコップを使う事にする。


「へえ、やっぱ特別な部屋だと出てくる菓子も違うんだなぁ…お茶もいいお茶っぱだし」


白石は良いお茶っぱとお菓子に気づき、舌鼓を打つ。
アシリパもアイヌの村では決して食べれないお菓子に目を輝かせて食べていた。
頬を膨らませて食べるアシリパに水城は『もう、ついてるよ〜アシリパさんってば〜』とメロメロの骨抜きにされていた。
それを鯉登はジト目で見ていたが、一応は気を使っているのか騒ぐことはなかった。
鯉登が席を外している間、水城の隣にはアシリパが座ってしまったので、鯉登の隣は白石が座っている。
チラリと大人しい鯉登を白石は『えっ…大人しい鯉登ちゃん…きもちわるっっ』と思いつつ見たが、気づかれると面倒なのでそっと視線を戻した。


「そういえば水城…食事はどうするんだ?ここで食べるのか?」


楽しそうに会話をしている二人を男二人は会話なく見ていると、ふと、アシリパが気になった事を聞く。
それは食事の事だった。
こちらで鯉登と二人で寝泊りするのは聞いている。
不満はあるが、白石に『杉元も鯉登ちゃんも長い間離れ離れだったんだし、ちょっとは独占を許してあげてもいいんじゃない?』と言われてしまい、これ以上駄々を捏ねるのは子供っぽいと不満は不満だが、無理矢理身を引いた。
寂しさはあるが、夫となるはずの尾形に裏切られ傷ついた心を鯉登との再会で癒された(アシリパ視点)のを思うとアシリパも水城の事を大切に思っているため無理に引き離せない。
ただ、食事の事はまだ聞いていなかったのでそれを問えば、水城は鯉登を見る。
それに釣られたように全員鯉登を見れば、お菓子の包み紙を解いていた鯉登はアシリパの問いに答える。


「こちらでとるつもりだが…雪乃が望むならオマケもこちらでとるのを許してやる」


『雪乃がどうしてもと言うならな、雪乃が』、と心底嫌だけどお前が言うのならば仕方がない、と装う。
勿論本音は断りたい。
白石は『その態度はマイナスだぞ〜』と思いつつ、水城と鯉登のお互いへの好感度はもはや100単位どころではないので、そんなことでマイナスになることはないと知っているので心の隅に放り捨てる。


「じゃあ…一緒に食べようか、アシリパさん」


鯉登の憎まれ口な言葉を水城はプラスととらえたのか、嬉しそうに笑みを浮かべ、アシリパ(ついでに白石)と一緒に食べれると嬉しそうにはにかむ。
鯉登と二人っきりもいいが、やはり、アシリパと一緒にいないのも寂しかった。
鯉登としては水城と二人きりではないというのには不満だらけではあったが、水城の楽しそうな笑みにその不満は散って消える。

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