最初の挑戦はAチーム対Dチームだった。
Aチームの緑谷と麗日はヒーロー側。
Bチームの爆豪と飯田はヴィラン側として選ばれた。
爆豪と飯田はヴィランとして舞台であるビルの中に入り、緑谷と麗日はヒーローとしてその5分後にビルに侵入することになっている。
他の生徒やオールマイトはモニターにある別室でAチームとBチームの対決を見ることになっている。
――2チームの対決は初っ端から激しい戦いだった。
結果として、ヒーロー側のAチームの勝利。
だが、この授業が授業ではなく本物のヒーローとヴィランで、本物の核兵器だったのなら、ヒーローの負けだっただろう。
Aチームは恐らく授業であり核兵器も本物ではないという頭が入りすぎたためか無茶なやり方で勝利した。
その為、本来ならヴィランチームである飯田と爆豪の勝利になっていただろう。
とは言え、核兵器の回収はした。
勝利条件を達成したヒーロー側の勝利となった。
(緑谷様と爆豪様は幼馴染とお茶子さんが仰っていましたね…)
呆然とする爆豪をチラリと見ながら琴子は思う。
どうやら緑谷と爆豪も因縁があるようで、特に琴子は爆豪が緑谷を意識しているようにも見えた。
だが、緑谷の戦い方を見ていると緑谷も爆豪を意識しているようにも見えた。
何がどうなってここまで拗れたかは分からないが、琴子にも一馬という存在がある以上、余計なことを言う気にもならない。
――――そして、クラスメイト達の奮闘をモニター越しで見ていると、ついに琴子のいるKチームの番が回ってきた。
琴子と一馬はヒーロー側として選ばれ、相手はFチームの砂藤と口田だった。
砂藤の個性はシュガードープ…糖分10グラムにつき3分間パワーが5倍になる。
口田の個性は生き物ボイス…声で生き物を操る事が出来る。
どの個性も強力だ。
しかし琴子は負ける気がしなかった。
まだ彼らの力がどれ程度なのか分からないのもあるのだろう。
「義国さん、建物に入ってからどう動く?」
5分後、侵入するためビルの前に待機する。
まずすべき事は作戦を立てる事。
だが、隣にいる(モニターで見ていた他のクラスメイトより距離が開いている)琴子に声をかけるが、当然のごとく無視されてしまった。
笑顔はそのままにこちらを見向きもしない琴子に一馬は口を閉ざす。
今までの冷遇を見て、作戦を一緒に考えたり、自分が立てた作戦をそれ通りに動いてくれるわけではないのは分かっているのだろう。
「…………」
琴子は時間がくるまでビルの前に立っていたが、静かになった一馬をチラリと見る。
彼はどこか落ち込んでいるようにも見えた。
そこに同情もないし、罪悪感もない。
だが、琴子はふと、一回戦の戦いを思い出す。
(爆豪様は私…)
思い出したのは、爆豪の姿。
爆豪は琴子。
そして緑谷は一馬だ。
琴子も爆豪同様、一馬を意識しすぎている。
このままいけば、恐らくどちらもトップを狙いすぎて事故るのは間違いはないだろう。
琴子は溜息をつき、一馬に向かい合う。
「作戦はありますか」
本当は一馬の顔を見るのも吐き気がする。
だが、ヒーローとなるのなら、嫌いな相手でも時には協力を余儀なくされるだろう。
そこで嫌っているからと勝手な行動をすれば救える命も救えなくなる。
それを教えてくれたのは爆豪だ。
反面教師のように爆豪が暴走してくれたおかげで琴子は冷静さを取り戻す事ができた。
彼は天才だし、粗暴そうに見えても器用で、常に冷静であるのだろう。
だが、彼は緑谷のことになれば感情が抑えられないようだ。
それが琴子と重なっているのだ。
琴子の言葉に一馬は何を言われたのか分からないように『えっ?』とキョトンと呆けて見せていた。
その顔も反応も全て琴子を苛立たせる。
だが、その苛立ちを押さえこみ冷静を保つ。
「二度は言いません…あるなら早く仰ってください」
「あっ…!え、えっと……砂藤くんはパワー系だから僕が相手になるよ…義国さんは口田くんをお願いしてほしいなって思って…」
作戦らしい作戦はない。
だが、琴子がどんな個性なのか分からないというのもあるが、流石に女子にパワー系の個性を持つ砂藤を相手にしてほしいとは男子としては言えなかった。
ヒーローを目指しているのなら、男も女も関係ないと怒られるかもしれないが、琴子は特に小柄でぬいぐるみの個性というのもあってどうしてもパワー系の個性とは相性が悪いと思ってしまう。
その気遣いは琴子にも届いており、嫌っている相手から気を使われ、女の子扱いされ、不愉快に顔を顰める。
「パワー系なら、私が砂藤様のお相手をいたします…私の子達の中にはパワー系がいますから…あなたは幻覚系の個性です…砂藤様ではなく口田様の方が相性もよろしいでしょう…私は砂藤様、あなたは口田様…後はご自身のご判断で動いてください」
そう言って琴子は一馬からビルへと視線を向けた。
その横顔や空気は、もう話す事はないと言っていた。
一馬は何か言いかけてやめた。
琴子に好かれていないのは分かっていたし、それは好き嫌いというレベルではないのも分かっているし、その理由も理解している。
だからこうして話を聞いてくれた事は奇跡に近い。
既にこちらを見向きもしなくなった琴子に、一馬は『う、うん…お願いね』と言葉を交わそうとしたが、それは当然無視された。
しかし、無視されたが、一馬は嬉しさで気持ちが浮いていた。
5分後、オールマイトの合図によって琴子と一馬は侵入する場所を探し、ビルの入る。
二人の間に会話はなかったが、役割は分かっていた。
まず、幻覚の個性を持つ一馬がネズミの幻覚を出し、曲がり角などからヴィラン側の気配や姿を確認し、誰もいなかったらそのまま進む。
それを繰り返し、琴子達は奥へ奥へと進んでいく。
その様子は勿論別部屋にいる焦凍達には丸見えだ。
「義国と内規ってさ…結構相性いいよな」
それを呟いたのは誰だろうか。
焦凍はその声の方へと視線をやれば、まるで個性を表すように金色の髪を持つ上鳴だった。
上鳴の言葉に、瀬呂が同意するように頷く。
「確かにそうだな…義国って内規を一方的に嫌っているけどあれ見る限り相性は悪くは見えねえよなぁ」
「もったいねえな」
切島も続き、彼らの会話が耳に入ってくる焦凍は彼らをチラリと見た後、モニターに視線を戻す。
モニターにはヴィラン側とヒーロー側がそれぞれ映っている。
暫くヴィラン側は動かなかったが、ヒーロー側が動いたのを察知したのか核兵器の見張り以外のヴィランが動き出した。
本来なら両方を見た方がいいだろう。
だが、焦凍はどうしてか、琴子と一馬が映るモニターから目が離せなかった。
「ねえ、どうして琴子ちゃんって内規くんの事嫌ってるの?」
一馬が何かを察知したのか、後ろに続く琴子に手で制して止めた。
ぴったりと壁に張り付き気配を消す二人。
この時ばかりは険悪なムードは琴子から見られず、一馬の制止を素直に聞く。
モニター越しだが、確かに二人の息は合っている。
侵入とはいえ、相性の悪い相手だと、見ていても分かるほど動きが違うのだ。
その姿を内心モヤモヤさせながら見ていると、葉隠に声を掛けられた。
そちらに目をやれば、葉隠の他に、興味があるのだろう、女子達がこちらを見ていた。
恐らく、男子も琴子が一馬を嫌う理由が知りたいのか、女子ほど露骨ではないがこちらをチラチラと見ている気配は分かった。
なぜか自分に問う葉隠に、焦凍は無意識に眉を顰め葉隠を見る。
「なぜ俺に聞く…あいつに聞けばいいだろ」
「だって…轟くんと琴子ちゃんって付き合ってるんだよね?」
葉隠の言葉に男子達から『えっ』という声が聞こえた。(気のせいだが、オールマイトの声も聞こえた気がした…気のせいだが)
ちなみに、リア充は絶対許さないマンな峰田は、『へぇ…リア充ですか…へぇ…轟くんはイケメンですからねぇ』となぜか敬語で話しかけられた。
そして、何故か血走った目でニッコリと笑いこちらを見ていた。
恋仲と思われるのが今の焦凍には癪で、眉のしわを深め、画面へと視線を戻した。
「付き合ってねえ」
「え?じゃあ…」
「婚約してるだけだ」
その瞬間、シン、とその場の音という音が消えた。
静まり返るその場に、焦凍も流石に気づき周りを見渡す。
なぜか、全員がこちらを見ていた。
「なんだ?」
コテン、と首を傾げた。
なぜ自分を見ているのかが分からないと顔にデカデカと書いてあった。
首を傾げる焦凍に、誰もが口を閉じ…点、点、点…と続き…
「こ…婚約ぅ!!???」
その場にいる全員が、叫んだ。
何故叫ばれるのか分からない焦凍だが、静かに頷く。
頷く焦凍に女子が詰め寄る。
「こ、婚約って…あの婚約!?」
「婚約ってあれだよね!?結婚を約束してるやつだよね!?」
「他にあるのか?」
「ないよ!?ないけども…!!待って…え???待って??私達と同級生だから轟くんも琴子ちゃんも15歳だよね!?えええ!?は、早いね!婚約するの早いね!!???」
その場は混乱していた。
女子達も男子達も焦凍の言葉に衝撃が走った。
峰田なんて『ちくしょぉぉ…!ちくしょぉぉ…!イケメンなんて…!イケメンなんて滅んじまえよぉぉぉ!!』と血走った目どころか、血涙を流しながら悔しさを表すように床をドンドン叩いていた。
「何を勘違いしているのか分からんが…婚約は俺達の意思はないぞ」
「え?でも…婚約なんだよね?」
「婚約って言っても俺達が決めたことじゃない…親同士が決めた事だ」
そう言えば騒がしくなっていたその場も少し静かになる。
そして、チラホラ納得と同情した目を向けられた。
――琴子と焦凍は婚約者だ。
しかし、そこに彼らの意思と気持ちはない。
幼い頃から両者の親同士が勝手に決めた事でしかなく、少なくとも焦凍は今は解消したくてたまらない。
だけど父親は聞く耳持たず、琴子の家も焦凍と琴子の感情など気にも留めていない。
淡々としている焦凍の話に、『ドラマみてぇだな』と男子の誰かが呟いたが、興味もなく誰の声かは確認しなかった。
ちなみに、その時オールマイトは『ひぇ…今どきの高校生は進んでるって本当だったんだ…』と身震いさせながら思っていたとは誰も知る由もない。
そんな現実味のない話に唖然としているその場をよそに、焦凍はモニターへ視線を戻す。
すると、モニターには対峙するヒーローとヴィランの映像が映し出された。
別部屋ではまさか自分の話題で混乱が起こっているとは知らず…琴子は一馬を先頭に静かにビルの中を移動していた。
授業ではあるが、琴子は一馬へと嫌悪をひとまず封じることにした。
ぬいぐるみでも偵察は出来るが、ぬいぐるみよりも一馬の個性の方が偵察には便利だった。
とはいえ、偵察が出来ると言っても、個性も万能ではない。
一馬も幻覚が出せる範囲は限られているし、一馬と幻覚が繋がっているわけでもないし、幻覚が気配を感じても一馬は気配を感じる事は出来ない。
しかし、同種同士なら意思疎通は出来るらしく、二匹のネズミを幻覚で出し、一匹は偵察を、もう一匹は一馬の肩に乗って異変があれば一馬に知らせるシステムをとった。
死角が一番危険なため、曲がり角があれば、幻覚で確認してから曲がる事にした。
「待って…近づいている…」
すると、肩に乗っていたネズミがチュウと鳴いた。
何か幻覚のネズミに引っかかり、一馬はネズミの鳴き声で琴子に制止を求めた。
普段なら無視しているが、今はタッグを組んでいるため、それに従う。
「誰です」
「ごめん、そこまでは分からない…でも…」
姿が見えたため制止していると思ったが、気配の方だったらしく、口田か砂藤か分からなかった。
首を振り琴子に振り返ったその時―――目の前の壁が破壊され、砂藤が姿を現した。
「砂藤くん…!」
目の前の壁にピシリとヒビが入ったかと思ったその時、瓦礫と砂埃と共に砂藤が現れた。
糖分を摂取し、倍増となったその力で壁を破壊し不意をついた。
個性を使いきれていないのもあるし、一馬の個性は偵察を得意とした個性というわけではない。
どこかしら隙間があるのは仕方のない事だ。
一馬の事は気に入らないが、琴子はそこを責めるつもりない。
琴子は砂藤が瓦礫と共に現れた瞬間に判断した。
始まる前に、砂藤は琴子の担当と決めた。
琴子は咄嗟の判断に、驚く一馬の前に出た。
「義国さ…」
自分を庇うように前に出てきた琴子に、一馬はハッと我に返った。
琴子は小柄だが、大柄な砂藤を前にすると、その小柄さと華奢さが強く表れた。
琴子がひ弱なわけではないし、琴子を信用していないわけではない。
ただ、見た目からつい庇いそうになった。
そんな一馬を無視し、琴子は影からウサギのぬいぐるみを出した。
「先にはいかせねえ!!!」
ヒーロー志望ではあるが、やるからにはヴィランになりるつもりらしい。
元々厳つい顔を更に厳つくし、『ウガー』とヴィランぶりを見せる砂藤にウサギのぬいぐるみが立ち向かう。
ぴょんと影から飛び出て琴子をジャンプ台として踏み台にし、主人よりも背の高い琴子に向かう。
琴子はウサギのぬいぐるみが砂藤に向かって飛ぶのを見た後、後ろにいる一馬を見る。
いや、睨む。
その睨みに一馬はその鋭い視線に自分の役割を思い出し、驚いていた表情を浮かべていたが、真剣な表情に変え、琴子の後ろから走り出し砂藤の横を通り抜けようとする。
「させるか!!」
ヴィランならば、当然止める。
砂藤はヴィランとなりきり、脇を抜けようとする一馬を止めようとした。
しかし、一馬に向かって伸ばされる手をウサギが蹴って弾いた。
『い゙ッ!』と痛みに声を零し、顔を顰める砂藤をよそに、一馬は足を止めず核兵器を守っているであろう口田の元へと向かった。
『しまった』と思うよりも前に、狭さを利用してそのまま壁を蹴って戻ってきたウサギのぬいぐるみに背中を蹴られた。
「ぅ゙ッ、けほ…ッ」
これでも琴子は手加減するよう指示をしていた。
だが、激痛とはいかないまでも結構な痛さらしく、咳き込んでしまう。
「すまん…!抜かれた!!」
ヒーロー側にはインカムを配られてはいるが、当然ヴィランにも配られている。
耳に手を当て喋る相手は当然相棒である口田だろう。
琴子は気が逸れていると判断し、静かに砂藤に向かって指を指す。
その指示にウサギのぬいぐるみが動いた。
ウサギのぬいぐるみはピョンと地面を蹴り、なぜか壁へと向かって飛ぶ。
壁に足が触れると足に力を入れ、思いっきり砂藤に向かって飛んだ。
また蹴りを食らわそうとしていたのだろう。
しかし、砂藤だって難関である雄英高校のヒーロー科に合格したほどの力の持ち主だ。
ウサギのぬいぐるみの攻撃を避け、小さいぬいぐるみを掴んで地面に押し付けた。
思いっきり押し付けたため、砂藤とぬいぐるみを中心にヒビが広がる。
「…!」
琴子は砂藤の個性がどれほどか分からなかったため、ウサギのぬいぐるみを出した。
ウサギは見た目に反してその力は強い。
小さいぬいぐるみで速さもあったため、数あるぬいぐるみの中でもウサギを選択した。
だが、砂藤のパワーは案外あったようで、ウサギのぬいぐるみは捕まってしまった。
恐らくネコのぬいぐるみを出しても無駄だろう。
(こんな狭い所で戦いたくはないですが…仕方ないですね…)
普段なら猫かウサギで十分だった。
だが、やはりヒーローを目指すだけあって簡単にはいかないらしい。
琴子は小さく溜息をつく。
それと同時に砂藤の手でジタバタと手足を動かして抵抗するウサギのぬいぐるみが地面に溶け込むように消えた。
そして、砂藤の目の前に大きな影がぬっとあらわれた。
消えたぬいぐるみに怪訝としていた砂藤だったが、影に気づき顔を上げた。
そこには琴子を守るように立つ、黒い布を纏うゴリラのぬいぐるみが立っていた。
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