(13 / 43) その生命に恋う (13)

少年は何となく、少女と会った場所にほぼ毎日通っていた。
最初の一週間ほどは、天性の迷子が発動して道に迷っていたが、見かねたワイルドエリアの野生ポケモン達が案内してくれるようになった。
何故、野生のポケモンが案内してくれるようになったかと言えば、通いすぎたのもあるが、あの時いた進化前のゴビット達に聞いて回っていたのが効いたのだろう。
最初はきゅるんと愛らしい目をしながら『ぼくわかんなぁい』と首を傾げていたポケモン達が段々と『コイツ面倒くせぇ』的な目で少年を見るようになっていった。
ポケモンに聞いても彼らが分かるはずがないと思っていても、彼らしか彼女との繋がりがなかったためダメ元で聞いていた。
それが功を奏したようではあったが、彼らに案内された場所に何度も足を運んだが少女は一度も姿を見せることはなかった。
因みに、道に迷い何度も同じ場所を通るのを見て、知り合った仲というのもあるのか、ポケモン達が道に迷わないように傍にいてくれるようになった。
少年が究極の迷子の達人だと気づいたポケモン達は『駄目だこいつ…早く何とかしないと…』という遠く死んだ目をしていたのは少年には気づかれていない。
因みに迷子防止として、リザードンも出ている。


(まあ、仕方ないか…ここはワイルドエリアだし…そもそも彼女は他の地方から来た旅行客のようだったし…いつまでもここにいるわけではないか…)


少女の容姿や服装、そして言葉が通じなかったところからガラル地方の人間ではないのは分かった。
顔の作りからして、エンジンシティのジムリーダーであるカブと同じ系統のように見えた。


(ということはホウエン地方の人なのか…あれから1週間以上…もう帰ってしまった…んだろうな…)


カブはガラル地方の人間ではなく、ホウエン地方の人間である。
他の地方の人間がジムリーダーになれないわけではないが、珍しいことだった。
少年はガラル地方から出た事はなく、他の地方の顔つきまでは知らないが、何となく少女とカブの顔つきは似ているように思える。
だから少女はカブと同じ地方の人間かと思ったのだ。
ならば、恐らくは少女はもうこの地にはいないだろう。
まだ両親の仕事の都合でこちらに越してきたならチャンスはある。
しかし、1週間以上ここに通い、ワイルドエリアどころか街まで探し回っているのに、痕跡すら見つける事ができないのなら、旅行者である可能性が高いだろう。
旅行者ならすでに1週間以上経っているためもうこの地を去ってしまったはず。
そもそも、なぜここまで会ったばかり、それも異国の旅行者で不愛想だった彼女を気に留めるのか。


(…なんでだろう…なんか気になったんだよな…)


どうしてか、少女の事が頭から離れなかった。
寝ても覚めてもではないが、時々ふと思い出すのだ。
木の実の採り方も分からなかった彼女に対して庇護欲が生まれたのかは分からないが、放っておけないと思った。


(それに…あれはどう考えても野生のポケモンだったよな)


そしてもう一つ。
気になると言えば、少女と共に姿を消したゴルンダ達との関係も気になる。
最初は手持ちか、家族のポケモンかと無理矢理だが思ったが、どう考えてもあれは野生だった。
ならば、なぜ、野生があそこまで少女に懐くのか。
それが気になったのもある。


「ピカ!」


うんうんと考え込んでその場で座り込んでいると、ピカチュウの声が聞こえた。
振り返ると、このエリアには出ないピカチュウがこちらに走ってきているのが見えた。


「ピカピカ!ピカ!」

「君…もしかしてあの時のピカチュウ?」

「ピカ!」


ポケモンには縄張りがあり、迷子でなければその縄張りから出ることはあまりない。
この辺りのエリアにはいないピカチュウという事は、トレーナーの手持ちか、少年が探している子の手持ちのどちらかだろう。
ピカチュウはぴょんと飛び跳ねるように少年の胸元にダイブしてきたので、思わず抱きとめた。
嬉しそうに少年に笑顔を見せるので、少年が問いかければ、正解だと言わんばかりに手を上げ更に笑みを深めた。
合っていたことに少年はホッと胸を下したが、ふと気づく。


「君がここにいるってことは…」

「ピカピ!ピッカ!」


あの子のピカチュウがここにいるのなら、探していたあの子もここにいるはず。
ハッとそれに気づいた少年はピカチュウを抱きながら辺りを見渡すようにあの子、少女を探す。
しかし、少女の姿はなく、少年はピカチュウを見下ろす。


「君の主人はどこにいるかな?」

「ピ!」


少年の問いに、ピカチュウは少年の腕の中から小さな短い手でどこかを指す。
恐らく案内してくれるのだろう。
少年がその指す方向へ移動すると、足元にいたポケモン達も続いた。
ピカチュウがいて、案内してくれても、迷うのが、少年である。(ポケモン達は学んだ)


「うわぁ…」


少年は一目見て、その光景に顔をひきつらせた。
腕の中にいるピカチュウが困った声を零し、後ろにいたリザードンも『うわぁ』と言っているように鳴いた。
リザードンとは長い付き合いだが、そんな声は初めて聞いた。


「ピカピカ、ピッカ、ピカピ!ピカピカ!」


腕の中にいたピカチュウは少年を見上げ、何かを訴える。
声をかけられたのでピカチュウの方へと視線を移すと、彼は指をさしていた。
その指を指している方をもう一度見ると、何も変わらない…―――魚が山積みになっている光景が見えた。
視線を反らすことで夢だったのではと現実逃避していた少年だったが、夢ではなく現実だったと突きつけられる。
どうやらピカチュウもその魚の山に困っていたらしく、少年に気づいて助けを求めに駆けつけたらしい。


「――――」


少年に気づいたらしい少女が、ギャラドスに乗りながら戻ってきた。
前回との違いは、少女の肩にカバンがかけられていた。
ギャラドスから降りた少女は顔を寄せたギャラドスの顔を撫でた後、少女は少年に声をかける。
それに少年は更に顔を引きつらせる。
それは言葉が通じていないからではない。
勿論、原因は少女が乗っているギャラドスである。
嬉しそうな声で鳴いた後戻っていったギャラドスは野生だった。
気性の荒さで有名なポケモン(しかも野生)を手懐けている様子を見て、マイペースだと幼馴染と、この旅で仲良くなった友人達に散々言われていた少年でも流石に顔を引きつらせた。
とりあえず、何を言ったのか分からなかったが、挨拶だけはしておく。


「この魚どうしたんだ?」

「?」


言葉が通じないのは分かってはいるが、気になったので聞くとやはり首を傾げられた。
それでも相変わらずの無表情だったが、少年にはなんだかキョトンとしているように見えた。
腕の中でピカチュウが説明してくれているように鳴いていたが、少年は人間なので分からない。
すると少女の後ろから何かが自ら上がる音が聞こえ、そちらに視線を向ける。
そこにはヌオーと、このエリアに生息している水ポケモン達が魚を追加に持ってきたのが見えた。
それを見て、魚の山の謎が解けた。
少年は呆気にとられながら魚の山を更に大きくさせる水ポケモン達を見つめていた。


「えっと…これ、全部君達が食べるのか?」


そう少女に問えば、意味が分からないのか無反応。
ピカチュウを降ろしながら彼を見れば、ピカチュウは思いっきり首を振った。
食べるには食べるのだろうが、流石に一人と一匹では多すぎるのだろう。
最後の一匹を山頂に投げ終えたポケモン達は帰っていった。


「ん?君は帰らなくていいのか?」


最後の一匹が水の中に消えたのを見送った少年は、一匹だけ残っているのに気づく。
少女の傍にいるのは、ヌオーだった。
ヌオーに声をかければ、ヌオーはゆっくりとした動きでこちらを向き、これまたゆっくりと鳴いた。
少女の傍にいるところから、彼女もピカチュウと同じく少女の手持ちなのだろう。


「さて…これはどうしようか」


再会できたのは嬉しい。
言葉が通じないが、色々と話したい。
だが、その前にこの目の前に聳え立つ問題を解決するのが先だろう。
何といっても生物である。
木の実と違って日持ちはしない。


「何匹かは俺の方で捌けるけど…俺もこれ貰ってもいいか?」

「ピカ!!ピカピカ!!」


一応断りを入れると、ピカチュウからは『勿論だよ!!むしろありがとう!!』と言っているような元気な声が聞こえた。
嬉しそうなキラキラとした目を向けられ、少年はよほど困っていたのかと苦笑いをする。
『捌けるっていっても何十匹は無理だからな』と言えば、ピカチュウは頷いた。
一匹二匹でも貰ってくれるだけありがたいのだろう。
二人のやり取りを少女はぼうっとしながら見つめていた。


「写真、撮っていい?勿論彼女や君達が写らないように気を付けるからさ」

「ピカピ!」


少女たちの分はヌオーが確保しているらしいので、ピカチュウに許可を得て食べきれない量の魚をロトムスマホで撮る。
勿論、少女やピカチュウ、ヌオーを撮らないように気を付けながら。
カシャと少女たちが写らない位置で写真を撮るロトムが確認させるために戻ってくる。


《これでいいロト?》


ロトムが姿のままにいるのなら、首を傾げていただろう。
短くも長い付き合いの彼だから安易に想像できる。
そんな愛らしい姿を想像しながら、少年はふと気づく。


「ピカ?」


カシャ、と音が聞こえた気がして、ピカチュウは後ろに振り返る。
ピカチュウの視線に気づいたのか、少年は『どうした?』と笑った。
笑顔も雰囲気もいつもの少年だったので、ピカチュウは先ほどの音は気のせいかと思い少女の元へと戻っていく。
少女はヌオーに甘えられて相手をしていたらしく、ヌオーを撫でていた。
無表情ではあるもののその手は優しく、撫でられているヌオーはとても嬉しそうな表情を浮かべている。


「………」


構ってほしいと足に頬ずりをして甘えるピカチュウに気づき、少女はしゃがんで頭を撫でる。
するとまた、カシャ、と音がしたが、ピカチュウは少女に構ってもらえたことが嬉しくて気づいていない。
そんな少女を横目に見つめながら、少年はささっとロトムスマホから友人達に協力要請を送る。
手慣れた手で友人に写真と文字を送ると、すぐに返事が来た。
この時期、この街にいる友人達が暇なのは確定済みなので、色よい返事を目にしつつ、返す言葉を打つのを止める。


「全部じゃないけど俺の友人達も食べてくれるらしい…あと友人の一人が知り合いの人に魚を引き取ってくれるよう頼んでくれたみたいだ……君達はどうする?一緒に食べる?」


魚の山を見てドラゴン使いの友人から『お前wwどれだけ獲ったんだよwwワイルドエリア全域の魚を獲るつもりかww』といつも通りのテンションの高いコメントが送られ、悪使いの友人からは『いい加減お前は手加減というものを覚えたほうがいい』と少し説教された。(これに関しては遺憾の意である)
ただ、朗報が一つあった。
友人の一人の故郷が漁業で有名な街出身で、両親が漁師や市場で働いているためその伝手で残りの魚を引き取ってくれるというのだ。
自分達はまだまだ食べ盛りなので、魚ばかりではあるが十数匹は捌けるとはいえ、残りが問題であった。
その問題も解決し、少し早い昼食を仲間達と食べることになった。
魚を獲ったのはポケモンではあるものの、そのポケモン達は少女の為に獲ったのだろう。
その少女を抜いて勝手に魚を貰って友人達と食べるのは非常識かと思い、一緒に食べるかと聞く。


「ピカピカァ、ピッカ」


するとピカチュウに首を振られてしまう。
どうやら用があるのか今日はこのまま帰るらしい。
ヌオーが『れいとうビーム(小)』で魚を凍らせ鮮度を保ってくれた。
器用に凍らせ過ぎないように技を使うヌオーを見て『器用ダナー』と見なかったことにした。
ピカチュウがお礼を言うように少年に向かって愛らしい声で鳴くと、鮮度を保ち終えたヌオーは自分達が数日食べる分の魚だけをとって歩き出した。
それを見て少女も歩き出し、少年はジッと少女の背中を見つめて見送る。
正直、名残惜しいと思っていた。
やっと再会したのだからもっと一緒にいたかったし、言葉が通じなくても話したかった。
しかし、同時に安堵もしていた。
安心したという感情に、少年は首を傾げた。
モヤモヤした何かが胸につっかえ、胸元に触れて首を傾げていると、ふと少女が立ち止まり振り返る。
少年は少女がそのまま振り返りもせず帰ってしまうのだと思っていたため、立ち止まって振り返った少女に驚いた表情を浮かべた。
少女の黒く綺麗な瞳が少年を真っ直ぐ射貫くように見つめる。
少女が何をするのか少年は見守っていると、少女は何も言わずただ少年に向かって手を振っただけだった。
手を振って満足したのか、少年の反応など気にも留めず少女は歩き出す。
意外な反応を見せてくれた少女に驚いて言葉も出なかった少年を置いて、少女達はその場から姿をけした。


「…………」


少女が消えた方向を呆けたように立ち尽くす少年の足元に、進化前の愛らしいポケモン達が集まり、彼を見上げて全員が首を傾げた。

彼の顔がまるでオクタンのようだったのが不思議だったのだ。

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