(43 / 43) その生命に恋う (43)

『はい、どうぞ』と、ユズキにお茶を出してもらったキバナは笑顔で『ありがとう』とお礼を言って受け取った。
ユズキもキバナも、カブが来るまで話をしていたからか、2人とも喉が渇いていた。
ポケモン達は、カブが常に置いているポケモン達用の飲み水を既に頂いているので喉は乾いていない。
キバナは喉を潤しながら、ユズキをチラリと見る。


「しかし…ユズキは相変わらずポケモン達に懐かれてるなぁ」


ユズキの周囲にはカブとキバナとユズキのポケモン達でがっちりと固められており、膝の上には定位置らしい見慣れない色のロコンとカジッチュがいた。
入る気はないが、キバナやキバナとカブのポケモン達でさえ入り込む隙間さえないほどの懐かれように、キバナは懐かしい反面、感心してしまう。
キバナはポケモン団子に包まれた餡のユズキの構図に苦笑いを浮かべる。
キバナの言葉に、『当り前!』と言わんばかりの返事がポケモン達から返ってキバナは思わず笑い声が漏れた。


「ところで、このロコンって色違いか?」


ロコンの色違いは実際に見た事はないが、記事か何かで見た記憶がある。
確か、黄色だったと記憶しているキバナは、物珍しく雪のような真っ白なロコンを見ていた。
自分のことを話されていると気づいたのか、ユズキのお膝の上で『コーン!』とキバナに挨拶するように鳴く。
その姿が可愛くて、キバナの頬はすっかり緩んでいた。


「カブさんが、言ってた…あろーら?って、ところの子、なんだって」


ユズキの言葉に『なるほど』と時々発見される国による姿の違いかと納得する。
本来のロコン―――というより、多く見られる個体は、赤みのある茶色の毛色を持っている個体だ。
アローラにいるロコンは、その土地に適応し生き残るため、タイプそのものを変化させたのだろう。
そして、それは成功し、現在でもアローラには真っ白な姿のロコンが野生でも存在している。
ユズキはそれを知らないため、カブから聞いて初めて知った。
ユズキはこの世界の事を知らないのだ。
本来この世界が自分のいるべき場所であり、そこにポケモンという生き物がいる。
この世界の人間のように、ユズキもポケモンを当たり前のように受け入れていた。
だから、どれだけ地域差のある姿が人の目にどのように写るかなど疎い。


「この子、タマゴの子」

「タマゴ……ってあのタマゴか!?」


ユズキの言葉に、キバナは一瞬フリーズするが、目を真ん丸にして驚く。
キバナはロコンを10年前までカバンに入っていたタマゴとは思っておらず、驚きが隠せなかった。
そんなキバナに、ロコンは『そうだよ!』と言わんばかりに自慢気に鳴く。


「アローラロコンってことは…氷タイプだったよな…進化したら氷にフェアリーがつくのか〜!ガッツリ俺様の天敵じゃん!」


キバナはドラゴン使いなため、氷とフェアリーは天敵だ。
タイプ相性だけを見れば、アローラキュウコン一匹で崩されかねないパーティではあるが、そこは最強のトレーナーでありジムリーダー。
戦略や経験で何度も不利を切り抜けてきた強者である。
天敵と嘆くキバナだが、その顔は笑っていた。
不利な状況だからこその戦いの楽しさを知っているのだろう。
ユズキはバトルの事をダンデ達に教えて貰ったし、実際彼らが戦っているところを見たことがある。
あれがただの暴力だけの喧嘩ではないのは、すでに理解している。
だが、そこまでバトルに対して魅力を感じなかったため、キバナの楽しそうな表情にただ笑って返すだけ。
どうにもタイプ相性が覚えられず、更にはバトルで必要不可欠の指示が苦手らしく、自分が指示を出すとどうしてもガオガエン達は後手に回ってしまうし、どれを出せばいいか迷ってガオガエン達を困らせてしまうのだ。


「俺とルリナの予想は外れたってことだな」


キバナの何気ない言葉に、ユズキも『そういえばそんなことあったな』と思い出す。
懐かしい記憶だ。
キバナにとっては10年も経った思い出だが、ユズキにとっては昨日のように思える。
『そうだね』とユズキがロコンを撫でていると、傍にいたカジッチュが『あたしも撫でて!』と鳴く。
その声に笑みを深め、両手で可愛い末っ子たちを撫でた。


「なあ、そのカジッチュ…ダンデから貰った子だよな?」


つい頬が緩んでしまうほど微笑ましい光景だ。
周囲にいるポケモン達も、ユズキ達のやり取りを温かく優しい視線で見守っている。
キバナも微笑ましく見守っていると、ふと、カジッチュを見て思い出す。
ユズキの膝の上にいるカジッチュは、キバナ達も苦労してゲットしたポケモンだ。
あれだけ苦労させられて忘れろという方が無理な話で、時折だが、キバナたちの間でも時折カジッチュの話題が出る。
ただ、ダンデの前では、誰もユズキやカジッチュの話題を口にできなかった。
キバナの言葉に、ユズキはコクリと頷き、嬉しそうに自分に撫でられているカジッチュを見下ろした。


「そう…この子、ダンデ君から貰った子…好きです付き合ってくださいって渡され……………………………えっ????」


キバナからしたら10年の年月だが、ユズキには数か月程度の月日だ。
すでに薬の影響がなくなった今でも、その当時の記憶が思い浮かび―――ユズキは思わずキバナを見た。
キバナもユズキと話をしていたのだから、ユズキを見つめており、ユズキが顔を上げればバチリとキバナと目が合う。
キバナは『おっ!ダンデ告白したのかよ!やるなぁ!』とあれほど腰が引けてもじもじと告白もしなかった友人が自分が知らない間に一歩前に進んでいたらしいと、嬉しくなる。
これはルリナとソニアにいい酒のつまみ話ができたな〜!、と人一倍恋愛話が大好物な二人にいいお土産話が出来たと思っていた。
―――だが、ユズキの反応に『おや??』と片眉を上げた。


「すき…つきあって…っていわれて…この子、預かって………………え??すき???つきあ…?????」


『わあ、見事な宇宙ニャースだぁ』とキバナは現実逃避して思う。
しかし、もっと宇宙ニャースになっているのはユズキの方である。
放っておけば疑問符ばかりが浮かぶユズキに、キバナはガラルの噂を伝えた。


「実はな、ガラル地方…こっちじゃ好きな相手に告白する時、カジッチュを贈ると結ばれるっていう噂があるんだが…」

「こく…はく…????」

「こりゃあ、知らないな」


『哀れ、ダンデ…』と、キバナは遠い目をし、その奥にいるダンデに同情を送る。
告白したのはいいが、相手がその意味を理解していなかったとは…同じ男としてこれほど同情すべきことはないだろう。


(こ、告白された…!と、年下の男の子に!―――ハッ!わ、私…捕まっちゃう!?)


ユズキは今、意識を取り戻したからこその恐怖を味わっている。
あれから10年経っているということは、当時のキバナ達…ダンデは、まだ未成年だったはずだ。
例えダンデの方からアタックしてきたとはいえど、法律的に捕まるのはユズキだ。
あの頃は意識も沈んでいたが、そんなもの法律の前では無意味である。


(人生で初めての告白が男の子!年下の!しかも未成年!!)


『おかあさーーーん!』と思わず母に助けを求め、過去の自分を思い出して顔を青ざめた。
だが、それは未成年に口説かれたことだけではなく―――


「なあ、ユズキ…その…なんていうか……」


顔が青ざめているユズキを見て、キバナの脳内ではダンデがフラれるのが確定していた。
10年前の告白だって、ダンデから報告がなかったということは、既にフラれていたか、返事を聞く前にユズキが帰国したかで現れなかったかのどちらかだろう。
友人の恋を純粋に応援したい気持ちは勿論あるが、大人になって分かるが、恋とは1人でするものではない。
大事なのは、お互いの心だ。
とはいえ、言い難い話題なのは確かである。
どう切り出せばいいのか悩んでいるキバナの反応に、ユズキも察したのか、ユズキも少し気まずげにキバナを見る。


「告白の答え、聞きたい?」


察してくれたユズキの言葉に、キバナは『それもそうだけど』と首を振って困ったような表情で笑った。


「それも気になるけど……ユズキはカジッチュの噂を知らなかったわけだし…それに、あれ以来ダンデとは会っていなかったんだろ?だから、その…ごめんな、あまり疑いたくはないんだが……ダンデの事、考えてくれていたのかなって…その確認」

「…………」


そりゃそうか、とキバナの言葉を聞いてユズキは思う。
何度も言うが、キバナ達にとって10年の月日が経っており、考えるには十分――むしろ長すぎる時間が経っている。
だが、ユズキには本当に数か月程度の時間しか経っていない。
それだけでも告白を考えるには十分長いが、告白の返事がなく10年過ごしたダンデを想うと『だってだって』と子供のように言い訳を並べることはできない。
だが、ユズキにとっては数か月の日数しか経っていないのは事実。


「キバナ君…実はね―――」


信じてもらえるかどうかは分からない。
だけど、まずはキバナに説明するべきだと思い、話した。
ずっと、どう切り出そうかと悩んでいたのだ。
本当ならお茶を出した時点で話すべきだったが、どう説明すればよいのか言葉を探していて、結局ここまで話せずにいた。
キバナはユズキの言葉足らずな説明でも伝えたいことは察してくれたのか、目を丸くしてユズキを見た。


「全部、信じてって、言わない…でも、本当」

「…………」


キバナはユズキの言葉を、説明を、聞いて改めて彼女を見る。
女性をまじまじと見るのは失礼だとは思ったが、改めて見てみれば納得できる部分もあった。


(確かに…10年経っているのにユズキは老けていないなとは思ったが……でも、セレビィ…伝説のポケモンかぁ…)


10年ぶりなのに、老けていないなと違和感を感じていた。
だが、それでも。
全てを信じられるわけではなかった。
伝説のポケモンの存在を疑っているわけではない。
セレビィというポケモンの名は、流石にガラルでは聞いたことがないが、伝説のポケモンの存在が本当にいるのは、新チャンピオン達の手持ちを見ていれば分かる。
ただ、そのポケモンが本当に時を渡る力を持っているかは別の話だ。


(うーん…でもユズキが嘘をつくとは思えないしなぁ…ただダンデの告白を断りたいだけだったらいいんだが…)


ダンデの告白が迷惑で会いにこなかった――というだけだったら、そう言ってくれればこちらは黙っているだけで済む。
同じ国にいて、近い街にいるのだから、ばったり会う事があるだろうが、それはユズキの運の悪さだ。
もしも本当にダンデが嫌だというのなら、カブの養子にはならないだろう。
なんていっても、ダンデは数か月前まで無敗のチャンピオンで現在はバトルタワーのオーナーとして、以前と変わらずメディアに顔を出している。
彼の居場所など探る必要はないのだ。
だが、短時間だがユズキという人物を知っているキバナは、ユズキがそんな人間ではないと分かっているため、真偽を決めかねていた。
信じているし、信じたい。
だが、伝説のポケモンを3体知っている以上、疑う余地はないだろう。
緊張気味にこちらを見つめるユズキに気づき、キバナは安心させる笑顔を向けた。


「そのセレビィってポケモンは知らないけど、ユズキの事は信じるよ…ユズキが嘘を吐くとは思えないし、確かに10年経っているのに老けていないしな」

「ありがとう…キバナ君…」


キバナの笑みと言葉にユズキも安堵の表情を浮かべた。
ユズキも、キバナがまだ半信半疑であることは分かっていたが、それでも全否定しないでくれただけありがたい。
だからこそ、ユズキは言葉を紡ぐ。


「あのね、ダンデ君のこと、まだ、分からない…」

「分からない?ああ、そっか、ユズキにとっては昨日のようなもんだもんな」

「うん、でも、違う……あのね、私、大人で…でも、ダンデ君、少年だった」

「あ…そうだった…」


本当は、あの当時は意識が曖昧だったため、記憶はあるが感情が動かなかった。
だが、それはカブにさえ話していない内容だし、そこまで話してしまったら、その理由も話さなければならない。
教団の記憶は薄れているが、なくなったわけではない。
ただ、10年も経っていて、まだ女1人を探しているとは考えにくい。
教団の記憶など思い出したくもないし、できることなら消えてしまってほしいとユズキは思っていた。
それに、年齢差も事実である。
キバナは10年のズレを指摘され、『そういえばそうだった』と思うが、『え?』と少し驚いたようにユズキを見る。


「え、いや…でも……ユズキも未成年だったよな?当時の俺達と変わらない年齢じゃなかったっけ?」

「え、私22歳…」

「え"!?15歳だろ!?」

「え?いや、だから、22歳だったけど…」

「「え????」」


10年の年月の差に、キバナはユズキの言葉に『確かに今のダンデだとロリコンになってネズに殺されるな』と思ったが、まさかの答えにギョッと目を丸くしてユズキを見た。
ユズキは、カブと同じく実年齢より若く見られやすい人種だ。
カブの部下であるルイ達からも『子供に見える』と言われたので、ユズキの世界でもお馴染みだった、東洋人が若く見られやすいという現象がここでも起きているのだろう。
だが、まさか当時未成年だったキバナ達からも子供に見られていたとは思わず、キバナもまさかただ大人っぽい15歳だと思っていた友人の片想い相手が当時すでに成人していたと思わず、二人は『え?』としか言えず、お互いを見つめていた。
それはカブが呼びに来るまで続いた。

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