(42 / 43) その生命に恋う (42)

キバナもカブも、同じジムリーダーとして、そして同じくワイルドエリアに関わる立場として、仲は良好だ。
だが、あくまで仲の良い同僚という域を出ない関係なため、食事をともにすることはあれど、お互いの家に招き入れるほどの仲ではない。
キバナはカブの家に初めて招き入れられた。
カブもポケモン達を出して生活しているらしく(というより、基本的にトレーナーはそうなのだが)、カブの許可を得てキバナのポケモン達も出す。


「わっ!」


ユズキもボールに入れていたガオガエン達をボールから出していると、後ろから突撃されたような衝撃に襲われた。
思わず声を上げてしまい、キバナとカブの視線を集めたが、それどころではない。


「ヌメルゴン!こら!!」


ドシリとした重みと同時に、湿り気も感じ、何となく誰なのか分かり、慌てたキバナの声が答え合わせとなる。
『ごめんな、ユズキ!』と謝ってはくれるが、ヌメルゴンは離れる気はないのか、ユズキの身体に回した腕の力を強くした。
抱きしめる力が増し、苦しそうに少し顔をしかめたが、ユズキは彼女の愛を拒まない。


「コーン!!」

「ぬっ…ヌメ…」


ユズキはポケモン達からの愛を拒めないし、ポケモン達もユズキへ注ぐ愛を中途半端にはできない。
ただ、愛情の示し方は人間と同じく様々。
ガオガエンのように静かに見守る愛し方や、ロコンのように親に甘えるような愛し方―――そして、自分以外に愛情を向けることを許さない束縛の愛し方。
この場に、そのタイプの愛情を持つポケモンが二匹いる。
一匹はユズキに抱きついているヌメルゴン。
そして、カブの手持ちであるキュウコンだ。
初対面の時も仲間を押しのけてユズキへの愛情を独り占めしようとした。
客人の、それもトレーナーの同僚のポケモンであろうと、キュウコンの愛は容赦しないタイプであった。
グ、グ、とヌメルゴンの身体を頭突きするように頭で退けようとするキュウコンに、ヌメルゴンは困ったような声を漏らす。
キュウコンは炎系のポケモンだ。
自分の湿った体は、本来なら彼女は苦手となる。
水タイプを苦手とする彼女の頭突きにヌメルゴンは困りつつも、決してユズキを離さない。
どっちもどっちである。


「あーもー!ヌメルゴン!お前、手を離せって!ユズキが苦しそうだぞ!」

「キュウコン!ヌメルゴンに頭突きするのはやめなさい!」


キバナとカブがお互いのポケモンを止めようとしているが、女達の仁義なき戦いに入り込む隙など存在しなかった。
トレーナーが引き離そうとすればするほどヌメルゴンの力は強くなり、キュウコンの頭突きも激しさを増す。
そろそろキュウコンの堪忍袋の緒が切れて『じんつうりき』でひるませた隙に、ユズキとの間にねじ込もうと考えたその時―――咆哮が部屋に鳴り響いた。
ビリビリと肌を刺すような咆哮に、その場にいる全員が固まったように静かになる。
恐る恐る視線を向ければ―――そこにはガオガエンがいた。


「グルル…」


喉を鳴らして警告を出しながら腕を組み、二匹を睨んでいる。
全員が固まる中、最初に動いたのは、ジュラルドンとマルヤクデだった。
それぞれの仲間を咥え、あるいは掴み、ユズキから引き離した。
ファインプレーでもある。
とはいえ、彼は本気で怒っているのではなく、彼女達の行動を咎めている様子であった。
キバナは『久々に聞いたなぁ』と、10年前に遊んでいた時にユズキに構ってもらっていたポケモンがだんだんと歯止めが利かなくなった時に聞いた咆哮だと思い出す。
10年経っても変わらずユズキの騎士な彼を見て、キバナは、なんとも言えない懐かしさが胸に込み上げるのを感じた。


「ごめんな、ガオガエン…ヌメルゴンも10年ぶりにユズキに会えてうれしかったんだ…ユズキもカブさんも、キュウコンもごめんな」

「いや…こちらこそすまなかったね、キバナ君…ガオガエンも助かったよ…ありがとう……キュウコンもほら、謝りなさい」


元はと言えば、自分のヌメルゴンがユズキを意地でも離さなかったからだ。
とはいえ、ヌメルゴンばかりを責めるわけにはいかないが、この場ではとりあえずトレーナーとして謝るしかできることはない。
せっかく10年ぶりに再会できたのだから、はしゃいでも仕方ない。
特にヌメルゴンは自分の手持ちの中でも甘えたがりな性格をしているので、それが強く出てしまったのだろう。
ユズキもガオガエンもカブも許してくれたが、マルヤクデに加えられたままのキュウコンはプイッとそっぽを向いた。
ジュラルドンに首根っこを掴まれているヌメルゴンも拗ねている様子だった。
そんな二匹に、もう苦笑いを浮かべるしかない。
当人であるユズキが許してくれたことで、その場はひとまず収まり、キバナはリビングへ通された。
食事の途中でスーパーに出かけたので、料理は途中だった。
しかし、カブが気を使って料理を代わってくれることになった。
その前に、キバナのためにとお茶を淹れるためにキッチンに立つユズキへカブは話をする。


「ユズキ君…君がセレビィの『時渡り』によって10年後の今にいることをキバナ君に教えても大丈夫かい?」


話とは、ユズキの現状についてだ。
キバナは、ユズキを10年の歳月を経てここにいると思っているが、ユズキはセレビィによって10年もの年月を飛ばして現在ここにいる。
創作物で言うなら、タイムトラベラーだ。
伝説のポケモンが関わっているのなら、そして過去から飛んできたという、たとえ現実味のない事実であろうと、ユズキの許可なしに人に安易に話していいものではないだろう。
キバナは全面的に信用も信頼もしているが、何がきっかけで周囲にバレるか分からない。
当初より言葉を覚えたとはいえ、まだユズキは上手く説明できない。
代わりに説明するつもりのカブの問いに、ユズキは考える素振りも見せずコクリと頷いた。
その即答とも言える返事に、カブは思わず確かめるように問う。
それにも、ユズキはカブに笑顔で頷いて見せた。


「大丈夫…キバナ君もカブさんも…話して大丈夫、って、思ったから…」


カブは目を丸くする。
ユズキとカブが家族になってまだ長くはなく、まだ他人と思われても仕方のない月日だ。
カブはゆっくりとユズキと家族になれたらと思っていた。
そのため、ユズキの言葉が、信頼が、嬉しかった。


「じゃあ、あとは僕がやっておくから、キバナ君とお話してきていいよ…自分で話したいというなら、話しても構わない」

「うん、ありがとう」


ユズキの後ろ姿を見送りながら、カブは夕食に取り掛かった。

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