(26 / 26) *10話 (26)

「―――と、いうわけ…なんだけど……ごめん、夏目…顔、怖いぞ?」


全てを隠さず話した。
全てと言っても所々省略したのだが、名取は目の前の夜叉に素早く目を逸らす。


「怖くなりますとも…!!小春をそんな危険な事に巻き込んだんですか!?」

「い、いや…巻き込んだというか…私達こそ巻き込まれたというか…」

「名取さんはいいんです!!!小春と違って男だし!大人だし!その道のプロだし!!!名取さんだし!!!

え?夏目、最後の意味が分からないんだけど…

「とにかく!!連絡くらいしてくださいよ!!そしたら先生に乗って飛んで来たのに…!」

私はお前のタクシーか。

「なんだよ!小春のピンチに先生は行かないのか!?」

「何を言うのだ!!行くに決まっておろう!!小春だぞ!?小春!!小春は私が貰いうけるとお前と約束したのに貰う前に死なれてたまるか!!小春とは一姫二太郎以上に子沢山で幸せに暮らすのだ!!」

よーし!!先生とりあえず表へ出ようか!!


大事なところは包み隠さず言ったので当然小春の怪我のことも伝えた。
名取は隠して伝えようかとも考えたが、夏目の形相に勝てる自信がなく全てを話す。
隠しきれなかった名取をきっと斑は馬鹿にすることはないだろう。
それは自分も名取同様今の夏目に隠し事が出来るはずもないからである。
夏目の斑をタクシーか何かと勘違いしている発言にすかさず言い返すが本音を漏らし夏目に首根っこを掴まれてしまう。
そんな夏目に『お!?やるってか!?お?お!?』と短すぎる手でファンティングポーズを作るが、全くもって怖くない。


「きゅ!」


ファンティングポーズを作る斑に『上等だ!!小春は絶対普通の給料のいいサラリーマンと結婚させるんだからな!!給料がなくて根無し草の妖かしとなんて結婚させるかぁぁぁぁ!!!』と本気で猫の姿の斑と張り合う気満々の大人気ない夏目の腕に細いふわふわの物体が撒きつき、夏目は目を丸くさせ斑からその物体へ目線を移す。


「きゅっ!!」

「えっと…」

「はは…喧嘩は駄目!って言ってるみたいだな。」


名取は目の前で猫と本気でやり合おうとしていた夏目と、拳をいくつも受けながらも引くことを知らない斑との喧嘩をただ見つめていた。
それは巻き込まれたくないからであり、決して冷たいわけではない。
名取もまだ命が欲しいのだ。
その夏目の腕に巻きついた物体…重光から貰いうけた管狐の子供はきゅうきゅう鳴きながら夏目に何かを伝えようとしていた。
しかし人語以外理解できない夏目と斑は首を傾げていたが、名取の言葉に2人は管狐から名取へ顔を上げ、管狐も『その通り!』と言っているように何度も頷きもう一度鳴いた。
夏目は小さい子供の妖かしにまで止められ、怒りも収まり恥ずかしさが込み上げてきたのか、誤魔化すように咳払いをし斑を降ろす。
斑を降ろした夏目に管狐はそのまま腕を伝い夏目の首に長くふわふわの胴を絡め頬に顔を擦り寄る。


「おや、気に入られたようだね。流石兄妹。」

「からかわないでください、名取さん…」


小動物に擦り寄られ、夏目はどうしたらいいのか分からず怖ず怖ずと小さすぎる頭を撫でる。
夏目に撫でられ管狐は嬉しそうにひと鳴きしながら長い尻尾を振り、名取はその管狐の様子を見て目を細め微笑ましく夏目と管狐を見つめた。
名取の言葉に夏目は照れくさそうに呟き、名取はやっと歳相応の反応を見せる夏目に微笑ましさを深め、怒られ損な斑は『ケッ』と面白くなくそっぽを向く。


「あ、こんなところにいた。」

「小春…?」


夏目からしたら気まずい空気が流れていたその時、管狐の主人である小春が顔をひょこッと出し2人と2匹を見つめ嬉しそうに笑う。
小春の笑みを見て夏目はふと微笑を浮かべ、夏目に懐いていた管狐は小春の姿を見て夏目の時以上に嬉しそうに小春に駆け寄り尻尾を大袈裟に振って擦り寄る。
そんな管狐を見て斑が『そういえばまだ朝食がまだだったな…』と爪を出し光らせながら呟く。
しかし上からの夏目の拳により見事に撃沈してしまった。


「小春ちゃん、どうしたんだい?」

「あ…そうだった…もう帰るって先生達が言ってたから呼びに来たんです」


小春は塔子や滋の抱擁で動けないはずだったのだが、夏目と名取を探しに来たのを見て名取は首をかしげて問いかけた。
名取の問いに管狐と戯れていた小春はここに来た理由を思い出し後ろを振り返りながら用件を伝えた。
塔子達が待っていると聞いた夏目は待たせたらいけないと名取に一言言ってから小春と共に戻ろうとしていた。
しかし夏目は名取に呼び止められ、振り返る。


「なんです?」

「君はもし、小春ちゃんを攫われ連れ戻そうとしたが断れた時…どうする?」

「は…?」


名取の言葉に夏目は怪訝そうなのを隠す事なく眉を顰める。
しかし何言ってるんだ、と言わんばかりの夏目を気にする事なく、名取はジッと夏目を見つめていた。
名取の表情はおふざけなど一切なく、そんな名取の表情に夏目も表情を引き締め名取を見返す。


「…もし…小春が連れ戻そうとして断ったら…理由を聞きます。」

「その理由が命短い妖かしの為に命が消えるまで側にいたいからと言ったら?」

「俺も側にいてやります。」

「…………」


夏目は名取の次の問いに即答で返した。
決して悩んだ答えではないその夏目の返答に名取は微かに目を見張る。


「お兄ちゃん?名取さん?」

「今行くよ、小春」


前を歩いていた小春だったが、兄と名取がついてこないのに気付き首を傾げながら振り返る。
名を呼んで振り返った妹に夏目は表情を笑みへと戻し、名取にもう一度『では…』、と一言かけて妹と共に戻っていった。
名取も不思議そうに見つめてくる小春に『一緒に行っては怪しまれるからね…もう少ししたら行くから安心してくれ』と笑みを浮かべ手を振る。
小春は名取のその言葉に頷き兄と斑と共に名取の前から姿を消す。


「本当に…君達には負けるよ…」


名取の呟きは誰にも届く事なく廊下に響き消えていった。

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