(1 / 9) 11話 (1)

小さい頃から俺や小春は時々変なモノを見た。

他の人には見えないモノらしいそれらは恐らく――…

――妖怪と呼ばれるものの類。




****************




「な、夏目くん…これ落し物…」


夏目は友人である西村と北本と帰る途中、女子生徒に声を掛けられ立ち止まる。
振り返ると2人の内1人の女子生徒からハンカチを渡され、どうやらカバンから落としたようで夏目は小さく笑みを浮べながらお礼を告げた。
すると女子生徒達は頬を染め、嬉しそうに声を上げながら慌てた様子で夏目から離れる。
それを夏目は少し不思議に思いながら見送った。


「見たか?今の子、顔赤らめちゃって…罪つくりだねぇ…美形は。」

「美形?そんなこと前の学校でも言われたことないぞ?」

「「嘘付け!!」」


夏目に落し物を渡した女子生徒達を夏目と共に見送った北本はからかいながら肘で夏目をつつくも夏目の言葉に北本だけではなく西村まで声を揃え否定する。
否定されるとは思ってもみなくて、しかもなぜそんなに声を上げてまで否定するのかが分からず夏目は目を丸くする。


「くっそー!!絶対お前より先に彼女を作るぞ!!目指せ!小春ちゃん似の可愛い彼女っ!!」

「お前…今までどんな学校行ってたんだよ…」

「いや…前の学校では殆ど誰とも口聞かなかったからな……あと西村、小春似ってどういう意味だ?


ウガー!、と本気で分かっていない夏目が悔しくて西村は腕を振り上げ宣言するように声を上げた。
小春似、というのは兄の夏目が怖くて手が出せないからであるのだが…北本の問いに答えながら夏目はバッチリきっちり聞いていたため天に叫ぶ西村の肩に手を置く。
西村は後ろにいるであろう悪魔の気配に恐ろしくて振り返れず顔を青くさせたまま空を見上げていた。


「あー、まあ…確かにお前越してきた頃近寄りがたかったもんな。…最近は少し目が優しくなったよ夏目は。」

「……そう、だろうか…」


北本は友人のピンチに目も呉れず、考え込んで俯いていた顔を上げる。
夏目は北本の言葉に小首をかしげていたが、その西村の肩に置かれている手は決して離さず決して力を抜いてはいない。



****************



『じゃあな』、と西村と北本と別れ夏目は手を振り返しながら家に向かって歩き出す。


(目が優しくなった、か……優しい人達と一緒に居るからそう見えるのだろうか…)


夏目は西村達と別れ帰りが一気に静かになり北本に言われた言葉を思い返す。
目が優しくなった、と言われ最初はピンと来なかったが改めて1人になり考えるとしみじみそう思う。
それに付け足すのならば妹である小春が元の身体に戻り自分と同じ学校に通い自分と同じ時を過ごしているから、というのもある。
あんなに長く生きられないと言われていた小春が元気になった事は夏目が今まで生きてきた中でも一番嬉しかった出来事と言えるだろう。


(ま、まあ…元気すぎるのがたまに傷だけど…)


そう思った夏目だったがふと自分同様…または自分以上に突っ走る癖を見せる妹を思い出し引きつった笑みをこぼした。
この前の修学旅行での出来事は小春が自分以上に活発すぎる事を物語っており、夏目はやっぱりストッパーである自分がいないと駄目だな…と思う。
…が、夏目は自分も同じくストッパーがいないと駄目だというのには気付いていなかった。
因みに斑ではストッパーにはならない事をここに記しておこう。


「あ、お兄ちゃん。」


1人自宅に帰るため歩いていると小春の声が背後から掛けられ夏目は立ち止まり振り返った。


「あら、貴志くん…今帰り?」

「塔子さん…はい」


振り返れば制服を着た妹と、世話になっている家の奥さんである塔子、そして…


「なーう。」


斑が首輪にリードを付けられ小春の足元にいた。
塔子がいるため喋れず嫌味を含んだ鳴き声をひとつ零す。
大方『なんだもう帰ってきたのか…もう少し遅くてもよかったのだぞ?その分私は小春とラブラブできるからな。』とでも言っているのだろう。
そんなひと鳴きに長い嫌味を含んだ斑に夏目は当然電波をキャッチしており、ピキ、と青筋を立てるも塔子がいるため殴る事も出来ない。


「あれ…その荷物……買い物に行ってきたんですか?」

「そうなの。今日はスーパーで安売りしてたのよ…でも1人ひとつ限りだから小春ちゃんと一緒に行って来ちゃった!ねー?小春ちゃん。」

「ねー?いっぱい買ってもらっちゃった!」


拳を握っていた夏目だったが、塔子と小春の両手に買い物袋とティッシュやトイレットペーパーなどが握られているのに気付き首をかしげる。
近くのスーパーが安売りしていると広告で見た塔子がスーパーへと出かけようとした時に小春が帰ってきたので、小春は荷物運びという役を買って出て散歩に連れてけという斑を連れて買い物に行ってきたようである。
ついて来た者の特権として欲しい物を何個か買ってもらったようで、小春は嬉しそうに兄に報告し夏目は嬉しそうに笑う小春に微笑ましそうに笑みを浮かべた。


「俺も持ちますよ」

「あら、いいの?」


『はい』、と塔子に返事を返しながら女性二人だけに持たせるわけにはいかないと夏目は塔子と小春が持っている荷物を持ってやる。
他愛のない話を3人でしているとふと夏目の視界にある物が映り、夏目は何気なく空を見上げた。


「あっ…」


空は相変わらず青空が広がっていたが、その青空に羽の生えた人が夏目の視界に入る。
夏目が空を見上げたのを見て小春も釣られて見上げれば小春もその夏目と同じ物を見る。


「ん?どうしたの?」


2人が同時に顔を空へと上げているのに気付き、塔子も同じく空を見えるが何の反応も見せなかった。
首を傾げながら2人を見る塔子に夏目は慌ててその羽の生えた人…妖かしを追いかけ荷物を持ったまま走ってしまう。


「塔子さん!すみません!!」

「あ!貴志くん!小春ちゃん!?」


兄の夏目が走って消えた妖かしの元へ駆け寄ろうとしたのに続き、小春も兄の後を追いかけるように走り出す。
突然走りだした小春と夏目に塔子は目を丸くするも、すでに2人は遠くへと走ってしまった。


「どうしたのかしら…一体…」


何かを思い出したかのように走る2人に、取り残された塔子は空いている手を頬にやり不思議そうに小さくなる2人を見送る。

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