名取と夏目、小春が会合の会場である屋敷を出た同時刻。
七瀬は上機嫌にある部屋へ戻る。
「只今帰りました」
その部屋とは先ほどまでいた的場の待つ部屋である。
七瀬は笑みを浮かべたまま扉を開き、中には的場が座っていた。
「早かったな」
「ええ、予想以上に彼らはやってくれましてね……おや、まだその管狐がいたんですか?」
的場の言葉に七瀬は頷き、ふとクリーム色の管狐が視界に映り目を見張った。
七瀬の言葉に的場は『ああ』と頷き、何が面白のか不明だが自分の指で絡んで遊んでいる管狐を見下ろす。
「どうやら遊びに夢中で小春さんの事を忘れているらしい。」
「ほう…管狐が、ですか……どうやらこの管狐は他の管狐と違うようですね…」
「ああ…そもそも管狐自体が珍しい。」
管狐は今では古い分類に入る。
管狐を作るにはまず、素質があるかないかで別けられる。
その上一から育てる分根気も必要だった。
子育てや動物の世話が好きなマメな人間なら向いているだろうが、現代では捕まえて言うことを聞かせる方法が主流である。
そして、管狐が珍しくなったのは素質がある者が少なくなってきたのもある。
管狐が多く存在し活躍したのは現代から約1000年前の平安時代。
特に平安時代は妖力の強い人間が多く存在し、式神などが出てくる作品では平安時代が多い。
そのため平安時代は管狐以外でも式神等が活躍し、妖し祓いもそれなりにいた。
しかし今では廃業した者の方が多い。
そんな世の中に管狐は珍しい式だった。
そして何より珍しいのは遊びに夢中になり主を忘れる事である。
しかしそれ以前に主以外に懐く事が考えられなかった。
だが目の前の管狐は自分に懐き指で遊んでいる。
本当にたかが人間の指などで遊んで何が面白いのか分からない。
的場は飽きがこないらしい管狐を見つめ目を細める。
「まあ…この管狐のお陰でまた小春さんに会えるかもしれないしな。」
「よほどあの子が気に入ったんですねぇ…」
『まあ、確かに友樹さんに似て綺麗な娘でしたが…』と本当に小春の事を気に入っているらしい的場の呟きにそう言葉を零す。
的場は七瀬の言葉に返すこともせず、ある言葉に管狐から七瀬へ顔を上げる。
「七瀬、先ほどから気になっていたんだが……『友樹』とは?」
小春がいた時もその名を口にしていた七瀬に的場は首をかしげ問う。
的場の問いかけに七瀬は『ああ、まだ言ってませんでしたね』と笑った。
「友樹さんは私が小さい頃に会った方ですよ…友樹さんはどんな女性よりも美しかったですね。」
「女性?小春さんは祖父と言っていたが…」
「ええ、男性ですよ?でも、見た目はとても美しく愛らしかった……そして、力も強かった。」
小春の口からは確かに『祖父』と聞いた。
しかし七瀬からは『どんな女性よりも美しい』と聞く。
的場は2人の言葉がかち合わず首をかしげ、七瀬は的場の反応に愉快そうに、そして昔を懐かしむように目を細める。
女性のように綺麗だった、というのには納得した的場は七瀬の力が強いという言葉に今度は感心したように声を零した。
「力は強かったですが…妖怪を見ることは出来なかったようですね…」
「それは…勿体無い…」
『もし見えたのならばさぞ優秀な妖祓いになったでしょうね』、と的場は呟く。
七瀬が絶賛するほどの男を的場は健在ならば会ってみたいと思った。
しかし小春から病死だと聞かされていたためその考えはすぐに消す。
それに的場は正直その男より――…
「いつ、あなたの主人と再会できるんでしょうね…」
的場は七瀬が夢中の男よりもその男の孫娘に会いたいと思う。
管狐は的場の問いかけに『きゅ?』と小首をかしげ声をかけてきた的場へ見上げる。
そんな管狐の愛らしい仕草と管狐の主人を重ね、的場は優しげに目を細め管狐の喉を撫でた。
→あとがき
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