(1 / 7) 12話 (1)

学校も終わり、小春は友達と帰るために教室から出て下駄箱へ向かった。
帰る際に美少女と関わりたい、そしてゆくゆくは彼女にしたい、という下心満載の男子達に声をかけられたが、ずっと友達もいなかった小春は気づきもせず、声を掛けてくれる人が増え嬉しく感じていた。
下駄箱から靴を取替え、外に出ると空は薄暗く、ちらほらと雪が落ちてきているのを見る。


「わ…雪!」


小春は奈々達と靴を履き替えた後4人で外にでた。
目の前に白い小さな粒が落ちてくるのを見た小春は空を見上げ、雪が降っていることに目を輝かせた。
修学旅行も雪は振っていたが、その雪は本物ではなく重丸が降らせていたため、そして吹雪いていたため遊ぶ暇はなかったのだ。


「小春ちゃん!前見なきゃ転んじゃうよ!」

「おーおーはしゃいじゃってまぁ〜…可愛いこと、可愛いこと」

「…リン、あんたなんで写真撮ってるの……」

現像したら男子に高く売れるじゃん。

友達を売り物にすんな!


降り始めた雪にはしゃぐ小春に薫は心配そうに声をかけ、何故かリンは小春に向けて携帯で写真を撮っていく。
それに気づいた奈々が写真を撮っている理由を分かりつつ一応確認の為に問えばやはり返ってきた言葉に突っ込んだ。
オマケとしてリンの携帯を取り上げて小春の写真全てを削除していく。
リンは携帯を取り上げられその上小春の写真を削除されるのを見ながら『あーあ』と残念とは思っていない声を零した。
冗談にしてはやりすぎなリンに奈々は溜息をつき、全ての写真を削除した後まだ嬉しそうに雪を見上げる小春へ目線を送る。


(しかし…本当に小春は何しても絵になるなぁ…)


小春の姿は雪という演出もあってかとても可憐で美しく幻想的だった。
その姿を見れば誰もがその美しさに見惚れるだろう。
その証拠に帰宅する男子達は小春に夢中である。
小春の容姿は血筋からして美形なのを否定できない。
なんせ奈々達の目の前で子供のようにはしゃぐ小春の唯一の肉親である兄も美形なのだから。
しかもその美形兄妹の知り合いもまた、美形だった。


「美形は美形を呼ぶのかな…」

「え?奈々ちゃん、何か言った?」

「ううん、なんでもない。」


美形兄妹の知り合いの美形…そう、それは今をときめく名取周一なのだから驚きである。
まさか友達に芸能人の知り合いがいたとは…奈々は北海道でこれでもかと驚いた。
小春には話していないが奈々は北海道の事件の事を覚えている。
リンや薫や他の生徒達は覚えていないようだが、奈々の記憶には確かに重丸のことや化け狐のこと、そして名取の事も覚えている。
もしリン達が名取周一と小春が繋がりがあると知ればミーハーな彼女達は興奮して小春にサインを迫る事は目に見えている。
――が、奈々は気付いていなかった……自分もミーハーなことに…


「小春ー!帰るよ〜!」


奈々は気付かないまま小春に声をかける。



****************



雪への熱も下がったのか、小春は奈々の帰宅の声掛けに素直に応じて4人は仲良く帰り道を歩く。


「しかし…雪とは珍しい」

「本当…今年は積もるのかな?」

「去年は降ったけど真っ白になるまで積もらなかったもんね。」


小春がはしゃいでいたからか、4人は雪の話しで盛り上がる。
何も知らない小春に雪の遊び方を教えたり、小さい頃の雪でのエピソードを話し聞いたり…小春は最近になってようやく全てが元通りになったため、3人の話にはついて行けず入ることすら出来なかった。
しかし3人の話を聞くだけでも自分が体験したように楽しげに笑う。
奈々たちを含む生徒たちは小春はずっと病院に入院していると教師から知らされていた。
小春の病名は不明のまま回復に至ったため、教師もただ小春が入院していた事しか知らされておらず、奈々以外はただ病気でずっと入院をしていたとしか思っていないのだろう。
だから病弱設定もプラスされ、夢見る男子からは儚い美少女と人気なのである。
唯一小春が妖を見れる事を知っている奈々も、身体が不自由になり入院していたのは知っているが原因までは話していないため奈々もまた詳しくは知らされていない。
そのため小春の世間知らずぶりは驚かされるものの小さい頃から入院していたという事情を理解してくれる人たちは暖かく見守ってくれる。


「じゃあね、小春」

「うん、ばいばい」


暫く話しながら歩いていると分かれ道となり、ここから先は小春は1人になる。
手を振って別れる奈々達に小春は手を振り返しながら帰宅の途につく。
雪が降っているからだろうか…1人になれば途端に周りの音が消えたような気がした。
立ち止まり小春は何気なしに空を見上げ、はあ、と息を吐いた。
すると小春の小さい口から白い吐き出され、その白い息は空に溶けるように消える。
ゆっくりと空に消える白い吐息を目で追いながら降る雪の冷たさから手先が赤くなっている手と手を擦り寒さを逃がそうとする。
しかし奈々達と一緒にいた時よりも寒さは案外逃げてくれなくて小春は立ち止まり擦っていた手の平をじっと見つめる。


「小春?」


立ち止まれば更に冷たい風が小春を刺し、小春は身震いをひとつする。
すると背後から聞き慣れた声がし、小春はその声に振り返った。


「お兄ちゃん」


振り返れば兄である夏目がいた。
小春とは違う灰色かかった髪に切れ目の瞳。
しかし切れ目の瞳には小春が映っており、その夏目の視線は柔らかい。
小春は兄にふと微笑を浮かべ、夏目は妹の愛らしい笑みに目を細めた。


「どうした?そんなとろこで立ち止まったりして…」

「んー…なんていうか……1人は寂しいなって。」


夏目は小春と同じく友人の北本と西村と別れ藤原家へと帰ろうとした。
しかしふと前を向けば妹である小春が背中を向けて突っ立っていたのを見て夏目は不思議に思いながら声をかけたのだ。
夏目の問いに小春はどういえばいいのか脳内で考えながら視線を泳がした後苦笑いを浮かべ小首を捻りながら、ぽつりと呟く。
寂しい、と思ったのは夏目に問われ考えた時についた結論だった。
声をかけられる前まではただ赤くなり悴む手を見つめていただけの小春だったが、何故か兄に問われ行き着いたのはその単語。
本当に寂しいと思っていたのかは不明だったが、そう結論付けた途端1人になった時の寂しさがじわりと浮き上がるように小春に襲ったのだから嘘では無いだろう。
だから夏目の耳に届いたその声からは寂しさはなく、ただそう思ったから言った、だけに聞こえた。
それに何よりいつも胸元に下げられていた1本の管がないのだ。
管狐である管太郎は名取に連れられた会合で出会った祓い人と戯れていた時に離れ離れになってしまった。
それは言ってしまえば小春のせいなのだが…小春はこれまで落ちに落ち込み、ようやく雪が降り多少の寂しさは緩和されたように見える。


「管太郎なら絶対帰ってくるさ…管太郎の主は小春なんだから。」

「……うん…」


小春はいくら騒動があったからと言って重光から貰った管狐を忘れていった事を後悔し、自分を責める。
たしかに置いて行ったことは褒められる事ではないが、後悔しても仕方ないとしか言えず、戻っても確実に管狐と遊んでくれていた人物はいないだろう。
名取が探してくれると言うので特徴と名前を教えると名取は驚きの表情の後苦笑を見せた。
それに違和感を感じて名取に問うが名取からはなんでもないとしか返ってこないため聞き出す事を諦めた。
夏目は弱弱しく頷く小春に小さく弱ったように笑い、小春の小さな手を取る。


「手、冷たいじゃないか…手袋してないのか?」

「忘れちゃって…」

「まったく…ほら、これつけてけ。」


妹の手を取ればその手は氷のように冷たかった。
それに目を見張った夏目は溜息と共に自分のカバンから手袋をひとつ取り出し小春につけてやる。


「え…でもお兄ちゃんは…」

「俺はそんなに寒くないから大丈夫だ」


元々夏目は手袋をつけていなかった。
寒さに強い、という訳ではないが小春は学校帰りの途中でも雪に触れていたため夏目より手が冷たかっただけである。
冷たい妹の手に夏目は雪が降りはしゃぐ小春の姿を思い浮かべているのか微笑ましそうにしながらも器用にも苦笑いを浮かべていた。
小春は兄の言葉に甘えて黙って手袋をつけてもらっていた。
しかし、小春には男用の手袋は大きく、やはりブカブカだった。
手を軽く振ると指が嵌っていない先端部分がしおれているように動くのを見て小春も夏目も笑みを零す。
だが流石に一人だけ手袋を独占するのは心が痛み、小春は兄にもう片方の手袋を渡した。


「お兄ちゃん、手袋を半分こしよ?」

「でもそれじゃあ手袋していない手が冷たいだろ?俺はいいから小春が使えばいいよ」


片方の手袋を渡され夏目は目を見張った。
半分こ、という妹に夏目は目を細め、困ったように笑う。
遠慮はいらない、という兄に小春はどうしたものかと考えた結果、『じゃあこうしよう!』と自分のもう片方の手と空いている兄の手を繋いだ。


「小春?」

「手袋を半分こして、手袋してない手を繋げば私もお兄ちゃんも暖かいでしょ?」

「小春…」


妹に手を握られ夏目は小春の言葉に一瞬だが驚いたように目を見張る。
しかし小春の言葉に『そうだな』と嬉しそうに笑い、渡された手袋を手を繋がない方の手に被せ、放していた小春の手を再び繋ぎ、そのまま夏目は妹の手ごと自分のポケットに突っ込む。
小春は兄同様最初こそ目を見張ったが、すぐに嬉しそうに顔を綻ばせた。


「さ、帰ろう。」

「うん。」


夏目は小春と手を繋いだまま歩き出す。
小春も夏目も、心も温かくなった気がした。

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