雪がちらほらと降っている中、小春と夏目は他愛ない話をしていた。
明日は積もるかな?、夕飯は何だろう?、今日は冷えるから暖かくして寝よう……色々な事を話していた。
夏目は妹との会話に胸が熱くする。
寝たきりで身体が不自由だった頃と比べたら今は幸せすぎていた。
幸せすぎて逆に夢ではないのかと怖かった。
夜眠りにつき目を覚ませば小春の体の異常は影鬼のせいではなく、今もずっとベットに縛られているのではないかという恐怖心もあった。
まだ小春が回復して一年も経っていないため夏目が恐ろしく感じるのも無理はないだろう。
「明日積もればいいね」
「ああ、そうだな…でもちょっと雲行きが怪しくなってきてないか?」
「え?」
ぎゅっと手に力を入れれば小春もぎゅっと握り返してくれる。
何気ないしぐさでも夏目と小春にとってはとても幸せな事だった。
小春が手袋をしている方の手の平に降ってくる雪を受け止めながら楽しそうに呟く。
夏目もそれに頷きながらも不意に周りが薄暗くなっているのに気づき空を見上げた。
空は雪雲だからか厚く空を覆って太陽の光を遮り薄暗くさせていた。
夏目はそれを見上げ少し嫌な予感が過る。
何気なく『雪女でも出なきゃいいけど』と零し早く帰ろうと足を速めたその時――
「見つけなきゃ…見つけなきゃ…」
誰かの声が2人の耳に届き、2人はその声のする方へ目を向ける。
そこには田んぼがあった。
少し雪化粧がうっすらと施されている田んぼの中に、人ではない者――妖がいた。
「ゆきだるま…」
小春はその妖の背を見て思わずそう零してしまう。
幸いなのは小声だったため妖の耳に届かなかった事だろう。
夏目は何かを探している様子の妖と関わらないよう目を逸らしながら少し距離を置いて通り過ぎようとした。
小春も兄が係わらないようにしようとしているのが分かったのか何も言わず小走りについていく。
しかし…
「お前ら見えるのか?」
チラリと様子を見ていた夏目と、妖の視線が重なってしまう。
しかしそれでも知らぬ存ぜぬを通そうと速足でその場を去ろうとした。
だが目線が合ったのに気付いた妖が田んぼから出て声を掛けてきたのだ。
「待て!不思議な奴!一緒に探してくれ!お前達ならきっと!!」
「…お兄ちゃん」
「ついてくるか…」
無視をしても後をついてくる妖に小春はチラリと妖を振り返った後兄へ目線を向ける。
夏目はついてくる気でいる妖に小さくため息をつき立ち止まった。
「何を探してるんだ?」
夏目と小春が立ち止まったため妖も距離をおいたまま立ち止まる。
繋いでいた手を放し小春を何気なく背に隠し夏目は妖に振り返った。
振り返ればまさに雪だるまだに似ている妖がおり、しかし雪だるまとは違いその妖は毛で覆われていた。
「な、なにをって……何かあったかい物だ!」
「暖かい物って…こんな雪の中で…」
「あなた寒いの?」
振り返った夏目の問いに妖は考える。
しかし出てきた言葉は『あったかい物』だった。
あったかい物と言っても数えきれないほどあり、それだけでは探しきれない。
更に情報を得ようと小春が兄である夏目の背から覗き込むように問いても妖は寒いのかと言われても首をひねるしか答えは出せなかった。
「困ったな…これくらいしか…」
そう言って夏目は自分のマフラーを解いて妖に差し出した。
今持ってるあったかい物と言えばこれくらいしかないのだ。
妖は差し出されたマフラーをゆっくりと手を伸ばす。
しかし、妖の手がマフラーに触れたその途端、マフラーの一部が凍ってしまう。
パキンと音をさせ凍るマフラーに小春も夏目も驚き、驚きのあまり後ずさる。
「よ、寄るなよ!?あんまり近づくと俺たちまで凍ってしまう!」
夏目が後ずさったため、背に隠されていた小春も後ずさる形となる。
妖がマフラーを凍らせたのを見て後ずさる夏目達に流石の妖もムッとむくれた。
「もっと何かキラキラしたものだ」
「キラキラ?言ってること違うぞ…」
さっきは『あったかい物』とこの妖は言った。
しかし先ほどは『キラキラしたもの』だと言った。
食い違っている妖の探し物に夏目は首を傾げる。
そんな夏目と小春を見て妖はくすくすと笑いはじめた。
「ふふ…人の子と話すのは初めてだ…変な感じだな。」
妖は初めて人と話すと言った。
夏目と小春が初めてだと。
妖があまりにも嬉しそうに笑うものだから夏目も小春も釣られてふと笑ってしまう。
「それ、落としたのか?本当にこの辺りだったか?」
「分からない…思い出せないのだ…何か…あったかくて、キラキラして、いい匂いがして…」
「待てよ!思い出せないって…もしかしてそれが何か、どこにあるかも分からない物を探しているっていうのか?」
「見つけなきゃいけないってことは分かっている…片時も忘れたことはない…夢の中でも探している…」
話しを聞いていると妖の探し物は本人も分からないという。
分からない物を探している妖の言葉に夏目は『おかしな奴だな』と苦笑いを浮かべた。
「一緒に探そう!お前達だって何かを探しているだろ?」
「え、いや…俺達は何も…」
「そうか?人とは大抵何かしら探しているものだと思っていた…」
「え?」
「何かしらいつも探したり忘れたり…人の方がよっぽどおかしい。」
妖からしたら人間の方がおかしいと思うのは当たり前かもしれない。
考え方も、価値観も全く違うのだという事は妖と深い関わりを持つ夏目と小春が一番分かっていた。
人間の観察を好む物好きな妖もこの世にいるくらいだから人間もまた面白い生き物なのだろう。
「とにかく悪いけど…君が思い出してからじゃないと無理だ…」
探すのを手伝うにしても、探す物自体が曖昧で本人が記憶にないのだから探しようがない。
そう断り夏目は放していた小春の手を再び繋ぎ、妖に背を向け帰ろうとした。
しかし妖は慌てた様子で夏目を追いかける。
「待て!ひょろひょろ!くねくね!!冷たいじゃないか!」
「冷たいって―――ッ!!」
妖に冷たいと言われ夏目は振り返った。
しかし思っていたより妖が近くにおり、自分達に手を伸ばしていたため夏目は反射条件なのか小春の手と繋がっていない手で妖を殴る。
霊力が強い夏目のパンチは人間に対してはもやしだが、妖では効果は抜群で、もやしパンチを食らった妖は呆気なく後ろへ転がってしまう。
夏目は小春を引っ張ってその場から立ち去っていく。
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