兄がモコモコを追いかけたため小春も一緒に森へと入っていき、小春腕でにいるため必然的にも斑も森へと入っていかなくてはならない。
斑の中で小春の腕から降りるという選択肢はないようである。
「また降ってきた…」
暫くモコモコを追いかけていると雪がまたちらほらと振ってきたのに気付く。
夏目は小春に振り返り『寒くないか?』と心配して声を掛ければ小春は小さく微笑み『大丈夫』と言って首を振った。
首を振った妹に安堵の息をつき、懸命に雪を掘り何かを探すモコモコへ視線を戻す。
「おい、消えちゃうってどういうことだ?」
何かを探すモコモコに夏目は声をかけた。
何を探しているのかは知らないが、特徴があれば夏目でも探すことができる。
だから話を聞こうとした。
それに夏目は何となくだが物ではないような気がしていた。
しかしモコモコは聞こえていないのか一心不乱に雪を掘り起し何かを探していた。
「この雪みたいに溶けちゃうってことか?なあ、もしかして探してるものって…」
「ええーい!!煩いなぁ!」
「「!」」
モコモコは夏目と小春など視線もやらずあちこち探していた。
夏目は何か言いかけたが、その言葉を木の上にいた妖が遮った。
モコモコと自分達しかいないとばかり思っていた夏目と小春は妖の声にビクリと肩を揺らし、木の上にいる妖を見上げる。
そこには一匹だけではなく妖達が夏目と小春、そしてモコモコを見下ろしていた。
どうやら木の上で寒さと雪を凌いでいたようである。
「人の子!?」
「ひい!またあの毛だらけか!あいつに寄られるとたまらん!!」
妖達は人間の存在に気づき驚きはしたが、モコモコを見ればたちまち顔をしかめた。
どうやらこのあたりでもモコモコは嫌われているらしい。
確かに触れればたちまち凍ってしまうモコモコだが、ここまで嫌われる筋合いは小春や夏目から見て何もない。
触れなければ穏やかな性格だと喋っていて2人は知っているから。
「ふん!なんだ!あんなもの!!一口で食えるわ!」
「うろうろと目障りだ!人の子とまとめて食ってしまえ!!」
だからだろう。
上からの言葉を零す妖を夏目は小春を背に隠しながら睨んだ。
それは自分達を食おうとしているからもだが、モコモコを馬鹿にした言い方だからだろう。
夏目と小春を食おうとニヤリと妖が笑った瞬間…小春の腕の中にいた斑が動き出す。
「えーい!煩い小物どもめ!!私は寒くて苛立っているのだ!!」
小春の腕から夏目の肩へ飛び移り苛立ちを発散するように夏目の肩からジャンプして煙と共に本来の姿へと戻る。
「これは私の獲物だ!!手を出す者はこの私が食ってやるわ!!!」
白い大きな妖に戻った斑は苛立ちをそのままに口を開け小物だという妖に向かっていく。
大きな口を開けて自分達を食べようとする斑に怯え、妖達は悲鳴を上げながら四方八方へと逃げていった。
妖達の気配が遠のいていったのを見て、斑はフン、と鼻を鳴らしボフン、とまた招き猫の姿へと戻る。
「全く碌なことはない!帰るぞ!夏目!小春!!」
「ごめん先生…けど俺…忘れた物を取り戻したいって言う気持ちは少し分かる気がして…出来るなら一緒に探したいんだ…」
斑は妖の1人だから夏目と小春の思いは理解できないかもしれない。
夏目はモコモコの人間はいつも何かを探している、という言葉がどうも消えず、ずっと考えていた。
小春も、兄と同じ気持ちなのか、斑が確認するように夏目から小春へと視線を移せば小春からは頷きを貰い、斑は2人の頑固さを十分に知っているためピクリと頬を引きつらせる。
そんな斑を余所に夏目と小春はモコモコに振り返る。
「探している物って、本当に形あるものなのか?」
「何?ならなんだというのだ?」
「えっと、思い出、とか…」
夏目の問いにモコモコは首を傾げ問いを問いで返す。
その問いに今度は小春が答えた。
夏目も小春もはっきりと断言できないし、正直言うのはキザっぽくてちょっと恥ずかしい。
だから少しずつ声が小さくなってしまう小春の言葉にモコモコは目を瞬かせた後、くすくすと笑う。
「不思議なやつらだ、おかしなことを言う」
「違うのか?」
ふふ、と笑うモコモコに小春と夏目は顔を見合う。
けっしてモコモコの笑みは馬鹿にした笑みではなかったから小春はほっと胸を撫で下ろした。
その時、モコモコの細められた瞳からポツリと何か小さい何かが零れ落ちた。
その小さな物を小春と夏目は目で追うと、モコモコの胸のあたりに零れる。
「もこもこ、何か胸に…」
「…?」
その何かはモコモコの胸のあたりに零れ、キラキラと光っていた。
夏目は何気なしに何かが落ちたとただ伝えた。
その何気なしに伝えたモノをモコモコが見下ろせば…
「あった…」
モコモコはそう零した。
モコモコは笑みを浮かべそっと光っている物を包むように手を当てた。
「あったかい…ああ、そうだ…そうだった…」
やっと見つけた、とモコモコは笑った。
光る何かを包むように手を当てたモコモコの体は光はじめ、突然光りはじめたモコモコに夏目も小春も困惑する。
心配し声を掛ける夏目をよそに、斑が『そうか、あれは種だ』と何かを思い出したように呟いた。
「種?」
「ああ…この世にいる何百年もの間ずっとあれを探して彷徨い続ける…定めがあると知りながらそれを忘れているのもまた、定めなのだ…だがいつか雪の日に自らの内にあれが生まれ花を咲かせて消えてしまうという……それが"雪花"だ。」
小春が斑の呟きに首を傾げ、斑は思い出した事を話しはじめる。
斑の話しを聞き、モコモコを見上げれば、種だという物から伸びた氷のようにキラキラと光る蔓のような物がモコモコを包み込む。
モコモコの姿は次第に変わっていき、とても美しい女性へと生まれ変わる。
氷の粒のようにキラキラと光る中、白く美しい花の蕾を実らせる雪花に小春も夏目も目を奪われていた。
人の世では見れることのない美しさが、ここにあった。
「すべて思い出した…私はこうなるためのものだったのだ…」
声はモコモコと変わらない。
だけど愛らしいモコモコの姿から想像できないほど雪花は美しかった。
雪花がポツリと呟いた瞬間、蕾だった花が咲きはじめる。
しかしそれと同時に雪花は更に光はじめ、消滅しようとしていた。
消えようとしている雪花に小春と夏目は目を見張り、斑はただ雪花を見上げていた。
「その花も咲くと同時に――」
「…ずっと探していた物が…消えるためのものだったなんて……」
「見ろ!」
「…!」
探していた物、それは物でもなく、思い出でもない。
ただ自分が消えるだけのモノだった。
それは人としての小春と夏目にとってとても儚く悲しいモノだった。
何を探しているのかも分からなかったモコモコの探している物が、消えるだけのモノだった事にモコモコの記憶がまだ新しい小春も夏目も悲しげに雪花から視線をそらしてしまう。
斑は何かに気づき俯く2人に声をかけた。
斑の声に2人はハッとさせ顔を上げる。
顔を上げればそこには光を強め、周りの花や葉が消えていく雪花の姿があった。
「消えていく…!そんな…っ!」
消えていく姿はとても美しい。
だが、モコモコだった頃から関わっていた2人は消えていく雪花を『綺麗だ』と見ていられなかった。
雪花は閉じていた瞼を開き、小春と夏目を見つめた。
「見つけてくれてありがとう…不思議な奴…おかしな、可愛い…」
雪花は2人に見つけてくれたお礼を呟いた。
その声はやはりモコモコで、夏目も小春も消えていくだけの存在の雪花に悲しげに見つめる。
悲しげな表情を浮かべる夏目と小春に雪花は目を細め微笑む。
「ふふ、そんな顔するな…」
雪花は悲しんでくれる2人に笑みを浮かべた。
周りが触れる物を凍りつかせる自分を忌み嫌う中、夏目達は探し物を手伝ってくれようとした。
親身になって聞いてくれた。
それが雪花にとってとても嬉しい事だった。
そっと雪花は両手を伸ばし、小春と夏目の頬に触れる。
「お前達の探している物も必ず…いつか……」
光が強くなり、消えゆく中…雪花は笑みを深めた。
次はお前達の番だと、小春と夏目の探している物が見つかるよう笑みを送った。
姿形が次第に消えていく美しい雪花に小春も夏目も忘れないように…目に焼き付くように…雪花が消えた空をずっと見上げていた。
雪花の存在は儚く、そして美しすぎて…小春の頬に涙が伝った。
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