(8 / 8) 2話 (8)

その夜、小春の寝顔を見つめながら夏目は眠れなくて窓を開け窓際に座っていた。


「小春は寝たか…」

「先生…」


障子の隙間から音も立てず現れた斑に夏目は小春の寝顔を見ていた顔を上げる。
斑はゆっくりと小春の枕元へ移動し、先ほどの夏目と同じく小春の寝顔を見つめていた。


「夏目、1つ聞きたいのだがよいか?」

「ああ、別に良いけど…」

「小春は妖が見えるのか?」

「…!!」


『先生が質問って珍しいな』と小さく笑っていた夏目だったが、斑の問いに表情を固まらせ笑みを消して小さく頷いた。
夏目の頷きに斑は目を細め短い尻尾を左右に揺らす。


「では、1つ警告しよう。」

「警告…?」


予想していた答えに驚くことも落胆する事もない斑の言葉に夏目は首をかしげ顔を上げて斑を見る。
斑は小春から夏目へ目線を移し目を細めた。




「小春はお前より狙われる確実が高くなる…小春を失いたくないというのなら十分に用心するんだな。」




斑の言葉に夏目は目を丸くする。
一瞬息が止まり、暑苦しいと思っていた暑さも吹っ飛び夏目は数秒固まり斑を見つめていた。
そんな夏目に斑は小さく笑い夏目から小春へ目線を戻す。


「な、なんだそれ…なんで小春が…妖に……」

「なんだ、気付いておらんのか?…ああ、そうか…別々に暮らしておったのだったな……」


兄妹なら妖に狙われている事を既に気付いていると思っていた斑は驚愕している夏目に斑が逆に驚いてしまう。
硬直から復活した夏目は何で、と再び斑に問い、斑は『しょうがない…一度しか言わぬぞ』と溜息交じりに呟く。


「お前達の祖父である友樹の事、少し話したな?」

「あ、ああ…」

「友樹は例外があるとは言え妖は見えない普通の人間だと。」

「ああ…」

「だが、友樹は普通であって普通ではないのだ。」

「普通であって普通じゃない?…っおい!遠回しに言わないではっきり言ってくれ!どうして小春が俺より狙われる事になってるんだ!」


肝心な話には触れようとしない斑に夏目は苛立ちつい夜中だというのを忘れ声を上げてしまう。
そんな夏目に斑は『静かにせんか!夜中だぞ!』と一喝され口を閉じた。
口を閉じた夏目に少し話しを聞け、と呆れたように呟く。
一喝され少しは冷静さを取り戻した夏目は口を閉ざしたまま頷き、口を閉ざしたまま頷いた夏目に斑は続きを話し始める。


「友樹は確かに普通の人間だ。だが、妖にとって涎も垂れるほどの獲物なのだ。」

「それはどういう…」

「人間で言えば高級品と言えば分かりやすいか?」

「…!!」


首をかしげる夏目に斑は『ふむ…』と考える素振りを見せ最近覚えた言葉を呟いた。
斑の言葉に夏目は目を丸くし、言葉を失う。


「友樹は妖にとって最高の餌なのだ。匂い、仕草、声、体、全てが妖に食べてほしいと誘っているようにしか見えん。」

「そんな…って待て!だったら何で俺達が生まれてるんだ!?そんなに美味そうだったなら小さい頃に喰われて死んでいるはずなのに…俺は祖父は病死って聞いた事があるぞ!」

「まあ、そこは天性の運と影鬼とレイコのお陰だな。」

「て、天性の運と…レイコさんと影鬼の…お陰…?」


はあ?、とキョトンとさせる夏目に斑はうむ、と頷いた。
シリアスだった空気が一気に崩れさった音が夏目の耳に届く。


「幼き頃は天性の運によって妖の餌にはならなかったようだが、影鬼とレイコに出会ってからはこの2人が友樹を守っていた。2人の形相に恐れて誰も友樹に手を出せなかったんだぞ?」

「それって…先生も?」

「……………」


自分の問いに無言で返す斑に夏目は『そ、そうか…』と返すしかない。
目も逸らされれば同情めいた目線を送るしかないのだ。


「…餌にしか見えんのと同時に友樹はとても皆に好かれておった」

「へえ…」

「皆友樹が見えなくとも側にいたいと願い触れて欲しいと願い名を呼んで欲しいと願い己だけを見て欲しいと願った…レイコと影鬼の最強ツートップに両脇を固められ守られている姿から皆にはお姫(おひい)と呼ばれていたぞ。」

「…え…今…なん……え…?」

「お姫、と呼ばれておったぞ。」

「お、男…だよな?」

「男だったな。」


祖父だから男なのは当たり前で、自分達が生まれレイコの霊力も引き継がれているし夏目はレイコに、小春は友樹に瓜二つというのだから確実に血は繋がっている。
自分達がこの世にいるのだから祖父がおなべさんじゃないのは確かだ。
しかし斑から出た言葉は本来女性に使うべき言葉で、夏目は自分の耳を疑った。


「まあ、女と見紛うほど愛らしい男だったがな。」

「へ、へえ…」

「何故レイコが女で友樹が男なんだ、何故逆じゃないんだ、と嘆く者もいたぞ?」

「…………」

「因みに私も嘆いた者の1人だな。」

「はは…」

「アレが女ならば今以上に惚れ込み攫って子を孕ませていたな。」

「…………」


何でもないように告白する斑だが人間である夏目からしたら刺激が強すぎた。
『子は勿論一姫二太郎…いや、子沢山できっとレイコより幸せに出来たはずだ』と自信満々に言う斑に顔を引きつらせて何も言えず目を逸らしていた夏目だったがハッと何かに気付き小春の枕元で懐かしそうに小春を見下ろす斑を抱き上げて小春から放れさせる。


「な、何をする…!!」

「駄目だ!!小春だけは駄目だ!!先生!!」

「はあ!?何がだ!?」

「小春は先生にはやらないからな!!いや!小春は妖じゃなくて普通のサラリーマンの男と結婚させる予定なんだ!!!」

「……本当に…お前はレイコに似てるな…」


急に抱き上げられ訳の分からない事を言い出す夏目に斑は呆れたように呟く。
しかし夏目は祖父が女なら当然孕ます宣言した斑に危機感を覚えてガッチリ斑の身を拘束する。
夏目の危機感には斑と垂申が小春が友樹に生き写しだと言っていたからもあるのだろう。
斑は夏目の言葉にレイコに似ていると呟き半目で夏目を見上げた。


「レイコもサラリーマンではなく自分と、だったが同じを言って妖を遠ざけておったわ…ま、それは置いといて」

「いや、置いておけないぞ!?絶対小春には手を出すなよ!!」

「……小春は見た目も中身も友樹に似ている。ましてレイコの霊力もお前ほどではないが引き継いでいるからな…友樹に熱愛している妖に攫われ孕まされないよう気をつけることだ。」


手を出すなと言われ夏目を見上げていた顔を下げ小春へ向ける。
言い返さない斑に夏目は慌て出すが、何か言う前に斑に遮られ夏目はある気になった事を斑に聞こうとするが、やはり斑を降ろすことはなかった。


「なあ、先生」

「なんだ?」

「友樹さんも傷を治したりできたのか?」

「………」


夏目はふと燕の痛みを消したことと自分の疲れを消したように感じた事を思い出し、何気なく斑に聞いた。
本当に何気なく、ただ気になったから軽い気持ちで聞いたため、無言になる斑に夏目は首をかしげる。
斑は暫く黙り込み、夏目の部屋は静まり返る。


「ああ…友樹は特別な力を持っていたな…」


静まり返る部屋に斑の小さな呟きが響く。
懐かしそうに目を細めしみじみと呟く斑に夏目は首をかしげる。


「それは…霊力を人に与えるような?」

「ああ…霊力はあっても見えず声を聞くことも出来ない人間だったが、その霊力はレイコにも負けないほど強かった…無意識に他人に霊力を与え時には妖の傷を癒していた…だからこそ妖は友樹を望み、食べれば力が強まると狙っていたのだ…それをレイコと影鬼が守っていた事で病気で死ぬまで生きてこれたのだ…」

「じゃあ、その能力が小春にも…」

「多分な……小春は本当に友樹に似ている…だから小春も体が弱く…短命なのだろうな…」

「―――ッ!!」


斑の言葉に夏目は目を見張る。
目を丸くしたのを斑は見ずとも気配で感じ、目を細めた。
夏目は斑の言葉に体を震わせ、斑はカタカタと震える腕を見て見ぬふりしてやる。


「気付いて…いたのか…先生…」

「馬鹿者…私を誰だと思っている?お前達人間のように鈍感と思うな」

「…………」

「…小春を思うのなら何故あの病院を選ぶ?小春が居なくなれば本当にお前は1人になるのだぞ」


目を伏せる夏目に斑は問うが、夏目は口を閉ざしてしまう。
再び部屋に静けさが戻ったが口を閉ざしていた夏目はゆっくりとその場に座り込みながら口を開く。


「……だからだ…」

「なに?」

「もう、小春は長くない…だから……だったらもっと色んな外の世界を知ってほしかった……目が見えなくたって耳が聞こえなくたって外の匂いや空気を感じて外を知って幸せだって思いながら逝ってほしいんだ…」

「お前はそれでいいのか」

「いいも悪いも…どうすればいい?俺が我が儘を言ったところで小春の寿命は長くならない…俺が小春を妖から守っても妖以外の見えない敵にどう立ち向かえるって言うんだ?先生が小春の寿命を延ばしてくれるっていうのか?」

「…………」

「出来ないだろ?人間も妖も小春の寿命を延ばすことは出来ないんだ…だったら色々な経験をさせてベットからの世界以上の物を見せたいんだ……それが別れた時余計に辛くなることでも…小春が幸せだと笑って逝けるようにしたいんだ……」


夏目は悲しみを抑えるようにグッと斑を抱きしめている腕の力を強める。
力が強まったと言っても苦しいほどの力の入れようではなく、斑は微かに力が強まった腕に溜息に似た息をつき宙を見つめる。



「ああ…そうだな……」



宙を見つめながら斑はそう呟いた。

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