(11 / 12) 13話 (11)

あれから、結局少女と中級の争いは終わらなかった。
しかし祓うのを邪魔され気が削がれたのか、祓う気も失せたと少女は帰っていった。
様子からして当分は大人しいだろう、という斑の言葉に小春も夏目も何とか騒動が落ち着いたとホッと胸を撫で下ろす。


「いってきます」


しかし流石に疲れたのか、次の日の小春と夏目はちょっと疲れた顔をしていた。
げっそりとはいかないまでも顔色が優れない2人に流石に心配になった塔子と滋に小春と夏目は笑って誤魔化した。
笑って誤魔化せたのはいいのだが、2人の足取りはとてつもなく重い。
正直部屋でぐうぐう眠っている斑と共に学校を休んで寝ていたかった。


「おはよう、夏目、小春ちゃん」

「あぁ…おはよう…たぬ……――!?」


登校している間、夏目と小春の間に会話はない。
疲れすぎて言葉を発するのも億劫だったのだ。
しかし学校を休むにしても世話になっている藤原夫婦を無駄に心配させたくないというのもあり、休む選択肢は皆無に近かった。
まあ今日は早く寝よう、と思いながらいると、背後から田沼が声をかけてきた。
夏目と小春は田沼の声かけに振り返り挨拶を返そうとしたのだが…


「おはようございます!夏目先輩!夏目さん!」


夏目と小春の疲労の原因がいた。
それも田沼の隣に。
しかも田沼の腕に絡んで。
誰もが見惚れるほどの可愛らしい笑顔を浮かべた少女が、いた。
思わず小春も夏目も絶句してしまう。


「あれ、音羽…お前夏目と小春ちゃんと知り合い?」

「ううん!でも2人の事は知ってるよ!人間の間でも妖の間でも夏目さん達って有名だから!」

「ああ、なるほど…」


夏目と小春は思う…『田沼、それ納得するとこちゃう』、と。
だが言えなかった。
恐ろしいというのもある。
しかし、それ以上に――少女の性格が180度違うのだ。
人類皆敵少女から人類皆味方少女に大変身していた。
…うん、ものすごく分かりずらい…


「え、っていうか…え?田沼…その…その子…」

「ああ、そっか…言ってなかったっけ?こいつは――」

「あっ!要!私が自己紹介するよ!」


どう聞いていいのか分からないほど夏目は混乱していた。
不躾だと思いつつも少女を指差す夏目に田沼はまだ紹介していなかったことを思い出す。
田沼が少女を紹介しようとしたのだが、少女が自分で自己紹介すると言いだし田沼は『ちゃんと出来るか?』と心配そうに呟く。
田沼の呟きに少女は『大丈夫だって!』と返し、田沼の前に出る。


「はじめまして、夏目先輩、夏目さん!私小野寺音羽です!そして要の将来のお嫁さんです!」

「あ…はい……………―――はあああああ!!?」

「田沼さんの…お、お嫁さん!?」

「お、おい!音羽!」


要の前に出て自己紹介する少女…音羽に夏目は釣られそうになった。
だが、最後の言葉――『お嫁さん』という言葉に声を上げて驚き、小春は目を真ん丸にさせる。
ニコニコと笑顔の音羽は整った顔立ちもあり他の人間ならイチコロだっただろう。
田沼は音羽の言葉に慌てた様子で軽く叱り、兄妹2人して目を真ん丸になって田沼と音羽を見比べる2人にバツが悪そうな表情を浮かべる。


「た、田沼!!お、おおお嫁さんって!?」

「いや、なんていうか…こいつ小さい頃からの知り合いで…どうしてか異様に俺に懐いてて…」

「でもお嫁さん…」

「いや、それは音羽が勝手に…」


挨拶も終わり、音羽は田沼の腕に絡み直す。
どうやらそこが音羽の定位置のようである。
混乱しているからか田沼の説明にも追いつけず夏目と小春が呆然と突っ立っていると、音羽が『要〜!遅刻するから早くいこ!』と甘えた声で先を急かし、田沼は苦笑いを浮かべ『分かった分かった』と引っ張られるままに歩く。
声を掛けないところを見ると田沼は一緒に登校する気のようなのだが…田沼と音羽の後をついていくように小春と夏目も困惑となりながらも歩き出した。
が、チラリとこちらを見た音羽の顔に『私と要の間を邪魔すんじゃねえ』という赤文字が書かれ、夏目と小春はピタリと足を止める。
動きを止めた2人に音羽はにこりと笑みを浮かべ、田沼の腕にすり寄る。
2人は見送るしか選択肢は残されていなかった。


「あの…」


嵐再来、という言葉が2人の頭の中に浮かんだその時、また背後から声を掛けられ、振り返ればそこには――


「天狗…?」


昨日、斑と争い、音羽の背後に控えていたカラスの顔を持つ天狗がいた。
カラスの天狗に夏目と小春は目を丸くし、カラスの天狗は困ったように眉を下げ頬をかく。
『少々お時間をいただけませんか』というカラスの天狗の言葉に夏目と小春はお互い顔を見合わせた後頷き橋の下へと場所を移した。



****************



場所を移動した小春達は『この辺でいいだろう』とついて来たカラスの天狗に振り返る。
夏目達と目が合ったカラスの天狗は申し訳なさそうに眉を下げたまま夏目達に頭を深々と下げはじめる。


「昨日はとんだご無礼をいたしまして…更に先ほども……申し訳ございませぬ」

「え、いや…別に…」


どうやら色々な意味で謝罪するため現れたようで、頭を下げられ夏目と小春は慌てて『気にしていない』と伝え、頭を上げてくれ!、と零す夏目達に天狗は渋々下げていた頭を上げる。
頭を上げてもまだ眉は下がったままだった。


「改めまして…私はカラス天狗の青之丞(あおのじょう)と申す者にございます。お面の女は妹の蒼葉(あおば)にございます…妹は今、主様の護衛にてお傍を離れられぬ故、不在をお許しください」

「あ…俺は…」

「存じております…夏目貴志殿と、その妹君、夏目小春殿にございますね?」

「何で知って…」

「友人帳」

「…!!」

「お噂はかねがね…」


主とは違い礼儀正しいためつられて夏目も小春も頭を下げようとした。
しかし何故かあちらには名前が知られており少し訝しんだ目線を送ってしまう。
それを察したのか青之丞が友人帳の名を出す。
確かに友人帳の名を使えば名前を知っている事に対しての納得はいく。
だがそれと同時に命、そして友人帳を狙っていると思ってしまう。
小春を背に隠し、カバンを庇う夏目のあからさまな警戒心に青之丞は苦笑いを浮かべた。


「ああ、怯えさせてしまいましたね…心配なさらずとも我らは友人帳を狙いませぬ」

「……本当か…?」

「はい…確かに名を奪っているそれには興味がないとは言い切れませんが、主様ともども他人の力を借りるというのはどうも…」


実力があるのは昨日でよくわかったから、青之丞の言葉は納得できた。
しかし実力があるから友人帳を狙わないという訳でもないので警戒は解いても気を張ってしまう。
警戒を解く夏目に青之丞は目を細める。


「それで、一体何の用で呼び出したんだ?」

「それは……主様にございます」

「小野寺さん…?」


友人帳狙いではないという青之丞に夏目は怪訝さを見せる。
首を傾げる夏目と小春に青之丞は最初言いにくそうに言葉を詰まらせたが、ぽつぽつと話し始めた。
それは他でもない音羽の事だった。
音羽の名に夏目も小春もあの性格が180度も違う彼女を思い出し顔を引きつらせる。
それを察したのか、申し訳なく青之丞が『すみません…』と零した。


「主様は田沼様の事を心からお慕いしておりまして…田沼様の御前ではあのようにとても愛らしいお方なのですが…その、なんていうか…」

「田沼以外の人間の前じゃ昨日のような態度、っていうことか…」

「お恥ずかしながら…」


青之丞の話しによれば、音羽は小さい頃から田沼に恋を抱いていたらしい。
近所という事で仲もよく、いわば一個下の幼馴染である。
田沼の後を追っている姿は小鳥のようだったと青之丞は可愛らしい主のその時を思い出しているのかうっとりとさせながら説明する。
若干親ばか(主馬鹿?)に引きながら夏目は話を聞く。
というか逃げ出してもこの主馬鹿に捕まるのは目に見えている。
人の前で騒ぐよりはマシだと夏目は思いつつも小春だけは、と思い小春に『先に行ってていいぞ』と青之丞に聞こえないよう小声で伝えたが、小春は首を振り『お兄ちゃんといる』と言った。
そんな妹に兄として可愛くみえないはずがない!
夏目と青之丞は同類だった。


「主様は田沼様をお慕いしておられるのですが…つい最近仕事の都合とやらで田沼様のお父上様が廃寺の主をなさるために引っ越しとやらで遠くに…最初こそ文など交流しておられたお二人でしたが…主様が我慢できず田沼様を追いかけこちらに来られたのです」

「凄い行動力…」

「両親はそれを許したのか…?」

「……いや、なんというか…主様の性格ゆえに諦めました…」


あの様子では幼い頃から『好き!大好き!!』と付きまとわれていたはずなのに、田沼からは嫌そうな気配はなかった。
しょうがないなぁ、と甘かった。
夏目はその話しも聞き、否定してるが田沼も音羽の事が好きなのだと思っていたのだが、なんとなく違うような気もしてきた。
あの甘さはどうも自分に似てるのだ。
小春を甘やかす自分に。
それを零し斑がいればきっと『なんだ、自覚あったのか?』と言われること間違いなしだろう。
ベッタベタで音羽だけがハートを増殖しているのを思い出していた夏目だったが、ふと気になった事があった。


「そういえば…青之丞って、元は小野寺さんのご両親の式だったとか?」

「え?違いますが…何故です?」

「いや、やけに小野寺さんの小さい頃の事知っているんだなぁ、って思って…」


青之丞の口ぶりは音羽が子供のころから知っている風だったため、夏目は疑問に思った。
音羽本人から祓い屋ではないと聞いていたから音羽も何らかの理由で自分達と同じで最近2人を使役していたのかと思っていた。
しかし青之丞は夏目の何気ない問いに首を振る。


「主様のご出身は少々複雑でして…主様がお生まれになられた時にはすでに我々がついておりました。」

「複雑?」

「はい…主様は確かに祓い屋ではございません…しかし、ご実家は祓い屋を生業となさっておられる由緒正しいお方でございます」

「え…じゃあ祓い屋じゃないってどういう…」

「……主様は末女にあられ、当主である兄君の加護の元末女である主様は自由奔放に生きられたのですが…主様の一族は見えぬ者との関わり及び外との接触は固く禁じられ、それは末女の主様も例外ではございません…しかし、外の世界を知った主様はご実家が窮屈に思えたのでしょう…齢4歳にして主様は家出を実行なさいました。」

「「4歳!?はやっ!」」


話しを聞いていたらどうやら音羽は祓い屋は祓い屋でも本人はそれを毛嫌いして家出をしたらしい。
しかも4歳で。
それには驚きが隠せなかったらしく、夏目と小春は珍しく声を揃え突っ込んだ。


「4歳って…生活どうしてたんだ!?」

「普通保護されるよね…田沼さんの幼馴染になってるっていうことは認められたの?」

「いえ、現在進行形で家出中です。私と蒼葉が主様の保護者となってました。我々得意なんで、人に化けるの」

「え…お金は?お金どうしたの…?」

「お金もだけど色々人の世じゃ必要なのあるだろ…それらはどうしてたんだ?」

「金銭面等は……………お聞きになられます?

「「あ、やっぱいいです。」」


色々と人の世は用意するものが多い。
確かにお金も大事だが、お金だけで生活できない事が多かった。
中々な人生を謳歌しているからあんな性格になったのだろうか…小春は失礼ながらもそう思った。
目を光らせる青之丞の言い方に碌な事ではないと察した夏目と小春は同時に首を振った。


「主様は確かに性格はアレでございます…しかし私も蒼葉も…どこまでもあの方についていくとあの方がお生まれになられた時から決めているのです…もし、兄君が来られ主様を連れ戻しに来られてもあのお方が帰るとおっしゃられない限りこの命を散らす覚悟でございます」

「青之丞…」


青之丞の決意は決して軽い物ではないことはまだ高校生の夏目と小春にも分かった。
主の性格をアレと言ったことに関してはスルーをするとして…夏目達はグッと拳を握り主を思う青之丞の笑みにつられたように笑みを浮かべた。


「それで…前置きが長くなったのですが……どうか我が主をよろしくお願いいたします。」

「「へ…?」」


ほのぼのとした空気が漂っていた中で青之丞は突然頭を下げた。
小春と夏目は『え、今までの前置きだったの?』と突っ込もうとしたのだが、それよりも青之丞の続けられた言葉にキョトンとなった。
小春と夏目は静まり返ったその中でもう一度『え?』と零した。
キョトンとこちらを見つめてくる2人に青之丞は『いやー』と下げていた頭を上げ、頭を掻いた。


「いや、なんていうか…主様は見た目通りプライドが高くていらっしゃるため人と友達というものが作れないままご成長なさってしまいまして…それもこれも主様の愛らしくお美しく崇高で純粋で無垢なお心をお察しできない人間(と書いてクズと読む)共が全ていけないんですけどね…だけど私達兄妹は主様に少しでも幸せになっていただきたいのです…しかし、主様の友達をその辺の見えない只の愚民共なんかにさせれず困っていたんです…ですが夏目殿と小春殿は主様と同じ、いや、ちょっと、あ、いやいや、大分下の妖力をお持ちでいらっしゃるでしょう?ぜひ我が主様とお友達に!」

「「なんでだーー!!」」


夏目と小春は再び声を揃えて叫んだ。
ちらほら見える生徒達が叫び声を聞き驚き辺りを見渡していたが、2人は気づいていない。
見た目は真面目そうな青之丞の言葉に夏目も小春も、突っ込みざるを得なかったという。

→あとがき

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