(1 / 26) 15話 (1)

ちょい肌色ちょいグロ?注意!
ちょっぴり夏目が鬱状態になりますのでご注意!



****************



夏目貴志―――彼は祖母である夏目レイコの遺品のあるものを受け継いでいた。
それは妖怪達の名前が書かれた『友人帳』。
その名前が書かれた紙は妖達の命とも繋がっており、友人帳は喉から手が出るほどの魅力があった。
そんな友人帳を受け継いだ夏目は妖達を手下にするでもなく、下僕にするでもなく、僕にするでもなく、ただただ求められるまま名前を返すだけだった。

――そんな夏目に、今、危機が訪れていた。


「あんた、馬鹿でしょ」


夏目の危機、それは目の前の絶世の美少女である。
美少女こと音羽は夏目を睨む目で見下ろしていた。
夏目はただ廊下を歩いていただけだった。
教室に戻るため曲がり角で曲り階段を上がろうとした夏目は階段を下りていた音羽と鉢合わせ冒頭のセリフを吐かれた。
夏目は音羽の言葉に『はあ?』と返したが、音羽の視線はそのままだった。


「なんのことだ?会ってそうそう馬鹿呼ばわりされる筋合いは…」

「ない?」

「…ああ」


音羽の馬鹿呼ばわりには流石に夏目もカチンと来たのか負けじと音羽を睨むが、音羽には効かず、音羽は夏目の言葉に眉間のしわを深めた。
頷く夏目に音羽はピクリと片眉を上げる。


「……あんたと私、同じだと思ってた」


片眉を上げて更に機嫌を悪くして何を言うかと夏目は身構えたが、出た言葉にまた『はあ?』と返してしまう。
怪訝とさせる夏目に通じていない事を察した音羽は鬱陶しそうに夏目を見た。
しかし、夏目が理解できていないのはどう見ても言葉が足りない音羽に落ち度があり、鬱陶しそうに見られた夏目は八つ当たりされた気分である。
疑問符ばかり浮かべる夏目に音羽は溜息をつく。


「あんたの妹、生きてたのね」

「生きてたって…どういう…」

「飼っていた妖に妖力を吸われて死ぬ寸前だったんでしょ?」

「!――それ…どうして…っ!?」

「分かるわよそれぐらい…私を誰だと思ってるわけ?はっ倒すわよ」

「…す、すみません……」


溜息をついた後、音羽は小春の事を告げた。
最初こそ分からなかったが、重なられた言葉にハッと察し目を見張る。
しかしキッと睨みを強めた音羽の低い声に夏目は思わず謝ってしまう。


「私、要が好き」

「え…?」

「1人の男性として愛してる」


謝る夏目に音羽は何も言わなかった。
その変わり、突然告白しはじめる。
音羽が田沼の事が1人の男性として好きなのは夏目も小春も知っている。
だから改めての告白に、そして田沼ではなく自分にしはじめる事にまた疑問符ばかりが浮かんでしまう。
それでも音羽は続けた。


「私は要が好き…大好き。こんなにも人を好きになったのは初めてなの…こんなにも他人を思って心があたたかくなるのは初めて……私は要が無事なら何でもいい…要が傷つくならどんな奴だってこの手をどんなに汚そうとも厭わない……―――だから、要を傷つける者は誰であろうと許さない。」

「……ッ」


目を瞑り、俯いて、心があたたかいと胸元に手を当てた。
田沼を想うその声はとても甘く優しく暖かい。
田沼を想うその表情はとても愛らしかった。
しかし最後の言葉に夏目は息を呑んだ。
目を開き夏目を見下ろしたその表情は―――恐ろしかった。
あんなにも甘く優しくあたたかかった声は地を這うように低く、
あんなにも愛らしかった表情は凍り付いたように冷たい。
夏目は音羽の冷たい目に体が動かず震えてしまう。
そんな夏目をよそに音羽はふと顔を和らぎいつもの不愛想な表情に戻り、夏目は安堵の息をつく。
息をつく夏目など気にも留めずやはり音羽は続ける。


「だからあんたは妹を傷つけた妖を祓うのだとばかり思ってた…あんたは私と同じだから…」


音羽は夏目も自分と同じく大切な人を傷つける者を徹底して許さないと勝手に思っていた。
冷めている音羽から見ても夏目は妹である小春に甘い。
溺愛を通り越していると呆れる時だってあった。
音羽も夏目も、お互い相手に向ける愛情の形は違えど同じ愛を相手に向けている。
ただ違うとしたら夏目は小春にも愛を返されているが、音羽は一方的というところだろう。
それを音羽は気づいているが、気づかないふりをしていた。
音羽は田沼が大事ゆえにその愛情が暴走気味だった。
八ツ原で出会った時も田沼の体調が崩れているのを見て田沼を想い妖が多く集まっている八ツ原に足を運び払い続けてきたほど音羽は一途で不器用だった。
だから音羽は夏目の小春への溺愛ぶりを見て同類だと密かに思っていたのだ。
だから音羽は挑発するように夏目ではなく小春に忠告紛いな事をしたのだ。
小春を通して小春が死ぬと忠告されたのを知った夏目の行動が音羽は見たかった。
しかし、音羽の予想に反して小春は兄には言わなかったらしい。
それが音羽の誤算だった。
だがもし夏目に忠告してもきっと結果は同じだったのだろう、と音羽は思う。
この2人は優しすぎるから。
妖に対しても、人間に対しても。
音羽は一瞬世話になっている義祖父の姿が脳裏に浮かび、一言二言毒を吐こうとして開きかけた口を閉じ、止めていた足で階段を降りる。


「要の友人のよしみで忠告してあげるけど……あんたとあんたの妹の妖力、甘くみないことね」

「妖力…?」

「あんたの妹だけじゃない…あんたら兄妹の力は自分が思っている以上に妖にとって甘い蜜のようだって事よ―――妖に甘い顔していたらいつか食われるわよ」

「…っ」


音羽は降りながら夏目に忠告した。
今度は面白半分、試しではなく本心である。
音羽から見て夏目や小春は自分の妖力の強さを軽視しているように見えた。
同じく強力な力を持つ者同士の音羽は最初こそ無防備な夏目達を見て『まさかね』と思って注意深く観察し続けた。
しかしどうも無防備さはわざとではないようで、それが分かった時音羽と蒼葉は呆れてしまった。
2人が声を揃えて『あいつら馬鹿だ』と言い放った主と妹に青之丞は苦笑いを浮かべるしかなかったという。
階段から降り夏目の隣に立ち止まった音羽の忠告とその強い眼差しに夏目は息を呑む。
緊迫しているのか周りの音が聞こえない。
息を呑む夏目を見上げながら音羽は最後まで忠告をし、そのまま夏目の前から姿を消す。


「……、」


夏目は音羽の忠告に一瞬倒れた妹を思い出し、ぐっと拳を握った。

1 / 26
× | back |
しおりを挟む