全てが終わり夜影は音羽の背を見送っていた。
すると鈴の声が森に響き夜影は横目で鈴へ振り返る。
「なんなんだ!!あいつは!!!」
鈴は後味が悪い表情を浮かべ声を張り上げた。
傍にいた真白は耳を塞ぎ機嫌の悪い鈴から離れ夜影の傍へと避難する。
グッと両手を握りしめ苛立ちを抑えようとしても抑えきれず、鈴は夜影へと指差す。
「夜影!!お前どういうつもりだ!!」
「何がだ」
「何がじゃねえだろ!!たかが5本の指の爪を剥がしたくらいで対価を払っただぁ!?ふざけるのも大概にしろ!!」
鈴は先ほどのやり取りを思い出し苛立ちをそのままに夜影にぶつける。
あの後、音羽は怒りを鎮め自ら5本の指の爪を剥がした。
そして剥がした爪を夜影に投げつけ『これで十分対価になるはず』と言って対価を払ったと言い切ったのだ。
鈴はそれを見てどうしても質問に答える気のない音羽に食ってかかろうとしたが、鈴が音羽に襲い掛かり庇った蒼葉と戦うよりも前に夜影が『なるほど…そうなるな』と何故か納得してしまったのだ。
そのあとすぐに夏目が妖を封印し、その場は戦いにならず音羽は夜影から姿を消した。
音羽の払ったという対価がどうしても許せなくて鈴は喚き散らす。
そんな鈴を夜影は鬱陶しいとも何とも思わず相変わらずの感情のない表情で鈴を見つめているだけだった。
「ふざけてなどいない…あれは十分な対価となった」
「だからどこがだって言ってんだ!!私達はあいつの質問に答えてやったんだぞ!!なのにあいつは何も言わず爪を剥がして終わりだ!?お前情報が何よりも武器になるのを知ってて言ってんのか!!!」
「でも鈴姉…俺も正直影兄と同じであの人は契約の対価を払ったって思う…」
「半端もんは黙ってろ!!」
「ごっ、ごめん…」
怒りは頂点に達しているのか、おずおずと口をはさむ真白に鈴は八つ当たりも含め声を荒げる。
鈴の鬼のような表情に真白はビクリと肩を揺らし思わず謝り夜影の後ろに隠れ夜影の服を握った。
そんな真白に夜影は自分の服を握りしめ怯える真白の頭を人撫でしてやった後まだ怒りが収まらない鈴へと顔を上げた。
「鈴玉、真白に当たるな」
「はぐらかしてんじゃねえぞ、夜影…私は今お前と話してんだよ!!そいつが口出すから悪いんだろ!!」
元々男口調の鈴…鈴玉(リンユー)は怒りのあまり悪い口調が更に悪化していた。
鬼のような表情も相まってそれはまるでヤクザのようで、しかしこの場で鈴玉に怯えるのは真白しかいない。
夜影は真白に謝る事もない鈴玉に諦めたのか表情をそのままに溜息をつき髪をかきあげる。
露わになった夜影の顔はやはり無表情だが整っており、すぐに落ちてきた前髪に隠れてしまったが、その瞳は青と赤の瞳を持つオッドアイだった。
「爪を5つ剥がしたんだ…正直、対価を払い過ぎている。」
「だから情報と爪なんて対価になってねえだろうが!」
「…鈴玉、お前は何がしたい。我々は戦をしに来ているわけではないんだぞ。…我々はただ目的が果たせればそれでいい…違うか」
頭に血が上り正しい判断ができず目の先の苛立ちに身を任せる鈴玉に夜影は諭すように呟く。
やはり表情は崩さないままだが、それがまた鈴玉の逆鱗に触れていてもあった。
しかし鈴玉は夜影の言葉に鼻で笑う。
「ハッ!私をお前らと一緒にしないでもらいたいね!!私は正一なんてどうでもいいんだよ!!」
「…ではなぜ着いて来た」
「お前らが正一にどんな想いがあるかなど知るか!ただ私は"あの方"の為だけに動く!ただそれだけだ!」
夜影は眉をひそめ、初めて表情を浮かべた。
それは鼻で笑われたからではなく…鈴玉の言葉に対してだった。
着いて来た理由を声を低くし問えば返ってきた言葉に溜息をつく。
呆れてはいないが、少しそれに近いかもしれない。
夜影も正直どちらかと言えば正一はそれほど重要視はしていないのだ。
「それでも構わない」
夜影と鈴玉の睨み合いに巻き込まれた真白はそろーっと少し遠くの木影へと再び避難しようとしていたその時、少女の声が響き、三人はその声に振り返る。
空き地に繋がる道へと振り返ればそこには赤い着物の少女がおり、少女の姿に睨み合っていた夜影は表情を戻し、鈴玉は不機嫌な表情をそのままに腕を組み少女を睨むように見下ろし、真白は少女の姿にホッと胸を撫で下ろす。
「鈴玉、お前がどう思おうが裏切りさえしなければそれでいい。私からついて来いとも言っていないしな」
「そうかよ」
少女の言葉に鈴玉は鼻を鳴らし不満げではないが不機嫌そうに零す。
そんな鈴玉の反応に少女はただ笑みを浮かべるだけだった。
「で、でも…本当にいいの?」
「何がだ?」
「だって…せっかくあの女の子を見つけたのに…すぐに鞍替えしちゃって……」
不機嫌さを表に出す鈴玉と、無感情へと戻った夜影をチラリと見ながら今まで様子見をしていた真白が少女に声をかけた。
少女は笑みをそのままに真白へと振り向きコテンと小首を傾げる。
その仕草はとても可愛らしく見えるが、真白から見れば恐ろしく見えて仕方なかった。
目を逸らす真白の問いに少女は笑みを深める。
「別に構わない」
「でも…」
「あの娘程度の人間など五万といる…だが…あの人間は貴重だ。」
「たかが男で妖力が強いだけだろ」
真白から見て少女の笑みはとても恐ろしいもの…だから自然と真白は俯いてしまう。
正直少女と話すことも遠慮願いたい状況だが、気になった事もあったため聞いてしまった真白の自業自得であろう。
少女の言葉に反論したのはやはり鈴玉だった。
少女は鈴玉の言葉に真白から鈴玉へ視線を戻す。
「鈴玉、その条件に会う人間がどれほどいるか…お前は知っているか?」
「さあな…私はここ(日本)の者ではないから分からないな…ではこちらもお姫様にお聞きしますが?聞いてくるのだからもちろんお姫様はご存知なのでしょうねえ?」
「ふふ、さあ?私も詳しくは知らない。」
「はあ?」
「だが、人と区別がつかないほどの妖力を持つ者がそういてたまるものか」
鈴玉は片眉を上げ嫌味を込めて答えたが、返ってきた言葉に呆れかえる。
聞いた本人が分からないと首を振れば呆れるしかないだろう。
その当の本人は鈴玉の言い方がお気に召したのか愉快そうに笑い声を零すだけ。
「紅華」
くすくすと笑い声を零す少女に夜影が名を呼び、夜影に名を呼ばれ少女は『ん?』と笑みをそのままに夜影を見た。
夜影は珍しくも険しい表情を浮かべ感情を見せ少女を見下ろす。
「分かっているだろうな、紅華…お前に与えられているチャンスは一度のみだ…一度…たった一度だけがお前がお前でいる事が許され、そして"あの方"のお傍に居続けられるチャンスだ」
少女は夜影の言葉に微笑んでいた表情を消し、辺りは一瞬にして静まり返る。
呆れかえっていた鈴玉も真剣な表情へと変え、真白は心配そうに少女を見つめていた。
夜影の言葉に少女は―――
「もちろんだとも…だからこそ、私は失敗はしない。」
少女は…紅華はそう呟き笑みを深めた。
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