翌日。
蝉が鳴り響く中、学校も終わった夏目は斑と小春を探している途中で寄った七辻屋のまんじゅうを片手に歩いていた。
「また小春とすれ違いになったのか?用心棒の仕事、ちゃんとしてくれよな、先生。」
「煩いわ!!私だってな好きですれ違っていない!!小春の方が一枚上手だっただけだ!!」
「で?今日はどこから逃げられたんだ?」
「……裏門だ」
あの日から小春の様子が可笑しく、そして更に露神やススギに名を返した時からそれは悪化していた。
口数も更に減り俯くことが多くなった。
流石に塔子や滋も気づき心配して声を掛けてくれたりはしているが、やはり結果は夏目と同じ。
夏目はある程度事情を知っているため心配は2人よりは深いだろう。
その為あの日から斑を用心棒として付けさせたのだが…今日も斑は小春に逃げられてしまう。
それは毎日ではないにしろ頻繁にあり、夏目も一緒に帰るようにはしているが、小春は夏目も避けており、一緒に帰れる日は少なくなっていった。
夏目は斑のポツリと呟かれた言葉にジロリと見下ろし、『先生…』と零す。
そんな夏目に斑は『し、仕方ないだろ!!逃げられたものは逃げられたのだから!!大体なお前の方が小春を捕獲出来やすいのだらかお前が捕まえればいいことであろう!!』と逆切れするが、夏目には『はいはい』と軽く流されてしまう。
(悩んでいるなら相談に乗るのに……小春…どうして俺たちを避けるんだ……)
妖に怯えているだけなら出来る限り傍にいてやれるし、兄の自分や斑が傍にいた方が小春は安心するはずである。
あの日の初めがそうだった。
だが最近の小春は自分達を避け、ずっと俯きため息もつく始末。
露神が消えてしまったのを見て何か思う事があったのかもしれないが、それでも話しを聞くだけでも出来た。
何だか頼りないと言われたようで夏目は悲しくなる。
「祠…」
溜息をもう一度つきかけた時、ふと視界に祠が写った。
夏目は露神の出会いもあり、その祠へと近づいた。
「ん?どうした、夏目……――あー!こら!!何する勿体ないーー!!」
夏目はその祠に近づき、斑は祠に近づいた夏目に気づいて首を傾げかけた。
首を完全に傾げる前に夏目が祠の前に買ったばかりのまんじゅうを二つ置いてしまい、道の真ん中だというのに思わず声を上げてしまった。
幸いなのは人影がなかったことだろう。
声を上げる斑に夏目は『罰当たりなこと言うな』と返し手を合わせる。
願うのはやはり小春の事だった。
場違いなのは夏目も百も承知だし、こういう事は自分が解決しなければならないのも知っている。
だが、藁にも縋る思いという言葉があるように、夏目は願った。
夏目の願いなど露知らず斑はまんじゅう目掛けて駆け寄る。
「ここには何もおらんぞ!!」
「今日はいなくても明日はいるかもしれない…思う心が大事なんだよ」
露神との出会い、そして別れはきっと夏目の心に刻まれるだろう。
露神だけではなく今まで出会った妖、そしてこれからも出会うであろう妖との出会いと別れもまた。
だから夏目は妖の事が嫌いにはなれなかった。
多軌に勝負を嗾けてきた妖のような者もいるのは重々知っており、その妖が大切な妹を気づ付けたことも…
だけど斑やヒノエ、そして今まで出会ってきた妖達のように心優しい妖もいることも知っている。
両方知っているからこそ、夏目は人間も妖も同等に見ていた。
(小春もきっと思い出してくれる…俺は…俺だけは小春を信じて待っててやらないと…)
小春の悩みは結局考えても小春本人しか知りえない事。
だから考えるのをやめはしないが無理に聞き出そうとするのを夏目はやめた。
きっといつか小春から言ってくれるのを信じて…
そう思いながらもやはりまだ壁一枚隔たれている状態の今を想い憂いていると…
「!――あーっ!!!」
目を瞑り願っているとふと何かが何かを食べている音が聞こえ、閉じていた目を開く。
隣を見るとそこには斑がいた。
供えたまんじゅうを頬張る斑が、いた。
「何やってんだよ!この間抜け猫!!」
「なぬっ!?招き猫だ馬鹿者ーーっ!!」
供えている物を食べる斑に夏目は声を上げた。
取り上げようとしてもそれに気づいて寸前に交わした斑に逃げられてしまうが、斑は夏目の『間抜け猫』という言葉にカチーンと来たのか食べかけ口に咥えていたまんじゅうを一口で食べ供えていない袋の入ったまんじゅうを袋ごと夏目の手から奪う。
一応仮の姿とは言え猫という分類に入る斑の動きは機敏で、夏目は油断しまんじゅうが入った袋を奪われてしまう。
「にゃん!」
「何が"にゃん"だ!まんじゅう返せ!!このまんじゅう泥棒!!」
「私のまんじゅうだ!!」
「買ったのは俺だろうが!!!」
斑はまんじゅうの袋を咥えて夏目から逃げ、まんじゅうの袋を咥えて逃げる斑を夏目は追いかける。
お金を出したのは人間の夏目だが、すでに斑の中では夏目がまんじゅうを買い手にした瞬間からまんじゅうは斑のモノだったらしく、自分の物だと言いながら走る斑を夏目は本気で怒りを見せ追いかける。
追いついたらもやしパンチと揶揄されながらも威力は凄まじい拳で鉄槌を下そうといつでも殴れるよう拳を握り追いかけていたのだが…
「―――ッッ!!!」
「ま、――てってうお!?」
先ほどまで走っていた斑が前方を見た途端突然立ち止まった。
突然立ち止まられた夏目は慌てて立ち止まる。
こけそうになったが何とかバランスを取り転ばずに済み、夏目はキッと斑を睨む。
「突然止まるなよニャンコ先生!!」
「…………」
「……ニャンコ先生…?」
先ほどは追いかけていたこともあり『待て』『止まれ』と散々言っていたのに突然止まったら止まったらで『止まるな』と怒られる。
じゃあ私は一体どうしたらいいんだ!!といつもの斑ならそう思い、時には声にするだろう。
しかし今日は違った。
斑は立ち止まったまま体が硬直しているかのように固まっており、口もあんぐりと開けられ、そのためまんじゅうの入った袋は地面にボトリと落ちる。
今の斑の状況は硬直状態というよりもどちらかと言えば絶句に近いだろう。
急に立ち止まり転ばせる作戦かと思ったがどうも前方を見たままで固まりそうは思えなかった。
夏目は斑の視線を伝って前に視線を送ったのだが…
「な…―――ッ!!!」
斑同様夏目も絶句してしまう。
2人が絶句するほどの光景とは―――
愛しく大切に想う小春が……知らない男と仲良く話している姿だった。
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