(1 / 13) 18話 (1)

その日は小さいながらに祭りが行われる予定で、夏目と小春は散歩がてら祭りへと足を運ぶ。
まだ日が落ちていないため祭りも準備中の店が多く、人もまばらだった。


「おい見ろ夏目、小春!屋台が出てるぞ!」

「夏祭りが近いからな」

「ほぉ…あっ!!夏目!イカだ!焼きイカ買ってくれ!!」

「こ、こら!静かに!ニャンコ先生!!大体ニャンコはイカ食べちゃダメなんだぞ!?」

「あほう!ニャンコではない!!お前は中年からイカを取り上げる気か!?」

「抱っこしたくなくなるようなこと言うなよ!!」


それでも開いている屋台も多くあり、斑は中年として好物なイカ焼きを目ざとく見つけ、小春の腕の中から夏目に催促する。
猫はイカを食べれば腰を抜かすと言われており、それの真偽は夏目も小春も分からないが、とりあえず猫にはイカを食べさせてはいけないモノと認識している。
だから斑にもイカは駄目だという考えもあったが、よくよく考え見ればこの猫は常に酒浸りである。
それもイカを肴に。
夏目は暴れて妹を困らせる斑に仕方ないと溜息をつきサイフを取り出した。
結局斑は夏目と小春に甘いが、夏目も斑に甘かった。



斑は買ってもらったイカを美味しそうに食べていた。
妹の腕に中や膝の上では小春の愛らしい服が汚れるし行儀が悪いという事で人気の少ない階段まで移動し、斑は夏目兄妹に挟まれながらイカを頬張る。


「全く…良く噛んで食べろよ、先生」

「ふふ、美味しい?先生」


イカを美味しそうに食べる斑に夏目は呆れながら、小春は美味しそうに食べる斑を愛でていた。
嬉しそうに食べるから小春も嬉しくなり、食べている斑の邪魔にならないよう背を撫でてやる。
するとガツガツと勢いよく食べ過ぎたのか、丸ごと一匹のイカがコロコロと階段を転がっていく。


「待てイカ!!中年の星〜〜!!」

「あ!ニャンコ先生!待って!」


そのイカを斑が追いかけ、小春もその斑に続く。
夏目も妹に出遅れながらもイカを追いかける斑に重い腰を上げ『中年の星ってなんだよ…』と突っ込みながらゆっくり階段を降りて斑を追おうとした。
しかし…後ろから着物を着た女性にぶつかってしまう。


「おや、ごめんなさいまし」

「いえ、こちらこそ…」


ぶつかってきたのは優し気な女性で、夏目もぶつかった事を謝る。
去っていく女性を見送り妹と斑を追いかけようとした夏目だったが…


「ん?――――っ!!ち、血!?」


服に赤い血がついているのに気付く。
それに頬にもついており、それは明らかに先ほどぶつかった女性からついたのだと分かった。
しかし女性が降りたであろう方向を見ても、その場に女性の姿どころか人っ子一人いなかった。
遠ざかったにしてはあまりにも早い。
と、なると…


「今のは妖か?ケガでもしてたのか…?」


人以外の者と考えられる。
それは夏目や小春が幼いころから見てきた存在…――妖怪と言える存在。


(なにか嫌な感じだったな…この石段の上から来たみたいだけど……上で何かあったのか?行ってみるか…)


あの女性に対し夏目は嫌な気配を感じた。
それは妖と分かったからかは分からないが、血がついているという事は何かあったのだろうと推測する。
今妹がいないため夏目は妹の事を斑に任し、気になっている場所へと向かおうと階段を上がる。
そこには古いお堂が建っており、恐る恐るそのお堂に近づけば入り口付近に今時珍しい番傘が畳んで立てられているのが見えた。
それも置き忘れたようなものではなく、ついさっき置いたばかりのようである。
夏目は番傘もそうだが、雨でもないのに傘が置いてあるのに不審に思った。
恐る恐る中を覗き込めば…薄暗いが妖たちが血だらけとなり倒れているのが見え、夏目は思わず扉を開け中に入る。


(何だ!?これ…!!妖か!?一体何が…)

「う…」

「!」


中に入れば夏目の鉄の強いにおいが鼻につき思わずせき込みそうになる。
しかし倒れている妖達の中に生き残りがいたのか唸る声が聞こえ夏目はその妖の下へと駆け寄る。


「大丈夫か!?何が…」


痛みで動きが鈍いのだろうのそりと動く妖に駆け寄りそっと触れようとしたとき…キシリと床がきしむ音がし、夏目は息を呑み恐る恐る顔を上げる。
薄暗くて奥まで見えなかったが、夏目の目の前には着物を着た人間のようなものが立っていた。
夏目はその存在に目を丸くし言葉を失う。


「へえ…一匹残ってる」

「―――ッ!!」


誰かがいる、と思った瞬間に夏目の首にその誰かの手がかけられた。
ぐぐぐと力を入れられ首を絞められた夏目は必死に抵抗し、その際誰かの腕を引っ掻く。
その痛みで誰かの手が夏目の首から離れ夏目は酸素が入るようになりせき込んでいたが、また誰かが自分に手を伸ばしかけたのを見て後ろへ下がろうとした。
その時…


「何してる!!逃げるぞ!!」

「え…!?」


生き残っていた妖が夏目を抱えお堂から外へと逃げ、持って生まれた羽を広げて空へと逃げた。
その影は二人をただ見送るだけで何もしなかった。

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