(1 / 8) 19話 (1)

数日前、的場という男と接触した夏目と小春。
夏目は名取とは違う祓い人に戸惑ってはいたが、名取の言葉に的場などの過激ともいえる祓い屋の事を深く考えるのはやめた。
危険な存在に近づかないようにするが、ただし、小春の事を思い守れるようにと強く思った。
そしてその的場から管太郎を返してもらったらしい。
だが管太郎は小春の妖力しか餌にしないからか弱っており、夏目も小春も帰ってきてから一度も管太郎の姿を見たことはない。
そんな小春だが、最近気になる事があった。


「小春?どうした?」


兄の夏目はぼうっと二階の廊下の窓から外を見つめている妹を見つけ、声をかけた。
丁度下から夏目は三人分のお茶を持ってきた時に小春が部屋の前の廊下で外を見ているのを見つけたのだ。
小春は声を掛けられ兄に目をやるもまた外を見る。


「あそこの木にね、鳥が巣を作って卵を5つ産んだんだけどその卵、4羽しか孵ってないみたいなの」


小春は最近だが二階の廊下からも見える中庭の木の上に鳥が巣を作っているのに気づき、ずっと観察していた。
なにもないが、なんとなく面白かった。
親鳥が孵った雛のために餌を探しに出て帰ってきては雛に口移しで餌をやるところとか、餌を更に強請る雛達とか、ずっと観察するわけではないが、小春は面白いと思った。
それを聞き夏目も『心配だな』と零し、それに小春も頷く。
5個の卵の中で一つだけ孵らないということは…その卵はもしかしたら死んでるかもしれないということになる。
それを二人は心配していた。


「小春、寒いから中に入ろう…暖かいお茶あるから冷えた体を温めなきゃ…」

「うん」


まだ季節的には冷える時期である。
一軒家という事で更に寒さは増し、部屋から出て帰ってくるまでにも夏目は足先や指先から自分の体が冷えていくのが分かった。
だから動かずずっと寒い廊下に突っ立っていた小春は自分以上に冷えているだろうと思い片手でお盆を持ち小春の手に触れる。
やはり思った通り小春の手は冷え切っていた。
女の子が体を冷やすものではない、というのを聞いた事がある夏目は早くストーブで温かくなった部屋に戻そうとした時、小春が不意に『あ』と声を零した。
その声に夏目は小春へ振り返る。


「どうした?」

「人がいる…お客さんかな?」

「え?誰もいないぞ?」


『ほら』、と門柱の方へ指さし兄へ振り返った小春だったが、兄からは『誰もいない』と返された。
それに小春は門柱をまた見ると、兄の言う通り門柱の前には誰もいなかった。
小春は首を傾げ、気になったのかその門柱のところへと向かう。
手を掴まれたままたたたと走る小春に夏目はお盆を持っているというのもあって手を放し、閉め切って熱を逃がさないようにしていた部屋の障子を開けて入り口にお盆を置き慌てて小春を追う。
それを暖かい部屋で丸まってのんびりとしていた斑が気づき『何やってんだ、あいつらは…』と零しながらのそりと起き小春と夏目を追って寒く冷えた廊下へと出た。


「小春!どうしたんだ?」

「私人がいたのを見たの……あれ…文字?」


靴を履いて門柱に駆け寄る妹の手をやっと捕まえる事が出来た。
門柱に着く前に捕まえたので妹がどうしても気になる様だからと一緒に見に行けば、そこには黒い墨のような物で『陸』と書かれていた。


「それは妖が書いたものだな」


夏目もその文字に気付き小春と一緒に門柱に掛かれた文字を見ていた。
すると二人を追ってきていた斑が門の上に乗った斑がその文字を見てポツリと呟いた。
その言葉に二人は首を傾げる。


「妖が書いた文字?」

「これ実際に書いてあるんじゃないのか?」

「ああ、我々にしか見えん類の文字だ」


小春と夏目は妖力が強いから人と妖との区別がつかない。
それは人が離れるほど区別がつかないのだ。
だから今も斑が言わなければ人が落書きした文字にしか見えなかった。
2人が斑の言葉に『へえ』と思っていると、草が揺れる音がし、小春と夏目はあの鳥の巣がある木へ振り向いた。
丁度二人が見ると親鳥一匹と4羽の子供の鳥が飛んでいくのが見えた。
それを見送っていた夏目は手を引っ張られ、小春を見る。
小春はじっと木を見つめ、木に近づいて行った。


「小春」


何かに魅入られたように近づく小春に夏目はゾクリとさせグッと掴んでいる手を放さないよう力を入れて小春の名前を呼ぶ。
小春は木を見上げていたその黒い瞳を兄へと向け、『なに?』とコテンと小首を傾げた。
その瞳や表情から操られているようではないようでホッとしながらもなんとなく今この場所にいるのは怖かった。


「もしかしたら親鳥が帰ってくるかもしれない…暫く様子を見た方がいい」


その兄の言葉に小春は納得し、兄に引っ張られ家に入っても抵抗はしなかった。

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