その日の夜。
今日は先に夏目がお風呂に入っており、小春は兄がいない間に二階からあの巣のある木を見ていた。
その巣に親鳥が帰ってきた様子はなく、小春はそのまま二階から一階に降り庭に出て木を見上げていた。
そしてそっと木に近づき上ってみようとする。
だが幼い頃からベッドに縛り付けられていた小春が木登りなんて出来るはずもなく、小春はずりずりと落ちてしまう。
しかし負けじとワンピースのスカートを腿まで上げて縛り、夜で人通りも少ないのをいいことに普段しない大胆な行動に移った。
足を高く上げて気力でなんとか木に登る。
するとそこには巣があり、その中には一つの卵が入っていた。
そっとその卵へ手を伸ばすと温めてくれなくなり冷たさはあるものの、まだ温かさも残っていた。
これは生きてる証拠でもある。
小春はその卵を手に取ろうとした時…
「小春ちゃん!?何してるの!?」
小春が木に登ってるのに気付いた塔子が廊下の窓を開けながら声を掛けて来た。
驚いている塔子の声に小春は落ちそうになったが、木から顔を覗かせ笑って誤魔化す。
「え、えっと、何でもないんです!ちょっと、木を登ってみたくなって…」
「登ってって…怪我でもしたら大変よ!早く降りて来なさい!」
「は、はーい…」
塔子は長い間子供が出来なかったため、血の繋がりのない夏目と小春を本当の子供のように可愛がってくれている。
だから男の子の夏目なら心配しながらもワンパクねと笑って素通りしてくれるが、女の子の小春の場合ワンパクねと笑って素通りが出来なかった。
女の子なんだからああしなさいこうしなさい、というほど過保護でキツくはなく、男女差別というわけではないが、やはり女の子という事であまりワンパクになって怪我をしてしまったらと心配なのだろう。
男の子が傷が残っても勲章扱いに出来るが、女の子は少々それが厳しいのも現状である。
それでなくても小春はずっと病院に寝たきりだったのだから、彼女にとったら小春はか弱いと捉えられているのかもしれない。
小春は塔子も純粋に心配してくれているし、小春自身木を登ってみたかったわけではないので素直に降りる。
勿論、その前に卵の回収を終えている。
「もうあんな危険な事しちゃ駄目よ?私心臓が止まるかと思っちゃったわ」
小春を家に入れ廊下の窓を閉める。
心臓辺りを抑える塔子に小春は苦笑いを浮かべ、謝った。
卵はなんとなく見せたら駄目だと思い隠した。
それはなぜかは小春自身も分からなかった。
何とか塔子のプチ説教を終え、小春は二階に戻る。
「この子、どうしよう…」
部屋に戻ったはいいが、この手の中に納まる卵をどうしようかと小春は頭を悩ませていた。
うんうん唸っていると夏目が帰ってきた。
「小春、次いいぞ…ってどうした!?その恰好!!」
「え?」
暖かいお風呂に入りホカホカとさせながら次入るよう伝えようとした夏目は小春の格好を見て目を丸くする。
小春は首を傾げ自分の格好を思い出す。
(そういえば、スカート結んだの解くの忘れてた…)
小春は木登りをし塔子に怒られた後スカートを直すのを忘れていた。
しかも上り下りするときに付いたらしい葉っぱも頭についていたらしく、夏目はすぐに木登りしたなと分かった。
「小春!危ない事するなよ!もし怪我でもしたらどうするんだ!?」
「う"…ご、ごめんなさい…」
塔子と同じ説教をされ小春はげんなりとさせる。
だがまあ、それは自業自得ではあるだろう。
俯く妹は可哀想だが、目に入れても痛くないほど可愛がっている妹がもしかしたら怪我でもしたかもしれないと思うと怒りが収まらなかった。
なんで呼ばなかったんだ、と言う夏目に小春は風呂に入っていたため無理だとは流石に突っ込めず、ちょこんと夏目のパジャマの裾を摘まむ。
「ごめんなさい、お兄ちゃん…でも、私どうしても巣が気になって…」
パジャマの裾を摘まみ上目遣いで謝る妹を怒れる兄がいるだろうか―――いいやいない!!(断言)
夏目は即折れた。
勿論、これは無意識である。
小春…恐るべし。
「巣って…あの鳥の巣か?」
「うん…見に行ったらやっぱり卵が一個残ってたの…」
巣と言われ思い出すのは小春が気になっているという5個の卵がある鳥の巣。
今日親鳥と共に4羽の鳥が巣立ちをし、小春は親鳥が戻ってこないのを確認し気になって木を登ったのだ。
それを伝えながら小春は手の平にある卵を見せる。
その卵はスーパーで見るような卵と同じような大きさで、茶色をしていた。
「もう死んでるんじゃないのか?」
「でもこの子暖かいんだよ?」
ほら、と差し出されたその卵を振れると小春の言う通り少しだけ暖かかった。
「確かに…でもこのままじゃ本当に死んじゃうな…」
「うん、そうなんだよね…どうしようってさっき考えてたの…」
卵が生きているのなら流石に死なせられず、夏目もどうしようかと考える。
当然鳥を飼っているわけではないのでそんな知識はなく、部屋の周りを見渡しても鳥の巣のような丁度いい物はなく、更には卵を常に温める物も必要だった。
部屋はストーブで暖かいが、それはちょっと違うし出来たとしても学校で家にいない時消さなければならないので役には立たない。
そうなると………夏目と小春は座布団の上で鼻提灯を膨らませ眠っている猫を見た。
――――そしてその朝。
「な、なんじゃこりゃあああああ!!!!」
斑の叫び声で小鳥が一声に飛び立った。
小春は奥の部屋で着替えており、斑の叫び声に『わっ!』とびっくりさせる。
着替えも終わっており兄も終わっているというので二間続きの襖を開ける。
「どうしたの?」
斑の叫び声に兄に問えば兄は斑を指さした。
そこには斑がおり、そしてその腹には…
「なんなのだ!この卵は!!」
卵が置かれていた。
昨日小春と夏目は考えた末、呑気に眠っている猫の腹にそっと卵を置いたのだ。
猫は体温も高く多軌曰くつるふかしているらしいので丁度いいと思った。
小春は斑が叫んだのがその卵だと知り『なんだ』と簡単に片づける。
「おはよう、先生…どうせ暇だろ?温めてみてくれないか?」
「な、なに!?お前阿呆極まれりだな!!捨てられた時点で卵なんてものは死んでるものなんだぞ!!」
「雛が孵ったら…美味いかもしれないぞ?」
「なるほど」
小春は兄と斑の会話を聞きながら『え、納得するの?』と思った。
とりあえず小春も…というよりかは小春が主犯なので部屋を出る際斑にお願いし、兄と共に家を出た。
その際、門柱に掛かれている文字が前は『陸』だったのが『伍』に変わっているのを発見する。
こうして、ほんの気まぐれで小春は卵を温めてみることにした。
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