(1 / 12) 20話 (1)

その日も小春は学校から家に帰ると階段を上がり部屋へと戻る。
部屋の扉を開ければまだ帰ってきていないらしく兄の姿はなかった。
最近はよくすれ違う事が多いためもう今ではそれも気にも留めず小春は丁度中央あたりにある襖を閉め、カバンを置いた後まだ出てきてくれない管太郎ともう効力のない影鬼のお守りを首から外し着替える。


「帰ってきたのか、小春」


制服を掛け、私服へ着替えてお守りと管太郎を掛け直した小春は締め切っていた襖を開ける。
すると丁度窓から散歩から帰ってきたらしい斑が現れ、小春は相変わらずぽっちゃりな斑に『お帰り、先生』とこぼす。
ケマリやタマの一件を境に妖恐怖症も少し緩和されたのか、斑に驚くことも中級やヒノエ達に怯えることも無くなった。
その良好には夏目も斑もヒノエ達も喜んだ。


「先ほど夏目を見た」

「そっか…じゃあもうすぐ帰ってくるね」


夏目を見たと言いながら斑は小春に抱っこをせがみ、小春が抱き上げたその時に夏目が帰ってきた。
小春は兄の姿に笑みがこぼれる。


「あ、お兄ちゃん、お帰り」

「ただいま、小春」


階段を上がり障子を開ければ斑を抱く妹に微笑みを向けられ、夏目もそれに笑みで返した。
夏目も私服に着替えるため襖を閉じ、その間小春は膝に斑を乗せ愛でていた。
暫くして夏目が私服へと着替え終え、空のカバンを二つ手にしながら小春の傍に歩み寄ってきた。


「これで足りると思うが…これでいいか?」

「うん、いいと思うよ」


カバンを見せられた小春は夏目の問いに頷く。
そのカバンはただ単に出掛けるだけには大きい旅行カバンだった。


「私病院以外のお泊りとか、初めて…」

「俺も…まあお泊りといえばお泊りだけど…」


今日は午前中の授業しかなく、次の日からは連休だった。
小春と夏目はその連休を利用して西村考案の『宿題合宿』を開くことにしていた。
場所は遠く離れた旅館。
宿題合宿を模した旅行でもあるのだろう。
西村は半分以上遊びに行く感覚でプランを立てていた。
そしてその宿題合宿は小春達一年生も誘われていた。
夏目が小春を一人置いていくのを渋り、普段のシスコンを見ている西村と北本は予想しており、『だったら小春ちゃんも誘うか?』と提案した。
しかし男三人女の子一人で、1人だけ一年生というのも小春が可哀想だという事で小春を誘うのと同時に小春の友人三人も誘ってはどうかとなった。
小春を誘う役目は当然夏目となった。
最初は西村が立候補したが、まだ大事な妹を狙ってる疑惑が解けていない西村の下心を読んだ夏目が名乗り出たのだ。
小春も兄から誘われた方が受けやすいし断りやすいと踏み、小春達一年生を頼む役目は夏目となった。
小春は夏目の誘いに『お兄ちゃんが行くなら行きたい』と答え、丁度一緒にいた奈々も誘えば『行きたい』と頷いた。
しかしリンと薫はその日用事がありいけないらしく、行けない事を残念がっていた。
そして小春と奈々が宿題合宿に加わったのだが、もう二人…田沼と音羽も宿題合宿に加わった。
丁度夏目が小春のところに行っていた時に田沼が夏目を訪ねに来てそこで西村と北本が誘ったのだ。
用事もなにもない田沼は一緒に行くと言ったため、音羽も『じゃあ私も行く』と言いだし二人追加となった。
そうしてこの宿題合宿は7人も集まったのだ。


「こんなんでいいのかな…」

「いいと思う…着替えって言っても二日だし…」


連休と言っても5連休もないため、荷造りと言っても大したものはない。
下着や最小限の着替えを入れ、旅館にハブラシやタオルなどはあるだろうしからハブラシなども必要はない。
あとは勉強に必要な物さえあればそれでよかった。
無事、初めての荷造りも終わり小春と夏目は一階へと降りていく。
すると塔子が降りて来た小春と夏目を見て手招きをし、二人は素直に塔子の下へと歩み寄る。


「丁度良かったわ!貴志君!小春ちゃん!」

「塔子さん、どうしたんですか?」


ダイニングへと行けば夏目と小春は机にあるモノに驚いた。
笑顔を浮かべる塔子が見せるそれは…大量のお菓子だった。


「塔子さん、これ…」

「お菓子…ですよね…」

「ええ!こんなに買っちゃった!」

「すごいですね…」

「ふふ、宿題合宿に持ってってね」


その大量のお菓子はダイニングの机一杯に広がっており、どう見ても2人分にしては多い。
塔子は驚く2人に笑みを浮かべたまま小首を傾げてみせ、塔子の言葉に小春も夏目も驚いた表情から笑みへと変えた。



****************



「最後のポテトチップスだけ入らないな…」


塔子の笑みに多すぎるお菓子を断れる度胸が2人にあるわけがなく、2人は両手いっぱいにお菓子を持ち荷物をまとめるため二階へ上がる。
それを嬉しそうに見送る塔子に小春も夏目も笑顔を貼り付け何とか難関を突破し、部屋へ戻った夏目は2人の着替え場としても使用している小春の部屋で着替えた後、昨日の夜纏めたカバンの中にお菓子を詰め込む。


「小春のカバンに入らないか?」

「ごめん…私もお菓子で一杯…」


詰め込むのだが…カバンには着替えなど必要な物が入っており、どうしてもお菓子全部は入らなかった。
案の定最後の1つであるポテトチップスが入らず、夏目は妹に頼もうとする。
しかし小春も小春でカバンはお菓子で埋め尽くされ、夏目同様ポテトチップスが入る隙間は全くない。
ジッパーを閉めてもぽっこりとカバンは膨らんでいた。
困ったように笑みを浮かべ首を振る妹に夏目は妹のカバンに入れるのを諦めどうしたものかとポテトチップスを見つめながら考える。


「しょうがない…ここで片づけていくか…」

「私も手伝うよ」


今日出発なため夏目の選択肢は『食べる』しかない。
入りきらないのなら置いていけばいいだけの話しなのだが…長い間1人だった夏目にそんな考えは浮かばない。
と、いうよりは塔子の笑顔を曇らせたくはないのだろう。
『お前達は気の使い方がホント阿保だな』と背を向け丸まる斑の漏らす言葉に袋を開けながら夏目は『先生も手伝ってくれよ』と零した。
その言葉に斑は『やれやれ』と溜息をつき重い体を起こすもポテトチップスへのガッツきようはすごかった。
夏目と小春が手を出す暇なく斑があっという間に食べたのだ。

1 / 12
× | back |
しおりを挟む