小春の撫でる手は斑を眠りの世界へと誘わせた。
とても懐かしくとても愛しいその手に斑はゆっくりと目を閉じる。
あれは…そう……まだレイコが生きていた頃だったか―――…
斑は目を瞑りながら記憶の奥に仕舞いこんでいた記憶を蘇らせる。
アレは美味そうだ。
ああ、絶対美味であろうな。
しかしアレを食えばレイコと影鬼にどやされるだけではすまないぞ。
ああ、なんたってアレは妖の姫だからな。
―――いつの事だったか下級妖の会話を耳にした事があった。
アレとはなんだ、とちょっと脅せばいつも勝負を仕掛けてくる夏目レイコとあの影鬼が熱愛している人間の事だと分かった。
アレの噂は斑の耳にも届いていた。
ヒノエも、三篠もアレを見た事があると言っていた。
アレはどうだ、美味そうか、と聞けばヒノエには滅法怒鳴り散らされ三篠には溜息をつかされる始末。
興味があった。
斑はヒノエに『レイコと影鬼が恐ろしいなら会わない方が身のためだね』と言わせ、三篠に『アレは人間にしておくのは勿体無いほどの魅力を持っている』と言わせる人間に、興味が沸いた。
レイコが怖いと思ったことは一度もない。
影鬼もだ。
確かに影鬼とやりあうのは得策ではないと斑も思っているが倒せないとは思っていない。
だから影鬼やレイコなど恐怖することもない。
だから、斑は会いにいった。
そして―――
「こんにちは、斑。」
斑は一目で落ちる。
恋に似た感情が斑を支配した。
当然の如くレイコにはどやされ影鬼には睨まれる始末だったが…
「お前の名は?」
ザザ、と風に揺られた葉の音とアレの声が重なり合った。
お前を守ろう、―――。
ここ、八ツ原の妖達がお前を守ってやろう。
お前の命尽きるまで我等が守ってやる。
だから
お前はただ笑ってくれればそれでいい――――…
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