(1 / 13) 7話 (1)

季節は秋に変っていく頃。
小春は無事兄である夏目と同じ学校に通う事が出来た。
人生で初めての試験を受け、人より遅いドキドキ感を味わう。
それは小春だけではなく、滋や塔子、夏目も小春の合格発表を今か今かと本人以上にハラハラしていた。
夏目は小春の合格が届くまで授業に集中できなかったと恥ずかしそうに笑い、そんな夏目に滋も『私もだよ』と同じく恥ずかしそうに笑った。
男2人の言葉に小春と塔子、女性陣はくすくすと笑みをこぼす。
そして、小春は高校一年生として、そして人生で初めての学生生活を送ることとなる。


勉強は何とかついていく事は出来るのだが、やはり問題は人間関係だった。





「はあ…」


少し涼しくなり丁度いい風を受けながら小春は大きな溜息をつく。
目線も落としておりトボトボと帰り道を歩いていた。


「小春…どうしたんだ?」

「お兄ちゃん…人間って、面倒くさい……」


隣で一緒に帰っていた夏目は小春らしくない大きな溜息を聞き、首をかしげながら声をかける。
小春は兄へ眉を下げながら顔を上げたと思ったらポツリと呟き再び顔を俯かせ大きな溜息をつく。
小春の言葉に夏目は『は?』と更に首をかしげた。


「どうした?行き成りそんな…」

「…転校1日目、男の子どころか女の子も声をかけてくれなかった…」

「え…」

「2日目、きっと転校したばかりの私に気を使ったんだと自分を無理矢理納得させて期待したけどやっぱり遠目で見るだけで声をかけてくれなかった…」

「………」

「色々あって、今現在……委員長の井上さんしか話しかけてくれない……そして未だ遠目…そんなに気にしてくれるなら話しかけてくれればいいのに…」


はあああああ…、と小春は先程より大きく重過ぎる溜息をついた。
妹の今まで出したことのない溜息とその内容に夏目は何のフォローも出来ず目を泳がすだけで『あー』やら『えー…っと』やらを繰り返す。


「そ…それは…なんというか……ご愁傷様というか……なんで?」

「それが分からないの…」

「大方妖かし相手に話をしたり相手をしてやったりしてたんじゃないのか?」


しゅん、とする妹に夏目はどう慰めるか考えるが、自分にも慰め、そして妖かしを見えることを言える人をいなかったため、こんな時どう慰めればいいか分からなかった。
肩を落とし落ち込む小春とそんな妹にオロオロしていた夏目の2人の耳にある声が届き、2人は声のした足元へと目線を落とした。


「せ、先生!?」

「ニャンコ先生?」


そこにはいつの間にやら自分達の足元にいた斑が2人を見上げていた。
つい先ほどまで居なかった斑に夏目は驚きの声をあげ、小春は驚きはしないが小首をかしげ斑の名を呼ぶ。
斑はトトト、と短い足で小春の足元に向かいちょん、と前足の片方を小春の靴に乗せ顔を上げる。
それに首をかしげていた小春だったが『疲れた、抱いてくれ』と言われ小春は『ああ、そういう意味ね…』と斑の行動に納得し猫にしては重い体を抱き上げる。
しかしそれを許さない男がいた。


「先生はもう中年なんだから1人で歩けるよな?」


その男こそ夏目だった。
夏目は驚きも静まり妹の腕の中で大人しくする斑の頭部をまるでクレーンゲームのように掴む。
それを無視していると今度はギギギ、と無理矢理首を動かされ斑は『イ、ダダ!!!痛いではないか!!』とその痛さについ声を上げてしまった。


「痛い?当たり前だろ!痛くしてるんだから!!っていうか普通の猫ならそんなことくらいで痛くならないぞ!!少しは痩せろ!!この猫大福!!」

「阿呆め!!ちゃんと私を見ろ!このシルエット!フォルム!姿形が可愛らしいと巷では有名なんだぞ!女子高校生やら女子中学生やらOLやらにキャーキャー言われている私を知らんのか!」

「知らないね!第一散歩しててもキャーキャー言われたところを見たことなんてないぞ!」

「益々阿呆だな!お前は!!それはあれだ!!影で言われてるから気付かんのだ!!!」

「あー、もう…また…」


顔を合わせば必ず1回は喧嘩が始まる1人と1匹に小春は先ほどとは別の溜息をついた。
その時。



「あれ、夏目さん?」



今回はどうやって止めようかと思っていたその時、3人の耳にまた新たな人物の声が届いた。
3人はその人物に声をかけられるとビクリと肩を揺らし数秒固まった後まるで油を差していないオモチャのようにギギギ、と音をさせながら後ろへ振り返る。


「い、井上さん…」


後ろに振り返るとそこには小春のクラスの委員長の井上が立っていた。
井上は首をかしげ不思議そうに小春と夏目を見つめながらも『今帰り?』と呟きその井上の呟きに小春は戸惑いながら頷く。 


「そ、そう…今帰りなんです…」

「へえ…でも、喧嘩中だった?」

「え?」

「だって言い争ってたから…先輩達って仲がいいと思ってたけど仲のいい兄妹でもやっぱり喧嘩をするんだ。」

「あ、あはは…うん…まあ…うん…」


どう誤魔化そうとしても小春と夏目以外人はいないためくすくす笑みをもらす井上に小春は笑って誤魔化した。
そんな小春や夏目の心中を察する事なく井上は夏目に目線を向け『はじめまして、夏目さんのクラスで委員長してます井上です』と夏目に頭を下げて挨拶する。
初めて深々と頭を下げられながら自己紹介されたのは小春も夏目も初めてで、2人は再び数秒固まっていたがお互いハッと我に返り慌てて挨拶を返した。
そんな2人を見て井上は突然噴出し、夏目と小春はポカーン、と口を開けて井上を見つめた。


「はは!ごめんなさい、つい可笑しくて…」

「はあ…」

「じゃあ私もう行くわ。夏目さん、夏目先輩、笑ってごめんなさい。」


『じゃあ明日』と井上は手を上げて小春達を追い越し帰っていった。
小春と夏目は黙ったまま井上の背中を見送り、2人同時に同じタイミング、同じ方向で小首をかしげる。


「俺達、何か可笑しなことしたか?…妖かし、いなかったよな?」

「うん……私達と井上さんしかいなかったけど……」

「…………」


『俺が言うのもなんだが……不思議な子だな…』とポツリと夏目が呟き、『うん…』と小春も夏目の言葉に頷いた。
そしてその会話を聞きながら小春の腕の中にいる斑は『分からないお前らの方が不思議だわ…』と心の中で突っ込んだという。

1 / 13
× | back |
しおりを挟む