夏。
ミーン、ミーン、と蝉が鳴く季節。
――そして。
「……かっぱ?」
河童が干乾びる危険性があるほど熱い季節だった。
「え、いや…なんで河童?え?なんで?」
日直で朝早く出て行ってしまった兄より少し遅く、小春は家を出る。
しかし1人寂しく学校への道を歩いていると目の前には倒れている河童がいた。
背中には甲羅があり、頭の天辺には皿がある。
しかも体が緑色だから河童なのは確かだろう。
「み、みず…」
「水?」
その河童を見つめていると河童が呻き声とともに何かを呟き、その言葉に我に返った小春は慌ててカバンから水筒を取り出す。
熱いからと塔子がお茶の入った水筒を夏目と小春に渡していた。
小春には可愛らしいピンクの水筒、そして夏目には青色の水筒を塔子は『安売りしてたから買っちゃった!2人共まだ水筒なかったでしょ?丁度いいかと思って』、と嬉しそうにまるで自分の物を買ったかのようにはしゃぎながら渡していた。
「お茶でも水分よね…」
お茶をかけてお茶じゃ元気にならず逆に涸れたらどうしよう…、と思いながら小春はドキドキさせつつお茶を頭にかけてやる。
とぷとぷと音を立てながら水筒から出るお茶は河童の頭を濡らしていく。
「お水じゃなくてごめんね?でもお茶しかなかったからこれで我慢してね。」
うつ伏せになったまま動かない河童に小春は空になった水筒の蓋をキュッと音をさせて閉めカバンに水筒をしまいながら立ち上がり『じゃあね』と言いながら学校へ向かうため歩き出した。
「…む?」
皿が潤いダルさも回復した河童はのそりと起き上がり、小春の後ろ姿を見送った。
しかし、小春は気付かなかった。
「…………」
その場に人もいたということに。
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