相変わらず一人ぼっちな小春は休み時間になれば暇つぶしに持ってきた本を1人読んでいた。
本を読んでいるとガヤガヤと煩い周りの音など気にせずいられ、1人を嫌でも実感する事もないからだ。
「ねえ、夏目さん。」
「?」
すると井上が声をかけてきて、小春は読んでいた本から顔を上げる。
「夏目さん、企画に参加するわよね?」
「え…企画?」
聞いた事のない言葉に小春は首をかしげ、井上は『ほら、この前言ったやつよ』と教えるも小春はやはり分からないと首をかしげる。
聞いていないけど…と首をかしげる小春に井上はハア、と溜息をつく。
「忘れたの?もうすぐ旧校舎を取り壊すから最後の思い出にって事で私が企画したの。」
「旧校舎…」
「夏目さんは引っ越したばかりだから思い出はないけど、みんなの勘違いを解くいい機会じゃない?」
「勘違い……え?勘違いって?」
井上の言葉に小春は一瞬納得しかけたがその勘違いというのが全く分からずその言葉を呟きながら首をかしげた。
小春が全く気付いていない様子に井上は再び溜息をつき『駄目だこりゃ』と小さく呟いた。
その呟きは小春には届いておらず、小春は不思議そうに井上を見上げる。
「とにかく、今日の夜旧校舎に集合だから。」
「え、あ…」
言いたいことだけ言って小春の元から去っていく井上に小春は手を伸ばすもその手は行き場もないまま宙に浮かんでいた。
そのまま小春はどうしたものかと伸ばした手をにぎにぎと手を握るしかなかった。
「企画?」
その日の帰り、小春は兄と一緒に帰っていた。
夏目は妹から企画の話を聞き、首をかしげ妹を見る。
小春は夏目の問いに『うん…』と頷いた。
「なんか旧校舎が取り壊されるからってうちのクラスで何かするみたい。」
「何をするんだ?」
「分からない…っていうか聞かされてないっていうか…聞いてないっていうか……」
はっきりしない小春の言い方に夏目は『なんだそりゃ』と首をかしげた。
首をかしげる夏目に小春も『私も詳しく分からない…』と困ったように笑う。
「とりあえず今日の夜行く事になっちゃった…」
「嫌なら断ればよかっただろ?」
「うん…でも断る隙がないっていうか……それにクラスに馴染めるいい機会かなって。」
未だクラスに馴染めないのは夏目も知っている。
だから小春の言葉に夏目は『そうか…』と返すしかなかった。
自分も学校を転々とし馴染めない時が長かったため小春の気持ちは十分分かっているつもりである。
夏目は『妖かしがはっきり見える人間って、どうしてこうも人間に馴染めないんだろうなぁ…』と夕暮れ時の空を見上げた。
「あ、また…」
「ん?」
この問題は妖かしが見える人の運命なのだろうか…と夏目は思い昔苦労した事を思い返していると、一緒に歩いていた小春が声をこぼす。
夏目は空から小春へ目線を移すと、小春は前の方を凝視しておりそれに釣られて夏目も小春が見ている方向へと目線を配らせる。
「……かっぱ?」
小春と夏目の目線の先には河童がうつ伏せで倒れていた。
夏目は『え、いや…なんで河童?え?なんでだ?』と少し混乱していたが、小春は小さく溜息をつく。
「お兄ちゃん、お水とか持ってない?」
「水?お茶しかないな……あの河童を知ってるのか?」
溜息をついた後小春は兄へと顔を向け水を持ってるかを聞き、カバンから水筒を取り出し軽く振る。
今日はそんなに暑くないので結構な量が入っていた。
夏目は『また』という小春の言葉に首をかしげ、小春は朝の事を兄に話した。
その話を聞き夏目は『成る程…』と納得し干乾びる寸前の河童の頭にお茶をかけてやる。
「お茶でもいいのか悪いのか分からないけど、まあ、いいか。」
「私もお茶しか持ってなかったから多分大丈夫だと思うんだけど…お茶をかけたから干乾びたってことないよね?」
「いや、まだ干乾びてないから。」
つんつん、と倒れている河童を小春は恐る恐ると言った具合に突っつき、夏目は『勝手に殺してやるな』と苦笑いを浮かべる。
すると水分を取り戻したからか、河童はノソリと体を起こす。
「何やってんだ?お前…」
「お、お礼を申したくて待っておりましたら干上がりまして…いやはや1日でお2人の人間に助けられるとは思いもしませんでした…」
「お礼なんていいのに。それよりお水じゃなくてお茶で大丈夫だった?ごめんね、お水持ってなくて…」
「いえいえ、お茶だろうがお水だろうが何でもいいです、はい。…それで恩人さまであるお2人のお名前をお聞きしたいのですが…」
「…『夏目』」
「ナ…夏目…?」
「ああ、俺達は兄妹なんだ」
『それがどうした?』と夏目という名前に固まった河童に夏目と小春はお互い顔を見合った後河童へ目線を移し首をかしげた。
すると河童が夏目の水筒を持っている腕を突然掴む。
「『夏目』様?ひょっとしてあの世にも不思議な『友人帳』をお持ちと噂の『夏目レイコ』様?」
「いや、夏目レイコは祖母だが…」
「祖母…いやしかしレイコ様に似ておりますな!そちらの方は……お、お姫様ではありませんか!!」
「え…」
幼く見えてもやはり妖かしなのか、河童はレイコを一度見たことがあると言っていた。
『遠目で見ただけですがあの方は本当に恐ろしくも美しい方でした』と懐かしむように何度も頷いていると河童はどうしたものかと思っている夏目の隣に居た小春に気付きハッと目を丸くさせる。
「お姫様!最近お姿がお見えになられていないと思ったら…やはりレイコ様のお側にはお姫様がいらっしゃるんですね!!」
「小春も友樹さんじゃないんだけど…」
今度は小春の腕を掴み、河童は小春も友樹だと勘違いしお姫、お姫と嬉しそうに友樹を呼んでいた。
そんな河童に小春は戸惑い助けを求めるように目線を兄に向ける。
夏目は友樹は自分達の祖父だと教えると河童は残念そうに『そうですか…』と弱弱しく笑った。
「しかし夏目レイコとお姫様のお孫様ということは勿論友人帳をお持ちなのでしょう?」
「そ、そうだが…」
「やはり!!友人帳といえば手にすれば多くの妖かしの魂を束縛し従え統べる事ができるという…いわばあなたは夏目親分!!」
「………」
「お、親分…お兄ちゃんが親分…」
河童が友人帳を持ってるかを聞いた時夏目は一瞬疑いの目で河童を見た。
友人帳を手にしてから夏目は名を取られていない妖かしからも狙われ続けてきた。
だから河童もそんな妖かしと一緒かと疑ってしまう。
小春はそんな事情を聞きながらも親分と呼ばれた兄をチラリと横目で見て申し訳ないと思いながら少し噴出す。
「あの夏目レイコとお姫様のお孫様がこの目で見られただけでなく触れられあまつさえ二度もお助け頂けたとは!!感激っす!!」
「ちょ、うわっ!な、懐くなーー!!」
友人帳を狙っているのかと疑われているとは気付かず河童は夏目に抱きつき、本当に嬉しそうにしていた。
懐かれた夏目は友人帳を狙っていないと河童のはしゃぎっぷりを見て分かり胸を撫で下ろす。
ドサッと河童に抱きつかれ後ろに倒れた夏目に小春は目を丸くさせるが好意的な妖かしだからか、愉快そうに笑っていた。
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