(10 / 10) 8話 (10)

あの後、小春は井上と一緒に帰った。
井上は何故か小春の事に気付いているのに関わらず黙っていてくれて、尚且つ目を覚ました皆への言い訳に協力をしてくれた。
小春はそれに感謝してもしきれないと思いながらも何故黙っててくれるのか分からなかった。


「夏目さん、一緒に帰ろ?」

「え…」


そしてもう解散ということでそれぞれ帰ろうとしたその時、井上に声をかけられたのだ。
小春が一緒に帰るのを戸惑うのは別に変ではないだろう。
ただ、その後ろにいた小春を送って過保護だと有名なお兄さんに気に入られよう作戦を立てていた男子達は悔しそうな顔をしていたが小春に気付かれることはなく、引き止める間もなく小春は井上に腕を引っ張られ帰ってしまった。


一緒に帰っている間、小春と井上の間に話題は一切ない。
ただ無言で暗い夜道を歩いていた。
その沈黙の中斑は疲れたと言って小春の腕の中へと即行収まり、プープー寝息を立てながら眠る斑を小春は見下ろしよっぽど疲れたんだろうなぁと思う。



「ねえ」

「!、は、はい…」



斑を見て和んでいた小春に井上は声をかける。
急に声をかけられ小春はハッとし斑から顔をあげ井上へ向けると井上は小春を見ておらず真っ直ぐ暗闇の道を見つめていた。


「今日のこと、内緒にしてあげる。」

「………」

「その代わり条件があるの」

「…なに?」


ああ、やっぱり…小春は井上の言葉にソッと目線を落とす。
人間も妖かしもそう甘くはない。
小春は少し井上に期待していた分裏切られたようで傷ついていた。
しかしそんな小春をよそに井上は立ち止まり、小春は立ち止まった井上にゆっくりと振り返る。
井上は小春と目と目が合うとニッコリと愛らしく笑い、手を差し出した。



「私と、友達になってください。」



井上の言葉に小春は『え…』と目を丸くし硬直した。
その気配を感じ取ったのか斑は鼻ちょうちんをパン、と破裂させ目を覚まし固まった小春を不思議そうな目で見上げる。
小春は目を覚ました斑に気付かずただ唖然とポカーン、と口を開けて井上を見つめていた。
そんな小春に井上はくすくすと愉快そうに目を細め笑う。


「と……と…友樹さんになりたい?」

「いや友達になってください。…トモキって誰よ?」

「と、とも…友達…」

「になってくれる?」

「なってって……え?なんで…え?」


小春の頭は整理されていない棚のようにグチャグチャで軽く混乱していた。
友達が欲しすぎて聞き間違いだったどうしよう…と思っているのか友達に近い身近な祖父の名を口にしながら小春は未だ井上を凝視する。
まだ分かっていない小春に井上は『しょうがないなぁ』と苦笑いを浮かべた。


「今までは友達って感じじゃなかったから、本当の友達になろうって言ってるの!」

「でも…なんで…」

「あなたと友達になりたいからに決まってるじゃない。…まあ、脅しを使うのもちょっと変だけど…」


肩をすくめる井上に斑は腕の中にいながら『変どころじゃないだろ…』と心の中で突っ込んだ。
小春はまさか友達になって欲しいと言ってくれる人がいるなんて思わなくて涙が出そうになるもグッと我慢する。


「それで?」

「ぅ…え?」

「友達になってくれるの?なってくれないの?」

「な…なる!!なりますっ!!」


うう…と感激しすぎて涙を我慢する小春に井上は再度手を伸ばす。
その手に小春はバッと掴み何度も何度も頷いた。
小春が突然斑を抱いていた腕を井上の手を握ったために腕の中でまったりしていた斑はドシン、と音を立てながら地面に落下していく。
その際『イダッ!』と猫声では聞くことの出来ない声が暗闇に響くが、友達が出来たと喜ぶ小春と友達になれたと喜ぶ井上の耳には空しくも届かなかった。
斑の存在など気にも留めない井上は敬語で話す小春に首を振る。


「ストップ!!敬語はだめ!敬語じゃ友達じゃないでしょ?」

「そうですか?」

「ほら!また!!なんで敬語になるかなぁ…旧校舎にいた時は敬語じゃなかったのに…」


ハア、と溜息をつく井上に『う…』と声をこぼす。
小さい頃から友達は人間ではなく妖かしだったのと、そしてあの時は切羽詰まっていたので敬語を忘れてました、とは言えず素直に謝った。


「すみません…」

「あ!また!!すみませんじゃなくてごめんなさいでしょ!?」

「ご、ごめんなさい…」

「うん!許してあげる!」


また敬語で話す小春に言葉を正し、小春もその言葉を繰り返したのを聞くと井上は頷いた。
そしてお互い顔を見合うと何だか可笑しくてクスクスと愉快そうな声をこぼす。
斑は痛むお尻を届かない手で擦りながら『何がそんなに可笑しいんだ?』と人間のわけの分からない行為に首をかしげる。



それから2人は夏目が心配になって迎えに来るまでその場で話し込み、夏目に怒られることになるのだが…全然2人は反省の色を見せていなかったと斑は後に語った。

10 / 10
| back | ×

しおりを挟む