ネテロの登場によって、何とか二次試験合格者ゼロは免れた。
メンチはヒソカに喧嘩を売られた事や、美食ハンターを笑われた事に腹を立てて審査が必要以上に厳しくなったと言い、試験管を辞退するといった。
しかし、ネテロは辞退ではなく別の試験内容に変更することで事態を収めた。
結果、42名の受験生が合格した。
勿論、その中にはエレノアもいる。
二次試験を終え、エレノア達受験者はネテロが乗ってきた飛行船で三次試験会場まで乗せてもらうことになった。
三次試験会場は明日の朝8時に到着するとのことで、それまで各自自由時間を貰った。
貰った自由な時間で各々好きな場所へ向かうため、集まっていた受験生達は散っていく。
まだ二次試験までではあるが、一次試験での長距離マラソンによる疲労で、一部を除いた受験生達は疲れた顔を浮かべていた。
散らばる受験生に紛れてエレノアは気配を消してヒソカから離れようとした。
しかし、それはグッと引っ張られて阻まれる。
「こらこら…全く、油断も隙もないなぁ…」
気配の消し方は幼い頃から、そして念を覚えてからは絶を徹底的に叩き込まれたため、12歳にしてプロ並みだ。
ヒソカさえ気づくのが遅れるほどだが、流石に紐をつけられればそれも無意味となる。
エレノアはグイっと強く引っ張られヒソカの傍に戻る。
背中に違和感を感じたので後ろを見てみれば、背中にヒソカの念である『バンジーガム』がくっついているのが見えてげんなりとさせる。
「いつお付けに?」
「二次試験の前に君と合流しただろう?その時にね」
あの時か、とエレノアは目を細める。
ギタラクルの膝の上に乗って話している時に念をつけられたらしく、気づかなかった自分に腹が立つ。
家族や叔父達で分かってはいたが、やはり自分はまだまだヒヨッコなのだろうなと心底分からされた。
自分とヒソカの実力の差を見せつけられて落ち込むエレノアの手を取ってヒソカは歩き出す。
「ヒソカさん、自由時間です」
「そうだね」
「自由時間ですよ、ヒソカさん」
「うん、そうみたいだね」
「ヒソカさん…自由時間です」
「そっかぁ、お腹空いたかぁ」
いくら大人顔負けの力を持っているエレノアでも、自分以上の実力者には勝てない。
エレノアは足に力を入れて抵抗するも、ズルズルとヒソカに手を引っ張られて引きずられしまう。
そのまま残っていた少数の受験生達に奇妙な目で見送られながら部屋を出たエレノアはそれでもまだヒソカに抗う。
今度は全体的に体重をかけるよう腰を下ろすが、当然、効果はない。
「叫びますわよ!」
「保護者って便利だよね」
「ヒソカさんを見て保護者だと思える方がいらっしゃったら尊敬しますわ!」
「お姫様、世の中には電話っていう便利な物があるのを知っているかい?」
「お、叔父様は卑怯でしてよっ!」
「じゃあお父さん」
「家出した少女を脅すだなんてなんて酷いお方なのでしょう!」
「家出だからなんだけどなぁ」
腰を落として体重を後ろへ向けても、簡単に引きずられてしまう。
それはまだ子供という小柄な体だからなのもあるだろうが、当然実力差だ。
試験会場は街中ではないめ、電波は届かない。
だが、ハンター協会の所有するこの飛行船なら通じる電話くらいあるだろう。
ヒソカのような奇抜な恰好をしている男を一発で保護者だと信じる者はそうそういないが、叔父又は母親の証言なら誰もが信じるだろう。
叔父が嫌なら父親を出すしかないが、あの父親なら帰ってこいと速攻言われるし、何だったら不正があったとかでっちあげられて強制送還させられるだろう。
エレノアは家には帰りたくなかった。
(子供だし…とりあえずお腹いっぱいになれば寝るでしょ)
ヒソカは面倒くさくなってきた。
エレノアはプロの暗殺者としてすでにいくつか仕事をこなしている。(保護者付きだが)
だが、それでも体は12歳の子供。
満腹にでもすれば勝手に睡魔に襲われて寝てくれるだろう、とヒソカはエレノアを引きずりながら食堂へ向かった。
「お放しになって!お腹なんて空いていませんわ!」
「ずっと食べてなかったんだ…三次試験からこの先いつ食事できるかも分からないわけだし、食べられるときに食べた方がいいだろう?」
夜通しキリコに運ばれて会場に到着し、そのまま長距離のマラソン大会に、続けてクッキング大会。
料理と言っても作った料理は全て試験管のブハラがたいらげ、エレノアどころか受験生達は試験が開始されてから何も食べていない。
その証拠に、大半の受験生達が食堂に集まっており、入り口で騒いでいるせいで全員の視線を独り占めである。
しかし、そんな視線を気にする2人ではなく、攻防戦はまだまだ続く。
「ほら、嫌いな物食べてあげるから大人しくして」
好き嫌いがある子供なら喜ぶ言葉。
しかし、エレノアは靡かなかった。
エレノアが好き嫌いがない子供だからではなく、過保護に育てられた結果である。
嫌いなら食べなくてもいい、嫌いなら食べてあげる…そう言われ育ってきた。
家での食事にエレノアの嫌いなものは出ないほどだ。
外食だって、必ず身内がいるのでその身内が食べてくれる。
丸々残すことは教育されていないが、多少残しても許される教育をされている。
だからヒソカの言葉に魅力を感じない。
「いいから食べるよ」
流石にヒソカも我慢の限界がきたのか、ドア枠にしがみつくエレノアを剥がして椅子とエレノアをバンジーガムでくっつけ、バイキング形式の食事を二人分取っ手戻っていく。
流石に喚くような性格はしていないが、嫌がる素振りを見せるエレノアを見ても、相手がヒソカだからか誰も助けてはくれなかった。
「はい、口を開けて」
席に戻ったヒソカは食事の乗ったトレイをエレノアの前に差し出すもエレノアは一向に手を出そうとはしない。
ムスッとさせながら食事を睨むエレノアに、ヒソカはスプーンを手に取りエレノアの口に食事を指す出す。
所謂バカップル名物、『あーん』である。
料理を睨んでいたエレノアはそのままヒソカを睨むが、ヒソカは気にも留めず、『ほら』とグイグイスプーンをエレノアの口に押し付ける。
エレノアもエレノアで負けじと口を閉じるのだから、エレノアの口の周りはベトベトである。
「それ、嫌いです」
やっと口を開けたと思えば生意気な言葉がきた。
しかし、嫌いな食べ物は食べてあげると(一方的に)約束した手前、ヒソカはその食べ物を口に入れる。
別の皿の料理を掬ってやれば、今度は素直に食べてくれた。
正直食べたくないから嫌いと言っているだけだと思ったが、どうやら観念したらしい。
しかし…
「あー」
エレノアは転んでもただは起きなかった。
エレノアは手は拘束されていないのに、次を要求する。
もうこうなればヒソカに迷惑をかけまくってやろう作戦である。
嫌気が差して諦めて解放するならば万々歳、そうでなくてもヒソカに嫌がらせが出来て万々歳。
どっちに転んでも万々歳である。
エレノアはやさぐれてしまっていた。
因みに、ヒソカは巻き込まれた被害者である。
「美味しいかい?」
「はい、美味しいです…次をください」
「はいはい」
もぐもぐとゆっくりと一口一口食べる姿は育ちの良さを感じさせる。
エレノアの年齢が年齢ならば、ただのバカップルな光景ではあるが、相方がヒソカで、その相方が12歳の美少女である。
周りはそっと視線を逸らして直視しないようにするしかできなかった。
一次、二次に続いてヒソカとギタラクルの危険人物2人と平気でいられるこの少女も彼らにとって危険物と認識されていた。
――ヒソカとエレノアは食事を終えると、受験生達に用意されている毛布を持って休憩に明け渡された大部屋へと向かった。
そこにはチラホラ受験生達がすでに休憩しており、起きて獲物を手入れしている者や、体を横にする者、ぐっすりと眠りについている者、様々だった。
残念ながらキルアとゴンどころか、クラピカとレオリオすら別の大部屋にいるため、ここにはいない。
時間が時間だからかエレノアは諦めたらしく抵抗らしい抵抗は一切しなかった。
それが逆に怪しくも思いヒソカはバンジーガムは解かず警戒を続ける。
「暇ですヒソカさん、トランプを出してください」
まだ眠くないのかエレノアはヒソカにトランプを出すよう要求する。
ヒソカが返事をする前に『ほら早く』と言わんばかりに手を差しだす。
ヒソカは断ってキルアの所へ行くと我が儘を言い出すのを避けるため、仕方なく付き合うことにした。
「何をして遊びたいんだい?」
「神経衰弱をいたしましょう!」
「……2人で?」
「あら、私とはご不満ですの?ならギタラクルさんを誘いましょう!」
(ボク達一応協力者なの隠しているんだけどなぁ…)
正確には隠してはいないがギタラクルの性格上、必要以上に接触はしないドライな関係である。
しかし、暇すぎるエレノアにはそんな大人の都合など関係ない。
同じ大部屋にいた(エレノア目当て)ギタラクルを手招きして呼び、三人で神経衰弱することになった。
勿論、周囲との温度差は相変わらずである。
まだ時間的に起きている者が多く、消灯時間もまだ訪れていない。
声も控えていたので誰にも迷惑はかけていないはずだ。
しばらく3人でトランプ遊びをしていると、ついにその時は来た。
「ヒソカさん、ギタラクルさん…私もう寝ますね…あとはお2人で遊んでください」
ババ抜きを終えたエレノアはふぁ、と手で隠しながら小さく欠伸をする。
ヒソカが狙っていた睡魔がやっと訪れたのだ。
「おやすみなさい」
トランプをヒソカに返して、彼の隣で横になり毛布を被り目を瞑る。
毛布に包まるエレノアにヒソカは『おやすみ』と声をかけながらも心の中ではガッツポーズをしていた。
目論見通り、エレノアは食べて遊んだら満足して眠りについた。
食事してから受験生達が集まっている大部屋で大人しくトランプ遊びをさせていたのもあるのだろう。
「大人ぶっていてもやっぱり子供だよね」
時計を見れば、一般的な子供が眠る時間であった。
食べて、遊んで、時間が来たら睡魔が訪れて眠る。
大人ぶった言葉使いや、出生から、大人びていると見られるが、やはりまだまだ子供である。
傍からカタカタと聞こえ、同時に『穢れるから見ないでくれる?』という副音声が聞こえたのだがヒソカは無視をした。
その音の主はエレノアが眠ったのを確認した後、もう用はないと言わんばかりにエレノアの隣に移り自分も眠りについた。
傍から見たら目を開けてただ座っているようにしか見えないが、彼は眠っている。
1人ポツンと残されたヒソカは、回収したトランプでタワーを作っては壊しての繰り返しで遊んでいた。
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