神楽と別れたその日の夜。
雪と銀時はなんとなく万事屋の家に帰る気も起きずその下にあるお登勢のお店にいた。
銀時が言ったわけでも、雪が言ったわけでもなく…ただなんとなく…本当になんとなく家に帰る気が起きなかったのだ。
銀時は平然とした顔を作っているが、銀時も自分と寂しいのだというのを雪は知っている。
だから何も言わず、そして志村家に帰る事もなくしんみりしたままお登勢の店にいた。
「そうかい…あの大食い娘、本当に星に帰っちまったのかい…」
丁度お客の波も止まり、残った客と言えば顔見知りの長谷川だけ。
お登勢含め従業員はキャサリンとたまだけである。
お登勢の言葉に雪は『はい…』と寂しそうに頷いた。
「私も止めたんですけど…やっぱり銀さんが親の元にいる方がいいって…」
「そうさなぁ…あんな根なし草のところにいるよりはマシだわな」
「うるさいガキだったけど…いなくなったらいなくなったで寂しいものがあるね…」
長谷川とお登勢の言葉で雪の寂しさは増していくばかりで、項垂れるように肩を落とす雪にたまが『元気だしてください、お雪様』と背中を撫でて励ましてくれる。
たまの励ましに多少は軽くなった気がする雪は弱弱しく笑って答えたが、その笑みが無理矢理笑っているようにしか見えず機械であるたまでも流石に同情してしまう。
『これ、飲んでください。飲めばたちまち元気溌剌となります』と差し出したのは自分用で用意されていたオイルが入っているグラスだった。
トン、と置かれたオイル臭いその飲み物を目の前に出され雪は、顔を引き攣らせながらもその気持ちを無下にできずとりあえず呑む気はないが『あ、ありがとう…たまさん…』とお礼をした。
「そういえばお雪様…知ってますか?」
「ん?何?」
「近々金時様が改造するそうですよ」
「えっ…金さん改造するの?どこを?」
「はい…何でも銀時様と瓜二つというのに嫌気が差されたとか……ほら…あそこも瓜二つみたいですし…」
「え…え…あ、あそこ?改造ってあそこ?あそこ改造するの??何のために?機械なのに?え?なんで?っていうか使用するの?機械なのに?廃棄物を出すの?機械なのに?」
「本人曰くお雪様に飽きられたくないから、と…」
「は?…いや……いやいや…はあ?いやいやいや!なんでそこで私!?なんでそこでお雪様!!?飽きるも何もあそこを飽きるほど見るような仲じゃないんですけど!?」
「ちょいとたま…雪を元気付けたいのは分かるけどねぇ、いくらなんでも下ネタに持っていくのはお止しよ…ここの常連客ならいざ知らず…雪はまだ16のお嬢さんなんだからね」
お礼を言われたたまだが、まだ雪が元気がないのを気にしてか不意に思い出したように金時の話を出す。
金時とは、以前神楽と雪が銀時のあまりの駄目さに作り上げた理想の銀時…それが彼である。
銀が金になっただけのややこしい名前だが、見た目は銀時と瓜二つ…と、言いたいところだが髪の毛の色は金色で天然パーマはストレートに変わり、なんとなく爽やかな雰囲気から金時の方がイケメンオーラが醸し出されてた。
結局金時は銀時本人に打ち取られ事なきを得たのだが、金時は源外の手によって復活した。
その理由が『せっかく作ったからもったいなくって』とテヘペロ☆も追加され銀時は目の前に起動前の金時を見つめ一人と一体共々消し屑にしてやりたい気持ちで一杯となった。
…が、雪と神楽の嬉しそうな顔を見てその気持ちは半分くらいに減ったという。
その後もう二度と過ちを犯さないように色々と制限をさせ金時は歌舞伎町に復活した。
今では源外のところを巣として以前のように頼れる存在となっているらしく、たま同様カラクリなのにファンクラブまである始末である。
そんな金時はベースが銀時のためか雪にホの字である。
あからさまに雪に会いに行ったり口説いていったりはしないが、銀時の隙を突き掻っ攫うつもりではあるらしく、ごくたまに金時と仲良く話しているのをパチンコ帰りの銀時が見つけ焦りその日は雪にベッタリとなる…というのが最近の日常でもあった。
たまは金時の話を出し雪を元気付けたかった。
何か面白いネタを…と必死に人よりはるかに優れている頭で考えた。
その考えたネタが…なぜか金時だった。
雪はその話を真に受け目を丸くさせ、ついでに長谷川も真に受けたのか『確かになぁ…銀さんと同じイチモツって可哀想だよなぁ』と呟いていたが、今の雪には聞こえておらず、そして銀時は只今トイレに籠っているため聞こえない。
酔っぱらいの戯言を無視しながらお登勢は呆れたように真顔で下ネタの冗談を言うたまを軽く叱る。
「え、嘘だったんですか?」
「はい、すみません…お雪様が悲しいお顔をなさっているのが見ていられず…」
「たまさん…」
たまは正直神楽がいなくなって悲しいかと言われれば『分からない』と答えるしかない。
自分は機械で、周りは人間。
思考回路という言葉はたましか合わない言葉である。
だけど雪を元気付けたい気持ちはあった。
それは雪もたまの気持ちも十分に分かり責めるつもりはないが責める気にもならず苦笑いを浮かべ後に立つたまに椅子ごと振り返る。
「ありがとうございます、たまさん…銀さんもね、言ってたんですよ…神楽ちゃんは今より大人になったら帰ってくるって…私、それを信じて待とうかなって思ってます…だからたまさんもそんな寂しそうな顔しないでください」
「…悲しんで、いるのでしょうか…私は…寂しいという感情はこんな感情なんでしょうか…」
たまに振り返りぎゅっと人間とは違い固くもあるが柔らかくもあるたまの手を握った。
たまはカラクリである。
人間に近く作られているとはいえカラクリである。
だから自分の感情が理解できないでいた。
雪はたまの言葉に頷き、雪の頷きにたまは『そうですか』と淡々に呟いた。
その呟きに反してたまの表情が以前よりも人間らしくなっていくのを見て雪もお登勢も微笑ましく見つめていた。
「なんでこんな事になっちまったかな…」
ガラリとトイレの扉が開き、今まで籠っていた銀時が現れた。
よろよろと覚束ない足で出てきた銀時は手で顔を覆い絶望したように呟く。
「やべえよオイ…やっぱ明らかに腫れてるみたいなんだけど…大事なとこが…」
そう言って顔を覆っていた手を下へずらし、銀時は大事なところ…股間に手を当てた。
それを見てせっかくいい雰囲気だったのが一瞬にして壊れ雪は呆れたように銀時を見る。
「もー!出てくるなりなんなんですか!」
「いや、でもさ、絶対これ腫れてるって…銀さんの大事なところ腫れてるよこれ…」
「どうせ汚い手で触ったとかなんじゃないですか?」
「ちげえよ触ってねえよ触るときは清潔にしてるよ」
「元から不衛生だったのでは?」
「ちげえよ!お前やめろよ!雪の前ではやめろ!!マイナスなイメージなんだろうが!!勘違いされたままだと雪とそういうことになるとき触ってくれなくなるだろうが!!ドッキングさせてくれなくなるだろうが!!連結お断りされるだろうが!!雪ちゃん!違うから!!俺の息子、ちゃんと清潔にしてるから!毎日お風呂で清潔にしてるから!!大丈夫だから!!!」
「あ、一切そういう間柄になる気はないんで大丈夫です。」
「ぐはっ!今ものすごく傷ついた!銀さんすっごく傷ついた!!雪!責任取れ!責任取って俺の息子慰めてくれ!!」
「銀時様、これ以上お雪様にセクハラ発言なさるとお妙様にご報告しますけどよろしいでしょうか?」
「申し訳ありませんでした!」
キレ気味の銀時から守るように雪と銀時の間に入るたまの言葉に銀時はヒートアップしていた熱が一気に下がった気がし、たまと雪に土下座する。
酔っている長谷川はケラケラ笑い『移されたんじゃねえの?』と茶化すが、銀時は即答で『お前と一緒にするな』と返す。
若干雪の冷たい目に銀時の額は冷や汗が浮かんでいた。
「どっかでミミズに小便でもひっかけてきたんじゃないかい?腫れるって言うよね。」
「何言っちゃってんの、迷信だろそんな……あ。」
コントのようなやり取りに呆れたように見ていたお登勢は不意に思い出した迷信を呟く。
ミミズにアレをかけると息子さんが腫れる、という迷信があるが実際のところ有力ではないようである。
だが実際腫れた、という人もいるようで…その中に銀時もいたようである。
馬鹿馬鹿しいと笑いながら雪の隣に座った銀時だが、ハッと何かを思い出しように言葉を切った。
そんな銀時に全てを察したお登勢は『あんた…まさか…』、と呟く。
銀時は必死に否定したくて首を何度も振った。
「いやいや…ミミズじゃねえよ……ミミズっぽいエイリアンに…」
「エイリアンニ小便カケタンデスカ?ア〜ア、モウダメダソリャ…私ノ友達ソレヤッテ今ハ星ニナリマシタ」
「ええ!?星になっちゃったの!?何それ!?どうなるの俺!?俺っていうか…もう1人の俺……」
必死に『ありえない!絶対ない!』と思いたかった銀時にキャサリンが容赦なく畳みかけた。
キャサリンの友達の話が本当なら銀時もいずれ星に消える定めであるだろう。
死因がそれってどうなの?と思うがそう思ったが最後…銀時は悔いのない人生を送りたいと思った。
そして…
「雪!今すぐベットにインだ!!」
「なんでだアア!!どういう経緯でそうなった!!?なんで今すぐイン!?なんで今すぐベットにイン!?」
「俺は何も残せないまま死ぬのはごめんだ!!子孫くらい残したって罰は当たらねえだろ!?」
「ちょっと待てエエエ!!!そこでなんで私なんだよ!なんで私があんたの子を産まなきゃいけねえんだよ!!まだ私とあんた上司と部下の関係だろうが!!あと今あんたの息子役に立たねえだろ!!その菌私にも移す気かーーっ!!」
「馬鹿かお前!!菌なんてお前の前では粉々に粉砕してやんよ!!大体なお前!何度告白しつつセクハラしてると思ってんだ!!下着泥棒の時も同じこと言ったがな!!カマトトぶるのも大概にしとけよ!!純粋無垢ぶるのも大概にしとけよ!!そんなもんなこのジャンルの夢主になった時点で消え失せてんでだよ!!お前がこのジャンルの夢主になった時点で穢れてんだよ!!いいから仕込みにいくぞ!!目指せサッカーチーム(控え含む)!!」
「ギャーーッ!!攫われる!!犯される!!汚されるウウウウ!!!あ、あね…ッ姉上ーーー!!!」
雪の肩に手を置き再びセクハラ発言をかました。
更には死を覚悟しているからか子作り宣言と共にベットインしようと雪を横抱きに抱き上げお登勢の店から出ていこうとした。
雪は必死に暴れて抵抗するも夜兎と張り合えるほどの銀時の力には勝てず無駄に終わり体力を消耗するだけだった。
そんな二人の背を見つめお登勢は呑気に短くなったタバコを消して新しいタバコに火をつけ、長谷川は『がんばれー』と手を振って見送り、キャサリンは『リア充ガ!死ネヨ!』と唾を吐き、たまは持っていたモップを銀時の背に向けて構える。
誰もがたまに丸焦げにされるオチを思い浮かんでいた。
だが…
「あら銀さん、どこに行くんですか?」
銀時が雪を抱きかかえたまま扉を開けた…が、目の前に丁度来ていた雪の姉…お妙が立っていたのだ。
お妙の姿に銀時はカチンと硬直し、顔を真っ青にする銀時に江戸一番の美人と呼ばれるお妙はその整った顔に笑顔を貼り付ける。
固まったまま動かない銀時にお妙は笑顔をそのままにもう一度同じ問いをする。
「いやっ!えっと…ですね、ハイ…その、ハイ…お雪ちゃんが…ですね、ハイ…間違ってお酒飲んじゃってですね、ハイ…寝落ちしそうだからですね、ハイ…寝かせてあげおうかなぁ〜とか思ってですね…ハイ…」
「まあ!雪ちゃんが間違えてお酒を!?」
「そ、そうそう!!だから寝かせないと!ね!!だからどいてくれるとありがたいなぁ〜とか思ってたりもしたりして…」
「そうね…それは大変だわ…早く雪ちゃんを寝かせてあげないと…………って、―――信じるかボケがアアアアア!!!」
銀時は雪のセコムであるお妙の登場に冷や汗どころか色々な汗が流れていた。
お妙の戦闘力は夜兎をはるかに超え、地球の要だと真顔でいるほどだと銀時は思っている。
『ぶっちゃけお前、俺なんか攘夷に誘うよりお妙誘えよ』と桂に言いたいほどである。
しかし銀時は死ぬ前に子孫を残したい…せめてサッカーチームが作れるほど作りたい…そうささやかな願いがあるのだ。
何も残せないままただミミズの菌で死ぬのはごめんだと思っていた。
だから弱腰だがいつもよりは強気で出た。
…が、最初は誤魔化せると思っていた銀時だが、やはりお妙に殴り飛ばされるはめとなる。
ノリ突っ込みの如く突っ込み銀時を殴り飛ばしたお妙は床に倒れた銀時に跨り容赦なく顔を殴る。
銀時に抱き上げられていた雪は床に落ちたがすぐさまたまに救出され安全なエリアまで連れて行ってもらっていた。
「雪ちゃんが酔ってるわけねえだろうが!!雪ちゃんはなお酒に強ェんだよ!!雪ちゃんを酔わせたかったらな!何トンもの量の酒か、よっぽど安い酒か、度数のキツイ酒が必要なんだよ!!雪ちゃんが素面ってことは酔ってねえってことだろうが!!全然足りねえってことだろうが!!なのにてめえは何雪ちゃんと連結しようとしてんだ!!何当然のように雪ちゃんにてめえの薄汚ェ種を仕込もうとしてんだ!!てめえの子供なんて産ませるわけねえだろうが!!種が行き着く前にお前を抹殺すんに決まってんだろうがゴルアアア!!!」
お妙がお登勢の店に来たのは丁度先ほどだったが、銀時の行動を読んだように言い当てた。
殴りながら銀時を罵倒する姉を見ながら雪は『あ、姉上…こわっ』と心の底から思ったという。
雪と銀時はなんとなく万事屋の家に帰る気も起きずその下にあるお登勢のお店にいた。
銀時が言ったわけでも、雪が言ったわけでもなく…ただなんとなく…本当になんとなく家に帰る気が起きなかったのだ。
銀時は平然とした顔を作っているが、銀時も自分と寂しいのだというのを雪は知っている。
だから何も言わず、そして志村家に帰る事もなくしんみりしたままお登勢の店にいた。
「そうかい…あの大食い娘、本当に星に帰っちまったのかい…」
丁度お客の波も止まり、残った客と言えば顔見知りの長谷川だけ。
お登勢含め従業員はキャサリンとたまだけである。
お登勢の言葉に雪は『はい…』と寂しそうに頷いた。
「私も止めたんですけど…やっぱり銀さんが親の元にいる方がいいって…」
「そうさなぁ…あんな根なし草のところにいるよりはマシだわな」
「うるさいガキだったけど…いなくなったらいなくなったで寂しいものがあるね…」
長谷川とお登勢の言葉で雪の寂しさは増していくばかりで、項垂れるように肩を落とす雪にたまが『元気だしてください、お雪様』と背中を撫でて励ましてくれる。
たまの励ましに多少は軽くなった気がする雪は弱弱しく笑って答えたが、その笑みが無理矢理笑っているようにしか見えず機械であるたまでも流石に同情してしまう。
『これ、飲んでください。飲めばたちまち元気溌剌となります』と差し出したのは自分用で用意されていたオイルが入っているグラスだった。
トン、と置かれたオイル臭いその飲み物を目の前に出され雪は、顔を引き攣らせながらもその気持ちを無下にできずとりあえず呑む気はないが『あ、ありがとう…たまさん…』とお礼をした。
「そういえばお雪様…知ってますか?」
「ん?何?」
「近々金時様が改造するそうですよ」
「えっ…金さん改造するの?どこを?」
「はい…何でも銀時様と瓜二つというのに嫌気が差されたとか……ほら…あそこも瓜二つみたいですし…」
「え…え…あ、あそこ?改造ってあそこ?あそこ改造するの??何のために?機械なのに?え?なんで?っていうか使用するの?機械なのに?廃棄物を出すの?機械なのに?」
「本人曰くお雪様に飽きられたくないから、と…」
「は?…いや……いやいや…はあ?いやいやいや!なんでそこで私!?なんでそこでお雪様!!?飽きるも何もあそこを飽きるほど見るような仲じゃないんですけど!?」
「ちょいとたま…雪を元気付けたいのは分かるけどねぇ、いくらなんでも下ネタに持っていくのはお止しよ…ここの常連客ならいざ知らず…雪はまだ16のお嬢さんなんだからね」
お礼を言われたたまだが、まだ雪が元気がないのを気にしてか不意に思い出したように金時の話を出す。
金時とは、以前神楽と雪が銀時のあまりの駄目さに作り上げた理想の銀時…それが彼である。
銀が金になっただけのややこしい名前だが、見た目は銀時と瓜二つ…と、言いたいところだが髪の毛の色は金色で天然パーマはストレートに変わり、なんとなく爽やかな雰囲気から金時の方がイケメンオーラが醸し出されてた。
結局金時は銀時本人に打ち取られ事なきを得たのだが、金時は源外の手によって復活した。
その理由が『せっかく作ったからもったいなくって』とテヘペロ☆も追加され銀時は目の前に起動前の金時を見つめ一人と一体共々消し屑にしてやりたい気持ちで一杯となった。
…が、雪と神楽の嬉しそうな顔を見てその気持ちは半分くらいに減ったという。
その後もう二度と過ちを犯さないように色々と制限をさせ金時は歌舞伎町に復活した。
今では源外のところを巣として以前のように頼れる存在となっているらしく、たま同様カラクリなのにファンクラブまである始末である。
そんな金時はベースが銀時のためか雪にホの字である。
あからさまに雪に会いに行ったり口説いていったりはしないが、銀時の隙を突き掻っ攫うつもりではあるらしく、ごくたまに金時と仲良く話しているのをパチンコ帰りの銀時が見つけ焦りその日は雪にベッタリとなる…というのが最近の日常でもあった。
たまは金時の話を出し雪を元気付けたかった。
何か面白いネタを…と必死に人よりはるかに優れている頭で考えた。
その考えたネタが…なぜか金時だった。
雪はその話を真に受け目を丸くさせ、ついでに長谷川も真に受けたのか『確かになぁ…銀さんと同じイチモツって可哀想だよなぁ』と呟いていたが、今の雪には聞こえておらず、そして銀時は只今トイレに籠っているため聞こえない。
酔っぱらいの戯言を無視しながらお登勢は呆れたように真顔で下ネタの冗談を言うたまを軽く叱る。
「え、嘘だったんですか?」
「はい、すみません…お雪様が悲しいお顔をなさっているのが見ていられず…」
「たまさん…」
たまは正直神楽がいなくなって悲しいかと言われれば『分からない』と答えるしかない。
自分は機械で、周りは人間。
思考回路という言葉はたましか合わない言葉である。
だけど雪を元気付けたい気持ちはあった。
それは雪もたまの気持ちも十分に分かり責めるつもりはないが責める気にもならず苦笑いを浮かべ後に立つたまに椅子ごと振り返る。
「ありがとうございます、たまさん…銀さんもね、言ってたんですよ…神楽ちゃんは今より大人になったら帰ってくるって…私、それを信じて待とうかなって思ってます…だからたまさんもそんな寂しそうな顔しないでください」
「…悲しんで、いるのでしょうか…私は…寂しいという感情はこんな感情なんでしょうか…」
たまに振り返りぎゅっと人間とは違い固くもあるが柔らかくもあるたまの手を握った。
たまはカラクリである。
人間に近く作られているとはいえカラクリである。
だから自分の感情が理解できないでいた。
雪はたまの言葉に頷き、雪の頷きにたまは『そうですか』と淡々に呟いた。
その呟きに反してたまの表情が以前よりも人間らしくなっていくのを見て雪もお登勢も微笑ましく見つめていた。
「なんでこんな事になっちまったかな…」
ガラリとトイレの扉が開き、今まで籠っていた銀時が現れた。
よろよろと覚束ない足で出てきた銀時は手で顔を覆い絶望したように呟く。
「やべえよオイ…やっぱ明らかに腫れてるみたいなんだけど…大事なとこが…」
そう言って顔を覆っていた手を下へずらし、銀時は大事なところ…股間に手を当てた。
それを見てせっかくいい雰囲気だったのが一瞬にして壊れ雪は呆れたように銀時を見る。
「もー!出てくるなりなんなんですか!」
「いや、でもさ、絶対これ腫れてるって…銀さんの大事なところ腫れてるよこれ…」
「どうせ汚い手で触ったとかなんじゃないですか?」
「ちげえよ触ってねえよ触るときは清潔にしてるよ」
「元から不衛生だったのでは?」
「ちげえよ!お前やめろよ!雪の前ではやめろ!!マイナスなイメージなんだろうが!!勘違いされたままだと雪とそういうことになるとき触ってくれなくなるだろうが!!ドッキングさせてくれなくなるだろうが!!連結お断りされるだろうが!!雪ちゃん!違うから!!俺の息子、ちゃんと清潔にしてるから!毎日お風呂で清潔にしてるから!!大丈夫だから!!!」
「あ、一切そういう間柄になる気はないんで大丈夫です。」
「ぐはっ!今ものすごく傷ついた!銀さんすっごく傷ついた!!雪!責任取れ!責任取って俺の息子慰めてくれ!!」
「銀時様、これ以上お雪様にセクハラ発言なさるとお妙様にご報告しますけどよろしいでしょうか?」
「申し訳ありませんでした!」
キレ気味の銀時から守るように雪と銀時の間に入るたまの言葉に銀時はヒートアップしていた熱が一気に下がった気がし、たまと雪に土下座する。
酔っている長谷川はケラケラ笑い『移されたんじゃねえの?』と茶化すが、銀時は即答で『お前と一緒にするな』と返す。
若干雪の冷たい目に銀時の額は冷や汗が浮かんでいた。
「どっかでミミズに小便でもひっかけてきたんじゃないかい?腫れるって言うよね。」
「何言っちゃってんの、迷信だろそんな……あ。」
コントのようなやり取りに呆れたように見ていたお登勢は不意に思い出した迷信を呟く。
ミミズにアレをかけると息子さんが腫れる、という迷信があるが実際のところ有力ではないようである。
だが実際腫れた、という人もいるようで…その中に銀時もいたようである。
馬鹿馬鹿しいと笑いながら雪の隣に座った銀時だが、ハッと何かを思い出しように言葉を切った。
そんな銀時に全てを察したお登勢は『あんた…まさか…』、と呟く。
銀時は必死に否定したくて首を何度も振った。
「いやいや…ミミズじゃねえよ……ミミズっぽいエイリアンに…」
「エイリアンニ小便カケタンデスカ?ア〜ア、モウダメダソリャ…私ノ友達ソレヤッテ今ハ星ニナリマシタ」
「ええ!?星になっちゃったの!?何それ!?どうなるの俺!?俺っていうか…もう1人の俺……」
必死に『ありえない!絶対ない!』と思いたかった銀時にキャサリンが容赦なく畳みかけた。
キャサリンの友達の話が本当なら銀時もいずれ星に消える定めであるだろう。
死因がそれってどうなの?と思うがそう思ったが最後…銀時は悔いのない人生を送りたいと思った。
そして…
「雪!今すぐベットにインだ!!」
「なんでだアア!!どういう経緯でそうなった!!?なんで今すぐイン!?なんで今すぐベットにイン!?」
「俺は何も残せないまま死ぬのはごめんだ!!子孫くらい残したって罰は当たらねえだろ!?」
「ちょっと待てエエエ!!!そこでなんで私なんだよ!なんで私があんたの子を産まなきゃいけねえんだよ!!まだ私とあんた上司と部下の関係だろうが!!あと今あんたの息子役に立たねえだろ!!その菌私にも移す気かーーっ!!」
「馬鹿かお前!!菌なんてお前の前では粉々に粉砕してやんよ!!大体なお前!何度告白しつつセクハラしてると思ってんだ!!下着泥棒の時も同じこと言ったがな!!カマトトぶるのも大概にしとけよ!!純粋無垢ぶるのも大概にしとけよ!!そんなもんなこのジャンルの夢主になった時点で消え失せてんでだよ!!お前がこのジャンルの夢主になった時点で穢れてんだよ!!いいから仕込みにいくぞ!!目指せサッカーチーム(控え含む)!!」
「ギャーーッ!!攫われる!!犯される!!汚されるウウウウ!!!あ、あね…ッ姉上ーーー!!!」
雪の肩に手を置き再びセクハラ発言をかました。
更には死を覚悟しているからか子作り宣言と共にベットインしようと雪を横抱きに抱き上げお登勢の店から出ていこうとした。
雪は必死に暴れて抵抗するも夜兎と張り合えるほどの銀時の力には勝てず無駄に終わり体力を消耗するだけだった。
そんな二人の背を見つめお登勢は呑気に短くなったタバコを消して新しいタバコに火をつけ、長谷川は『がんばれー』と手を振って見送り、キャサリンは『リア充ガ!死ネヨ!』と唾を吐き、たまは持っていたモップを銀時の背に向けて構える。
誰もがたまに丸焦げにされるオチを思い浮かんでいた。
だが…
「あら銀さん、どこに行くんですか?」
銀時が雪を抱きかかえたまま扉を開けた…が、目の前に丁度来ていた雪の姉…お妙が立っていたのだ。
お妙の姿に銀時はカチンと硬直し、顔を真っ青にする銀時に江戸一番の美人と呼ばれるお妙はその整った顔に笑顔を貼り付ける。
固まったまま動かない銀時にお妙は笑顔をそのままにもう一度同じ問いをする。
「いやっ!えっと…ですね、ハイ…その、ハイ…お雪ちゃんが…ですね、ハイ…間違ってお酒飲んじゃってですね、ハイ…寝落ちしそうだからですね、ハイ…寝かせてあげおうかなぁ〜とか思ってですね…ハイ…」
「まあ!雪ちゃんが間違えてお酒を!?」
「そ、そうそう!!だから寝かせないと!ね!!だからどいてくれるとありがたいなぁ〜とか思ってたりもしたりして…」
「そうね…それは大変だわ…早く雪ちゃんを寝かせてあげないと…………って、―――信じるかボケがアアアアア!!!」
銀時は雪のセコムであるお妙の登場に冷や汗どころか色々な汗が流れていた。
お妙の戦闘力は夜兎をはるかに超え、地球の要だと真顔でいるほどだと銀時は思っている。
『ぶっちゃけお前、俺なんか攘夷に誘うよりお妙誘えよ』と桂に言いたいほどである。
しかし銀時は死ぬ前に子孫を残したい…せめてサッカーチームが作れるほど作りたい…そうささやかな願いがあるのだ。
何も残せないままただミミズの菌で死ぬのはごめんだと思っていた。
だから弱腰だがいつもよりは強気で出た。
…が、最初は誤魔化せると思っていた銀時だが、やはりお妙に殴り飛ばされるはめとなる。
ノリ突っ込みの如く突っ込み銀時を殴り飛ばしたお妙は床に倒れた銀時に跨り容赦なく顔を殴る。
銀時に抱き上げられていた雪は床に落ちたがすぐさまたまに救出され安全なエリアまで連れて行ってもらっていた。
「雪ちゃんが酔ってるわけねえだろうが!!雪ちゃんはなお酒に強ェんだよ!!雪ちゃんを酔わせたかったらな!何トンもの量の酒か、よっぽど安い酒か、度数のキツイ酒が必要なんだよ!!雪ちゃんが素面ってことは酔ってねえってことだろうが!!全然足りねえってことだろうが!!なのにてめえは何雪ちゃんと連結しようとしてんだ!!何当然のように雪ちゃんにてめえの薄汚ェ種を仕込もうとしてんだ!!てめえの子供なんて産ませるわけねえだろうが!!種が行き着く前にお前を抹殺すんに決まってんだろうがゴルアアア!!!」
お妙がお登勢の店に来たのは丁度先ほどだったが、銀時の行動を読んだように言い当てた。
殴りながら銀時を罵倒する姉を見ながら雪は『あ、姉上…こわっ』と心の底から思ったという。
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