(5 / 5) キャラクターはシルエットだけで読者に見分けがつくように描き分けよう (5)
「おーい!お前らちょっと落ち着け!!」


次から次へと注いでいき飲む銀時に雪は『飲みすぎですよ』と注意し酒瓶を取り上げる。
取り上げられた銀時は不満そうにしながらも銀時本人もちょっとばかり酔いが回ってきていたのを自覚していたからか、取り上げられたことに不貞腐れながら注いでいた最後の酒を飲み干す。
それでもまだ言い合いが終わらない女三人に銀時は思わず止めに入った。
このままでは朝…どころか一人勝ち残らない限りは言い争いは止まらない勢いだったのだ。
銀時に止められお妙達は『あァ!?』と銀時に凄み、女の凄みに銀時と長谷川はビクリと肩を揺らす。


「ま、まあまあ、落ち着いて!このままじゃいつまでたっても決まらねェ!」

「そーだ!だから俺達男の意見を取り入れろ!」


この世には逆らってはいけないものがある。
それは母ちゃんと、思春期の娘が代表的だが、大雑把に言えば『女』である。
女に逆らえない何かが男の遺伝子に入り込んでいるのか、特に女同士の争い事は男では敵わないだろう。
しかし男も無駄にプライドがあるわけではないのだ。
顔を引き攣りながら長谷川と銀時は自分達の意見も主張しはじめる。
そんな銀時達にお妙が『何かしらアル?』と間違ったアル口調で問う。
空気的に当然のように男の意見というのに自分も入っている事に雪は『えっ…私も?私女なんだけど…え?』と困惑した。
だがそんな雪をよそに長谷川が続ける。


「俺達野郎からしてみればヒロインってのは満たさなきゃならねえ"三大条件"ってのがある!それは…――」

「顔(ツラ)」

「体(スタイル)」

「きゃ……性格(キャラ)…?」


長谷川の言葉を聞きながら『そんな条件知らないんだけど!?』と思った。
しかし時間は流れていくもので、その三大条件を銀時、長谷川に続き雪も続けた。
というよりは無言のままでいたら両側の男二人に脇腹を突っつかれたのだ。
三大条件と言われても女の雪には初耳だったため適当なのを当てはめたが、どうやら合っていたらしく2人は雪の条件に頷いて見せた。
頷く二人に『あ、合ってたんだ』と安堵する。


「まあ、これだけ揃った女っつーもんはいないよなぁ…ま、雪以外だけどな」

「雪ちゃん以外いないっていうのは認めるけど何俺全部雪の事分かってるしみたいな顔してんだよ腹立つんだよ腐れ天パがその白髪のクルクル巻きすぎて禿れアル」

「みたいっていうか分かってるし?俺雪の事全部分かってるし?別に言いたければ言えばいいみたいな?シスコンの嫉妬なんて痛くも痒くもねえみたいな?どう足掻いても雪の旦那は俺だしみたいな?」

「ああ?んだとゴラ上等じゃねえかゴラてめえの金○にミミズの菌振り撒いたろうかゴラアルァ」

「…姉上…顔、顔」

「あらいけない」


顔・体・性格、というのは、まあ基準だろう。
銀時はそれを自分が満たしていると言い雪の方に腕を回し抱き寄せる。
そんな銀時に一部同意しながらも雪と銀時を放そうと銀時の手を掴む。
ギリギリと痛そうな音を立てながら離れる銀時の腕に雪は心配していたが、銀時本人は痛みなど全く感じないように涼しい顔をしてお妙と睨み合って対抗していた。
多分、痛みを感じてないというわけではないのだろう。
痛いのは変わらないのだが、対抗心で痛みを感じているようには見せないようにしか見えなかった。
その証拠に涼しそうな顔には痛みの我慢から来る脂汗が流れていた。
とりあえずは姉に顔が鬼と化しているのを知らせ解放させてあげた。
だが雪は自分がその三大条件を満たしているとは到底思えなかった。
顔は地味だ眼鏡だと言われるし、性格は礼儀正しとは言われるがそれは姉の教育のたまもので雪本人ではないし本人は突っ込み族だし、体は万人向けする体つきではない。
だから銀時や姉の言う事はスルーしていた。
2人の絶対零度のやり取りは既に周りには我関せずを突き通すことが暗黙の了解なのかそこだけ寒波が吹き荒れるのを尻目に長谷川はじっくりとお妙とキャサリンとさっちゃんを見る。


「そういう事だからとりあえずお前は故国に帰れ」

「しばくぞ」


じっくりと見なくても結果は分かり切っており、長谷川はキャサリンを不合格にした。
メンチ切るキャサリンをよそに選ばれた二人は並ぶ。


「問題は二人だ。まあツラはいいとして…スタイルだ。これはヒロインたるからにはボン!キュッ!ボン!!出るトコ出て、締まるトコは締まったエロい身体がいい。」

「それほとんどエロ親父の独断ですよね…」


雪の突っ込みを無視し長谷川は二人を下から見る。
ボン、と程よく出たヒップにキュ、と締まったウエスト、そして……


「ボオオオオオオオン!!!」


長谷川が消えた。
目の前を飛んで行くのを銀時と雪は見送り、銀時も雪もギギギと音をさせながら長谷川を星へと返した人物を見た。
2人の眼にはにっこりと笑みを浮かべながらコキコキと拳を鳴らすお妙がおり、二人は同時に顔を青く染め上げる。


「ふ……二人とも合格」


ボンのところは誰もが触れてもいい聖域ではなく、銀時と長谷川(とくに長谷川)はそこに触れてしまった。
雪は大きな胸にコンプレックスを持っているが、それは何も雪だけの問題ではなかった。
大きすぎても問題を抱え、そして小さすぎても問題を抱えている…丁度よい大きさを持たぬ女性達の領域に男が土足で立ち入っていいものではなかったのだ。
それを長谷川の犠牲でやっと気づき、銀時は顔を引き攣らせながら合格だと呟く。


「最後は…あの…あれ…性格…だっけ?あの…でも…2人とも完璧、だから…勝負つかないな〜コレ…」

「決着つけるアルァーコルァ」

「あなた達が言い出したことでしょメガネバッズーカ」

「あのー…あの……雪…雪!!性格は君が提案したんだから君が査定して!!」

「はああ!?ちょ…なっ…提案させたの銀さん達じゃないですか!!銀さんがしてくださいよ!!あんた何も査定してないし!!!」

「っざけんなよ!!俺ァ死にたくねえ!!お前ならいける!頑張れ!!諦めるな!!もっと熱くなれよ!!俺はお前を信じてるぞ!!!」

「お前は松○修○か!!!」


妙もさっちゃんも背景に黒い物を背負い言い出した銀時と雪に迫る。
雪は全くの巻き添えだが、彼女たちには関係のない事なのだろう。
ヒートアップしているのかシスコンのお妙も雪が困っているのに一歩も引こうとはしない。


「雪ちゃ〜ん?私よねぇ?私があなたのヒロインよねぇアル?」

「え、いや…姉上、ヒロインの立ち位置違ってますけど…」

「雪さん?私よね?銀さんのヒロインは私よね?なんたって私は銀さんのストーカーなんだからニンニン!!」

「えっと…最後が間違ってます…さっちゃんさん…」


お妙とさっちゃんはしどろもどろな銀時を捨て、雪に迫る。
迫られた(というか凄まれた)雪は銀時同様冷や汗を滝のように流していた。
しかし弱弱しく突っ込んで時間稼ぎをしようとしても二人には通じず、『雪ちゃ〜ん?』と姉の猫なで声に雪はびくりと肩を揺らし必死に対策を考えた。


「ヒ、ヒロインですよね!!ヒロイン…ふ、二人とも素敵だから迷っちゃうな〜!!えっと……し、真のヒロインっていうのは…その場その場で客の期待した表情をしっかりしてて…笑う時には笑い、怒るときには怒り、背景に花を自在に浮かべられ、瞬時に目をウルウルさせ、泣くときにしっかり涙しなければいけないのがヒロイン…―――そう…真のヒロインはお通ちゃんです!!!」


雪が目を泳がせながら必死に引き分けにしようとした。
しかしだんだんとヒロイン像を描いていくうちに別の路線へと移り、そして…―――銀時が消えた。
雪は右横にものすごい風と今まで感じていた銀時の温もりが消え、自分のしたことに気づき顔の血の気を引かせる。
顔を真っ青にしグッと拳を握ったまま固まった雪をよそにお妙とさっちゃんは睨みながらお登勢の店を出ていきガチンコ勝負のため土手へと向かった。


「…銀さん…生きてますか」


姉たちの姿が消え、仰向けで倒れる銀時に雪は歩み寄った。
次第に趣旨が外れた雪のグッと拳を握る力説にお妙とさっちゃんが銀時を張り飛ばしたのだ。
そこで雪を殴らないの、という疑問は『女性を殴ると文句言う大人がいるから…』と大人の事情を持ってこられるだろう。
仰向けで倒れる銀時に歩み寄り顔を覗き込めば銀時は夜空を見上げていた目を雪に向ける。


「ばかやろぉ…これが生きていると言えますか」

「……すみません…なんか…本当、すみません…」


雪を見上げる銀時の目はいつも以上に淀んでいて死んでいた。
空を見上げることになった原因である雪は心の底からの謝罪を述べる。
もうすみませんとしか言えなかった。
雪も遠い目をしながら銀時が見上げていた空を仰いだ。
昼間、あれほどの騒ぎがあったのが嘘のように夜空は綺麗で静まり返っている。


「…やっぱり…なんやかんやで神楽ちゃんが一番私達にあってましたよね…」


そうしんみりと雪がポツリ零せば、銀時も雪から空へと視線を戻し『そうだな』と零した。
そんな二人にお登勢はカウンターから出て雪達に歩み寄り、呆れたようにため息をつく。


「なんだい、あんたら情けない…帰れって言っておいてもう寂しくなったのかい?」


タバコの煙と共にため息をつくお登勢に雪は座ったまま苦笑いを浮かべ、銀時は仰向けから横向きに体制を変え我関せずと言わんばかりに鼻をほじりそっぽを向く。
素直な雪に対して素直になりきれていない銀時にお登勢は『まったく…』と零し、そして…


「まったく素直じゃないねえ、お前さんは…ねえ、なんか言っておやりよ」


そう言いながら店の中にあるカウンターへ振り返った。
釣られたように雪と銀時もチラリとそこへ目をやると、そこには――


「ボンキュッボンでなくて悪かったアルな」


神楽がいた。
父親である星海坊主と一緒に宇宙へと旅立ったはずの、神楽がお登勢のお店にいたのだ。
雪は思わず幻影かと思ったのだが、それにしては神楽の拗ねたような声や、茶碗と箸を手にご飯を食べる姿がはっきりと見えていた。
2人は唖然としながらも神楽の姿に立ちあがり何か言いかけたが、その二人を神楽が手を二人に伸ばし制した。


「あーあー、もう言うな。何も言うな。」


神楽にそう言われ思わず素直に口を閉ざし、口を閉ざした2人に神楽は『お前らに合わせられるのなんて私だけネ…ヒロインは私アル』と零し、またご飯を口いっぱいに入れる。
2人はカッカッ、と口いっぱいに米粒を放り込む神楽にお互い顔を見合わせ、ふ、と笑った。


「マスコットの間違いだろ?」


銀時の憎まれ口に神楽は『何だヨそれー』と憎まれ口には憎まれ口で返した。
いつものやり取りがまた聞くことができ、雪は目頭が熱くなったが泣き出しそうなのをグッと抑え誤魔化すように眼鏡を上げる。


「早く入りな…飲み直しだよ」


お登勢の言葉に立ち尽くしていた二人は店へと入っていった。


5 / 5
| back | ×
しおりを挟む