(1 / 8) 愛犬の散歩は適度なスピードで (1)
ふらふらと銀時は千鳥足で歩いていた。
昨日、飲みに行った銀時は気づいたらすでに太陽が昇っており、眠気と吐き気で朦朧とする意識の中帰宅する。


「おーい、帰ったぞ〜」


重い足で階段を上り、重い手で玄関を開ける。
家に上がるその足は石のように重く、靴を脱ぐのも一苦労だった。


「銀さんが帰ってきたよーっと…あ゙ー…気持ち悪…誰か―いちご牛乳もって、う"ぇ…」


躓き軽く転倒してしまった銀時は起きる気力すらなく、そのままうつ伏せで倒れたまま吐き気と戦っていた。
何だかいちご牛乳を飲めば復活しそうな気がしないでもないような気がする。
時間的に雪は出勤しており、雪にいちご牛乳を頼もうとしたのだが、雪の元気な声が聞こえないのを銀時は気づき怪訝とする。


「なんだ、雪はまだ来てねえのか…珍しいな、あいつが遅刻なんて…まあ、神楽でいいや…神楽ー!おーい!かーぐーらー!…………ってまだ起きてねえのか?まったく怠けどもが!―――おーい!いちごぎゅう…にゅ…う……」


立つのも面倒で銀時は這いながら居間へと向かう。
そのまま這いながら居間に続く扉を開けると、銀時の目の前にありえない光景が広がってた。
銀時はその光景を見上げ唖然とする。


「……なんだ…やっぱ飲みすぎたな…やたら定春がでかく見えるぞ………おい雪、そんなところに頭突っ込んでないでいちご牛乳もってこーい。」


銀時が見た光景、とは…定春が大きくなっており、更にはその口に神楽と雪の足が飛び出しているところだった。
大型犬や超大型犬等の普通の犬に比べて定春の大きさは遥に超えていたが、今の大きさはその普段の大きさよりも更に大きかった。
銀時は現実逃避のように酔っているのだと自分に言い聞かせ見て見ぬふりをし、いちご牛乳を要求する。
うつ伏せで顔を腕に埋める銀時に定春の口の中で唸り唯一出ている足をばたつかせながら二人は必死に定春の口を開けた。


「何寝ボケたこと言ってるんですか!!この状況を見ろオオオ!!」

「定春が…!定春が一夜にして巨大化したネ!!」

「うるせえなァおい…こちとら頭いてえんだぞ……大体な、男と犬は2、3日目ぇ離すと別人のように大きくなってるもんなんだよ」

「あんたは何日経ってもずっと平行線でダメ人間だけどな!!!っていうか堂々と神楽ちゃん置いて朝帰りしてんじゃねえよ!!」


片方とはいえ、夜兎の力でも開けるのに精一杯なほど今の定春の力は強い。
雪は今まで飲み歩き朝帰りをしたダメ人間な銀時への怒りで夜兎と同等な力があるのだろう。
これを人は"火事場の馬鹿力"という。
しかし火事場の馬鹿力はそう長くは持たず、突っ込んだら突っ込んだで突っ込み終えるとまた定春の口の中に戻ってしまった。

神楽と雪の目の前が再び暗黒に包まれる。


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